イドム考

1.イドム

2.物語53巻14章

3.イドム=エドム

4.聖書におけるエドム

5.エドムの歴史

6.エドムへの審判

7.81巻との関係

8.81巻概略

9.問題点


1.イドム

イドムの初出は、物語15巻13章です。
素盞嗚尊=イドムの神(縁結びの神)ということになっています。

53巻14章ではデヴァイン・イドムと不思議な使われ方をします。(2で詳述)

55巻10章では、再度、素盞嗚尊=イドムの神として登場します。
55巻では同じ意味で何度も登場します。

また、81巻では国の名前として使われます。


2.物語53巻14章

物語53-2-14 真善愛美辰 女の力では変な使われ方をしています。 

少し長めに引用してみます。

久米彦『ウン、さうだなア、お前のやうな愛らしいナイスとこんな関係になるとは、さすがの俺も夢にも思はなかつたよ。実にお前は平和の女神だ、唯一の慰安者だ。いないな唯一の救世主だ。益良雄の心を生かし輝かし、英雄をしてますます英雄ならしむるものは、やつぱり女性の力だ』
『なんといつても女は気の弱いものでございます。どうしても男には隷属すべきものですなア。なにほど恋愛神聖論をまくし立ててをつても、男の力にはやつぱり女は一歩を譲らなくてはなりませぬわ。しかしながら女は男子に服従すべきものだといつても程度の問題でございまして、理想の合はない男に添うのは生涯の不幸でございますからな、どうかして自分の意志とピツタリ合つた男と添ひたいものと、現代の女は挙つて希望いたしてをります』
『いかにも其方のいふ通りだ。男のデヴアイン・ラブに和合し、女の聖愛は男の聖知と和合した夫婦でなければ、真の夫婦とはいへないものだ』
『左様でございます。意志投合した夫婦くらゐ世の中に愉快なものはございませぬなア。時に将軍様は戦争がお好きでございますか』
『イヤ戦争のごとき殺伐なものは心の底から好かないのだ』
『それならお尋ねいたしますが、将軍様はなぜ心にない軍人におなり遊ばしたのでございます。その点が妾にはちつとも合点が参りませぬわ』
 
この53巻は英語、フランス語、イタリア語が多く使われており、カタカナ語が氾濫しています。
何か注釈でもあればよいのですが、無い場合はそのまま意味を推測して読んでしまうでしょう。

この場合は、デヴァイン・イドム = 聖知 と書かれており、
イドム = Wisdom であると考えられます。  聖知に関する考察

じや、なぜ、ウイズダム(ウイズドム)をイドムと書いたのでしょうか?
(1) 英語的発音をすれば、WISDOM = イドムと聞こえないこともない
(2) 筆録者の聞き違え
(3) 意図的

私は意図を感じます。というのは、最初の15巻で出てから53巻のこの部分まで、イドムという単語はたぶん出ていない。そして、この後は55巻で頻繁に登場します。

私は、53巻でイドムに出会ったとき、15巻で登場したことは忘れていて、インターネットで検索しました。すると、木村鷹太郎がイドムという単語を使っていたのです。


3.イドム=エドム

イドムを発見したのはこのページです。木村鷹太郎の世界
このサイトは、アーメニヤを検索した時にも引っ掛かりました。下記に引用した次にアーメニヤの記述があります。
 
イザナギ、イザナミの二神の三人の子はそれぞれ領地を与えられた。天照大御神[アマテラスオオミカミ]は天=アジア、月読命[ツクヨミノミコト]は夜の食国[よるのおすくに:夜の世界]=ヨーロッパ、須佐之男尊[スサノオノミコト]は海原=地中海とアフリカ、である。だがスサノオは自分の国を捨てて母・イザナミの国である東方へと行った。その子孫の大国主命[オオクニヌシノミコト]は出雲を領地とした。
 出雲とはアジアとアフリカの中間の地峡、イドムエドム。死海とアカバ湾の間にあった古代王国]である。大国主神は『旧約聖書』のヨセフ及びダビデである。しかし、オオクニヌシの活動範囲はエドムのみならず、中央アジアやチベット、インドなどに及んでいる。
 
ここでは イドム=エドムとなっています。

また、次のサイトでも、木村鷹太郎説を紹介しています。 日本語のサロン 第6の3回

62 八雲たつ出雲=ユダヤ経典のヤコモとイドムの兄弟に対応する言語。「やくもたつ」はギリシャ語のヨカマトス=「容易なる労働」、旧約書中のヤコモのその父イサクに対する労働の甚だ容易なものであったことの意味。イドムはイヅミとも言い、泉の音につながる。
 

72 建御名方の神が逃げてきた科野(シナノ)の「州羽(スハ)の湖」=イドムのアスハルト(Asphalt )の海即ち「死海」と重なる。「スハ」なる名称は「アスハルト」の中の強い明音たる「スハ」より。シナノはシナイ(Sinai )山を語源とする……「支那」「秦」又同語源とみる。

木村鷹太郎は明治時代終盤頃にこの説を唱えているらしいので、霊界物語より先になります。

また、日猶同祖論を唱えていた、小谷部全一郎はエドム族が日本に来て出雲族になったと言っているそうです。
『エルサレムまで何マイル?』原田実より引用)  サイトへ

小谷部全一郎(一八六七~一九四一)は『日本及日本国民之起源』(一九二九)において、パレスチナのイドム地方にいたエサウ族がエルサレムの先住民エブス人と共に、イスラエル人に追われて日本列島まで逃れ、出雲族、蝦夷、アイヌとなったと説いた。

小矢部によると、その後、イスラエル人も日本に渡来して天孫族になったという。「西部亜細亜のカナンの地に在りてエサウ人がエブスと呼ばれたるエミス民族と共力してイスラエル人と戦いたる如く、本州にありてもエソ人とエミス人と協力して新来の優秀民族に反抗して遂に勝つこと能わず帰順せるものは混血して日本民族となり、敵対せるものは滅ぼされ或は東北地方に逃れて自滅せるは、東西其の揆を一にするものと謂うべし」「是れ或は古事記に伝うる出雲とエソ及びエビス等の伝説は、西部亜細亜に於けるエドムのエサウ及びエブスに関するものを伝うるにあらずやとまで思われざる点なきにあらざるも、兎に角国名といい、種族名といい将又歴史上の出来事といい彼我共に悉く一致するは史家の注目すべき所なるべし」


