乙女の天使絹子姫


天使という用語は、いろいろな意味があると思われるが、2巻では、天使は職名として使われている。

そんなところに、突然乙女の天使絹子姫という神が出てくる。この神は不思議な神である。

天津神の使神で、「頭上より異様の光輝」が表れている。

物語02-5-29 1921/11 霊主体従丑 乙女の天使

 ここに荒熊彦の子に清照彦といふ正しき神司があつた。この度の戦ひに大敗して元照彦のために滅ぼされたりとの風評たかく荒熊姫のもとに届いた。この時元照彦はローマ、モスコーの視察ををへ、高白山の危急に迫れることを聞きて、はるかに神軍を率ゐて応援に来たのである。荒熊姫は清照彦の、元照彦に亡ぼされし噂を聞きてますます怒り、ここに言霊別命の神軍を率ゐて南方に陣し、敵軍を防ぐと見せかけ、高白山を陥れむとした。折しも竜馬にまたがり天空を翔り、高白山の城塞目がけて下りきたる女神使があつた。年いまだ若く容貌秀麗なる天使である。案内もなく馬を乗りすてて、言霊別命の御座近くすすみ、
吾は天津神の使神なり。高白山は、今や荒熊彦の変心によつて、危機一髪の間に迫り、命の生命は瞬時に迫りつつあり。命にして吾が天使の言を信じたまはば、われに全軍の指揮を命じたまへ
といふのである。言霊別命は荒熊彦、荒熊姫を深く信じ、全軍の指揮を委任したるくらゐなれば、今この天使の言葉を聞いて大いに訝かり、
『汝は天使に化して吾を偽る邪神には非ざるか、汝は常世姫の魔術によりて現はれたる魔神ならむ』
とただちに剣を抜きてその女神使に斬りつけた。電光石火今や天使は頭上より真二つになりしと思ふ瞬間、天使の頭上より異様の光輝あらはれ、剣は三段に折れて命の手には柄のみ残つた。言霊別命は呆然として乙女の天使を眺めてゐた。乙女の天使は笑ひとともに命にむかひ、
『もし吾が言を疑ひたまはば、高白山は直ちに滅亡すべし。吾は天津神の命により、正しき神人に味方せむとて天より救援に来りしものぞ』
と天神の神慮を詳細に述べられたのである。言霊別命はやうやく乙女を天使と信ずるに至つた。時しも門外騒がしく、足音高く命の前に近づき来るものがある。命は怪しみて見るに、荒熊彦、鉄棒を打ち振りつつ御座近く迫りきたつて、
『言霊別命にただいま更めて見参せん。高白山はすでに常世姫の有力なる応援と、駒山彦の巧妙なる戦略と、加ふるに吾ら夫婦の変心とによりほとんど全滅せり。もはや命の運命は尽きたり。潔くこの場にて自決さるるや。いたづらに躊躇逡巡して時を移さるるにおいては、畏れながら吾は、この鉄棒をもつて命を粉砕し奉らむ。返答いかに』
と詰め寄つた。見るより乙女の天使絹子姫はその仲に入り、
『荒熊彦、しばらく待て』
と柔しき女神使に似ず、言葉鋭く眦を釣つて叫んだ。荒熊彦はかよわき乙女と侮り嘲笑つていふやう、
『大廈の覆へらむとするとき、一木のよく支ふべきに非ず。いはんや乙女のただ一柱の如何でか力及ばむや、邪魔ひろぐな』
と乙女を突き倒さむとした。乙女の天使は声をはげまし、
『汝天使に向つて挑戦するか。目に物見せむ』
といふより合掌した勇猛なる神卒はたちまち天より下り、荒熊彦を前後左右に取囲み、つひにその場に引据ゑた。荒熊彦は胆をつぶし、救ひを求め、かつ総ての罪状を自白し、全軍の指揮権を返上した。荒熊姫はかかる出来事を夢にも知らず、南麓の原野において元照彦と鎬を削つてゐたのである。この時元照彦は深く進みて重囲に陥り、ほとんど全滅せむとする間際であつた。
 駒山彦の魔軍はますます勢を得て今や城内に入らむとする。常世姫の応援軍は鬨をつくつて勢を煽り、侮りがたき猛勢である。この時言霊別命は、乙女の天使に全軍の指揮を命じた。ほとんど絶望に瀕したる味方の神軍は、にはかに天使の現はれしに勇みたち、勇気はここに百倍した。乙女の天使は金の采配を打振り全軍を指揮し、駒山彦の魔軍にむかつて、驀地に突入した。敵軍は雪崩をうつて、倒けつ転びつ数多の死傷者を出しつつ、山麓目がけて逃げ散つた。
 荒熊彦は改心の上一方の部将となり、常世姫の援軍にむかつて厳しく攻め入り、奮闘のすゑ足部に大負傷をなし、身体の自由を失ひ、従臣に救はれやうやく城塞に逃げ帰つた。乙女の天使は駒山彦の魔軍を破り、再び転じて荒熊姫の頭上より攻撃をはじめた。荒熊姫は周章狼狽き、つひに乙女の天使にむかつて降を乞うた。ここに乙女の忠告により元照彦に無礼を謝し、高白山は目出たく平和に帰し、敵は四方に散乱した。

