論考資料 潮満・潮干の玉・真澄の玉


霊界物語

物語01-4-31 1921/10 霊主体従子 九山八海

(あらすじ)  大八州彦命は天教山で防戦した。稲山彦は天保山に本拠を構え、潮満の玉で天教山を泥の海にして、大八州彦命の降伏を迫った。天教山では部下の神人が「自分だけは助かろう」と、大八州彦命に自殺を迫る。
 その時、天から足玉彦達が風軍を率いて援軍に来た。そこで、稲山彦が潮満の珠を天教山に投げつけると、天教山は泥海に沈みかけ絶体絶命となった。
 この時、国常立尊が蓮華台上で雄たけびをしたので、天保山は陥落し、天教山は高く浮き上がった。これで大八州彦命は助かった。天より木花姫命が降臨して大八州彦命に真澄の珠を与えた。

(本文)  大八洲彦命は、杉松彦、若松彦、時彦、元照彦の部将とともに、八島別の現はれし天教山に引きかへし、ここに防戦の準備に取りかかつた。稲山彦は大虎彦と獅子王の応援を得て勝に乗じ、天教山を八方より取りまいた。
 稲山彦は潮満の珠をもつて、天教山を水中に没せしめむとした。地上はたちまち見渡すかぎり泥の海と一変した。このとき天空高く、東の方より花照姫、大足彦、奇玉彦は天神の命によりてはるかの雲間より現はれ、魔軍にむかつて火弾を発射し、天教山の神軍に応援した。されど一面泥海と化したる地上には、落ちた火弾も的確にその効を奏せなかつた。ただジユンジユンと怪しき音を立てて消えてゆくばかりである。されど白煙濛々と立ち昇りて、四辺を閉ざすその勢の鋭さに敵しかねて、敵軍は少なからず悩まされた。
 このとき稲山彦の率ゆる魔軍は天保山に登り、まづ潮満の珠をもつて、ますます水量を増さしめた。天教山は危機に瀕し、神軍の生命は一瞬の間に迫つてきた。折しも杉松彦、若松彦、時彦は、天教山にすむ烏の足に神書を括りつけ、天保山に向つて降服の意を伝へしめた。烏の使を受けた稲山彦は、意気揚々として諸部将を集め会議を開いた。その結果は、
『大八洲彦命が竜宮城管理の職を抛つか、さもなくば自殺せよ。しからば部下の神軍の生命は救助せむ』
との返信となつて現はれた。この返信を携へて烏は天教山に帰つてきた。神書を見たる杉松彦、若松彦、時彦は密かに協議して、自己の生命を救はむために大八洲彦命に自殺をせまつた。
 大八洲彦命は天を仰ぎ地に俯し、部下の神司らの薄情と冷酷と、不忠不義の行動を長歎し、いよいよ自分は天運全く尽きたるものと覚悟して、今や将に自殺せむとする時しもあれ、東の空に当つて足玉彦、斎代姫、磐樟彦の三部将はあまたの風軍を引きつれ、
『しばらく、しばらく』
と大音声に呼ばはりつつ、天教山にむかつて最急速力をもつて下つてきた。忽然として大風捲きおこり、寄せきたる激浪怒濤を八方に吹き捲つた。泥水は風に吹きまくられて、天教山の麓は水量にはかに減じ、その余波は大山のごとき巨浪を起して、逆しまに天保山に打ち寄せた。
 天保山の魔軍は潮干の珠を水中に投じて、その水を減退せしめむとした。西の天よりは道貫彦、玉照彦、立山彦数万の竜神を引きつれ、天保山にむかつて大水を発射した。さしもの潮干の珠も効を奏せず、水は刻々に増すばかりである。これに反して天教山は殆ど山麓まで減水してしまつた。南方よりは白雲に乗りて、速国彦、戸山彦、谷山彦の三柱の神将は、あまたの雷神をしたがへ、天保山の空高く鳴り轟き天地も崩るるばかりの大音響を発して威喝を試みた。
 ここに稲山彦は、天保山上に立ちて潮満の珠を取りいだし、一生懸命に天教山の方にむかつて投げつけた。水はたちまち氾濫して天教山は水中に陥り、大八洲彦命の首のあたりまでも浸すにいたつた。
 泥水はなほもますます増える勢である。このとき東北に当つて、天地六合も崩るるばかりの大音響とともに大地震となり、天保山は見るみるうちに水中深く没頭し、同時に天教山は雲表に高く突出した。これが富士の神山である。
 時しも山の頂上より、鮮麗たとふるに物なき一大光輝が虹のごとく立ち昇つた。その光は上に高く登りゆくほど扇を開きしごとく拡がり、中天において五色の雲をおこし、雲の戸開いて威厳高く美しき天人無数に現はれたまひ、その天人は山上に立てる大八洲彦命の前に降り真澄の珠を与へられた。その天人の頭首は木花姫命であつた。
 この神山の、天高く噴出したのは国常立尊の蓮華台上に於て雄健びし給ひし神業の結果である。その時現代の日本国土が九山八海となつて、環海の七五三波の秀妻の国となつたのである。
 天保山の陥落したその跡が、今の日本海となつた。また九山とは、九天にとどくばかりの高山の意味であり、八海とは、八方に海をめぐらした国土の意味である。ゆゑに秋津島根の国土そのものは、九山八海の霊地と称ふるのである。

物語01-4-32 1921/10 霊主体従子 三個の宝珠

(あらすじ)   天保山が沈み潮満の珠、潮干の珠は海中に没したが、乙米姫命が竜体となって玉を捜し、木花姫命に捧げた。これにより、乙米姫命はこれまでの罪を許されて日の出神の配偶神となった。
 木花姫命は二個の珠を大八州彦命に下げられた。大八州彦命は全部で三つの珠を持つことになり、三ツの御霊大神となった。

(本文)  神山の上に救はれた大八洲彦命は、天より下りたまへる木花姫命より真澄の珠を受け、脚下に現はれた新しき海面を眺めつつあつた。見るみる天保山は急に陥落して現今の日本海となり、潮満潮干の麻邇の珠は、稲山彦および部下の魔軍勢とともに海底に沈没した。稲山彦はたちまち悪竜の姿と変じ、海底に深く沈める珠を奪らむとして、海上を縦横無尽に探りまはつてゐた。九山の上より之を眺めたる大八洲彦命は、脚下の岩石をとり之に伊吹の神法をおこなひ、四個の石を一度に悪竜にむかつて投げつけた。悪竜は目敏くこれを見て、ただちに海底に隠れ潜んでしまつた。
 この四つの石は、海中に落ちて佐渡の島、壱岐の島および対馬の両島となつたのである。
 そこへ地の高天原の竜宮城より乙米姫命大竜体となつて馳せきたり海底の珠を取らむとした。稲山彦の悪竜は之を取らさじとして、たがひに波を起しうなりを立て海中に争つたが、つひには乙米姫命のために平げられ、潮満潮干の珠は乙米姫命の手にいつた。乙米姫命はたちまち雲竜と化し金色の光を放ちつつ九山に舞ひのぼつた。この時の状況を古来の絵師が、神眼に示されて「富士の登り竜」を描くことになつたのだと伝へられてゐる。
 乙米姫命の変じた彼の大竜は山頂に達し、たちまち端麗荘厳なる女神と化し、潮満潮干の珠を恭しく木花姫命に捧呈した。
 木花姫命はこの神人の殊勲を激賞され、今までの諸々の罪悪を赦されたのである。これより乙米姫命は、日出る国の守護神と神定められ、日出神の配偶神となつた。
 ここに木花姫命は大八洲彦命にむかひ、
『今天より汝に真澄の珠を授け給ひたり。今また海中より奉れる此の潮満潮干の珠を改めて汝に授けむ。この珠をもつて天地の修理固成の神業に奉仕せよ』
と厳命され、空前絶後の神業を言依せたまうた。大八洲彦命は、はじめて三個の珠を得て神力旺盛となり、徳望高くつひに三ツの御魂大神と御名がついたのである。

物語01-4-33 1921/10 霊主体従子 エデンの焼尽

(あらすじ) 大八州彦命は三個の珠とともに竜宮城に帰還した。竹熊一派はエデンの園で祝賀宴を開いて、大八州彦命を招き、酒に酔っているところを焼き殺そうとした。しかし、三個の珠の威力によりエデンの園は焼け落ち、竹熊一派は破れ、ヨルダン河を渡って北方に逃れた。