4.聖書におけるエドム

後の詳細に検討しますが、聖書におけるエドムをまとめると次のようになります。

エドムは、一つの地域の名前、そこに住む民族の名前、そして彼らの国の名前です。

エドムは、エサウと呼ばれたアブラハムの息子で、後にイスラエルと呼ばれるイサクと双子の兄弟でした。しかし二人はあまり仲のよい兄弟ではありませんでした。

エドムはモーゼの出エジプトのときに、イスラエルの民が自分の領地を通過することを拒みます。それからは、イスラエルと戦いを繰りかえしています。

エドムは終末には滅ぼされると預言されており、その大きな理由は、イスラエルがバビロンに滅ぼされたとき、侵略の片棒を担いだことです。
 


5.エドムの歴史

聖書の引用は聖書「新共同訳 1988版」
 
エドムは、塩で有名な湖、死海の東南側の山地から紅海のアラバ湾に至るところでした。旧約聖書時代の地図では下記のようになります。

ヤコブとエサウ(創世記)

 イスラエルとエドムは双子の兄弟であるが、仲の良い兄弟ではなかった。

 創世記では、アブラハムの息子イサクに双子の子供、兄エサウ、弟ヤコブがあった。このエサウがエドムと呼ばれることになった。ヤコブは後にイスラエルと呼ばれるようになった。
 兄エサウは毛深い自然児で、ヤコブは色白で策略家だった。ある日、エサウはヤコブに赤いシチューを食べさせてもらう代わりに、長子権をヤコブ譲り渡す約束をしてしまう。そして、ヤコブは母のリベッカと共謀して父のイサクをだまして、実際に相続権を手に入れた。それを知ったエサウはヤコブを殺そうとした。
 ヤコブは逃れるために家を出て、母の兄のラバンのところに身を寄せた。
 それから20年、ヤコブは家に戻ろうとした。その時ヤボク川で神と相撲を取って神に勝ち、イスラエルという名を貰い、改心して、エサクに詫び、和解した。
 その後、エサウの子孫はエドム人になった。

エドムの系譜

 歴代誌上-1に書かれている。

エドム、モーゼの一団の通過を断る

 BC13世紀終わり頃

 出エジプト時に進路をはばんだ

 民数記-20、士師記-11

モーゼに率いられて、エジプトを出たイスラエルは、エドムの土地を通過させてくれるように頼みますが、エドムは許さず、軍を出した。イスラエルはエドムの土地を迂回して進んだ。

サウル王

 BC1020~1010頃

 サウル王の部下とエドム人ドエク、ダビデに誼を通じた祭司を85人殺す

 イスラエルの民はそれまでは王を持たず、士師という指導者に率いられていた。それがサムエルで終る。

 長老達はサムエルに王を持つことを望んだ。サムエルがエボハに伺うと、エボハは「では、民のいうとおりにしてやるがよい。彼らはもはやわたしをすてて、わたしが彼らの王であることを認めないのだ。さあ、おまえは行って、王になるべき者を探すがよい」と答えた。
 サムエルはその人を探しに出かけ、ギベアの村の農民キシの息子サウルを見つけた。
 サウルは王になり、サムエルに厳しくしつけられた。

 サウル王は、周りの国々と戦い、エドムとも戦った
 そして、何度も軍に勝利をおさめるうちに、高慢になり神をないがしろにするようになった。

 あるときサウルはアレマキの王と戦って勝ち、昔からの掟を破り王の命を助け、戦利品は祭司に全部渡すことになっていたのを、一部自分と部下とで分けてしまった。サムエルはこれに怒り、サウルの元を去って新しい王を探しはじめた。そして、ダビデを見つけ祝福を与える。

 サウル王は、サムエルにエボハの言いつけに背いたと言われて、強度の神経衰弱におちいった。それを、ダビデが竪琴の音楽で癒し、サウル王はダビデを召抱えた。
 その後、ダビデは巨人ゴリアテを倒して、サウル王の娘を嫁にもらう権利を得たが、王はダビデに悪意を抱くようになり、殺されることを願い、ダビデを何度もペリシテ人と戦わせたが、ダビデは勝ち続けた。その後、自分で殺害しようとしても失敗した。

 サウル王はついに、息子のヨナタンにダビデを殺すことを命る。しかし、ヨナタンはダビデに友情を抱いており、ダビデを逃した。

サムエル記上-21,22

 ダビデはノブの祭司アヒメレクを訪れた。ダビデは逃げ出す時に剣を持たずに来たので、アヒメレクに剣を所望すると、アヒメレクはダビデが倒したゴリアテの剣を渡した。この時、サウル王の家来のエドム人ドエクがアヒメレクのところに居た。ダビデはその後モアブ王の所へ身を寄せた。

 ドエクはアメヒレクがダビデに剣を与えたことを王に報告したので、サウル王は、アメヒレクはダビデに誼を通じたと死罪を宣告する。王はエドム人ドエクに祭司85人を討たせた。

 サウル王は、ペリシテ人との戦いで息子ヨナタンを失い、自分も自害した。

ダビデ王

 BC1000年~961年

 ガト人オベド・エドム。
 ダビデ、エドムを隷属させる。

 サウル王の死後、ダビデはユダの王となった。その後、サウル王家とダビデ王家は戦いを繰り返し、ついにダビデが勝利を納め、イスラエルとユダの王となり、エルサレムに入る。

 その後、ダビデが神の箱をエルサレムに運びあげる際に、ガト人オベド・エドムが登場する。(サムエル記下-22

 ダビデの王権は強力となりペリシテ人など周りの国々と戦い、ことごとくこれを破った。

サムエル記下-8

 
ダビデはアメムを討って帰る途中、塩の谷でエドム人18,000人を討ち殺し名声を得た。ダビデはエドムに守備隊を置き、全エドムはダビデに隷属した。 

ソロモン王

 BC961~922

 ダビデが滅ぼしたエドム人の生き残りハダド、ソロモンの敵対者となる

 ソロモン王はダビデの息子。ソロモンの宮殿を造るなど贅沢をして、その後のイスラエルの分裂の種をまく。

列王記上-11

 
ソロモン王はファラオの娘のほかにもモアブ人、アンモン人、エドム人、シドン人、ヘト人など多くの外国の女を愛した。主の外国の女を愛してはいけないという命に背いたのだ。
 
