出口王仁三郎 文献検索

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原著名出版年月表題作者その他
物語81-4-171934/08天祥地瑞申 再生再会王仁三郎参照文献検索
キーワード: 物語
詳細情報:
場面:
茂樹の森
あらすじ
 朝月は宴会で、チンリウ姫が偽者だと歌い、荒島に流された。彼は真心でチンリウ姫を心配していたのだった。島では貝などを採集して命を繋いでいたが、ある日、夢で、チンリウ姫が神亀に救われたことを知る。
 その大亀が朝月を迎えに来て、真砂ケ浜に送り届けた。朝月は茂樹の森で、チンリウ姫の萱の家を見つけ、姫に自分のことを説明する。最初は信じなかった姫も、朝月の言霊を信じることとなった。朝月は姫に仕えて時を待つこととなった。
名称
朝月 大亀 チンリウ姫
アヅミ王 アララギ エームス 琴平別命 センリウ
荒島 伊佐子の島 イドム 大栄山 隠れの島 木田山城 サール(2) 茂樹の森 真砂ケ浜 竜宮の王
 
本文    文字数=13908

第一七章 再生再会〔二〇四四〕

 エームス王の妃チンリウ姫は贋物である。その実は、侍女のセンリウ女がアララギと腹を合せ、エームス王始め数多の重臣どもを籠絡してゐることを覚つた朝月は、宴会の席においてその事をほのめかしたので、忽ちアララギ、センリウ等の激怒をかひ、即座に重罪に処せられ、海洋万里の荒浪にただよふ荒島に流された。朝月は、慷慨悲憤のあまり述懐を歌ふ。
 潮のひびきは滔々と岩間に木霊し、寄せ来る浪は白馬の鬣を打ちふり、岸辺の岩石にかみつく如き物凄じき光景なりけり。朝月はこの島の王者然として貝などを採集し、餓を凌ぎつつ運を天に任せながら縹渺たる海原を眺めて歌ふ。

『仰げば高し久方の
 雲井の空は果てもなく
 青に解け入る吾みたま
 ふくれふくれて月となり
 また別れては星となり
 極みも知らぬ大宇宙
 わが物顔に渡りゆく
 われは朝月のかげなれや
 波を分けつつ昇りゆく
 朝日の光に照らされて
 昼は姿をかくせども
 夜さり来れば夕月の
 光はきらきら波間を照らし
 千尋の海の底ひには
 清く澄みきる夕月や
 朝の月のゆらゆらに
 波にたゆたふ雄々しさよ
 伊佐子の島を後にして
 千重の荒浪渡りつつ
 独木の舟に来て見れば
 音に名高き荒島は
 ただ一本の木も草も
 荒風浪に吹かれつつ
 生ふるひまなき岩の島
 堅磐常磐に海中に
 浮ぶも雄々しこの島根
 朝月はここに流されて
 世塵を知らず安々と
 堅磐常磐に栄ゆなり
 荒浪如何に猛るとも
 暑さ寒さは襲ふとも
 何か恐れむ大丈夫が
 弥猛心をくじくべき
 ああ面白や面白や
 この荒島は広ければ
 永久の住家と定めつつ
 百の魚族友として
 竜宮の王とうたはれむ
 さはさりながらあはれなるかな
 チンリウ姫は曲者の
 奸計の罠に陥りて
 似ても似つかぬ替玉の
 センリウ侍女と強ひられて
 思はぬ罪をかぶせられ
 隠の島に流されし
 その憐れさの身に迫り
 木田山城に開かれし
 祝賀の宴に出席し
 うち出したる言霊の
 激しき矢玉に怖ぢおそれ
 心きたなきアララギは
 わが言の葉をさへぎりつ
 疑惑の罪と強ひながら
 恋に狂へる若王や
 娘のセンリウ女とともに
 わが身を憎めるそのあまり
 高手や小手にいましめて
 この荒島に流したり
 われは大丈夫覚悟はすれど
 隙間の風にもあてられず
 宮中深く育ちたる
 チンリウ姫を魔の島に
 流したるこそ憎らしき
 さはさりながら魔の島の
 名を負ふ隠の島ケ根は
 夕さり来れば荒浪に
 全島姿をかくすなる
 危険の島に捨てたるは
 姫が生命をとらむための
 アララギどもの謀計
 思へば思へば憎らしや
 今となりては
 泣けど悔めど姫君の
 姿は最早荒浪の
 腹に呑まれて影もなし
 神の恵の幸はひて
 もしもこの世に在すならば
 水底を潜りてこの島に
 来らせ給へ惟神
 天地の神に願ぎまつる
 ああされど
 不思議なるかな
 昨夜の夢にチンリウ姫は
 亀の背中に乗せられて
 とある磯辺にたどりつき
 茂樹の森にささやけき
 庵を造りて住み給ふ
 夢か現か幻か
 心にかかるは姫の上
 完全に委曲に御在処を
 知らむと思へど是非もなし
 ああ惟神々々
 恩頼を賜へかし。