(本文)  大八洲彦命は、天にも昇る心地し三個の珠を捧持し、木花姫命より賜はりし天の磐船に乗りて空中はるかに西天を摩して、竜宮城に帰還した。一方エデンの園に集まれる竹熊をはじめ木純姫、足長彦の大将株は、村雲別の注進により、大八洲彦命の無事に帰城したることを知り、周章狼狽し鳩首謀議の上一計を案出し、ここに木純姫、足長彦はにはかに改心の状をよそほひ、竜宮城に参向して、大八洲彦命の無事凱旋を祝するためにと詐はりて盛なる宴をひらき、大八洲彦命の御出席を請ひ奉つた。大八洲彦命はもとより仁慈に深き義神なれば、彼らの請を容れ、他意なき体にてエデンの園にいたりたまひ、八尋殿の奥深く迎へられて酒宴の席につきたまうた。その時の従者は守高彦、守安彦、高見姫であつた。木純姫、足長彦は表面帰順をよそほひ、歓待いたらざるなき有様であつた。
 大八洲彦命は八塩折の酒に酔はせたまひて、八尋殿の中に入りて心ゆるして宿泊することとなつた。命の熟睡の様子を窺ひゐたる竹熊は、時分はよしと暗夜に乗じ八方より八尋殿に火をかけて従者諸共にこれを焼殺せむとした。時に三柱の従神はおのおの三個の珠を一個づつ捧持して命の枕辺に警護してゐた。火は猛烈に燃えさかつて八尋殿を今に焼きつくさむとする勢である。
 このとき真澄の珠よりは大風吹きおこり、潮満の珠よりは竜水迸りて、瞬くうちに殿の火焔を打ち消した。また潮干の珠よりは猛火を吹出し、真澄の珠の風に煽れてエデンの城は瞬くうちに焼け落ちてしまつた。竹熊一派は周章狼狽死力をつくしてヨルダン河を打ちわたり遠く北方に逃れた。この時あまたの従神は河中に陥り、その大部分は溺死してしまつたのである。

物語01-4-35 1921/10 霊主体従子 一輪の秘密

(あらすじ)   国常立尊は蓮華台に登り、冠島(竜宮島)と沓島(鬼門島)を生んだ。そして、厳の御魂、瑞の御魂、金勝要神に命じて、竜宮ケ島に潮満の玉(厳の御魂、ヨハネの御魂、豊玉姫神)、潮干の玉(瑞の御魂、キリストの御魂、玉依姫神)を納めて、冠島の国魂にこれを守護させた。また、沓島には真澄の珠を納め、国の御柱神に守護させた。
 これらの珠は世界の終末に際し、大神が世界改造のために使用するが、この珠を使用される神業を一輪の秘密という。

(本文)  厳の御魂の大神は、シナイ山の戦闘に魔軍を潰走せしめ、ひとまづ竜宮城へ凱旋されたのは前述のとほりである。
 さて大八洲彦命は天山、崑崙山、天保山の敵を潰滅し、天教山に現はれ、三個の神宝を得て竜宮城に帰還し、つづいてエデンの園に集まれる竹熊の魔軍を破り、一時は神界も平和に治まつた。されど竹熊の魔軍は勢やむを得ずして影を潜めたるのみなれば、何どき謀計をもつて再挙を試みるやも計りがたき状況であつた。まづ第一に魔軍の恐るるものは三個の神宝である。ゆゑに魔軍は百方画策をめぐらし、或ひは探女を放ち、醜女を使ひ、この珠を吾が手に奪はむとの計画は一時も弛めなかつた。
 茲に艮の金神国常立尊は、山脈十字形をなせる地球の中心蓮華台上に登られ、四方の国型を見そなはし、天に向つて神言を奏上し、頭上の冠を握り、これに神気をこめて海上に投げ遣りたまうた。その冠は海中に落ちて一孤島を形成した。これを冠島といふ。しかして冠の各処より稲を生じ、米もゆたかに穰るやうになつた。ゆゑにこの島を稲原の冠といひ、また茨の冠ともいふ。
 つぎに大地に向つて神言を奏上したまひ、その穿せる沓を握り海中に抛げうちたまうた。沓は化して一孤島を形成した。ゆゑにこれを沓島といふ。冠島は一名竜宮島ともいひ、沓島は一名鬼門島ともいふ。
 ここに国常立尊は厳の御魂、瑞の御魂および金勝要神に言依さしたまひて、この両島に三個の神宝を秘め置かせたまうた。
 潮満の珠はまた厳の御魂といふ。いづとは泉のいづの意であつて、泉のごとく清鮮なる神水の無限に湧出する宝玉である。これをまたヨハネの御魂といふ。つぎに潮干の珠はこれを瑞の御魂といひ、またキリストの御魂といふ。みづの御魂はみいづの御魂の意である。みいづの御魂は無限に火の活動を万有に発射し、世界を清むるの活用である。要するに水の動くは火の御魂があるゆゑであり、また火の燃ゆるは水の精魂があるからである。しかして火は天にして水は地である。故に天は尊く地は卑し。ヨハネが水をもつて洗礼を施すといふは、体をさして言へる詞にして、尊き火の活動を隠されてをるのである。またキリストが霊(霊は火なり)をもつて洗礼を施すといふは、キリストの体をいへるものにして、その精魂たる水をいひしに非ず。
 ここに稚姫君命、大八洲彦命、金勝要大神は、三個の神宝を各自に携帯して、目無堅間の船に乗り、小島別、杉山別、富彦、武熊別、鷹取の神司を引率して、まづこの竜宮ケ嶋に渡りたまうた。しかして竜宮ケ嶋には厳の御魂なる潮満の珠を、大宮柱太敷立て納めたまひ、また瑞の御魂なる潮干の珠とともに、この宮殿に納めたまうた。この潮満の珠の又の名を豊玉姫神といひ、潮干の珠の又の名を玉依姫神といふ。かくて潮満の珠は紅色を帯び、潮干の珠は純白色である。
 国常立尊は冠島の国魂の神に命じて、この神宝を永遠に守護せしめたまうた。この島の国魂の御名を海原彦神といひ、又の御名を綿津見神といふ。つぎに沓島に渡りたまひて真澄の珠を永遠に納めたまひ、国の御柱神をして之を守護せしめられた。国の御柱神は鬼門ケ島の国魂の又の御名である。
 いづれも世界の終末に際し、世界改造のため大神の御使用になる珍の御宝である。しかして之を使用さるる御神業がすなはち一輪の秘密である。
 この両島はあまたの善神皆竜と変じ、鰐と化して四辺を守り、他神の近づくを許されないのである。

物語01-4-36 1921/10 霊主体従子 一輪の仕組

(あらすじ) 国常立尊は大八州彦命達にも秘密で、三個の珠の体のみを両島におさめさせ、珠の精霊をシナイ山の山頂へ隠した。これを一輪の仕組みという。
 珠の在処を知った武熊別は竹熊と結んで玉を奪おうと島を攻撃してきた。島を守る海原彦神は竜神に防御させたが破れたので、珠を使った。しかし、珠は精が抜かれていたので働かなかった。そこで国の御柱神は信天翁を使って竜宮城に救援を乞うた。金勝要神は玉手箱から金幣を出して天地を晴れさせ、信天翁の足に金幣の破片を付けて帰した。信天翁は金色の鵄に変化して魔軍を打ち破った。
 竹熊一派は滅んだが、国常立尊によって救われ、前非を悔い帰順した。

(本文)  国常立尊は邪神のために、三個の神宝を奪取せられむことを遠く慮りたまひ、周到なる注意のもとにこれを竜宮島および鬼門島に秘したまうた。そして尚も注意を加へられ大八洲彦命、金勝要神、海原彦神、国の御柱神、豊玉姫神、玉依姫神たちにも極秘にして、その三個の珠の体のみを両島に納めておき、肝腎の珠の精霊をシナイ山の山頂へ、何神にも知らしめずして秘し置かれた。これは大神の深甚なる水も洩らさぬ御経綸であつて、一厘の仕組とあるのはこのことを指したまへる神示である。
 武熊別は元よりの邪神ではなかつたが、三つの神宝の秘し場所を知悉してより、にはかに心機一転して、これを奪取し、天地を吾ものにせむとの野望を抱くやうになつた。そこでこの玉を得むとして、日ごろ計画しつつありし竹熊と語らひ、竹熊の協力によつて、一挙に竜宮島および大鬼門島の宝玉を奪略せむことを申し込んだ。竹熊はこれを聞きて大いに喜び、ただちに賛成の意を表し、時を移さず杉若、桃作、田依彦、猿彦、足彦、寅熊、坂熊らの魔軍の部将に、数万の妖魅軍を加へ、数多の戦艦を造りて両島を占領せむとした。
 これまで数多の戦ひに通力を失ひたる竹熊一派の部将らは、武熊別を先頭に立て、種々なる武器を船に満載し、夜陰に乗じて出発した。一方竜宮島の海原彦命も、鬼門島の国の御柱神も、かかる魔軍に計画あらむとは露だも知らず、八尋殿に枕を高く眠らせたまふ時しも、海上にどつとおこる鬨の声、群鳥の噪ぐ羽音に夢を破られ、竜燈を点じ手に高く振翳して海上はるかに見渡したまへば、魔軍の戦艦は幾百千とも限りなく軍容を整へ、舳艪相啣み攻めよせきたるその猛勢は、到底筆舌のよく尽すところではなかつた。
 ここに海原彦命は諸竜神に令を発し、防禦軍、攻撃軍を組織し、対抗戦に着手したまうた。敵軍は破竹の勢をもつて進みきたり、既に竜宮嶋近く押寄せたるに、味方の竜神は旗色悪く、今や敵軍は一挙に島へ上陸せむず勢になつてきた。このとき海原彦命は百計尽きて、かの大神より預かりし潮満潮干の珠を取りだし水火を起して、敵を殲滅せしめむと為し給ひ、まづかの潮満の珠を手にして神息をこめ、力かぎり伊吹放ちたまへども、如何になりしか、この珠の神力は少しも顕はれなかつた。それは肝腎の精霊が抜かされてあつたからである。次には潮干の珠を取りいだし、火をもつて敵艦を焼き尽くさむと、神力をこめ此の珠を伊吹したまへども、これまた精霊の引抜かれありしため、何らの効をも奏さなかつた。
 鬼門ケ島にまします国の御柱神は、この戦況を見て味方の窮地に陥れることを憂慮し、ただちに神書を認めて信天翁の足に括りつけ、竜宮城にゐます大八洲彦命に救援を請はれた。
 このとき地の高天原も、竜宮城も黒雲に包まれ咫尺を弁せず、荒振神どもの矢叫びは天地も震撼せむばかりであつた。
 ここにおいて金勝要大神は秘蔵の玉手箱を開きて金幣を取りだし、天に向つて左右左と打ちふり給へば、一天たちまち拭ふがごとく晴れわたり、日光燦爛として輝きわたつた。金勝要神は更に金幣の一片を取欠きたまひて信天翁の背に堅く結びつけ、なほ返書を足に縛りて、天空に向つて放ちやられた。信天翁は見るみる中天に舞ひ上がり、東北の空高く飛び去つた。信天翁はたちまち金色の鵄と化し、竜宮島、鬼門島の空高く縦横無尽に飛びまはつた。今や竜宮島に攻め寄せ上陸せむとしつつありし敵軍の上には、火弾の雨しきりに降り注ぎ、かつ東北の天よりは一片の黒雲現はれ、見るみる満天墨を流せしごとく、雲間よりは幾百千とも限りなき高津神現はれきたりて旋風をおこし、山なす波浪を立たしめ敵艦を中天に捲きあげ、あるひは浪と浪との千仭の谷間に突き落し、敵船を翻弄すること風に木の葉の散るごとくであつた。このとき竹熊、杉若、桃作、田依彦の一部隊は、海底に沈没した。
 国常立尊はこの戦況を目撃遊ばされ、敵ながらも不愍の至りと、大慈大悲の神心を発揮し、シナイ山にのぼりて神言を奏上したまへば、一天にはかに晴渡りて金色の雲あらはれ、風凪ぎ、浪静まり、一旦沈没せる敵の戦艦も海底より浮揚り、海面はあたかも畳を敷きつめたるごとく穏かになつてきた。
 このとき両島の神々も、諸善竜神も竹熊の敵軍も、一斉に感謝の声をはなち、国常立大神の至仁至愛の恵徳に心服せずにはをられなかつた。広く神人を愛し、敵を敵とせず、宇宙一切の衆生にたいし至仁至愛の大御心を顕彰したまふこそ、実に尊き有難ききはみである。