 主はソロモンに敵対する者(の一人)としてエドム人ハダドを起こされた。彼はエドムの王の子孫であった。 
 ダビデがかつてエドムにいたころ、将軍ヨアブが戦死者を葬りに上って来て、エドムの男子をみな打ち殺したことがあった。 ――ヨアブは全イスラエルとともに六か月の間、そこにとどまり、エドムの男子をみな断ち滅ぼした。―― 
 しかしそのとき、ハダデは、彼の父のしもべの数人のエドム人と逃げ去ってエジプトへ行った。当時、ハダデは少年であった。 
 彼らはミデヤンを出立し、パランに行き、パランから幾人かの従者を従えてエジプトへ行き、エジプトの王パロのところに行った。するとパロは彼に家を与え、食料をあてがい、さらに、土地をも与えた。 
 ハダデはパロにことのほか愛された。パロは自分の妻の妹、すなわち王妃タフペネスの妹を彼に妻として与えた。 
 タフペネスの妹は彼に男の子ゲヌバテを産んだ。タフペネスはその子をパロの宮殿で育てた。ゲヌバテはパロの宮殿でパロの子どもたちといっしょにいた。 
 さてハダデは、ダビデが彼の先祖たちとともに眠ったこと、また、将軍ヨアブも死んだことを、エジプトで聞いた。ハダデがパロに、「私を国へ帰らせてください。」と言うと、 
 パロは彼に言った。「あなたは、私に何か不満があるのか。自分の国へ帰ることを求めるとは。」すると、答えた。「違います。ただ、とにかく、私を帰らせてください。」 

ヨラム王

BC849-842

 エドムは最初は支配下にあったが、そむいてエドム自身の王を立てた

列王記下-3

 イスラエルの王ヨラム(アハブの子)ユダの王、エドムの王と共にモアブを討つ
 一行はエドムの荒地を通ったため、水が底をついて絶対絶命の苦境に追い込まれた。しかし、預言者エリシアによる主の言葉で、谷を掘るよう言われ、従うと、エドムの方から水が流れ込んできた。
 一行はモアブに勝った。

列王記下-8 歴代誌下-21

 ヨラムの時代に、エドムがそむいて、ユダの支配から脱し、自分たちの上に王を立てた。ヨラムは、彼のつかさたちとともに、すべての戦車を率いて渡って行き、夜襲を試み、彼を包囲していたエドムと戦車隊長たちを打った。しかしなお、エドムはそむいて、ユダの支配から脱した。

アマツヤ王

 BC800-783

 エドム人を一万人殺した後、エドムの神を導入した。

列王記下-14 歴代誌下-25

 ユダの王アマツヤは塩の谷で一万人のエドム人を打ち殺した。そしてアマツヤはエドムの神を導入した。主は預言者を遣わして、「あなたの手から自分の民を救えなかった神々を、どうしてあなたは求めるのか」と詰問させたが、アマツヤは預言者を黙らせたが、預言者は最後に「神はあなたを滅ぼそうと決められたことが、分りました」と告げた。
 アマツヤはイスラエルの王ヨアシュに戦いを挑んだ。ユダの人々がエドムの神々を求めたため、神は彼らを敵の手に渡そうとされたのである。その結果、ユダはイスラエルに惨敗して、王は捕らえられ、エルサレムに引きたてられ、城壁を壊された。
 また、イスラエルの王ヨアシュは、オベド・エドムの管理下にあった財宝を捕って、サマリアに凱旋した。

アハズ王

 BC735-715 

 エドム、ユダを攻める。エドム人エイライトに住み着く。

列王記下-14 歴代誌下-25

 ユダの王アハズの時代に、いろいろな国がユダを攻めたが、エドム人もユダを攻めた。
 アラムの王レツィンはエイライトを取り戻し、ユダの人々を追い出した。
 その後エドム人がエイライトに来て住み着いた。(き、今日に至っている。)


6.エドムへの審判

《イスラエル滅亡時のエドムの罪》

エドムについての歴史的な記事は上記のようになっています。

エドムは終末に裁かれますが、その理由として、イスラエルがバビロンに滅ぼされたとき、一緒にイスラエルを攻めた罪が問われています。

イスラエルの滅亡

BC586年

 新バビロニアのネブカドネザル王は二度がエルサレムに侵攻している。1回目はBC597年、第一回の捕囚で、エコニア王を含めた1万ほどのイスラエル人をバビロンに連れ去った。
 その後ユダ王国は新バビロニアの属国となった。
 2回目がBC586年で、この時がイスラエルの滅亡である。ネブカドネザルによってエルサレム城壁が崩され神殿は破壊された。バビロンに多くが捕虜とされて連行され、これは第二回の捕囚と呼ばれる。

オディハヤ書

 イスラエルの滅亡の日にエドムはバビロン側に立ち一緒に侵略した

 オバデヤ書は、エドムについての預言です。
 「11 あなたが離れて立っていた日、すなわち異邦人がその財宝を持ち去り、外国人がその門に押し入り、エルサレムを籖引きにした日、あなたも彼らの一人のようであった」 (あなた=エドム)

 バビロン軍がエルサレムを占領した日に、エドムもそれに参加したという意味でしょう。

 12節ー14節では ・・・してはならないという形で、その日のエドムの行動が描かれています。

 12節-滅びを喜ぶ、
 13節-彼らの財宝に手を伸ばす
 14節-逃げていくものを殺すために分かれ道で待ち伏せする
 14節-生き残った者を引き渡す

詩編ー137

エルサレムのあの日、エドムの子らは、「破壊せよ、破壊せよ、その基までも。」と言った。

エゼキエル書

25節  エドムはユダの家に復讐をした。彼らはその復讐によって大いに罪を犯した。

35節  お前=エドム

「5 お前は果てしない敵意を抱き、イスラエルの子らが災いに遭い、最後の刑罰を受けたとき、彼らを剣に渡したからである。」

11 お前が、『この二つの国、二つの土地はわたしのものとなる。我々はそれを占領する』と言ったからである。」

12 お前はイスラエルの山々について言った。『それは荒れ果てて、我々の餌食となった』と。」

ヨエル書

3 「19 エジプトは荒廃し エドムは滅びの荒れ野となる。ユダの人々を虐げ、その国で、罪なきものの血を流したからだ。」

アモス書

1,2

○ガザ、ツロの罪-彼らがとりこにした者をすべてエドムに引き渡した。
○モアブの罪-エドムの王の骨を焼き、灰にした。

「11 主はこう言われる。エドムの3つの罪、4つの罪のゆえに わたしは決して赦さない。彼らが剣で兄弟を追い 憐れみの情を捨て いつまでも怒りを燃やし 長く憤りを続けたからだ。」
 