 天青く海原青きこの島に
  姫を偲びて青息つくも

 伊佐子島遠く離れる荒島に
  一人住む身は淋しかりけり

 さりながら世の憂さごとを聞かずして
  一人楽しき今日のわれなり

 木田山の城は間もなく滅ぶべし
  アララギ母子の暴虐の手に

 チンリウ姫隠の島に流されて
  水泡と消えしは果敢なかりけり

 さりながら姫は生命を保たすと
  われは聞けるも夢の枕に

 悪人の栄えて善人の亡ぶべき
  例は神代にあらじとぞ思ふ

 憎みても余りありけりアララギの
  いやしき心に出でし曲業』

 かく歌ふ折しも、チンリウ姫を真砂の浜に送りとどけたる巨大なる神亀は、波打ち際にボカリと浮き上り、頸を上下に振りながら朝月を招くものの如く見えける。朝月はこれぞ全く海の守護神琴平別命の化身ぞと勇み喜び、直に丘を下りて汀辺に走りつき、

『有難し琴平別の御迎へ
  伊佐子の島に送らせ給へ』

と、合掌しながら神亀の背に飛び乗れば、亀は波上に大なる頭をもたげ、南へ南へと波をかきわけながら、まつしぐらに進みゆく。
 朝月は歌ふ。

『有難し天地の神の御恵に
  琴平別は現れましにけり

 一本の草も木もなき荒島に
  われは淋しく暮し居たるを

 琴平別神の化身に救はれて
  千重の波路を渡らふ今日かな

 大栄の山は雲間に霞みつつ
  天津日のかげ朧に見ゆるも

 北を吹く風に送られわれは今
  神亀の背に乗りて帰るも

 チンリウ姫もわれと同じくこの亀に
  救はれにけむ聞かまほしさよ』

 かく歌ひつつ、亀のゆくままに任せ居たりしが翌日の暁頃、空に朝月白けて、海風徐に袖を吹く頃、真砂の浜辺に着きにける。
 朝月は、亀の背より汀に飛び下り、神亀に向つて合掌しながら歌ふ。

『波荒き孤島になげきし朝月も
  汝の功に救はれにけり

 何時までも汝の恵みは忘れまじ
  わが歎かひはまたく晴れけり

 東北の空に霞める高山は
  大栄山かなつかしき山

 この聖所イドムの国の浜ならむ
  大栄山の北に見ゆれば』

 ここに朝月は亀に感謝し、別れを告げて汀の真砂をザクザクふみならしながら、遥か前方にこんもりと古木の茂りたる茂樹の森を目当に辿り行く。
 朝月は只一人、茂樹の森かげをあてどもなく辿り行くにぞ、目立ちて太き槻の根元に萱を以て結びたる矮屋をみとめ、足音を忍ばせ近より、中の様子を窺ひ居たりける。矮屋の中よりは微なる女のうたふ声響き来る。