物語05-7-45 1922/01 霊主体従辰 魂脱問答

(本文)  丁『ウン、ソンナことを聞いたね。其時の音だらうよ、毎日々々ドンドン云ふのは』
『戦ひが終んでから、まだドンドン音が聞えるが、そりや何かの原因があるのだらう。竜宮島とやらには、天の真澄の珠とか潮満潮干の珠とかいふ宝が昔から隠してあるとかで、ウラル山のウラル彦の手下の奴らがその珠を奪らうとして.沢山の舟を拵へよつて、闇がり紛れに攻め付けよつたさうだ。さうすると沓島の大海原彦神とやらが、海原とか向腹とかを立ててその真澄の珠で敵を悩まさうとした。しかしその珠は何にもならず、たうとう敵に取られてしまつたさうだよ。そして冠島一名竜宮島には潮満潮干の珠が隠してあつたさうだ。それもまたウラル彦の手下の奴らが攻めかけて奪らうとした。ここの守護神さまは、敵の襲来を悩ます積りで、また潮満とか潮干とかいふ珠を出して防がうとした。これも亦薩張役に立たず、とうたう冠島も沓島も、敵に奪られて仕舞つたと云ふぢやないか。珠々というても、なにもならぬものだね』
『そりや定まつた話だよ、よう考へて見よ。真澄の珠と云ふぢやないか。マスミつたら、魔の住んで居る珠だ。それを沢山の魔神が寄つて来て奪らうとするのだもの、合うたり叶うたり、三ツ口に真子、四ツ口に拍子木、開いた口に牡丹餅、男と女と会うたやうなものだ。ナンボ海原とか向腹立とかを立てた海原彦神でも、内外から敵をうけて、内外から攻められて、お溜り零しがあつたものぢやない。また潮満とか潮干とかの珠も、役に立たなかつたと聞いたが、よう考えて見よ、塩は元来鹹いものだ、そして蜜は甘いものだ。鹹いものと甘いものと一緒にしたつて調和が取れないのは当然だ。また潮干の珠とか云ふ奴は、塩に蛭といふ事だ。ソンナ敵同士のものを寄せて潮満の珠とか、潮干の珠だとか一体わけがわからぬぢやないかい。負けるのは当然だよ。その珠の性根とやらを、どつと昔のその昔に厳の御霊とかいふどえらい神があつて、それをシナイ山とかいふ山の頂上に隠しておいた。それを竹熊とかいふ悪い奴がをつてふんだくらうとして、偉い目にあうたといふこと。しかしながら、聖地の神共は勿体ぶつて、一輪の秘密とか一輪の経綸とかいつて威張つてをつたが、とうとうその一輪の秘密がばれて、ウラル彦が嗅ぎつけ、第一番に竜宮島の珠をふんだくつて、直にその山の御性念を引張り出さうと一生懸命に攻めかかつた。その時シナイ山とやらを守つてゐた貴治別とかいふ司が、敵軍の頂辺から、その御性念の神徳を現はして岩石を降らした。ウラル彦の幕下はとうとうこれに屁古垂れよつて、何にもしないで、逃げ帰つたと言ふことだ。それで攻撃を一寸もシナイ山といふのだ』

物語07-4-21 1922/02 霊主体従午 飲めぬ酒

(本文)  この島は潮満潮干の玉を秘めかくされ、豊玉姫神、玉依姫神これを守護し給ひつつありしが、世界大洪水以前に、ウラル彦の率ゆる軍勢の為に玉は占領され、二柱の女神は遠く東に逃れて、天の真名井の冠島、沓島に隠れたまひし因縁深き嶋なりける。
 その後はウラル彦の部下荒熊別といふ者、この島を占領し、数多の部下を集め、酒の泉を湛へて、体主霊従のあらむかぎりを尽しゐたり。然るに天教山に鎮まり給ふ神伊邪那岐神はこの島の守護神として真澄姫命を遣はし給ひぬ。それより荒熊別は神威に怖れ、夜陰に乗じて常世の国に逃げ帰つたりける。
その時の名残として、今に酒の泉は滾々と湧き出て居たるなりき。
 日の出神は真澄姫命の神霊を祭る可く、久々神、久木神に命じ、大峡小峡の木を伐り、美しき宮を営ましめたまふ。是を竜宮島の竜の宮といふ。而して田依彦をこの嶋の守護神となし、名を飯依彦と改めしめたまへり。

物語12-3-21 1922/03 霊主体従亥 立花嶋

(本文)
 
朝日は光る月は盈つ     大海原に潮は満つ
 潮満球や潮干の       大御宝と現はれて
 波押し分けて昇る日の    光は清く赤玉の
 緒さへ光りて白玉の     厳と瑞との其神姿
 愈高く美はしく       豊栄昇る天の原

 コーカス山も唯ならず    大海原に漂へる
 四方の国々島々は      皆明けく成りにけり
 日の出神の一つ火は     天津御空や国土に
 照り渡るなり隈もなく    清き神代の守護神
 三五教の御教を       千代に八千代に橘の
 島に在します姫神の     齢も長き竹生島
 橘島と名を変へて      呉の海原照しつつ
 憂瀬に落ちて苦しまむ    百の罪人助け行く
 神の尊き試錬に       遭ひし牛、馬、鹿、虎の
 ウラルの神の目付役     心の嵐も浪も凪ぎ
 今は漸く静の海       波風立たぬ歓喜に
 枉の身魂を吹き払ふ     旭日は空に高光彦の
 貴の命の宣伝使       天津神より賜ひてし
 玉光彦の神身魂       直日に照りて顕国
 有らむ限りは光彦の     この三柱の宣伝使
 国武丸に乗り合ひて     名乗り合ひたる十柱の
 珍の御子こそ尊けれ     畏き神の御恵を
 一日片時忘れなよ      神の恵を忘れたる
 時こそ曲の襲ふ時      身に過ちの出る時
 身に災の来る時       天と地との神々の
 深き恵を忘るるな      神に次いでは父母の
 山より高く海よりも     深き恵も片時も
 忘れてならぬ四柱の     牛、馬、鹿、虎神の御子
 朝日は照るとも曇るとも   月は盈つとも虧くるとも
 仮令曲津は荒ぶとも     大地は泥に浸るとも
 誠の力は世を救ふ      現界、幽界、神界を
 通して我身を常久に     救ふは誠の道のみぞ
 誠を尽せ何時迄も      身魂を研け常久に
 朝な夕なに省みて      心を配れ珍の御子
 アヽ惟神々々        御霊幸ひましませよ
 御霊幸ひましませよ

