裁判記録
○ ここでは、昭和13年8月10日の京都地方裁判所の公判速記録、冒頭部をとりあげています。
○ 浅野正恭の子供浅野遙が起訴になっていないと弁護人が追求し、検事が答えられないと逃げるところが面白い。
○ 当時は、予審があってその取調べに当たった高橋警部が暴力を使い、権力の都合のよいように自白させたようだ。
○ 王仁三郎はその予審で話したことになっていることをすべて否認する。
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原文はカタカナ書き。カタカナはひらがなに改めた。
また、読点を適宜句読点に改め、なるべく短い段落となるように改行した。
昭和十三年八月十日(水曜日)
京都(地方(裁判所
治安維持法違反(並不敬事件(公判速記録
午前(九時四十八分開廷
冒頭部
被告人 出口(王仁三郎(
裁判長 出口(王仁三郎(、井上留五郎、出口(伊佐男、高木鉄男、湯川貫一、湯浅斉治郎、東尾吉三郎、各被告人に対する本籍、住所、出生(地等(は準備(手続に於(けると変(りないか。
出口(王) はい左様(でございます。
裁判長 其(の後変(つたのはありませぬか……ありませぬね。
出口(伊) 私が宇知麿(になつて居(りますが、知ぢやなく、智慧(の智であります。番地は二十九番地であります、それを申上(げて置きます。
裁判長 それでは是(より出口(王仁三郎(に対する治安維持法並不敬事件(、高木鉄男に対する治安維持法並不敬出版法違反(及新聞紙法違反(、其(の他の各被告に対する治安維持法事件(を併合の上審理するが、先(づ順序(として、検事より被告事件(の陳述を求(めます。
検事 皇道(大本(は明治(三十年頃出口(直事出口(なかが金神(の大本(と称(しまして、京都(府何鹿郡綾部(町字裏町の自宅に艮金神(を祀(り祈祷(禁厭を始(めましたのに端(を発(するのでありまして、明治(三十二年七月被告人出口(王仁三郎(が右(なかを援助するやうになりまして、なかを教主とし、王仁三郎(を教主補とする宗教(類似の団体(を結成致(したのでありますが、後出口(すみをに代教主とし、王仁三郎(に於(て事実(上右(団体(を統轄して参(りまして、皇道(大本(又(は大本(と称(し、天照(皇(大神((大本(皇(大神()を主宰神とし、なか及王仁三郎(の手記致(しました所の所謂(筆先(を神諭(、王仁三郎(の著述に依(る霊界(物語(を神示(と称(し、同郡綾部(町本宮を祭祀(の中心地、南桑田郡亀岡(町天恩郷(を教義宣伝(の根拠地と定(めまして、其(の教義を宣伝(し、信者(の獲得に努(めて居(たものでありまするが、其(の根本(教義なるものは、王仁三郎(に於(て、古事記(、日本(書紀等(の記事(を曲解致(しまして案出致(したものでありまして、万世一系の我(が国体(を変革せんことを目的(とするものなのであります。
然(か致(しまして、被告人王仁三郎(は予(ねてから五十六歳七ケ月に達しました時に、みろく菩薩(として出現(し、みろく神政(を成就(すべき旨予言(して居(り、被告人伊佐男、吉三郎、鉄男、留五郎、貫一、斉治郎、等(は其(の日の来(たることを待望して居(つたのであります。
被告人王仁三郎(は、昭和(三年三月三日は之(に相当(する日であると云(つて居(るのであります。みろく大祭(を執行(して其(の際に我(国体(の変革を目的(とする結社を組織し、所謂(該目的(達成の為(に本格的活動(を開始しようと決議致(しました。
同月二日夜(、右(綾部(本宮教主殿に、被告人伊佐男、留五郎、鉄男、吉三郎、貫一、斉治郎外約十名ばかりを招致致(しまして、被告人王仁三郎(から同人等(に対して、先(づ同月三日愈々(みろく菩薩(として諸面諸菩薩(を率ヰて此(の世に下生(し、みろく神政(成就(の為(に現界(的活動(を為(すこととなつた旨、次(に、諸面菩薩(は右(十六名及西村昂三の十七名とすと云ふこと、それに王仁三郎(及右(十七名は従来(の役職を返上して、三日は事実(上無役となるのだと云ふやうな趣旨を告(げまして、暗に該結社を組織せんことを慫慂(致(しましたのであります。