《エドムへの審判》

イザヤ書

11節

ペリシテを襲い、エドム、モアブを支配し、アンモンの人々を服従させる。

34節

主が、血にまみれた剣で、エドムの地で大いなる殺戮をするイメージが詳しく書かれています。

エレミヤ書

9節

主は、エジプト、ユダ、エドム、アンモン、モアブなど割礼のない諸民族と、心に割礼のないイスラエルの家を罰する。

49節

エドムを賢い者(知者)と言っています。
そして、エドムの破壊の様子が語られます。(オディハヤ書と似ている記述です)

主の使者が諸国へ遣わされ、「集まって、エドムに攻め入れ。戦いに立ち上がれ」と告げる。
ボツラは廃墟となる。エドムは恐怖の的となり、だれひとり住むものはいなくなる。

哀歌

4-21,22

シオンの悪事は許され、エドムの罪が罰せられるときが来る。

エゼキエル書

25節 「それゆえ、主なる神はこう言われる。『わたしはエドムに向って手を伸ばし、その中から人と獣を断って荒地とする。彼らはテマンからデタンにいたるまで剣で倒れる。わたしは、わが民イスラエルによってエドムに復讐する。彼らはわたしの怒りと憤りのままにエドムに対して行う。その時、彼らはわたしの復讐を知ることになる』」

32節 各国の破壊の姿。その一つにエドムも入る。

35節 エドムを廃墟とする。山々、谷々を剣で殺されたもので満たす。

ダニエル書

11節 「40 終りの時に至って、南の王は彼に戦いを挑む。それに対して北の王は、戦車、騎兵、大船隊をもって、嵐のように押し寄せ、各国に攻め入り、洪水のように通過して行く。41 あの『麗しの地』もこうして侵略され、多くの者が倒れる。アンモンの選ばれた者、エドム、モアブはその手を免れる。
 

この部分「アンモンの選ばれた者、エドム、モアブはその手を免れる。」はいろいろな解釈があるようです。

ダニエル書、10、11、12は「終りの時についての幻」について書かれています。
これはノストラダムスや各種予言の底流となった個所です。
「北から来る」というのは、王仁三郎の「続・瑞能神歌」、「日月神示」にもあったと思います。
南の王、北の王の戦いは中東の現状を現わしているようです。一読を勧めます。

また、王仁三郎は、国教樹立に就てでもダニエル書のネブカドネザル王の夢の個所を取り上げています。

アモス書

9 後の日の回復

 「11 その日には わたしはダビデの倒れた仮庵を復興し その破れを修復し、廃墟を復興して 昔の日のように建て直す。 12 こうして、エドムの生き残りの者と わが名をもって呼ばれるすべての国を 彼らに所有させよう、と主は言われる」

マラキ書

1 イスラエルとエドム

主は、「わたしはヤコブを愛し、エサウを憎んだ。わたしは、彼の山を荒廃させ 彼の嗣業を荒れ野のジャッカルのものとした。たとえエドムが、我々は打ちのめされたが、廃墟を建て直す、と言っても 万軍の主はこう言われる たとえ、彼らが建て直しても わたしはそれを破壊する、と。 人々はそれを悪の領域を呼び とこしえに、主の怒りを受けた民と呼ぶ。
 


《オバデヤ書》

この預言書は19節しかない短いものですが、全編エドムについて述べられています。

主の宣言

1節-使節が諸国に遣わされ「立て、立ち上がってエドムと戦おう」と告げる。

2節ーエドムは諸国のうちで最も小さいものとされ、大いに侮られる。

エドムの罪

3節-エドムは傲慢である。

4節ー「たとえ、お前が鷲のように高く昇り 星の間に巣を作っても わたしは、そこからお前を引き降ろすと 主は言われる」

どのように滅ぶか

5,6,7節-エドムは盟友に欺かれ征服される。

8節-エドムは知者、知恵を持つものである

9節-テマンの勇士は一人残らず殺される。

滅ぼされる理由

10節-兄弟ヤコブに不法を行ったこと

11節~14節-イスラエル滅亡時のエドムの行動

どのように滅ぶか

15節-エドムは自分のしたように滅ぼされる

「16  お前たちが、わたしの聖なる山で飲んだように
    すべての国の民も飲み続ける。
    彼らは飲み、また呑み尽くす。
    彼らは存在しなかった者のようになる。

17  しかし、シオンの山には逃れた者がいて
   そこは聖なる所となる。
   ヤコブの家は、自分達の土地を
     奪った者の土地を奪う。
18  ヤコブの家は火となり
    ヨセフの家は炎となり
   エサウの家はわらとなる
   火と炎はわらに燃え移り、これを焼き尽す。
    エサウの家には、生き残る者がいなくなる」と
   まことの主は語られた。」

イスラエルの回復

19節-イスラエルの土地の回復
 

気になるところ2つ

 4節 「お前が鷲のように高く昇り 星の間に巣を作っても」のところは、キリスト教では傲慢の様子と解釈されますが宇宙空間に住むとそのまま取れないでしょうか。
 先祖のアブラハムは星の民と呼ばれており、ヘブライ人への手紙11:12では「そこで、ひとりの、しかも死んだも同様のアブラハムから、天の星のように、また海べの数えきれない砂のように数多い子孫が生れたのです」と書かれています。
 これは「お!宇宙人のクローン」と思ってしまいますが、この前に「11 信仰によって、不妊の女サラ自身も、年齢が盛りを過ぎていたのに子をもうける力を得ました。約束をなさった方は真実の方であると信じていたからです」というのがあります。 