ここで、真澄姫、言霊姫、竜世姫は金勝要神の四魂であるので同じ神である。高白山はアラスカ国にある。高白山は丹波ではどこに相応するかは不明であるが、亀岡近辺ではなかろうか。

その後、絹子姫は照妙姫と改称する。

竜宮城では常世姫が稚桜姫に言霊別命が、妻言霊姫以外の女神と暮らしていると誣告する。その詰問のために、神山彦が遣わされるが、照妙姫(絹子姫)は月界に帰ってしまう。

物語02-5-30 1921/11 霊主体従丑 十曜の神旗

 高白山を中心とするアラスカ国はふたたび平和に治まつた。常世姫はいかにもしてこれを占領せむと、多くの探女醜女を放つて、種々の計画を立ててゐるので、少しの油断もできぬ有様であつた。
 天使として下り来れる照妙姫と改称し、命の側近く奉仕した。
 常世姫の部将駒山彦はこのことをうかがひ知り、ただちにこれを常世姫に通告した。常世姫は好機逸すべからずとなし、みづから竜宮城にいたつて、稚桜姫命に謁し、
言霊別命は高白山に城塞を構へ、ローマ、モスコーの神軍と相呼応して常世城を屠り、ついで竜宮城を占領せむとし、照妙姫といふ怪しき女性を妻となし、神政を怠り、国土は乱れ、昼夜間断なく酒色に耽り、荒淫いたらざるなし。かつ言霊姫を極力誹謗し、かつ天地に容れざるの大叛逆を企てをれり』
と誣奏した。
 稚桜姫命は常世姫の言を信じ、たちまち顔色を変じて、天使大八洲彦命、真澄姫、言霊姫、神国別命その他の諸神将を集めて言霊別命の非行を伝へ、かつ神軍をもつてこれを討亡ぼさむことを厳命された。
 ここに小島別、竹島彦は大いに喜び、雙手をあげて賛成をとなへた。城内の諸神将は常世姫の言を疑ひ、大広間に諸神司をあつめて、高白山攻撃に関する協議を開いた。
 そのとき末席よりあらはれたる神山彦、村雲彦、真倉彦、武晴彦は一斉に立ち、大八洲彦命に向つて発言をもとめ、言葉も穏やかに、
『高白山討伐の儀は、しばらく吾らに委したまはずや』
といつた。小島別、竹島彦はたちまち立つて、
『汝がごとき微力なる神司の、いかでかこの大任を果し得べきぞ。冀はくは吾に少しの神軍を与へたまはば、吾は神変不可思議の妙策をもつて、言霊別命以下を捕虜とし面縛して、彼らを諸神司の眼前に連れ帰らむ』
と述べ立てた。神山彦は憤然色をなし、
『常世の国に使ひして、言霊別命以下をとり失ひ、失敗の恥を晒したる汝ら諸神司、いかなる妙策あるとも散々に討ち悩まされ、ふたたび恥辱を重ぬるは火をみるよりも瞭かなり。いらざる言挙げして失敗をとるなかれ』
と睨めつけた。
 大八洲彦命は、相互の争論のいつ果つるべきやうもなきを見、この場をはづして直ちに稚桜姫命に拝謁し、
『いづれの神司を遣はさむや』
と教を請はれた。稚桜姫命はこれを聞きて頭をかたむけ、やや思案の体であつた。このとき真澄姫、言霊姫、竜世姫は異口同音に、
『神山彦を遣はしたまふべし。彼は忠勇無比の神将にして、かつ至誠至実の神司なり』
と奏上した。かくしてつひに神山彦の進言は容れられた。
 ここに神山彦は、村雲彦、真倉彦、武晴彦を伴なひ、従臣を引連れ、天之磐樟船に打乗りて天空高く高白山にむかふた。
 時しも言霊別命は、高白山城塞に安居し、照妙姫を侍臣とし、荒熊彦、荒熊姫、元照彦らの勇将とともに高台にのぼり、月を賞してゐた。空は一点の雲もなく、星はほとんどその姿を隠し、えもいはれぬ光景であつた。
 折から東南の蒼空より一点の黒影があらはれ、おひおひ近づいてくる。一同は何者ならむと一心にこれを眺めてゐた。たちまち音響が聞えだした。見れば天之磐樟船である。この船には白地に赤の十曜を染めだしたる神旗が立つてゐた。ややあつてその船は城内に下つてきた。これは神山彦一行の乗れる船であつた。
 このとき照妙姫は何思ひけむ、にはかに白雲と化し、細く長く虹のごとく身を変じて月界に帰つた。
 荒熊彦は神山彦の一行を出迎へ、慇懃に遠来の労を謝し、かつ使節の趣旨をたづねた。神山彦は威儀を正して、
『吾は稚桜姫命の直使なり。言霊別命に面会ををはるまでは、何事も口外することあたはず』
と意味ありげに答へ、
『ただちに命の前へ吾らを導くべし』
といつた。荒熊彦は何思ひけむ、得意気に微笑を洩らしつつ、この由を命に伝へた。
 命はただちに応諾して、神山彦一行を居間に導き、まづ来意を尋ねた。神山彦は、
『一大事あり、冀はくは隣神司を遠ざけたまへ』
と申込んだ。ここに言霊別命は隣神司を遠ざけ、
『一大事とは何ぞ』
とあわただしく尋ねた。

