出口王仁三郎 文献検索

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原著名出版年月表題作者その他
物語81-4-181934/08天祥地瑞申 いもりの精王仁三郎参照文献検索
キーワード: 物語
詳細情報:
場面:
木田山城
あらすじ
 偽のチンリウ姫が一人で城内の森林を逍遥しているとき、セームスという美男子に誘惑されてしまう。このセームスは、実は、菖蒲池に済むイモリの精であった。翌日、姫の提案で、その菖蒲池で舟遊びが行われ、チンリウ姫、エームス王、アララギなど小数の者が丸木舟に乗って遊んでいた。そこで、イモリの精は、俄に池水を躍らせて舟を顛覆させ、エームス王の生命を奪ひとってしまった。アララギ達はなんとか岸に泳ぎ着いて無事であったが、目が見えなくなってしまい、何が起こったか分らなかった。
 誰も王が死んだとは知らないので、イモリの精は、王に成りすます。
 後にチンリウ姫はエームスが偽者だと気付いたが、『汝とても誠のチンリウ姫ならず センリウ姫の贋玉なりけむ。吾もまた誠のエームス王ならず 従弟のセームス優男なり。贋物と贋物二人が此の城に 二世を契るも面白からずや。』と歌いかけられ、また、母親のアララギを救われて、二人で何事もなかったように暮らすこととなった。
 二人は、木田山城内奥深く住み込んで、国政は日に月に乱れ衰へ、遂には収拾すべからざるに至った。
名称
アララギ イモリの精 エームス チンリウ姫?
朝月 エールス王 国津神 セームス!
菖蒲池 イドム 木田山城
 
本文    文字数=12470

第一八章 蠑螈の精〔二〇四五〕

 主人のチンリウ姫を計略を以て退け、自らチンリウ姫と名告りてエームス王の妃となり、母のアララギと共に権勢並ぶものなく、数多の群臣の上に君臨して、意気揚々たりしチンリウ姫は、木田山城内の森林を徒然のまま、彼方此方に咲き匂ふ花を賞めつつ逍遥して居る。