物語27-3-8 1922/07 海洋万里寅 琉と球

(本文) 国依別『教主様、何だかこの島を歩きますと、足の裏がボヤボヤするやうですなア。何でも此処には不思議な玉があるといふことを故老から承つてをりましたが、布哇へさして行く考へだつたのが、知らず識らずにこんな方へやつて来ましたのは、何かの御都合でせうかなア』
言依別『たしかにこの島に御用があるのだ。あまり大きな声では言はれないが、ここに琉の玉と球の玉とが永遠に隠されてある。それで琉球といふのだ。竜の腮の球といふのはこの島にあるのだ。この玉を二個ともうまく手に入れて、高砂洲へ渡らなくては本当の神業はできないのだよ
国依別『へー、それは大変ですな。果して左様な物が手に入るでせうか。さうしてその玉の在場所はお分かりですか』
言依別『たいてい分かつてゐる。国武彦大神様より命令を受けてゐるのだ。琉の玉は潮満の玉、球の方は潮干の玉だ。各一個づつこれを携へて世界を巡れば、いかなる悪魔といへども、たちまち畏服するという神器である。あの山の頂を見よ。太陽はすでに西山に没し、もはや黄昏の帳は刻々に厚く下ろされてきたにもかかわらず、あそこばかりは昼のごとく輝いてゐるではないか』
国依別『なるほど、さう承ればさうですなア、どうしてあこばかり光るのでせう。日の出神さまが、先へ廻つて吾々にここだとお知らせ下さるのでせうか』

物語27-4-12 1922/07 海洋万里寅 湖上の怪物

儀を知らず不届きな奴だ。種々と化けやうもあらうに、その方の失敬千万なる顔は一体何だ。人に対する時は最も美はしき顔色をもつて、笑顔を十二分にたたえ、挨拶するが神の礼儀なるに、鬼面人を驚かすといふ、その方の遣り方、国依別なかなか承知仕らぬぞ。これに返答あらば承らう。……また竜神の柿を採り喰ひしを、汝は非常に罪悪のごとく今申したが、あの柿なるもの、竜神の平素食すべきものなるや、返答聞かう。柿は人間の喰うべきもの、人間に次いでは猿、烏の食すべき物だ。人にも喰はさず、棚にもおかず、あたら天与の珍味を毎年木に腐らし、天恵を無視する大逆無道、国依別……サアこれより言霊の神力をもつて、汝らは申すに及ばず、大竜別、大竜姫を言向和し、天晴れ、琉、球の玉を奉らせくれむ。この方の言に向かつて一言の弁解あるか……一二三四五六七八九十百千万……』
と国依別は自暴自棄になり、背水の陣を張つて力かぎりに言霊を奏
上した。竜若彦と称する怪物は、次第次第に容積を減じ、つひには豆のごとくになつて消えてしまつた。国依別は、
国依別『アハ丶丶丶、コレ若彦さま、ご心配ご無用になされませ。これより国依別、あくまでも言霊をもつて奮戦し、目的の琉、球の宝玉を受け取つてみせませう。もはや吾々に渡すべき時機が到来したのだ。さうでなくては大神の直司なる、玉照彦様、玉照姫様が何しに教主に御命令あるものか。この竜神執着心いまだ晴れやらず、小さきことにかこつけて、すつた揉んだと一日なりとも永く手に持たむと、吝嗇な奴根性から申してゐたのである。……ヤアヤア湖底にある竜神、よつく聞け。三五教の神の司言依別命、国依別命、若彦、常楠の四魂揃うて玉受け取りに向かうたり。時節には叶ふまい、速やかにわが前に持ち来たり、目出たく授受を終はれツ』
と大喝した。この時の国依別の顔面は、四辺を射るがごとく崇高なる権威に、どことなく充たされてをつた。

物語27-4-13 1922/07 海洋万里寅 竜の解脱

(本文)
大海原に浮かびたる      誉も高き琉球の
玉の潜みし神の島       三千世界の梅の花
一度に開く時来たり      綾の聖地に宮柱
太敷立てて千木高く      鎮まりゐます厳御霊
瑞の御霊の神勅を       玉照神の二柱
完全に詳細に受け給ひ     瑞の御霊の御裔なる
言依別に言依さし       潮満玉や潮干
珍の宝を索めむと       教主自ら国依別の
教の司を引き率れて      浪路をはるかに乗り渡り
やうやう此処に来てみれば   吾より前に紀の国の
若彦はじめ常楠が       またもや神の御勅宣
正しく受けて逸早く      来たりゐませる尊さよ
天を封じて立ち並ぶ      欅の楠の森林に
勝れて太き槻の幹       天然自然の洞穴に
若彦、常楠両人は       木俣の神と現はれて
島人たちを大神の       稜威に言向和しつつ
時の来たるを待つうちに    言霊清き言依別の
瑞の命の大教主        国依別と諸共に
来たりましたる嬉しさに    若彦常楠勇み立ち
ハーリス山の山奥に      心も勇む膝栗毛
鞭うち進む谷の奥       湖水の前に着きにける
四辺は闇に包まれて      礫の雨は降りしきり
物凄じき折りもあれ      闇の帳を引き開けて
波上を歩み進みくる      怪しの影を眺むれば
髭蓬々と胸に垂れ       雪を欺く白髪は
長く背後に垂れさがり     眼は鏡のごと光り
朱をそそぎし顔の色      耳まで裂けた鰐口に
黄金の色の牙を剥き      四五寸ばかり金色の
角を額に立てながら      ガラガラ声を張りあげて

怪しき舌をニヨツと出し    言依別の一行に
向かつて叱言を言ひかける   叱言の条は竜神の
守ると聞こえし太平柿     国依別が畏くも
盗んで食つたが罪なりと    執着心の鬼神が
力かぎりに罵倒して      琉と球との宝玉を
渡さじものと縄を張る     魔神の張りし鉄条網
手もなく切つてくれむずと   磊落不覊の神司
国依別が言霊の        打ち出す誠の砲撃に
さすがの魔神も辟易し     おひおひ姿を縮小し
豆のごとくになり果てて    遂にあえなく消えにける。
『あ丶惟神惟神        御霊幸はひましまして
金剛不壊の如意宝珠      国依別が丹田に
秘め隠したる言霊の      力に刃向かふ楯はなし
われは正義の鉾とりて     天地の神の大道を
高天原の神の国        豊葦原の瑞穂国
大海原の底までも       照らし渡さにやおくべきか
国依別の言霊は        筑紫の日向の橘の
小戸の青木ケ原と鳴る     神伊邪那岐大神が
珍の伊吹になりませる     祓戸四柱大御神
瀬織津姫や伊吹戸主      珍の大神はじめとし
速秋津姫神          速佐須良姫神
ここに四柱宣伝使       この神たちの生宮と
なりて現はれ来たりけり    大竜別や大竜姫の
珍の命の竜神よ        これの天地は言霊の
助くる国ぞ生ける国      幸はひゐます国なるぞ
天の岩戸の開け放れ      根底の国も明らかに
澄み照り渡る今の世に     潮満珠や潮干
二つの珠を何時までも     抱きて何の益かある
この世を救ふ瑞御霊      神の任しの両人に
惜しまず隠さずすくすくと   汝が姿を現はして
はや献れ惟神         神は吾らと倶にあり
たとへ千尋の水底に      何時まで包み隠すとも
三五教の吾々が        ここに現はれ来し上は
ただ一時も一息も       躊躇ひ給ふことなかれ
あ丶惟神惟神         御霊幸はひましませよ
一、二、三、四、五、六    七、八、九、十たらり
百、千、万の神人を      浦安国の心安く
堅磐常磐に守らむと      神の任しのこの旅路
諾なひ給へ逸早く』      早く早くと宣りつれば
今まで包みし黒雲は      四辺隈なく晴れ渡り
浪を照らして一団の      火光はしづしづ両人が
佇む前に近づきて       たちまち変はる二柱
尊き女神と相現じ       満面笑みを含みつつ
言依別や国依別の       二人の前に手を束ね
地より湧き出る玉手箱     おのおの一個を両の手に
捧げて二人に献り       綾羅の袖を翻し
たちまち起こる紫の      雲に乗じて久方の
大空高く天の原        日の稚宮に登りゆく
執着心の深かりし       大竜別や大竜姫の
珍の命の両神も        いよいよここに三千年の
三寒三熱苦行を終へ      神の恵みに救はれて
ここに尊き天津神       皇大神の御右に
坐まして清き神国の      常世の春に会ひ給ふ
実にも尊き物語        語るも嬉し今日の宵
陰暦六月第二日        松雲閣に横臥して
団扇片手に拍子とり      さも諄々と述べておく
筆執る人は北村氏       神の稜成も隆光る
三五教の御教の        栞となれば望外の
喜びなりと記しおく      あ丶惟神惟神
御霊幸はひましませよ。
 国依別の言霊に竜若彦と称する怪物はたちまち雲散霧消し、ふたたび現はれ来たる大竜別、大竜姫はおのおの手に琉、球の玉を納めたる玉手箱を、言依別、国依別の手に恭しく捧げ、三千年の三寒三熱の苦行をここに終了し、一切の執着を去つて、悠々として紫の雲に乗り、天津日の稚宮に上り、大神の右に座し、天の水分神となつて降雨を調節し給ふ大神と成らせ給うたのである。
 清き正しき言霊は、一名金剛不壊の如意宝珠とも言ふ。この天地は言霊の幸はひ助け、生き働く国である。宇宙間において最も貴重なる宝は声あつて形なく、無にして有、有にして無、活殺自由自在の活用ある七十五声の言霊のみである。これを霊的に称ふる時は、すなはち金剛不壊の如意宝珠となる。天照大御神の御神勅に「言向和せ、宣直せ」とあり、これは神典古事記に明らかに示されてある。天の下四方の国を治め給ふは五百津美須麻琉の玉にして、この玉の活き働く時は天が下に饑饉もなく、病災もなく戦争もなし、また風難、水難、火難を始め、地異天変の虞なく、宇宙一切平安無事に治まるものである。また、今ここに言依別、国依別の二柱の竜神より受け取りたる琉、球の二宝は、風雨水火を調節し、一切の万有を摂受し、あるひは折伏し、よく摂取不捨の神業を完成する神器である。