照妙姫は月宮殿に帰ったのであった。下で出る国世姫は王仁三郎の母ヨネであると思う。妙照姫を含んでいたかは不明であるが、数多くの天女が天より降り、強い力で神山彦などの使いの神の手を握ったので、使いの神たちは本物の天使であることを認識した。神山彦は降りてきた天使を照妙姫と言っているが、顔を見ているわけではないはずなので、照妙姫本人が降りてきたかは不明である。

物語02-5-31 1921/11 霊主体従丑 手痛き握手

 神山彦は決心の色をあらはし言霊別命にむかつて、
『貴神は美しき天女のごとき妻ありと聞く、冀はくは吾らに拝謁を許したまはずや』
と出しぬけに申しこんだ。言霊別命は案に相違し、
『こは奇怪なることを承はるものかな、わが妻は汝の知らるるごとく竜宮城にあり』
と答へた。神山彦は、
『そは既に承知せり。第二の妃神に面会したし。秘くさせたまふとも、秘くすよりあらはるるはなし。すでに妃神のあることは竜宮城に雷のごとく響きわたれり。命は吾らにむかつて詐言を用ゐたまふや』
と詰問した。命はおほいに困り、
『吾は汝の言はるるごとく第二の妃神を持てる覚えなし。吾高白山の戦ひに敗れ、危機に迫れるとき、天上より乙女の天使下りきたりて吾を救ひ、かつ吾が身辺に侍してこれを保護せり。常世姫はこれを伝へ聞きて、第二の妃神と思ひ誤りしならむ。疑はしくば今ここに天使を招き、もつて汝の蒙を啓かむ』
とたちまち立つて一室に入り、『絹子姫殿』と名をかへて呼びかけた。されども音沙汰も返辞もない。命は荒熊彦に命じて乙女の行衛を厳探せしめたが、いづこにも乙女の姿を認めることはできなかつた。
 命は是非なく一間へ帰り、神山彦らに向つて、
『今まで吾が前にありし乙女はいかがなりけむ。声のかぎり呼べど叫べど、何の答へもなし。城内くまなく探せどもその影さへも認めず』
と答へた。神山彦はニヤリと笑ひ、
『天女のごとき妃神二柱までも、左右に侍らせたまふ命の身の上こそ実に羨まし。からかはずと早くわれらに会はせたまへ』
としきりに嘲笑の色をうかべて促すのである。命はおほいに当惑した。ここに元照彦は戸を排して入りきたり、密室を開きたてまつり、
『吾は申しわけなき次第なれど、大変事出来せり』
と顔色をかへ進言するのであつた。命は、
『変事とは何事ぞ』
と反問した。元照彦は、
『ただいま照妙姫命は白雲と化し、月宮殿に帰りたまへり』
といつた。言霊別命はおほいに驚き、思はずその場を立ち上がらむとした。このとき神山彦は言霊別命の袂をひかへ、
『暫く待たれよ、その計略はもはや古し、ふるし、吾らはかかる奸策に誤らるる神司にあらず、誠心誠意、善心に立ちかへり、もつて事実の真相を明白に述べられよ』
と追窮ますます烈しくなつた。真倉彦、村雲彦、武晴彦は一斉に立つて刀の柄に手をかけ、満面憤怒の色をあらはし、
『われを偽る悪神の張本、目に物見せてくれむ』
と三方より詰めよつた。神山彦は声を荒らげ、
『第二の妃神照妙姫をこのところに現はせ。汝は竜宮の使神を弁舌をもつて胡魔化さむとするか、無礼者、斬つて捨てむ』
とこれまた刀の柄に手をかけ気色ばみて四方より迫つた。命は進退谷まり、いかにしてこの疑ひを晴らさむかと焦慮し、かの国世姫より賜はりし種々物の領巾を懐中より取りいだし、左右左に打ちふつた。たちまち天に嚠喨たる音楽がきこえ、乙女は閉したる戸のまま、何の障もなく入りきたり、言霊別命の前に平伏した。
 ここに神山彦は、したり顔に命にむかひ、
『こは絹子姫も現はし、吾らの疑ひを晴らされよ』
と迫つた。困りはてたる命は、左右左に前の如くに領巾を振つた。たちまち嚠喨たる音楽聞え、あまたの天女その場に現はれきたつて、四柱の手を把り踊り狂うた。手をとられた四柱は身体たちまち強直してその場に仆れ、ここに全く疑ひを晴らし、重々の無礼を陳謝したのである。真倉彦、村雲彦は大いに弱り、
『いかに美しき天女なりとて、かかる強き手にて握られては、実にたまつたものにあらず。命はよくもかかる怪物を相手にしたまひしぞ
と目と目を見あはせ、舌をまきうち驚く。命は、
『汝らの疑ひ全く晴れたるは相互の幸ひなり。いざこれより遠来の労を犒はむため、奥殿にて饗応せむ』
と先に立つてゆかしむとした。そのとき神山彦は、
『しばらく待たれよ。申し上げたき仔細あり』
と引きとどめ、
『これから肝心要の正念場なり。この返答承はりしのち饗応に預からむ』
と四柱はともに声を揃へていきまきながらいつた。