被告人伊佐男、鉄男、留五郎、貫一、斉治郎、等(右(教主殿に参集致(しました者は、何(れも右(王仁三郎(の慫慂に応(じましたので、昭和(三年三月三日、綾部(町本宮弥勒(殿に於(て予定の通りにみろく大祭(が執行(せられたのでありますが、其(の際被告人王仁三郎(は、みろく菩薩(として被告人伊佐男等(十八名を従(へ、被告人伊佐男、吉三郎、留五郎、貫一、斉治郎、等(も亦(諸面諸菩薩(の一人として、被告人王仁三郎(に従(つて至聖殿に昇殿致(しまして、相共(に神殿に於(てみろく神政(成就(の為(めに一致(団結して捨身活躍せむことを誓(ひ、茲(に於(て、被告人等(は他十七名等(の者と共(に、光輝ある我(が万世一系の立憲君主制を廃して、日本(に出口(王仁三郎(を君主とする独裁至仁至愛(の国家(を建設(せむことを目的(とする大本(──昭和(八年一月皇道(大本(と改称したのでありますが──と云ふ結社を組織したのであります。
爾来(右(結社の拡大強化を図る為(に、各被告人は、それぞれ其(の地位(、役職に応(じて活動(して来(たものでありまして、此(の間(に、被告人王仁三郎(は霊界(物語(等(に不敬に亘(る記事(を掲載せしめ、又(被告人鉄男は霊界(物語(昭和(十年の発行の責任(者として、更(に瑞祥(新聞紙の発行の印刷人として、尊厳を冒漬するやうな記事(を掲載発行し、或(は自己(の雑誌に尊厳を冒涜する文言(を使つて、それぞれ不敬の行為をなしたと云ふ詳細は、各被告人に対しまする予審終結決定書記載の事実(に付て御審理を仰(ぐ次第(であります。
尚(本件は、安寧秩序を害する虞(あるものと思料(致(しまするが故(に公開を禁止して御審理あらむことを要求致(します。
(注 慫慂 しょうよう 他の人が勧めてそうするように仕向けること。)
出口遙、梅田信之、中野岩太について
林弁護人 御審理に入(りまするに先立(ちまして、只(今御陳述になりました検察官の公訴事実(に付て一点御釈明を得(たいのであります。
予審終結決定書に依(りますれば、検察官が審判(を請求(されました事件(中に、昭和(三年三月二日に於(ける出口(王仁三郎(等(十八名の行為、及同年同月三日に於(ける出口(王仁三郎(等(十九名の行為があるのであります。
そして其(の際挙(げられました人名の中、出口(遙(、梅田信之、中野岩太の三名は御起訴に相成(つて居(ないのであります。
茲(に伺(ひたいと存(じますることは、右(日時に於(ける右三名の行為は、起訴されて居(ります他の者等(の行為と全然(相異(なるとの御主張(でありませうか。或(は又(、右三名に付(きましては、法律上之(を他の者等(と相異(る御取扱をなさるべき特殊の理由(、事情が存在(致(すのでありませうか。
私共(は弁護の方針を立てまするに当(りまして、此(の点に付(き非常(に困惑致(すのであります。
何卒(検察官に於かれましては、率直、無色、虚心坦懐に此(の点に関(しまする御釈明を下(さいまして、以(て我々(と共(に真実(発見の為(に一層(の御協力を希(ひたいのであります。
裁判長 本件の此(の度(の内容(に付ては、検事の御論の如(く安寧秩序を害する事実(のあるものと認(めまして公開を禁止する事に致(します。
特別(の許可のない一般の傍聴人の退廷を命じます。
(午前(十時一分傍聴人退廷)
審理に入(る前に、林弁護人から検事に対する釈明を求(められました、其(の要旨は結社を組織した同志(の中(で、二三名の者が出(て居(らぬがと云ふ御訊(ねですね。
林弁護人(黙礼)……もう一遍申上(げますれば、右(三月二日及三日に、起訴に相成(つて居(りませぬ三名が致(しました行為と、起訴に相成(つて居(りまする他の者等(の致(しました其(の行為と全然(相異(ると云ふ御主張(でありませうか。或(は又(、右三名に付ては、法律上之(を他の者等(と相異(なる御取扱をなさるべき特殊の理由(、事情が存在(するかと云ふ御訊(ねであります。
裁判長 左様(な点に付ては、審理の進行上判明することと思ひまするが、弁護人各位の御希望もありまするから、差支(へない範囲(内に於(て検事の御意見を発表(して戴きたいと思ひます。
検事 御答へ致(します。
御訊(ねの三名に付(きましては、検事局で不起訴になつて居(りますが、其(の不起訴に致(しました内容(をちよつと此処(で申上(げることを差控(へたいと思ひます。
如何(なる事件(と雖(も、不起訴理由(、其(の他のことに対して発表(しないことになつて居(りますから、其(の点御含(み置きを願つて置きます。