 ここに言依別命をはじめ、一同は湖水にむかつて天津祝詞を奏上し、天の数歌を歌ひ上げ宣伝歌を歌ひながら、心地よげに元来し道を下りつつ、槻の洞穴に一先づ帰ることとなつた。
言依別の一行は        竜の湖水を後にして
千畳岩の伍列せる       奇勝絶景縫ひながら
足に任せて降り行く      登りに引き替え下り坂
思うたよりも速やかに     何時のまにかは竜神の
守りゐたると伝へたる     太平柿の辺まで
帰り来たれば常楠は      フト立ち留り一行を
顧みながら『教主さま     国依別神さまが
大蛇の群に襲はれて      太平柿の頂上より
身を躍らして青淵に      ザンブとばかり飛び下り
仮死状態となり果てて     渦に巻かれて流れたる
改心記念の霊場ぞ       負けぬ気強い国依別の
神の司は反対に        竜若彦に逆理屈
いとも立派に喰はして     凹ませ給ひし健気さよ
あ丶惟神惟神         かうなる上は常楠も
神の心が分からない      善悪正邪の標準を
どうして分けたらよからうか  お裁き頼む』と宣りつれば
言依別は打ち笑ひ       『国依別の言霊は
天地の道理に適ひたり     善に堕すれば悪となり
悪の極みは善となる      善悪同体この真理
胸に手を当てつらつらと    直日に見直し聞直し
人の小さき智慧もちて     善悪正邪の標準が
分からう道理のあるべきや   この世を造りし大神の
心に適ひし事ならば      何れも至善の道となり
その御心に適はねば      すなはち悪の道となる
人の身として同胞を      裁く権利は寸毫も
与へられない人の身は     ただ何事も神の手に
任せ奉るに如くはない』    いと細やかに説きつれば
国依別や若彦も        常楠翁も勇み立ち
心いそいそ一行は       黄昏過ぐる宵の口
楠と槻との森林に       きはめて広き天然の
ホテルにこそは帰りけり    あ丶惟神惟神
御霊幸はひましませよ。

物語27-5-16 1922/07 海洋万里寅 琉球の神

あらすじ
 槻の洞穴にいる照子姫、清子姫、清彦、照彦はお互いの気持ちを打ち明けて一種異様の気分にうたれていた。そこへ、若彦、常楠、言依別命、国依別、チヤール、ベースが戻る。一同は再会を喜ぶ。
 「高姫が高砂洲までも言依別を追いかけていった」と聞いて、言依別は「琉球の玉を持っていては問題が起こる」と言依別と国依別の二人で玉の精を吸い込んで、精の抜けた玉は、若彦に預け、生田の森へ持って帰らせ、玉能姫と若彦で祭らせることにした。また、若彦は玉能姫との同棲を許された。
 言依別の命で、常楠は琉球島の土人の王、清彦と照彦は常楠と共に琉球島を守護することになった。言依別と国依別は、高砂洲から常世国、波斯の国、産土山脈の斎苑の館へ行くことになった。
 照子姫と清子姫は言依別を追って島を出た。清彦と照彦はそれに落胆したが、自分たちは紀の国に妻子がいたので、天則違反に思い当たり、恋を断念した。

本文 言依別『さうすれば高姫さまは、また吾々の渡る高砂洲へも行くに違ひない。琉、球の宝玉を持つて参れば、またしても罪を作らすやうなものだ。これから国依別と両人が玉の精霊を我が身魂に移し、形骸だけは……若彦さま、ご苦労だが二つとも貴方が守護して、再度山の麓なる玉能姫の館へ持ち帰り、夫婦揃うてこの玉を保管をしながら、神界の御用をして下さい。貴方もこの御神業が成就した上は、玉能姫の夫として同棲されても差し支へはありますまい』
 若彦はハツと驚き、有難涙に暮れながら、
若彦『情の籠つた教主のお言葉、有難く存じます。左様なればこの玉を保護いたし、生田の森の神館へ持ち帰り、あなたの聖地へお帰り遊ばすまで大切に守護いたします』
言依別『早速の御承知、一日も早くお帰り下さい。……また常楠翁はこの琉球島の土人の神となり、王となつて永遠にここに鎮まり神業に尽くして貰ひたい。……清彦、照彦は常楠と共に本島を守護いたし、余力あれば台湾島へも渡つて三五教を広め、国魂神となつて土民を永遠に守つて下さい。言依別はこれより国依別と共に、高砂洲へ渡り、それより常世国を廻つて波斯の国、産土山脈の斎苑の館に立ち向かふ考へだ。ずゐぶん神様の御恵を頂いて壮健無事に御神業に参加されよ』
と宣示する。一同はハツとばかりに有難涙を出だし、頭を地につけて涕泣やや久しうしてゐる。
 ここに言依別は琉の珠の精霊を腹に吸ひ玉ひ、国依別は球の珠の精霊を吸ひ、終はつて二個の玉手箱を若彦に渡した。若彦は押し頂いて、直ちにチヤール、べースの二人に船を操らせ宝玉を保護し、荒浪をわけて、再び自転倒島の生田の森に引き返すこととなつた。
 これより若彦、玉能姫は生田の森において夫婦の息を合はせ、神界のために大功を顕はしたのである。

物語30-4-15 1922/08 海洋万里巳 花に嵐

ブール、ユーズ、アナンの大将連は寄り来れる数十人の味方に何事か合図をなすや、一斉にバラバラと国依別に向つて武者ぶり付かむとする其可笑しさ。国依別は『ウン』と一声息をこめ、右手の示指を以て、彼等一同に速射砲的に左から右へ振りまはせば、球の玉の神力を身に納めたる国依別の霊光は一しほ光強く、何れも眼眩み這う這うの体にて逃げ去るもあり、其場に打倒れて苦悶するもあり、恰も嵐に花の散る如く、ムラムラパツと逃げ散る可笑しさ。国依別は此浅ましき敵の姿を見て、又もや大声に、
『アツハヽヽ、面白い面白い』

物語30-5-22 1922/08 海洋万里巳 大蜈蚣

蜈蚣は水に陥ると共に、毒は消ゑ、水中を辛うじて泳ぎ乍ら、岸に登り、二人が足許に勢能く、百本の足に馬力をかけ、大速力で突進し来る。二人は何となく、怖気つき、トントンと逃げ出した。不思議や蜈蚣は何処までもと云ふ調子で追つかけ来る、厭らしさ、とうとうウラル教の霊地と聞ゑたる日暮シ山の岩窟の前迄追つかけ来り、忽然として姿を消して了つた。此蜈蚣は言依別命が球の玉の霊力を以て、二人の出陣を励ますべく顕現せしめたのであつた。

物語31-1-3 1922/08 海洋万里午 救世神

『あゝ左様で御座いましたか。不思議な御縁で御座いますなア。併し乍ら……アレ御覧なさいませ。四方の山々は盛に噴火を始め、黒雲天を封じ、地は裂け、各所より濁水を吐き出し、早くも低地は大洪水となり、人々の泣き叫ぶ声は、刻々に高まりて参りました。私は是より球の玉の神力を以て、此天変地妖を鎮め、万民を助けねばなりませぬ。貴女はどうか早くお館へ御這入り下さいませ。後程参りますから……』

物語31-1-5 1922/08 海洋万里午 秋鹿の叫

 紅井姫は命にも代へて恋ひ慕つて居た初恋の国依別に介抱され、其嬉しさに病気は段々と軽くなり、殆ど全快に近付いた。紅井姫はまだ十九才の花盛り、国依別は早くも四十の坂を三つ四つ越してゐた。されど球の玉の神徳にてらされて、元気益々加はり、血色よく、一見して三十前後の若者とより見えなかつた。紅井姫は侍女を遠ざけ只一人、心淋しげに一絃琴を弾じ、心の丈を歌ひ居る。

物語32-1-6 1922/08 海洋万里未 獅子粉塵

 兎の王の側近く仕へたる左守の位置にある大兎は、立上つて感謝の意を表し、又もやうたひ始むる。
『暗夜を照らす琉の玉 吾等を救ふ球の玉
 二つの玉は大空の 月日の如く輝きぬ
 青くしぼみし吾々の 曇りし顔も忽ちに
 二つの玉の御威光に 喜び栄え輝きぬ
 あゝ惟神々々 神の救ひか神人の
 吾等を救ふ真心の 魂の光の現はれか
 南と北に立並ぶ 屏風ケ峰の山脈に
 雲を圧して聳え立つ 帽子ケ岳の頂上より
 瑞の御霊の神司 言依別の大教主
 国依別の真人が 琉と球との神力を
 発揮し給ひて吾々が 此苦しみを詳さに
 救ひ給ひし事の由