『前や後右も左も芳しき
  花に包まれ吾は遊ぶも

 回天の望みを遂げて吾は今
  木田山城の花と匂ふも

 百千花咲けど匂へど如何にして
  わが花の香に及ぶべきかは

 燕子花花の紫水の面に
  写るを見れば夏さりにけり

 木田山の城は広けし山水の
  景色あつめて清き真秀良場

 この城の花と世人に讃へられ
  吾は楽しく世に生くるかも

 天地は残らず吾手に入りしかと
  思へば楽しき吾身なるかも

 エールスの王はイドムの国にあり
  われ若王の妃となりぬ

 何ものの制縛もなくこの城に
  時じくかをると思へば楽し

 国津神のあらむ限りを統べ治め
  王に仕へて御代を照らさむ

 わが母は賢しくませばチンリウ姫を
  わが身となして退ひましけり

 心地よやチンリウ姫は魔の島に
  漂ひながら亡び失せけむ

 かくならば世に恐るべきものはなし
  エームス王を力とたのめば

 エームス王われに恋ふるを幸ひに
  如何なる事も遂げざるはなし

 朝風にゆらるる百合の花見れば
  清しきわれの姿なるかな

 赤に白に匂へる花も世の人は
  あふひの花と称へ来にけり

 チンリウ姫の贋にはあれど吾もまた
  あふひに匂ふ花にあらずや

 雪といふ字も黒々と墨で書く
  例ある世ぞ何を恐れむ

 贋物と看破りたりし朝月は
  王の威勢に退はれにけり

 朝月は千里の海の島ケ根に
  流され生命亡せにけむかも

 妨ぐる何ものもなき吾なれば
  心のままに世にふれまはむ

 水濁る木田山城の司等は
  吾言霊に苦もなくまつろふ

 吾威勢日に日に高まりゆく見れば
  智慧の力の現はれなるべし

 イドム城に長く仕へしわが王の
  行方はいづく最早影なし

 わが王の滅びによりて今ここに
  木田山城の花と匂ふも

 よき事に曲事いつき曲事に
  よき事いつくは吾の身にしる

 かくならば世に恐るべきものはなし
  エームス王を操りゆきなば』

 かく歌ひながら、人もなげに逍遥して居る。後の方より容姿端麗なる美男子、すつくと現はれ、

『姫様のみあと慕ひて来りけり
  エームス王の吾は従弟よ

 御姿の気高さ美々しさに見惚れつつ
  心の駒に引かれ来しはや

 汝が姿ふと見初めてゆ朝夕を
  うつつともなく過ぎにけらしな

 傍に人影なければわが思ひ
  君の御前に匂はせ奉らむ』

 この声に贋のチンリウ姫は驚き振り返れば、エームス王に幾倍とも知れぬ美男子、チンリウ姫は恋の悪魔にとらはれ、恍惚として男の側に進み寄り、右手をしつかと握りながら、頬を赤らめて歌ふ。

『思ひきやかく麗はしき艶人の
  この国原におはしますとは

 エームスの王に仕へし吾なれば
  汝に答ふる言の葉もなし

 さりながら汝が愛しき心根を
  われ忝なみて胸にしるさむ

 かかる世にこのうるはしき大丈夫の
  いますとは夢にも知らざりにけり

 ままならば君と千歳を契りつつ
  木田山城に住みたく思ふ』

 美男は歌ふ。

『吾こそはエームス王の従弟にて
  セームスといふ軽きものなり

 御心に叶ひ奉らば今日よりは
  人目を忍びて千代を語らむ

 われは今エームス王の目を忍び
  姫を恋ひつつ此処に来りし

 名も位も生命も吾は惜しからじ
  君と会ふ夜のありと思へば』

 チンリウ姫は歌ふ。

『懐かしの君に会ひてゆわが胸は
  高鳴り止まず面ほてりけり

 明日さればこの森林に君と吾と
  千代の契りを語らはむかも』

 セームスは歌ふ。

『ありがたき情の言葉聞くにつけ
  心の駒の雄猛びやまずも』

 かく歌ひつつ、何処へか煙の如く消え失せにける。
 チンリウ姫は茫然として佇みながら歌ふ。

『いぶかしき事の限りよ麗しき
  恋のセームス煙と消えたり

 エームスの王にいやまし麗しき
  セームスこそはわが生命かも』

 かく歌ひながら、しづしづと殿内に帰り来る。
 アララギは玄関に迎へながら、

『汝は今いづらにありし供人も
  つれずひとり身危ふからずや

 汝が姿見えぬに吾は驚きて
  千々に心を砕きたりしよ

 明日よりは御供をつれて出でませよ
  一人歩みは危ふかるらむ』

 チンリウ姫は歌ふ。

『百花の清きかをりに誘はれて
  知らず知らずに一人遊びぬ

 水をもてめぐれる木田山城内に
  恐るべきもの如何であるべき

 この城は吾等が心のままなれば
  心安んじ遊ぶともよし』

 かく歌へる折しも、エームス王は姫の姿なきに稍待ちかまへ気味なりしが、その場に現はれ来りて、

『汝は今帰り来るか吾心
  いたくさやぎてありけるものを

 明日よりは侍女を伴ひ遊ぶべし
  一人歩みは吾意に叶はじ』

 チンリウ姫は微笑みながら歌ふ。

『吾王の幸を祈ると裏庭に
  佇み神言白し居たりき』

 かくてその日は黄昏の闇に包まれ、夫婦睦まじく寝に就きけるが、その翌日はチンリウ姫の提言として、城内の菖蒲池に舟を浮べ、半日の清遊を試むる事となりぬ。
 菖蒲池に舟遊びの準備は整ふた。しかしながら舟と言つても大木の幹を石鑿を以てゑぐりたるものなりければ、余り多くの人の乗るべき余地なく、エームス王はじめ、チンリウ姫、アララギその他二人の侍女のみなりける。
 王は菖蒲池の汀に匂へる紫の花を打ち見やりつつ愉快げに歌ふ。