 8節 エドムは知者と言われています。


7.81巻との関係

81巻ではイドムは国名として出てきます。サールの国という国がありますが、聖書にはサウル王という人物が登場します。
 
 高照山の西南に当る万里の海上に、相当面積を有する島国あり、之を伊佐子の島といふ。此の島の中央に大山脈東西に横たはり、之を大栄山脈といふ。大栄山脈以南をイドム、サールの両国は互に其の領域を占領せむと、数十年に亘つて戦争止む時なく、数多の国津神等は塗炭の苦を嘗め、救世神の降臨を待つこと恰も大旱の雲霓を待つの感ありける。
 大栄山の中腹に大なる湖水ありて、之を真珠湖といふ。真珠湖は約二十メートルの山腹に展開したる南北十里、東西二十里の大湖水なるが、不思議にも海底より涌出せるものの如く、湖水皆濃厚なる塩味を含み、水上を徒渉するも僅に膝を没するに過ぎざる湖水なりけり。この真珠湖には人面魚身の人魚数多住居し、湖辺の汀辺に国津神同様茅を以て屋根を葺きたる家居を構へ、その生活の様も殆ど国津神に酷似せり。
 この湖は大栄山の南側にあるを以て無論イドムの国津神は何れも美男美女のみにして、醜男醜女は終に跡を断つに至れるなり。之に反して大栄山以北のサールの国津神は何れも肌黒く、髪はちぢれ、背は低く且醜男醜女のみなりける。
 茲にサールの国王エールスは、如何にもして此の真珠湖を占領し種族の改良を計らむとし、大軍隊を率ゐて大栄山を南に越え、真珠湖に向つて進軍を始めける。之を聞くよりイドムの王アヅミは、左守、右守を始めとし、軍師の神々を大広間に呼び集め、サール国の軍隊を殲滅すべく軍議を凝らす事となりける。
 イドム王のアヅミは軍神を集め、サール国征伐の軍議を凝らさむとして歌ふ。

 高光山の西南の万里の海上にある伊佐子の島にイドム国はあることになっています。
 しかし、そこにある湖-真珠湖は、濃厚なる塩味を含むことになっていますから、真珠湖=死海と考えられなくもありません。

 その死海の南にあるのがエドム、イドム国も真珠湖の南に位置します。

 次に、エドムの関係ではサウル王という王がダビデ物語に出てきますが、物語ではサール国というのが出てきます。これは音が似ている。

 これは、偶然か、それとも王仁三郎が名前だけ借用したものか、それとも意味を持つものなのか?

 私は、81巻が途中で終わっているのは何か大きな意味があるものと思われます。そして、エドムが終末で裁かれることとイドム国の物語には何か関係があると考えたい。

 また、王仁三郎は太古の地形は現在と違っていたと、死海をペルシヤ湾に比定していますが、物語64上では、現在の死海も死海として認めています。

物語35-1-1 言の架橋

 昔の聖地エルサレムの附近、現代の地中海が、大洪水以前にはモウ少しく東方に展開してゐた。さうしてシオン山といふ霊山をもつて地中海を両分し、東を竜宮海といつたのである。今日の地理学上の地名よりみれば、よほど位置が変はつてゐる。神代におけるエルサレムは小亜細亜の土耳古の東方にあり、アーメニヤと南北相対してゐた。
 また死海であつた。しかしながら世界の大洪水、大震災によつて、海が山となり、山が海となり、あるひは湖水の一部が決潰して入江となつた所も沢山あるから、神代の物語は今日の地図より見れば、多少変つた点があるのは已むを得ぬのである。

8.81巻概略

伊佐子の島とイドムとサールの国  1
 
伊佐子の島にはイドムとサールの国があり、真珠湖の人魚を搾取することでイドムは栄え、サールは貧しい生活をしていた。

 伊佐子の島は高照山の西南に当る万里の海にある。島の中央には大栄山脈が横たわり、山脈以南をイドムの国、以北をサールの国と言った。イドム、サールの両国は数十年に亘つて戦争止む時なく、数多の国津神等は塗炭の苦を嘗め、救世神の降臨を待つていた。
 大栄山の中腹約二十メートルの山腹に、南北十里、東西二十里で濃い塩分を含む大湖水-真珠湖がある。そこには人面魚身の人魚がたくさん暮らしていて、湖の汀辺で国津神同様の生活をしている。
 真珠湖はイドムの国の領域である。人魚の涙は真珠の玉となり、その美しさは限りない。また、それを内服する時は、身体が光を放ち、美しい子が生れる。そこで、涙を採るために、イドムの国津神は色々の計略を以て人魚を捕まえていた。
 この人魚の真珠のおかげで、イドムの国津神は美男美女ばかりで、醜男醜女はついに跡を断つに至った。これに反して、大栄山以北のサールの国津神は何れも肌黒く、髪はちぢれ、背は低く、かつ醜男醜女のみであった。

サールの侵略 

サールがイドムを侵略。イドムは破れ月光山へ逃れ、チンリウ姫とアララギらは捕われる。

 サールの国王エールスは、この真珠湖を占領し種族の改良を計ろうと、大軍隊を率いて大栄山を南に越え、真珠湖に向つて進軍を始めた。イドムの王アヅミは、王妃ムラジ姫、左のナーマン守、右守のターマンを始めとし、軍師シウラン、娘のチンリウ、侍女のアララギと、軍神の神々を大広間に呼び集め、サール国の軍隊を殲滅すべく軍議をこらし、軍を出すことになった。
 しかし、既に時遅く、イドムは一昼夜の戦いで敗れ、アヅミ王たちは南方の月光山に落ち延びた。しかし、娘のチンリウ、侍女のアララギは捕らえられてしまった。

 敗走したアヅミ王、ムラジ姫、ナーマン、ターマン、シウランらは月光山に城をつくり、再起の時を待つ。捕われたチンリウ姫とアララギらは、サールの都へ連行され牢獄に繋がれた。

イドム月光山へ逃れる 2 3 4 5

月光山へ逃れたイドムの王たちは、主の神の降臨を受け、主の神のもとでやりなおすことを誓う。

 月光山では、ムラジ姫が「神の恵みを忘れた上下のおごった罪により国が滅びた」と謡い、それを聞いた一同は、主の神の宮殿を建てることにした。その命令を受けた附近の国津神は、喜んで協力した。
 また、アヅミ王はチンリウ姫とアララギを助けるために、三人の武士を極秘に遣わした。