物語32-1-5 1922/08 海洋万里未 琉球の光

 或夜、月皎々と光りを湖面に投ぐる折しも、四方の丘の上より、一斉に『ウーウー』と咆哮怒号突喊の声、耳も引裂くるばかり聞え来りぬ。兎の王は驚きて鷹依姫の前に走り来り、
『鷹依姫様に申上げます。只今四方の山々を取囲み、虎、狼、獅子、大蛇、熊王、数多の一族を呼び集め、雲霞のごとく此霊地を占領し、吾等が部下を捉へむと勢猛く攻め寄せました。鰐の頭は数多の眷族を呼びあつめ、死力を尽して闘つて居るでは御座いませうが、何を云つても目に余る大軍、容易に撃退することは不可能なれば、何とか御神力を以て彼等寄せ来る魔軍を言向け和し給はむ事を、偏に一族に代り御願ひ申上げます』
と慌ただしく息を喘ませ頼み入る。鷹依姫はウツラウツラ眠りつつありしが、忽ち身を起し、月の大神を祀りたる最も高き地点に登り、四辺をキツと見詰むれば、四方を包みし青垣山の彼方此方に炬火の光煌々と輝き、咆哮怒号の声、万雷の一時に聞ゆる如く、物凄さ刻々に激烈となり来る。

(中略)

 斯く歌ふ折しも、西南の隅に当つて、屏風山脈の最高地点、帽子ケ岳の方面より、二つの火光、サーチライトの如く輝き来り、四方を囲みし魔軍は光りに打たれて声を秘め、爪を隠し、牙を縮め、眼を塞ぎ、大地にカツパとひれ伏して、震ひ戦き居たりける。
 竜国別は立上り、火光に向つて再拝し、拍手しながら歌ふ。

(中略)

 然るに又もや四方の山  峰の尾の上に曲津神
 雲霞の如く攻め来り   此聖場を奪はむと
 息まき来る物凄さ    吾等四人は村肝の
 心の限りを尽しつつ   暗祈黙祷やや暫し
 勤むる折しも西北の   空を隔てし屏風山
 帽子ケ岳の頂上より   琉と球との霊光は
 電火の如く輝きて    魔神の咆哮一時に
 跡形もなく止みにけり  あゝ惟神々々
 如何なる神の御救ひか  如何なる人の救援か
 げに有難き今日の宵   竜国別は謹みて
 皇大神の御前に     心を清め身を浄め
 遥に感謝し奉る     あゝ惟神々々
 御霊幸はひましませよ』
 斯く感謝の言霊を宣り上げ、再び月の大神の神前に向つて拍手を終り、兎の王に一先づ安堵すべき事を宣示した。兎の王は喜び勇んで此旨を部下に伝達せり。
 鰐の頭此処に現はれ来り、大に勇みて、
『斯く天祐の現はれ来る限りは、吾等は湖辺に陣を取り、虎、狼、獅子、熊、大蛇の群、仮令幾百万襲ひ来るとも、これの湖水は一歩も渡らせじ、御安心あれ兎の王よ』
と勇み立ち、帽子ケ岳より輝き来る霊光に向つて感謝し、一同は歓声を挙げて天祐を祝し、其夜は無事に明かす事とはなりぬ。

物語32-1-6 1922/08 海洋万里未 獅子粉塵

 兎の王の側近く仕へたる左守の位置にある大兎は、立上つて感謝の意を表し、又もやうたひ始むる。
『暗夜を照らす琉の玉 吾等を救ふ球の
 二つの玉は大空の 月日の如く輝きぬ
 青くしぼみし吾々の 曇りし顔も忽ちに
 二つの玉の御威光に 喜び栄え輝きぬ

物語33-3-18 1922/09 海洋万里申 神風清

 高姫は初めて今までの我を払拭し、青色の麻邇の宝珠の玉に対する神業に参加することを決意し、金剛不壊の如意宝珠の御用の吾が身に添はざることを、深く悟ることを得たのである。
  O
 ここに金剛不壊の如意宝珠の御用を勤めたる初稚姫は、初めて錦の宮の八尋殿の教主となり、紫色の宝玉の御用に仕へたる玉能姫は生田の森の神館において、若彦(後に国玉別と名を賜ふ)と夫婦相並びて、生田の森の神館に仕ふることとなつた。
 また黄金の玉の神業に奉仕したる言依別命は、少名彦名神の神霊と共に斎苑の館を立ち出で、アーメニヤに渡り、エルサレムに現はれ、立派なる宮殿を造り、黄金の玉の威徳と琉の玉の威徳とをもつて、普く神人を教化したまふこととなつた。
 また梅子姫は父大神のまします斎苑の館に帰り、紫の麻邇の玉の威徳によつて、フサの国の斎苑館に仕へて神業に参加し、高姫は八尋殿に大神司をはじめ紫姫の部下となつて神妙に奉仕し、黒姫、鷹依姫、竜国別もそれぞれの身魂だけの神務に奉仕し、神政成就の基礎的活動を励むこととなつたのである。
 これらの神々の舎身的活動の結果、いよいよ四尾山麓に時節到来して、国常立尊と現はれ、現幽神三界の修理固成を開始し玉ふことを得るに至つたのである。これが即ち大本の教を、国祖国常立尊が変性男子の身魂、出口教祖に帰神し玉ひて、神宮本宮の坪の内より現はれ玉ふた原因である。
 また、言依別命の舎身的活動によつて、黄金の玉の威霊より変性女子の身魂、高熊山の霊山を基点として現はれ、大本の教を輔助しかつ開くこととなつたのである。

物語33-4-24 1922/09 海洋万里申 春秋

英子姫『ハイ、あこには琉と球との宝玉が納まり、国玉別夫婦が守つてをりますが、神界の都合に依つて、球の玉を紀の国の離れ島へ納めに行かねばなりませぬ。ついては生田の森に琉の宝玉を祭り、御守護をいたさねばならないのでございます。この御守護は高姫様にお願ひいたさねばならないのですから、御苦労ながら佐田彦と共に御出張を願ひます。あなたがお出でになれば、国玉別、玉能姫は待ち受けてをることになつてゐますから……』

物語33-4-26 1922/09 海洋万里申 若の浦

秋もやうやく高くして     四方の山辺に佐保姫の
錦織り出し小男鹿の      妻恋ふ声を聞きながら
心あふたる夫婦連れ      国玉別や玉能姫
駒彦さまともろともに     あまたの信者に送られて
球の玉をば捧持しつ      再度山の山麓に
たちたる館を後にして     少しは名残を惜しみつつ
生田の森をくぐりぬけ     夜を日についで紀の国の
若の浦へと着きにける。

 若の浦は、昔は豊見の浦といつた。国玉別が球の玉を捧じ、樟樹鬱蒼として茂れる和田中の一つ島に、稚姫君命の御霊を球の玉に取りかけ斎き祀つてより、豊見の浦はここに若の浦と改称することとなつたのである。この島を玉留島と名づけられた。
 玉留といふ意義は玉を固く地中に埋め、その上に神社を建てて永久に守るといふ意味である。今はこの玉留島は陸続きとなつて、玉津島と改称されてゐる。

 この辺りは非常に巨大なる杉の木や楠が大地一面に繁茂してゐた。太い楠になると、幹の周囲百丈余りも廻つたのがあつた。杉もまた三十丈、五十丈の幹の周囲を有するものは数限りもなく生えてゐた。自転倒島において最も巨大なる樹木の繁茂せし国なれば、神代より木の国と称へられてゐたのである。
 大屋比古の神などは、この大木の股よりお生まれになつたといふことである。また木股の神といふ神代の神も、大木の精より現はれた神人である。
 近代は余り大木は少なくなつたが、太古は非常に巨大なる樹木が木の国のみならず、各地にも沢山に生えてゐたものである。植物の繊維が醗酵作用によつて虫を生じ、その虫は孵化して甲虫のごとき甲虫族を発生するごとく、古は大木の繊維により風水火の醗酵作用によつて、人が生まれ出たことも珍しくない。また猿などはずいぶん沢山に発生したものである。
 天狗を木精といふのは木の魂といふことであつて、樹木の精魂より発生する一種の動物である。天狗は人体に似たのもあり、あるひは鳥族に似たのもある。近代に至つても巨大なる樹木は、これを此の天狗の止まり木と称へられ、地方によつては非常に恐れられてゐるところもある。現代においても、大森林の大樹には天狗の種類が可なり沢山に発生しつつあるのである。
 かくのごときことを口述する時は、現代の理学者や植物学者は、痴人の夢物語と一笑に付して顧みないであらうが、しかし天地の間はすべて不可思議なものである。到底今日のいはゆる文明人士の智嚢では神の霊能力は分かるものではないことを断言しておく。
 さて国玉別、玉能姫はこの島に社を造りて、球の宝玉を奉安し、これを稚姫君の大神と斎き祀り、傍に広殿を建て、ここにありて、三五教の御教を木の国一円はいふもさらなり、伊勢、志摩、尾張、大和、和泉方面まで拡充したのである。
 国玉別は宮殿を造り玉を納めて天津祝詞を奏上し、祝歌を歌ふ。
その歌、
国玉別『朝日のたださす神の国 夕日のひてらす珍の国
自凝島のいや果てに      打ち寄せ来たる荒波の
中に浮かべる珍の島      下津磐根はいや深く
竜宮の底まで届くなり     千引の岩もて固めたる
この珍島は神国の       堅磐常磐の固めぞや
皇大神の御言もて       琉球島より現はれし
球の御玉を今ここに      大宮柱太知りて
高天原に千木高く       仕へまつりて永久に
納むる今日の目出たさよ    この神国にこの玉の
鎮まりいますその限り     自凝島はいや固く
波も静かに治まりて      青人草は日に月に
天津御空の星のごと      浜の真砂も数ならず
栄えて行かむ神の国      朝日は照るとも曇るとも
月は盈つとも虧くるとも    大地は泥にひたるとも
球の御玉をかくしたる     この珍島は永久に
水に溺れず火にやけず     国の守りとなりなりて
国玉別や玉能姫        仕へまつりし功績を
千代に八千代に止むべし    あ丶惟神惟神
御霊幸はひましまして     皇大神の守ります
三五教は天の下        四方の国々隈もなく
伊行きわたらひ神人は     いと安らけく平らけく
五六七の御代を楽しみて    鳥獣はいふもさら
草の片葉に至るまで      各々その所を得せしめよ
球の御玉に取りかけし     稚姫君の生御霊
木の神国に鎮まりて      押しよせ来たる仇波を
伊吹払ひに吹き払へ      自凝島は永久に
栄え栄えて神人の       ゑらぎ楽しむ楽園地
天国浄土の有様を       いや永久に保ちつつ
千代に栄えを松緑       世はくれ竹の起きふしに
心を清め身を浄め       仕へまつらむ夫婦連れ
心の駒彦潔く         神の御前に服ひて
恵も開く梅の花        一度に薫る時津風
松の神代の礎を        樟の木の根のいや固に
杉の木立のすぐすぐと     守らせ給へ惟神
神の御前に願ぎまつる     神の御前に願ぎまつる』