『菖蒲咲くこの池水に棹さして
  ものいふ花と遊ぶ楽しさ

 水底にうつろふ花の紫を
  見つつ床しき舟遊びかな

 八千尋の深き池底にひそむなる
  真鯉、緋鯉も驚きにけむ

 この池に初めて舟を浮べつつ
  遊ぶは昔ゆ例なきかな

 この池に魔神の棲むと昔より
  伝へ来れど今日の安けさ

 アララギの雄々しき女と諸共に
  遊ぶ御舟は楽しかりけり』

 アララギは歌ふ。

『吾王の言葉の巧みさあきれたり
  アララギならでチンリウならずや

 年老いしこのアララギは花の香も
  はや失せぬればかをらひもなし』

 エームス王は歌ふ。

『春匂ふ花もよけれどまた秋の
  花のかをりも捨て難く思ふ

 五月雨の空晴れにつつ燕子花
  菖蒲匂へる清しき今日なり

 チンリウの姫の装ひ清ければ
  菖蒲もかきつも恥らひ顔なる』

 チンリウ姫は歌ふ。

『わが王の言葉嬉しやたのもしや
  われは生命を捧げて仕へむ

 わが王の手活の花と匂ひつつ
  木田山城の要と仕へむ』

 かく歌ふ折しも、不思議や池水は俄に煮えくり返り、水柱各所に立ち狂乱怒濤のために独木舟は忽ち顛覆し、エームス王は真逆様に水中に落ちたるまま遂に姿を現はさざりける。
 茲に生命からがら、アララギ、チンリウその他の侍女は汀辺に這い上り、玉の生命をつなぎける。
 先の日チンリウ姫の前に現はれし、セームスといふ美男はこの池の主にして、巨大なる蠑螈の精なりけるが、俄に池水を躍らせて舟を顛覆せしめ、王の生命を奪ひとり、チンリウ姫の夫となりてこの城にはばらむとする計略なりける。
 これより不思議やアララギ及び二人の侍女は、生命は助かりたれども、眼眩み喉塞がりて何一つ見る事を得ず、また語らふ事も得ずなりにける。それ故王の水中に陥りて溺死したる事も知らずに居たりしなり。
 茲に蠑螈の精は、エームス王となりて奥殿に端然と控へ、チンリウ姫を側近く侍らせ不義の快楽に耽りつつ国政日に月に乱れゆくこそ浅ましかりける。
 チンリウ姫は、どこともなくエームス王に似たれども、稍様子の異なれるに不審の眉をひそめながら歌ふ。

『エームスの王は池中に陥りて
  生命死せしと思ひたりしを

 エームスの王と思へどどこやらに
  わが腑に落ちぬ節のあるかも

 先の日に吾と語りし艶人に
  もしあらずやと疑はれぬる』

 蠑螈の精は歌ふ。

『愚なりチンリウ姫よ吾こそは
  先の日会ひしセームスなるぞや

 幸ひにエームス王は滅びたり
  いざやこれより汝と住みなむ

 歎くとも逝きたる人は帰らまじ
  吾にいそひて暮させ給へ』

 チンリウ姫は歌ふ。

『思ひきや汝はセームス優男
  わがたましひを蘇らせり

 われもまたエームス王にあき居たり
  汝が姿を見初めてしより

 汝こそは常世の夫よ恋の夫よ
  生命捧げて吾は仕へむ』

 蠑螈の精は歌ふ。

『汝とても誠のチンリウ姫ならず
  センリウ姫の贋玉なりけむ

 吾もまた誠のエームス王ならず
  従弟のセームス優男なり

 贋物と贋物二人がこの城に
  二世を契るも面白からずや

 アララギは眼失ひ唖となり
  わがたくらみを悟らであるらし

 今日よりは汝に免じてアララギの
  病は癒し永久に救はむ』

 チンリウ姫は歌ふ。

『吾母を救ひ給ふかありがたし
  さすがは吾背の君なりにけり

 よき事のいやつぎつぎに重なりて
  恋しき汝にいそひ居るかも

 どこまでもエームス王となりすまし
  木田山城に臨ませ給へよ』

 蠑螈の精は歌ふ。

『汝が言葉宜なり吾はどこまでも
  エームス王となりて臨まむ

 面白き吾世なるかも木田山の
  城の主となれる思へば』

 かくして贋のチンリウ姫と、蠑螈の精の化身なる贋のエームス王は、木田山城内奥深く住み込みて、国政は日に月に乱れ衰へ、遂には収拾すべからざるに至りたるこそ是非なけれ。

(昭和九・八・一五 旧七・六 於水明閣 白石恵子謹録)



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