 主の大神の宮殿は完成し、遷座式を行うこととなった。アヅミ王以下は、七日七夜の修秡のため、月見の池のほとりで水垢離をした。
 右守、左守は「自分の失政で軍に破れた」と王に詫びる。アヅミ王は「自分が神を忘れたのが悪い」と二人を責めなかった。
 一同は「武力ではなく、言霊の戦いをし、エームスを征伐する」と誓った。

 主の大神の宮殿の遷座式で、祝詞をあげている最中に、殿内が鳴動し、はげしい地鳴りがして、主の大神、高鉾の神、神鉾の神の三柱が天から降臨された。
 高鉾の神は「天地の一度に揺りしは、主の神の天降り給ひししるしなるぞや」と謡う。アヅミ王が「イドムの国に醜がはびこっているので助けて欲しい」と願うと、高鉾の神は「醜神は汝の心に潜むなり みたま清めて追ひ出すべし」と、国津神の心の汚れが国の滅亡を招いたと答える。アズミ王が「主の神の厳の力にわが魂の 醜の鬼神退ひ給はれ」と願うと、神鉾の神は「ゐやなきは汝が言葉よ魂の 鬼は自らつくりしものを。肝向ふ心の鬼を退ふべき 誠の力は真言なるぞや」と答える。
 その後、三柱の神は天に還った。
 一同は汚い心で神殿を作り、神の助けを得ようとしたことを反省し、今後は愛善の心で進むことを決意した。

 アヅミ王以下の国津神等は高鉾の神、神鉾の神の御宣示により感激し、駒井川で七日七夜の禊を修してから、百日の修祓に取りかかろうとする。
 一同が禊に余念のない折、川の上流よりエールス王が半死半生の状態で流されてくる。アヅミ王はそれを救い上げ介抱する。ムラジ姫、シウラン、ナーマン、ターマンはイドム城を攻め取られた恨みをはらそうと石を投げつけようとする。しかし、アヅミ王は「エームス王も主の神の貴の御子なり ただに許せよ」と命じる。
 ところが、エームス王は、意識を取り戻すと、一同を鼻で笑い謗り始める。
 アヅミ王は「エールス王の生命を救へよ」と何度も厳命するが、他の司等は「この機会にエームス打殺そう」と四方八方より石を拾つて投げつけた。すると、不思議にも、エールスの姿は水煙となってて水中に消えてしまう。その代わりに、胴の廻り七八丈もあろうかと思はれる蛟竜が、一行のを一呑みにしようと迫る。
 アヅミ王は従容として少しも騒がず、四人の狼狽している姿を静かに眺めながら、天の数歌を歌う。すると、蛟竜は次第次第に細って行き、ついには小さなイモリとなって、煙となり天に冲し、空中で再び巨大な竜の姿を現わした。
 これは、神鉾の神の試練であった。アヅミ王は改心を認められ、三日で禊を許されたが、他の者は改めて百日百夜の荒行を命ぜられ、その後、月光山の神殿および政務に仕える事を許された。

サール国王の死 6 7

サール国王エールス、妃のサックス姫に殺される。

 サールの国王エールスは、イドムの占領後、イドム城に住んでいた。大栄山北面のサールの国の風光に比べて住み心地はよく、春夏秋冬あたかも花園に住む心地で、地上の天国の生活を楽しんでいた。
 王は部下と、水及川を眺めて、月見の宴を開き、エームス王は「世の中に楽しきものは国ひろめ 戦の道の勝利なりけり」と歌う。王妃サツクス姫、左守チクターは「月光山のアヅミ王を滅ぼせと」けしかける。
 それに対して、右守のナーリスは「国津神の心は未だ吾王の 心のままに従はざるべし。吾王の威力に服したるのみぞ 心の底より服ひ居らじ。」と歌ったので、王の不興を買い、サールの国許に左遷されることとなった。実は、ナーリスは誠忠無比な忠臣で、チクターや軍師エーマンは奸佞邪智な贋忠臣であった。
 その後は、王、王妃、部下たちは国務を忘れて歓楽にふける。
 ある酒宴の席で、エーマンがうっかり「酒と物言ふ花さへあれば たとへお城は滅ぶとも」と歌い、エームス王を怒らせたが、サツクス姫のとりなしにより、罰はまぬがれた。

 サツクス姫、左守のチクターは影で深い恋仲となっていた。
 ある日、エールス王、サツクス姫、左守のチクターの三人は水及川で月見の宴を開いた。その席でサツクス姫はエールス王を酔わせ、崖から突き落とした。チクターは不安になるが、サツクス姫はチクターをはげます。
 二人は城に戻り、「王は酒に酔い川に落ちた」と発表した。その後、王の死体が川の中から発見される。
 以後、サツクス姫は女王として君臨し、チクターはそのまま左守と勤めた。二人の秘密を知るものは無かった。

真珠湖での戦いで人魚が勝利する 8

サックス姫真珠湖を攻撃するも、人魚の勝利。

 真珠湖では、数万の人魚達が平和に暮らしていたが、イドム王の部下が、時々襲ってきて、乙女が何人かさらわれていた。
 人魚達は湖の東西南北の四つの郷に住んでいた。ある時、四人の王が真珠島に集まり、サール王のイドム国占領についての対策を話し合っていた。そこへ、権力を得たサツクス女王が数百のナイトを従え攻め寄せる。それを知った人魚達は、比較的攻めにくい北の郷に逃げ集まった。
 サツクス女王は、ナイトたちを騎馬のまま水中に入らせ、人魚を探索させたが、人魚は見つからず、ナイトの多くは溺れ死んだ。そこで、女王は、今度は丸木舟を作らせ、それに乗って真珠島へ向う。女王は人魚たちを全く甘く見ていた。
 四人の酋長は、北郷の人魚達に「敵にむかって必死の力を加え殲滅しよう」と訓示して、女王の舟を待った。そして、サックス女王の舟が真珠島に近づいたところで、酋長たちは真珠の岩を舟に投げ入れると、舟は湖中に沈み、女王以下チクターなど皆死んでしまった。
 これより真珠の湖の人魚の群に向つて攻め寄すせもの跡を断ち、永遠の神仙郷として人魚の群は栄えたという。