『わが国は敵に奪はれわが父母は
  行方知れぬぞ悲しかりけり

 エールスの醜の司にわが父は
  城を奪はれかくれましけむ

 妾またか弱き身もて敵軍に
  とらはれ遠く送られにけり

 水濁る木田山城にとらへられ
  なげきの月日を泣き暮したり

 二十年われに仕へしアララギは
  悪魔となりてわれに反きぬ

 如何ならむ罪犯せしか知らねども
  今日の吾身は淋しかりけり

 玉の緒の生命とらむとアララギは
  われを隠の島に送りし

 荒浪に呑まれむとする折もあれ
  琴平別に救はれしはや

 大栄山遥かに高く北の空に
  霞むを見ればわが国なるらむ

 さりながらイドムの国も今ははや
  サールの配下となれる悲しさ

 隠島漸く逃れわれは今
  茂樹の森にかくれ泣くかも

 父母に一度会はまく欲りすれど
  今日の吾身は詮術もなき

 万斛の涙湛へてわれは今
  泣くより外に術なかりけり

 いたづらに森の木蔭に朽ちむかと
  思へば悲しき吾身なりけり』

 朝月はこの歌を聞き、正しく隠島に流されしチンリウ姫なることを覚り、雀躍りしながら声高らかに歌ふ。

『われこそは木田山城に仕へたる
  朝月司のなれの果てぞや

 この家に忍ばせ給ふは正しくも
  チンリウ姫と覚らひにけり

 アララギのきたなき心の謀計に
  かくなりませし姫を悲しむ

 われもまたチンリウ姫を贋物と
  言挙げなしてやらはれにけり

 アララギやセンリウ姫の憤りに
  われ荒島に流されしはや

 姫君を案じわづらひ荒島ゆ
  隠の島ケ根遥かに仰ぎぬ

 琴平別神の化身に送られて
  われは真砂の浜に着きぬる』

 中よりチンリウ姫の声として、

『いぶかしや茂樹の森に人の声
  聞ゆは狐狸の仕業なるらめ

 わが住家破屋なれど表戸は
  魔神のためには開かざるべし

 朝月は木田山城の左守神
  此処に来らむ理由はあらじ

 いろいろと言葉構へてたぶらかす
  狐狸の謀計の浅はかなるも

 アララギやセンリウ姫と相共に
  われをはかりし朝月の曲津

 よしやよし真の朝月なればとて
  われは死すともまみえざるべし』

 朝月は悲しげに、

『思ひきや茂樹の森にたどり来て
  姫の怒りの言葉聞くとは

 姫君を陰に日向にかばひつつ
  誠尽せし朝月なるよ

 やさしげに見ゆるアララギ、センリウの
  類と思すが悲しかりけり

 姫君をかばひし言葉にたたられて
  われ荒島に流されしはや

 かくなればサールの国へは帰れまじ
  忍びて住まむ茂樹の森に

 木田山の城は滅びむアララギの
  人もなげなるその振舞ひに

 城内の司は四分五裂して
  アララギ母子を呪はぬものなし

 隣国のイドムを攻めたる酬いにて
  サールの国は今に亡びむ

 御父のアヅミの王はやがて今
  伊佐子の島根を領有ぎ給はむ

 朝月の清き心をさとりませ
  姫に仕ふと慕ひ来しものを』

 チンリウ姫は歌ふ。

『いろいろの汝が言霊にわが胸の
  雲は晴れたりとく入りませよ

 なよ草の女一人のこの庵に
  汝が訪ひ来しも不思議なるかな

 汝もまた琴平別に救はれしか
  われも神亀に送られ来りぬ』

 かく歌ひながら、柴の戸を中よりパツと押開けば、朝月は大地にひれ伏し、ハラハラと落涙しながら、
『姫様、御懐かしうございます。私は貴女の御身の上を気の毒に存じ、大祝賀会の席上において、今のチンリウ姫様は贋物にして、アララギの奸計よりかくなれるものとの諷刺を歌ひましたため、アララギ母子及びエームス王の激怒にふれ、奸佞邪智の心きたなき司どもに審判かれ、遂に海中の荒島という無人島に流され、孤独を託ちつつあるところへ、琴平別の神、亀と化して現はれ給ひ、たつた今の先、真砂の浜辺に私を送りとどけて下さつたのです。必ずや姫様も隠島より琴平別の神に救はれて、この辺りにおしのびの事と察知致しまして、森林を彷徨ふうち、フツとこの御住居が目にとまり、足音をしのばせ近より、屋内の様子を窺へば、かすかに聞ゆる御歌のふしに、てつきり姫様と打ち喜び、畏れながら屋外に立ち、歌もて御尋ね致した次第でございます。何卒姫様の御仁慈によりまして、私を僕として御使ひ下さらうならば、有難い仕合せと存じます。私は再びサールの国に足を踏み入れる考へはございませぬ。この島も御父の領分とは言ひながら、サールの国王エールスが暴威を振ふ領域内でございますれば、彼等が手下の奴輩に見つかつては危険でございますから、この森林を幸ひ、姫様の御側に仕へて時待つ事と致しませう。一時は御父王は城を捨てて退却されましたなれど、賢明なるアヅミ王様は必ず軍備を整へ、捲土重来して、イドム城を回復し、善政を敷き給ふものと、私は今より期待いたして居ります。次にサールの国は最早や滅亡の徴現はれ居りますれば、伊佐子の島は全部アヅミ王様の治下に復する事と存じます。姫様、御安心なさいませ』
と、いろいろと言葉を尽して、朝月はチンリウ姫を慰めながら、暫時この森林を住家として時を待ちゐたりける。

(昭和九・八・一五 旧七・六 於水明閣 林弥生謹録)



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