照妙姫は15巻で、太玉命の娘として名前が出る。エデンの花園に残してきたとある。

物語15-1-1 1922/04 如意宝珠寅 破羅門

 茲にコーカス山に坐ます素盞嗚神は、日の出神、日の出別神をして、ハム族の樹立せる婆羅門教の邪神を帰順せしめむとし給ひ、霊鷲山より現はれたる三葉彦命の又の御名広道別の宣伝使太玉命は、松代姫をコーカス山に残し、夜を日に継いでエデンの河上に現はれ、エデンの花園を回復して根拠とし、ハム族の侵入を防がしめむとし給ひ、太玉命は安彦、国彦、道彦の三柱と共に、エデンの園に宮殿を造り、ハム族の侵入に備へ居たり。されど河下の顕恩郷は遂に婆羅門教の占領する所となり了りぬ。ここに太玉命は、その娘照妙姫をエデンの花園に残し置き、安彦、国彦、道彦を引連れて、顕恩郷の宣伝に向ひたり。この安彦と云ふは弥次彦の改名、国彦は与太彦の改名、道彦は勝彦の改名せし者なり。

物語15巻2章「途上の変」、3章「十六花」では、太玉命の心を惑わすための偽者、4章「神の栄光」では太玉命の歌の中に出てくる。


絹子姫(照妙姫)は月界から来たことになっているから、月の大神が治める霊国は天使であるから理にかなっている。

また、この話は、大本の歴史で実際にあったことかもしれない。絹子姫に該当する女性は誰だろうか?

国世姫、月宮殿から亀岡だろう。王仁三郎は亀岡を出て綾部に来たときからは、女の影はなかったという話を信じるとすると、この女は、亀岡で王仁三郎と過去に関係があった女。力が強い。とすると多田琴ではないか。多田琴は私の好きな女性なので、霊界物語のストーリーに出してあったらいいと思う。


■仮説と問題点

(1)霊国の天使は顕の幽界にいるはずだ。また、大八州彦命の時代から代わっていないとすれば、言霊別命のいる高白山も、顕の幽界の霊国となる。

(2)15巻の照妙姫は同じ神である可能性が高いが、太玉命の娘となっている。太玉命は『古事記』では天孫降臨に付き従った五伴緒の一人である。ということはここの天津神はアマテラスと関係あるか?

(3)エデンの園は天津神の住処ということになる。


狭依彦は、この絹子姫は多田琴の投影ではないかと考えている。(関連論考 王仁三郎 明治時代(1))


第1版 2005/09/05
第1.1版(一部修正)2015/01/02

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