サールのイドム占領幹部滅亡 9 10

マーク、ラートら愛国の志士に率いられた国内の維新により、サール国の撤退。維新組は、元のアヅミ王を迎えることにする。

 軍師エーマンは、サツクス姫及びチクター等の死体を篤く葬り、十日間の喪に服した。そして、国の再興をはかる。しかし三千人の軍人はクーデータを企んでいるようであった。
 また、国津神の諸々は、エールス王の暴政に苦しみ、怨嗟の声は国内に充ち満ちていたが、王以下の帰幽を知ると、町々村々より愛国の志士が奮起し、到る処に維新の声が潮の寄せる如く湧き立った。中でも愛国派の大頭目マークとラートの両雄は、大声で叱呼しつつ、国津神の奮起を促した。それに答えて、群衆は法螺貝を吹き、磬盤を打ち、太鼓を鳴らし、到る処に示威運動が起こった。
 その群集が大挙してイドム城に攻め寄せたので、軍師のエーマンは、この光景を見て驚きあわてふためいて、高殿より身を躍らせ、水乃川の激流に飛び込み、あと白浪と消えてしまった。

 マーク、ラートに従う群衆の中に、アヅミ王の右守ターマンが変装して忍び込んでいた。ターマンは二人の側に進み、固く握手を交した。二人は「アヅミ王を迎えて民心を安んじよう」と言い、目付けににらまれ、牢獄に捕われ、ブラツクリストと世人に貶されて、維新のために日々を送ってきたという自分達の苦しい過去を語った。それを聞くターマンは涙にくれる。
 ターマンはマークを伴い、月光山に向う。

(時間が戻る) 

サール本国でエールス王チンリウ姫に恋する 11 12 13

サール本国で、王子エームスが捕われたチンリウ姫に恋をする。姫は最初は靡かなかったが、乳母アララギの汚い心での計略により、王子との結婚を承諾する。

 サールの国王エールスがイドムの国を占領した時に捕らえられた捕虜は、サールの国へ護送されて牢獄に繋がれた。
 サールの城は木田川の東の丘陵木田山にあった。エールス王の太子エームスは、木田山城の留守師団長として守つてゐたが、アヅミ王の娘チンリウ姫が送られてきたのを見て、たちまち恋慕の鬼にとらわれて、夜も昼も煩悶苦悩の溜息ばかりを続けていた。また、姫と一緒に、やや年老いた侍女のアララギ及びチンリウ姫の乳兄弟なる乳母の娘センリウも捕われていた。
 エームス王の部下の朝月、夕月は、エームスの日夜の様子只ならざるに心をいため、慰めようとあらゆる手段をつくしたが、太子の身体は恋の病に日夜に憔悴するばかりであった。
 エームスは、自分のチンリウ姫への恋心を朝月と夕月に打ち明ける。最初、反対していた二人も、エームスのために姫を口説くことを請け負う。
 また、エームスの侍女の滝津瀬と山風はエームスを慰めようとするが、エームスは二人を相手にしない。

 朝月と夕月はエームス王の気持ちを汲んで、チンリウ姫に王子との結婚を承諾するよう迫るが、姫は承知しなかった。
 そこで、二人は、食責め、火責め、水責めなどで翻意させようという計略を立てる。

 エームス王は自分や部下ではチンリウ姫の心を動かせないと、姫の侍女のアララギを利用する。王はアララギに位を与えると約束したので、アララギもきたない心から、姫を翻意させることを請け負った。
 アララギは姫の前で、「姫がエームスの気持ちを受け入れないと、自分と娘のセンリウも一緒に殺す」と言っていると告げる。チンリウ姫は「二人の女まで巻き添えにすることはできない」と、エームスの恋を受け入れることを承知する。

チンリウ姫乳母アララギに嵌められる 14 15

チンリウ姫、アララギに嵌められ、娘センリウとすりかえられ、島流しにされる。アララギは権力を掌握する。

 チンリウ姫とアララギの娘センリウは、同じ乳を飲んで育ったので、容姿が生き写しであった。
 エームスとチンリウ姫の結婚式の日に、アララギは「『エームスと結婚した女は何人もあるが、その夜に命を落としている。これはエームスは熊と虎とのあいのこで、強い力で抱きしめ女を殺してしまうからだ』と侍女から聞いた。そこで、娘のセンリウを姫の身代わりに立てて様子をみよう」と持ちかけ、チンリウ姫も承知する。
 ところが、身代わりとなったセンリウには何事も起こらず、無事であった。これはアララギの計略であった。
 本物のチンリウ姫は、アララギの計略で、国宝の壷を割ってしまい、その罪で遠島に処せられてしまう。

 エームス王は、アララギが母子の情を捨てて自分の娘を遠島にしたと信じて、「アララギは公明正大だ」と、政治を任せることになった。それからは、アララギの権力は強大となり、逆らう者は罪に問われた。
 ある日、朝月が祝宴で「波の奥かくれの島に送りてし 姫の心を思へば悲し。畏れながら誠の姫に非ずやと わが魂はささやきて居り」と、姫のすり替えをほのめかしたため、アララギと王の不興を買い、遠島に処せられた。

チンリウ姫大亀に救われイドム国に戻る 16 17

島流しにあったチンリウ姫は、大亀に救われイドムの国へ戻る。姫を思う朝月も、遠島に遇うが、大亀に救われてイドムに来て姫に仕える。

 チンリウ姫は遠島の刑で隠れの島に流された。姫を乗せた舟には毛武者のナイトが乗っており、多くの監視者や目付に姫を島に送った証拠として見せるために、姫の耳を切り取り、姫を島に残して立ち去った。
 島は、潮が満ちると水没するような島で、姫の命は危機一髪。姫は下半身が水に浸かり、嘆きの歌を歌う。そこへ、大亀が現われて、姫を救う。大亀は、数百ノット(時速200~1000KM)の速度で、姫を、イドムの国の真砂ケ浜に送り届ける。
 姫は、結局のところ身代わりにより、自分の身体が汚されるのを救われたことを悟る。そして「外国の仇の王の妻となる センリウ姫は憐れなりけり。吾霊魂身体共に汚さるる 真際を救ひし彼なりにけり。かく思へばアララギとても憎まれじ 吾操をば守りたる彼」などと歌う。