と歌ひをはり拍手再拝して、傍の樟の根に腰打ちかけた。
玉能姫はまた歌ふ。
『南に広き海をうけ      東に朝日を伏し拝み
西に一百の月を見る      この珍島に畏くも
稚姫君の御霊魂        斎きまつりて三五の
神の司の宣伝使        国玉別や玉能姫
心の駒彦もろともに      大宮柱太しりて
朝な夕なに仕へゆく      その神業ぞ尊けれ
天教山に現れませし      神伊弉諾大御神
神伊弉冊大御神        日の出神や木の花の
咲耶の姫の御言もて      天の下なる国々を
開き給ひし神の道       神素盞嗚大神の
瑞の御霊は畏くも       高天原を退はれて
大海原の国々を        巡り給ひて許々多久の
教司を配りつつ        数多の神や人々を
教へ導き鳥獣         虫けら草木に至るまで
恵の露をたれ給ひ       コーカス山や斎苑館
綾の聖地に天降りまし     仁慈無限の神徳を
施したまふ有難さ       妾も同じ三五の
神の大道の宣伝使       大海原を打ち渡り
山川幾つふみ越えて      やうやく玉能の姫となり
生田の森に年永く       仕へまつりしをりもあれ
夫の命の若彦は        言依別の御言もて
球の島より宝玉を      捧じて目出たく再度の
山の麓の神館         生田の森に帰りまし
ここに夫婦は同棲の      恵に浴し朝夕に
琉と球との神宝を       固く守りてゐる間に
玉照彦や玉照姫の       貴の命の御言もて
生田の森の館をば       高姫司に相渡し
琉の玉をば残しおき      球の神宝を捧持して
木の神国に打ち渡り      大海原に漂へる
堅磐常磐の岩が根に      宮居を建てて厳かに
稚姫君の御霊とし       仕へまつれと宣り給ふ
あ丶惟神惟神         神の御言はそむかれず
住みなれかけし館をば     後に見すててはるばると
この島国に来て見れば     思ひもよらぬ珍の国
木々の色艶美しく       野山は錦の機を織り
川の流れはさやさやと     自然の音楽奏でつつ
天国浄土の如くなり      殊に尊きこの島に
珍の社を建て上げて      いや永久に守る身は
げにも嬉しき優曇華の     花咲く春に会ふ心地
皇大神の御恵の        深きを今さら思ひ知り
感謝の涙しとしとと      口には言はれぬ嬉しさよ
稚姫君大御神         汝が命はこの島に
いや永久に鎮まりて      普く世人の身魂をば
守らせ給へ惟神        神の御前に只管に
玉能の姫が願ぎまつる     あ丶惟神惟神
御霊幸はへましませよ』
と歌ひをはり、永久にこの島に鎮まり神業に奉仕することとはなりける。

物語69-1-3 1924/01 山河草木申 喬育

国依別は球の玉の神徳によつて、凡ての世の中の成行きを達観してゐた。それゆゑワザとに時の来たるまでは政治に干与せず、なまじひに小刀細工を施すとも、時至らざれば殆んど徒労に帰することを知つてゐたからである。それゆゑ当座の鼻塞ぎとして、実際の政治を永年間松若彦一派に委任してゐたのである。


真澄の玉

物語01-3-23 1921/10 霊主体従子 黄金の大橋

さうしてこの竜宮の第一の宝は麻邇の珠である。麻邇の珠は一名満干の珠といひ、風雨電雷を叱咤、自由に駆使する神器である。ゆゑに総ての竜神はこの竜宮を占領し、その珠を得むとして非常な争闘をはじめてゐる。されどこの珠はエルサレムの珍の宮に納まつてゐる真澄の珠に比べてみれば、天地雲泥の差がある。また竜神は実に美しい男女の姿を顕現することを得るといへども、天の大神に仕へ奉る天人に比ぶれば、その神格と品位において著しく劣つてをる。また何ほど竜宮が立派であつても、竜神は畜生の部類を脱することはできないから、人界よりも一段下に位してゐる。ゆゑに人間界は竜神界よりも一段上で尊く、優れて美しい身魂であるから神に代つて、竜神以上の神格を神界から賦与されてゐるものである。
 しかしながら人間界がおひおひと堕落し悪化し、当然上位にあるべき人間が、一段下の竜神を拝祈するやうになり、ここに身魂の転倒を来すこととなつた。

物語01-4-29 1921/10 霊主体従子 天津神の神算鬼謀

 火は諸方より燃え迫り、煙とともに大八洲彦命の一隊を包んでしまつた。ここに大八洲彦命は進退これ谷まり、自分の珍蔵してゐる真澄の珠を、中空にむかつて投げつけられた。その珠は中空に爆裂して数十万の星となつた。この星は残らず地上に落下して威儀儼然たる数十万の神軍と化した。さうしてその神軍は、一斉に百雷の一度にとどろくごとき巨大なる言霊を発射した。それと同時に、さしも猛烈なる曠野の火焔はぱつたり消滅し、丈高き草はことごとく焼き払はれた。魔軍の死骸は四方八方に黒焦となつて累々と横たはつてゐた。
 それから大八洲彦命の一隊はだんだん東へ向つて進んでいつた。そこに又もや一つの大きな山が出現してゐる。この山には彼の胸長彦の残党が立て籠もり、再挙を計つてゐた。
 この山を天保山といふ。胸長彦はこんどは安熊、高杉別、桃作、虎若、黒姫を部将として、大八洲彦命の一隊を待ち討たむとしてゐた。このとき真澄の珠より現はれたる数十万の軍勢は残らず天へ帰つてしまつた。せつかく勢力を得て、勇気百倍せる大八洲彦命は非常に失望落胆して、天にむかひ再び神軍の降下せむことを哀願された。折しも天よりは紫雲に打ち乗つて容姿端麗な白髪の神使が、二柱の実に美はしい女神をしたがへ大八洲彦命の前にお降りになり、厳かに天津神の命を伝へられた。その命令の意味は、
『大八洲彦命が今度世界の修理固成をなして、国常立大神の神業を奉仕したまふ上において、加勢の力を頼むやうなことであつては、この神業は到底完全に成功せぬ。それゆゑ大八洲彦命の胆力修錬のため、わざとに神軍を引き上げさせ、孤立無援の地位に立たしめたのは神の深き御仁慈である』
と云ひをはり、天の使は掻き消すごとく姿をかくしたまうた。

物語01-4-31 1921/10 霊主体従子 九山八海

 時しも山の頂上より、鮮麗たとふるに物なき一大光輝が虹のごとく立ち昇つた。その光は上に高く登りゆくほど扇を開きしごとく拡がり、中天において五色の雲をおこし、雲の戸開いて威厳高く美しき天人無数に現はれたまひ、その天人は山上に立てる大八洲彦命の前に降り真澄の珠を与へられた。その天人の頭首は木花姫命であつた。