林弁護人 検察官の只(今の御釈明は頗(る遺憾(とするのでありまするが、近き将来(に於(て必(ず真実(発見の為(に、更(に格段の御協力を発表(……と申(しますか、さう云(うことを確信(致(しまして御審理の御進行を願ひたいのであります。
清瀬弁護人 今のことで初(めて判(りましたが、今の三名の中(には、浅野遙(と云ふ人が居(るのですね、先刻申(しました浅野正恭の子供(ですね、御着眼を願ひたい。
裁判長 此(の問題は是(で、又(改(めて別の機会に於(て──。
それから各被各被告人にちよつと申上(げて置くが、順序(として冒頭に於(て王仁三郎(の審理をしようと思ふが、各被告人の審理の進行上、「王仁三郎(の通りかどうか」と云ふやうな形式(に於(て審理を略するやうなことがあるかも知れませぬから王仁三郎(の答に付ては、判(らぬと云ふやうなことのないやうに、能(く聴(いて居(て貰(ひたい。
重要事項に付ては、勿論(確実(に十分弁解を訊(かうと思ふが、まあ余(り重要でないことに付ては、王仁三郎(の答を引用して、進行を図りたいと思ひます、其(の積(りて聴(いて──
それぢや王仁三郎(から取調(べます。
其(の外の各被告は腰を掛(けて居(つて宜(しい
(出口(王仁三郎(外の各被告着席)
井上留五郎 一口……。
裁判長 何を言(ふのですか、弁明などは、各被告の審理の際に十分訊(かねばならぬことになつて居(るが、何かね。
井上留五郎 あ、さうですか、ぢや……。
高木鉄男 私の名は、高木鉄男(でありませぬ、鉄男(、であります。
審理冒頭 王仁三郎の体調
裁判長 それぢや是(から王仁三郎(を調(べるから……。
腰を掛(けて能(く聴(いて居(なさい。
前田弁護人
裁判長、出口(王仁三郎(は老齢にして且(つ血圧が高い。果(して長時間(起立の儘で以(て裁判長の御訊(問に答へ得(るか。若(し途中(で以(て卒倒其(の他の事故が発生(しては誠(に御審理の進行上遺憾(に存(じますから、特別(に椅子並(に水を御与(へ下(さることを御許(しを願ひたいのであります。
裁判長 裁判所に於(ても同意致(します。
(椅子並(に水を与(ふ)
準備(手続より血圧が高いのか王仁三郎(?
出口王仁三郎(
もう一年前から……腹か痛うて叶(はぬのです。斯(うやつて(坐つて)居(りましても、ちよつと動くと、抜(けさうに(と股をなでながら)なつて叶(はぬのです。
足立弁護人
出口(被告は血圧のこともありますし、非常(に疲労するたちでありますから、疲労致(しましたならば、どうか御休憩を与(へて御審理を仰(ぎたいと思ひます。
裁判長 承知(致(しました、王仁三郎(──。
出口(王)
へえ。
裁判長 若(し具合(が悪かつたら、ちよつと休憩して貰(ひたいと申出をしなさい。
ちよつと答へしにくいやうな血圧の状態(になつたから休憩して貰(ひたいと申出(なさい。
出口(王)
此処(からですか……。
裁判長 あ、さうだ、私の方でも見て居(るが、尚(念の為(に……。
出口(王)
はい。
裁判長 王仁三郎(に対して、公判に於(て審判(すべき範囲(は、予ねての予審終結決定の内容(に付て取調べを進すめるのだが……。
出口(王)
ちよつと一口申(さして戴きたい。
裁判長 ちよつと待て、……公訴の事実(に対して、公判に附せられる被告事件(に付て何か陳述すへきことがあれば述(べなさい。
答 宜(しうございますか。
問 併(しながら詳(しい弁解はだね、色々な教義其(の他のことに付ての弁解は、中に入(つてから十分訊(いた方が被告人の為(になると思ふから、大体(の要旨だけの陳述をした方が被告の為(にもなるのぢやないかと思ひます。
予審での取り調べ
答 あのそれでは申上(げますが、初(まりのことからちよつと申(しまするが、警察に居(つた時のことから申上(げて宜(しうございますか。
問 何を述(べても宜(いが、余(り……。
答 簡単(に、私は……。
問 公訴事実(に対する陳述だな。
答 公訴事実(に対する陳述と云ふことは──。
問 予審終結決定に書いてあることと関聯して居(ることならば陳述しても宜(い。
答 私は京都(府の高橋警部の調(べのときには、色々のことを──神憑のことを色々申上(げましたけれども、それは下手(な催眠術ぢやと云ふやうに、斯(う云ふ神書(を冒涜することを仰(しやいますから、此(の人には神様(のことを申(してもあかぬと思ひました。