 朝月は宴会で、チンリウ姫が偽者だと歌い、荒島に流された。彼は真心でチンリウ姫を心配していたのだった。島では貝などを採集して命を繋いでいたが、ある日、夢で、チンリウ姫が神亀に救われたことを知る。
 その大亀が朝月を迎えに来て、真砂ケ浜に送り届けた。朝月は茂樹の森で、チンリウ姫の萱の家を見つけ、姫に自分のことを説明する。最初は信じなかった姫も、朝月の言霊を信じることとなった。朝月は姫に仕えて時を待つこととなった。

サール国、イモリの精に乗っ取られる 18

イモリの精がエームス王を殺し、王に成りすます。偽チンリウ姫、イモリの精を認め、一緒に暮らす。

 偽のチンリウ姫が一人で城内の森林を逍遥しているとき、セームスという美男子に誘惑されてしまう。このセームスは、実は、菖蒲池に済むイモリの精であった。翌日、姫の提案で、その菖蒲池で舟遊びが行われ、チンリウ姫、エームス王、アララギなど小数の者が丸木舟に乗って遊んでいた。そこで、イモリの精は、俄に池水を躍らせて舟を顛覆させ、エームス王の生命を奪ひとってしまった。アララギ達はなんとか岸に泳ぎ着いて無事であったが、目が見えなくなってしまい、何が起こったか分らなかった。
 誰も王が死んだとは知らないので、イモリの精は、王に成りすます。
 後にチンリウ姫はエームスが偽者だと気付いたが、『汝とても誠のチンリウ姫ならず センリウ姫の贋玉なりけむ。吾もまた誠のエームス王ならず 従弟のセームス優男なり。贋物と贋物二人が此の城に 二世を契るも面白からずや。』と歌いかけられ、また、母親のアララギを救われて、二人で何事もなかったように暮らすこととなった。
 二人は、木田山城内奥深く住み込んで、国政は日に月に乱れ衰へ、遂には収拾すべからざるに至った。

サール国の維新 19 20

サールよりナーリスが戻り、アララギと対立。夕月が愛国団体の国民を率い城を攻め、アララギを射殺。偽のエームス、チンリウ姫も菖蒲池に飛び込む。夕月と協力するナーリスは、国政を担当し、主の神の御舎を造営し、朝な夕なに「正しき政治を行はせ給へ」と祈願する。

 エールス王はイドムの城に一挙に攻め寄せて、アヅミ王、其の他の重臣共を追ひ散らし、意気揚々としてイドムの城の主となり、軍師、左守を残し、サールの国を監督させようと右守のナーリスに数多のナイトを従えさせて帰国を命じていた。ナーリスは意気揚々として数百のナイトを従へながら国へ戻る。(6章では左遷されたことになっている)
 ナーリスは城に戻り、偽のエームス、チンリウ姫と面会する。そして、乳母のアララギが大権力を持ち政治に口出ししていることを憤るが、王達は聞き入れなかったので、王の前から姿を消す。
 そこへ、山岳も崩るるばかりの矢叫びの声、鬨の声、城下に轟き渡り、数多の暴徒は手に手に得物をたずさえ、本城目がけて阿修羅王が狂った如く攻め寄せ来た。その勢いに城中は戦場の如く、到底寡を以て衆に敵し難しと、贋のエームス王はチンリウ姫を小脇に抱えて、菖蒲池に飛び込み、二人の姿は水泡となって消え失せてしまった。この暴徒の中心人物は夕月で、アララギを弓矢で射殺してしまう。
 これより城内は統制機関なく、左守のナーリスも何処へ行ったか皆目分らず、木田山城はさながら悪魔の跳梁に任せたようになった。

 偽の王とアララギを倒した夕月と左守のナーリスは協力して、愛国団体と共に城に入り後始末をした。
 そこへ、副将チンリンは数千のナイトを従えて戻り、イドム国では、エールス王が死に、サツクス姫、チクター、エーマンも滅んだと告げる。
 左守は『恐ろしき事を聞くかな他の国を 奪はむとする戦の有様。エールスの王の血統は亡びたり サールの国を如何に守らむ』と歌う。そして一同は『天地の神を恐れみ謹みて 誠の道に進み行くべし』との左守の言葉に従うこととなった。
 ナーリスは、城内一般にエールス王一族の不幸を発表し、国民の代表者を集めて盛大な葬式を執り行って、木田山の城内に荘厳な主の神の御舎を造営し、朝な夕なに「正しき政治を行はせ給へ」と祈願するのであった。


9.問題点

(1)話が途中で終わっている

 イドムの国では、イドム城では維新が行われ、王を迎えるために愛国主義者のマークがアヅミ王のいる月光山に向かう。アヅミ王は、主の神にすべてを任せる決心をしている。
 娘のチンリウ姫は朝月とイドムの国茂樹の森で時を待っている。切り取られた耳はどうなったのか?

 サール国は維新後、ナーリスが左守となり、主の神を奉じて出直そうとしている。このナーリスが国に戻る原因は章によって違っている。

 これまでの物語ではしっかり改心が書かれているが、それと違い、それまでの権力-王やら左守の改心がさほど詳しく書かれていない。また、それ以外の上流階級はどうだろうか?例えば、サールのエームスの侍女などは、それまで正しい人たちではなかったように書かれているが新体制に入っている。

(2)イドムもサールも愛国の志士の維新でそれまでの権力(王権など)が復活している

 どちらも、国が回復したのは愛国の志士による。
 愛国の志士の登場の仕方が軽すぎるように感じられる。
 愛国の志士たちによる新しい政治はないのか?

(3)人魚への侵略を反省していない

 人魚達はこれ以後侵略されなくなったと書いてあるが、イドムの国民、サールの国民はほんとうに人魚を苦しめたことを反省したのか?

 一度、全体を読んでみて下さい。物語は未完です。不思議な余韻を残して終わるような気がします。
 どう考えても、どうして途中で終わらせたのか、唐突な終り方になっているように思います。
 
 この後どうなるのか、エドムのことを考えると、いろいろ想像されます。


第1版 2004/08/01
第1.1版(一部修正)2015/01/02

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