物語01-4-32 1921/10 霊主体従子 三個の宝珠

 神山の上に救はれた大八洲彦命は、天より下りたまへる木花姫命より真澄の珠を受け、脚下に現はれた新しき海面を眺めつつあつた。見るみる天保山は急に陥落して現今の日本海となり、潮満、潮干の麻邇の珠は、稲山彦および部下の魔軍勢とともに海底に沈没した。稲山彦はたちまち悪竜の姿と変じ、海底に深く沈める珠を奪らむとして、海上を縦横無尽に探りまはつてゐた。九山の上より之を眺めたる大八洲彦命は、脚下の岩石をとり之に伊吹の神法をおこなひ、四個の石を一度に悪竜にむかつて投げつけた。悪竜は目敏くこれを見て、ただちに海底に隠れ潜んでしまつた。
 この四つの石は、海中に落ちて佐渡の島、壱岐の島および対馬の両島となつたのである。
 そこへ地の高天原の竜宮城より乙米姫命大竜体となつて馳せきたり海底の珠を取らむとした。稲山彦の悪竜は之を取らさじとして、たがひに波を起しうなりを立て海中に争つたが、つひには乙米姫命のために平げられ、潮満、潮干の珠は乙米姫命の手にいつた。乙米姫命はたちまち雲竜と化し金色の光を放ちつつ九山に舞ひのぼつた。この時の状況を古来の絵師が、神眼に示されて「富士の登り竜」を描くことになつたのだと伝へられてゐる。
 乙米姫命の変じた彼の大竜は山頂に達し、たちまち端麗荘厳なる女神と化し、潮満、潮干の珠を恭しく木花姫命に捧呈した。
 木花姫命はこの神人の殊勲を激賞され、今までの諸々の罪悪を赦されたのである。これより乙米姫命は、日出る国の守護神と神定められ、日出神の配偶神となつた。
 ここに木花姫命は大八洲彦命にむかひ、
『今天より汝に真澄の珠を授け給ひたり。今また海中より奉れる此の潮満、潮干の珠を改めて汝に授けむ。この珠をもつて天地の修理固成の神業に奉仕せよ』
と厳命され、空前絶後の神業を言依せたまうた。大八洲彦命は、はじめて三個の珠を得て神力旺盛となり、徳望高くつひに三ツの御魂大神と御名がついたのである。

物語01-4-33 1921/10 霊主体従子 エデンの焼尽

 このとき真澄の珠よりは大風吹きおこり、潮満の珠よりは竜水迸りて、瞬くうちに殿の火焔を打ち消した。また潮干の珠よりは猛火を吹出し、真澄の珠の風に煽れてエデンの城は瞬くうちに焼け落ちてしまつた。竹熊一派は周章狼狽死力をつくしてヨルダン河を打ちわたり遠く北方に逃れた。この時あまたの従神は河中に陥り、その大部分は溺死してしまつたのである。

物語01-4-34 1921/10 霊主体従子 シナイ山の戦闘

 大八洲彦命は進退ここに谷まつて、千考万慮の末、真澄の珠を、鷹取、雁姫に托したまうた。鷹取、雁姫は天空高く、敵軍の上を飛揚してシナイ山頂に達し、真澄の珠を厳の御魂の大神に奉つた。厳の御魂は喜び勇んで珠を手に取りたまひ、攻めくる敵軍にむかつて珠を口にあて、力をこめて息吹きの神業をおこなひたまうた。東にむかつて吹きたまへば、東の魔軍はたちまち潰れ、西にむかつて吹きたまへば、西の魔軍はことごとく散乱し、かくのごとくにして、八方の魔軍は真澄の珠の神力により、或ひは雲にのつて逃れ、或ひは霞に包まれてかくれ、四方八方へ散乱し遁走し全く影をかくしてしまつた。

物語01-4-35 1921/10 霊主体従子 一輪の秘密

 国常立尊は冠島の国魂の神に命じて、この神宝を永遠に守護せしめたまうた。この島の国魂の御名を海原彦神といひ、又の御名を綿津見神といふ。つぎに沓島に渡りたまひて真澄の珠を永遠に納めたまひ、国の御柱神をして之を守護せしめられた。国の御柱神は鬼門ケ島の国魂の又の御名である。

物語01-5-47 1921/10 霊主体従子 エデン城塞陥落

ここに稚姫君命は、ふたたび世界の各所に群がりおこる悪霊の騒動を鎮定すべく、国常立尊の神命を奉じ、月彦、真倉彦を伴ひ、目無堅間の御船にのり、真澄の珠を秘めおかれたる沓島にわたり、諸善神を集めて、魔軍鎮定の神業を奉仕されたのである。この時秋津島根に攻めよせきたる数万の黒竜は、竜宮の守り神および沓島の守り神、国の御柱命の率ゐる神軍のために、真奈井の海においてもろくも全滅した。しかるに陸上の曲津らは、勢力猖獗にして容易に鎮定の模様も見えなかつた。これは、ウラル山に割拠する鬼熊の部下の悪霊らの、権力争奪の悪魔戦であつた。鬼熊は部下の者共の統一力なきを憂へ、ここに一計をめぐらし、竜宮城に出入して根本的権力を得、部下の悪霊を鎮定し、すすんで地の高天原を占領せむとする企画をたててゐた。

物語03-10-43 1921/12 霊主体従寅 配所の月

これ善一筋の誠の教なれば、たとへ如何なる難局に立つとも断じて真澄の玉は使用すべからず。かつ、その玉は稚桜姫命幽界に持ちゆきたる浄玻璃の神鏡となりたれば、これを戦闘のために使用すべきものに非ず。

物語05-7-45 1922/01 霊主体従辰 魂脱問答

『戦ひが終んでから、まだドンドン音が聞えるが、そりや何かの原因があるのだらう。竜宮島とやらには、天の真澄の珠とか潮満潮干の珠とかいふ宝が昔から隠してあるとかで、ウラル山のウラル彦の手下の奴らがその珠を奪らうとして.沢山の舟を拵へよつて、闇がり紛れに攻め付けよつたさうだ。さうすると沓島の大海原彦神とやらが、海原とか向腹とかを立ててその真澄の珠で敵を悩まさうとした。しかしその珠は何にもならず、たうとう敵に取られてしまつたさうだよ。そして冠島一名竜宮島には潮満潮干の珠が隠してあつたさうだ。それもまたウラル彦の手下の奴らが攻めかけて奪らうとした。ここの守護神さまは、敵の襲来を悩ます積りで、また潮満とか潮干とかいふ珠を出して防がうとした。これも亦薩張役に立たず、とうたう冠島も沓島も、敵に奪られて仕舞つたと云ふぢやないか。珠々というても、なにもならぬものだね』
『そりや定まつた話だよ、よう考へて見よ。真澄の珠と云ふぢやないか。マスミつたら、魔の住んで居る珠だ。それを沢山の魔神が寄つて来て奪らうとするのだもの、合うたり叶うたり、三ツ口に真子、四ツ口に拍子木、開いた口に牡丹餅、男と女と会うたやうなものだ。ナンボ海原とか向腹立とかを立てた海原彦神でも、内外から敵をうけて、内外から攻められて、お溜り零しがあつたものぢやない。また潮満とか潮干とかの珠も、役に立たなかつたと聞いたが、よう考えて見よ、塩は元来鹹いものだ、そして蜜は甘いものだ。鹹いものと甘いものと一緒にしたつて調和が取れないのは当然だ。また潮干の珠とか云ふ奴は、塩に蛭といふ事だ。ソンナ敵同士のものを寄せて潮満の珠とか、潮干の珠だとか一体わけがわからぬぢやないかい。負けるのは当然だよ。その珠の性根とやらを、どつと昔のその昔に厳の御霊とかいふどえらい神があつて、それをシナイ山とかいふ山の頂上に隠しておいた。それを竹熊とかいふ悪い奴がをつてふんだくらうとして、偉い目にあうたといふこと。しかしながら、聖地の神共は勿体ぶつて、一輪の秘密とか一輪の経綸とかいつて威張つてをつたが、とうとうその一輪の秘密がばれて、ウラル彦が嗅ぎつけ、第一番に竜宮島の珠をふんだくつて、直にその山の御性念を引張り出さうと一生懸命に攻めかかつた。その時シナイ山とやらを守つてゐた貴治別とかいふ司が、敵軍の頂辺から、その御性念の神徳を現はして岩石を降らした。ウラル彦の幕下はとうとうこれに屁古垂れよつて、何にもしないで、逃げ帰つたと言ふことだ。それで攻撃を一寸もシナイ山といふのだ』

物語06-1-4 1922/01 霊主体従巳 立春到達

『今日は如何なる吉日ならむ。日ごろ妾が念頭を離れざる彼の月照彦の、貴下の術中に陥れるさへあるに、又もや足真彦の、貴下の神謀鬼略によつて、この山寨に俘虜となりしは、全く御運の強きによるものならむ。妾は此の二人さへ亡きものとせば、この世の中に恐るべき者は一柱も無し。今宵は時を移さず、貴下の妻と許し給はざるか。幸ひに夫婦となることを得ば、互に協心戮力して二人を平げ、彼が所持する被面布の宝物を奪ひ、かつ足真彦は、天教山の木の花姫より得たる国の真澄の玉を所持し居れば、之またマンマと手に入るからは、大願成就の時節到来なり。この吉祥を祝するため今宵妾と夫婦の盃をなし、かつ残らずの召使どもに祝意を表するために充分の酒を饗応はれたし』

物語07-3-17 1922/02 霊主体従午 亀の背

夜は漸くに明け離れ、東海の浪を割つて昇る朝暾の光は、さしもに広き海原を忽ち金色の浪に彩り、向ふに見ゆる島影は、ニウジーランドの一つ島、大海原彦の鎮まりゐます、真澄の玉の納まりし、国治立大神の穿たせ玉ひし沓嶋。浪の間に間に浮きつ沈みつする様は、荘厳身に迫るの思ひあり。

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