神様(のことを「宜(い加減(な胡魔化しなこと」だとか、又(おどれ(と云ふことを始終(御使ひになりました。おどれ(と云ふことは田舎(では汚(れた奴隷と云ふことであつて、非常(に罵(つたことでありまして、よくおどれ(と云はれましたが、私はそれでも隠忍して居(りました。うしたら自分(が鼻唄を歌ふやうにして文章(を作(つて、「斯(うぢやろ、斯(うぢやろ」と言やはりますから、さうぢやありまへぬと云ふと、「胡魔化すな」と云(つて「ポかん」となぐつて御書きになります。
「是(は井上と誰も云ふとることで、お前だけがさうぢやないと云(つてもさうはいかぬ、御前(だけ言(はなくても承知(はせぬ、年寄がこの寒いのに可哀さうだ、お前が儂(の言(ふことを承知(したならば、皆帰してやる、寒くなつたからお前も帰してやる、検事の方でも、私の言(ふ通り言(ふて置けば直(ぐに済(むし、予審の方も、もう二、三回したらそれで済(んでしまふぢやないか」と斯(う云はれた。
それで私は兎も角是(は此(の高橋さんにあつてはあかぬと思うて居(りました。
そして、「検事局から頼まれて自分(は調(べて居(るのだから、此(の通り言(はなければいいか、ねぞ、お前は之(に反対(したならば、お前一生の間崇つてやるぞ。」私は子供(もあれば女房もありますから、さう云ふことを祟(られては適(ひませぬから、もう斯(うなれば仕様(がないから公判迄(或(は予審迄(向(ふの仰(しやる通り放(つとけと言(ふので、放(つといたのであります。
それで検事さんの方で御訊(ねになつたのは、何の調書──警察の調書を見て御訊(ねになりましたから、私は少しも反対(せず其(の通りに認(めました。仰(しやる通りに認(めました。
問 腰掛(けて居(つても構(はぬですよ。
答 ちよつと声が出(ませぬので……。
問 ……。
答 立(たぬとちよつと声が出(ませぬ。下(の歯がそつくり取れて居(りますので……。
それから予審へ行(きまして、予審へ行(つて予審で話(して聞いて貰(はうと思つた。予審判事さんなら能(く判(るやろと思うた。総(て調(べる御方(の御ろを五口か六口訊(きましたなら、此(の人は宗教(の素養があるとか、或(は霊学の素養があるとか、文学の素養があるかないか云ふことは判(りますから、高橋さんに何を云ふても、神界(のことを、霊界(のことを言うても判(らぬから、是(はやかましく言うても仕様(がない、却(つて又(掛巻くも、畏きことを仰(しやるから、又(我々(もそれに対して言(はなければならぬことになるから黙(つて居(つた。
それから愈ヽ予審へ行(きました所、予審もまだ判(らない。私はまだ判(らぬので呆(れてしまひました。
それは何故(かと言(ふと、斯(う云ふことを仰(しやいます。
昭和(十二年十月四日だと思つて居(りますが、私は古事記(、日本(書紀にあると云ふたら、「古事記(に書いてあることと、日本(書紀に書いてあることとは字句が合(ふて居(らぬ、矛盾(して居(るから、我々(は信じない」と言(はれた。それならば古事記(に付ても御調にならなければ宜(しいのに、矢張(り御調(べになる。
それから十月の十日と覚(えて居(りますが、弓削道鏡のことでした。「和気清麿が宇佐八幡の神勅を請(ひに行(つたのは嘘(だ。神様(がそんなことを言(ふ筈(がない、清麻呂が勝手(に言(ふてあ、云ふ工合にしたのだ」と、さう云(うやうに仰(しやいました。私は五十年間殆(んど神々に仕(へて居(りますが、神様(が仰(しやることは確(かに、私は経験(して居(ります。それで清麻呂は一生懸命に身を浄(めて、国家(の一大事(として御願したから、神様(の御声(を聴(いたと、私は確信(して居(るけれども、あの予審判事さんは、「それは清麻呂が勝手(に拵(へたので、そんなことはない」と仰(しやいます。
斯(う云ふことを仰(しやる人には、是(はとても神さんのことは調(べて貰(ふ訳にいかないと思ひました。
それから十月十五日に「吾(れよし」と云ふ話がありましたが、「外国(は総(て『吾(れよし』だと、英国あたりも自分(の国さへ宜(かつたら宜(いのだ、日本(の戦争も是(は実際(言うたら『吾(れよし』ぢやぞと」言やはる。
「日本(が支那(との事件(を起した、是も実際(を言うたら『吾(れよし』だ」と、斯(う云ふことを仰(しやるような御方(ですから、是(は何を言うてもあかんと思ひましたから、私は此(の間(準備(公判のときに申上(げたやうなことは、一つも警察でも言うて居(りませぬ。検事局でも言うて居(りませぬ。予審でも言うて居(りませぬ。
何故(言(はぬかと云ふと、それを云ふと斯(う云(うことを言(はれる。それは直(ぐに保護(色やとか、表看板ぢやとか、斯(う言(つてけちを付(けられる。総(て良(いことがあれば表看板、保護(色や、暗示やと、即(ち何々斯(う云ふことを言(はれますから、公判のときに之(を言ふのに除けて置いたのです。是も妙(な方へやられて胡魔化されたら困(ると思ひまして、私は是迄(予審でも何も言ふて居(りませぬ。
愈々(是(から本当(のことを申上(げます。何故(と云ふと、予審判事と書記が居(つて勝手(に書かれる。
私は一日間体主霊従(と云ふことだけを訊(ねられた日があります。それから又(和光同塵と云ふことは何と云ふことだと、斯(う云ふことを訊(ねられた。是(れぢや神様(のことも判(らぬと思つた。何故(判(らぬかと云ふと、私が軍人の田中文吉の証人に呼ばれて予審廷へ行(きましたときに、此(の字は何と読むと云ふことを訊(ねられた。それは「へぶらい」語であります。へぶらい語は「きりすと」教の聖書を読んで居(れば判(る。是(は聖書を読んで居(らぬ人だなと思ひました。
問 言(はむとする要旨も大体(判(つたが、さう云ふ積(りで本当(のことを言(はなかつたと云ふ主張(の問題だが、各個の問題に対する弁解は其(の都度々々答弁したらどうですか。
答 各個とは……。
問 後で個々の事実(に付て訊(ねるから、其(の際に──大体(の言はんとする趣旨は呑(み込めたから。
答 其(の外にも沢山(ございますけれども。
問 趣旨の違つてる点ならば言うても宜(しいが、今のことは「予審判事がさう云ふ訳だから本当(のことを言はなかつた」と云ふことに帰着するのでせう。
答 えゝ、それから高橋警部が、「俺(に反対(したら御前(も子供(や何かが可愛(やろ、可愛(くないか」と云ふことを色々言はれたから、それを可愛(さに私は検事局では其(の通り言うて、はよういなして貰(はうと思つて、検事局では本当(に私は抵抗して居(りませぬ。
問 それで趣旨は判(つたが公訴事実(──予審終結決定に書いてある事項はどうですか、それに対する弁解は。
答 私は全然(否認致(します、全部(私は否認致(します。
問 全部(否認でありますか。
答 若(しなんでしたら御訊(き下(さい。
問 訊(かなければならぬが、全部(否認……ちよつと準備(手続に於(ける供述と又(違ふのですか。
答 違ふことはございませぬ。
問 準備(では全部(とはなつて居(なかつたな。準備(公判に於(ては。
答 今仰(しやるのはどうぢやと仰(しやいますから、全部(否認致(しますと申(したのであります。此(の前の準備(の時に御訊(ねになつたことに対して申上(げたのでありますが、其(のことに付て私ちよつと……。
問 さうすると大体(に於(て準備(手続に於(ける答弁と同(じやうなことになる訳か。
答 ちよつと間違うて申(したことがありますから訂正さして貰(ひたい。
問 それは無論(訂正して貰(はなければならぬが──。
答 「上」と云ふことは外国(ばかりぢやありませぬ、日本(の上層社会(はまるで人倫を破つて、さうして第一、第二、第三位の妾宅を置かなけれは紳士でないやうな顔をし、或(は又(有閑「マダム」と云ふ貴婦人が役者の部屋へ入(りましたりして居(るが、是(は人倫がめげて居(ることであります。
「下」が破れて居(るのは、是(は知りませぬが、淫売窟が東京にもあるさうです。玉の井とか何とか云ふ所があるさうです。是(は人倫が廃頽して居(るのです。さう云ふことも言うて居(るのです。
斯(う云ふ意味で「上」と「下」とが斯(うなつて居(ると云ふことを申上(げたのであります。支那(あたりもそうなつて居(ります。
問 さう云ふ意味であると云ふのだな。
答 さうです、それも訂正したいと思ひます。
問 弁解は大体(は準備(手続で言うた通りか。
答 大体(に於(てさうです。
簡単(に云(ひましたから又(詳(しく申(しますが。