出口王仁三郎 文献検索

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原著名出版年月表題作者その他
物語81-3-141934/08天祥地瑞申 鷺と烏王仁三郎参照文献検索
キーワード: 物語
詳細情報:
場面:
木田山城
あらすじ
 チンリウ姫とアララギの娘センリウは、同じ乳を飲んで育ったので、容姿が生き写しであった。
 エームスとチンリウ姫の結婚式の日に、アララギは「『エームスと結婚した女は何人もあるが、その夜に命を落としている。これはエームスは熊と虎とのあいのこで、強い力で抱きしめ女を殺してしまうからだ』と侍女から聞いた。そこで、娘のセンリウを姫の身代わりに立てて様子をみよう」と持ちかけ、チンリウ姫も承知する。
 ところが、身代わりとなったセンリウには何事も起こらず、無事であった。これはアララギの計略であった。
 本物のチンリウ姫は、アララギの計略で、国宝の壷を割ってしまい、その罪で遠島に処せられてしまう。
名称
朝月 アララギ エームス センリウ チンリウ姫 夕月
アヅミ王 エールス王 国津神 滝津瀬 山風
伊佐子の島 イドム 大栄山 木田川 木田山城 サール(2)
 
本文    文字数=12511

第一四章 鷺と烏〔二〇四一〕

 茲にチンリウ姫は乳母アララギの、ことを解けての懇願により、敵の大将エールスの太子エームスの妃となる事を心ならずも承諾し、一時の難を免れむとしたるこそ憐れなれ。エームス王は欣喜雀躍しながら、群臣に命じ、奥殿において目出度く結婚式を行ふ事を厳命せしにぞ、木田山城内は鼎の沸くが如く、上を下への大騒ぎ、若王の目出度き結婚なりと、尊きも卑きも歓ぎ喜ばむものはなかりけり。中にもチンリウ姫は結婚の花形役者として、今日までの牢獄住ひに引替へ、地獄より天国に上りし如くなれど、心中稍悲歎の涙に暮れ居たりけり。エームス王はチンリウ姫を奥殿に招き温顔を満面に湛へながら歌ふ。
 エームス王の歌。

『夕顔の匂へる庭に汝が姿
  認めて吾は悩みに落ちたり

 何事も時世時節と諦めて
  吾に許せし君は愛しも

 君が心吾にあはずば玉の緒の
  生命死せむと悩み来しよな

 天地の神の恵の露浴びて
  今日は嬉しく君に会ふかも

 玉の緒の生命も吾は惜しむまじ
  君の心に抱かるる身は

 父母の礼なき業を許しませ
  やがて酬いむ君の心に

 汝が父を安きに救ひまゐらせて
  イドムの城に迎へ奉らむ

 吾心君の御前に打ち明けて
  二心なきを誓ひ置くべし』

 チンリウ姫は歌ふ。

『若王の大御心に叶ひたる
  吾幸はひを神に感謝す

 永久に王の御側に仕へつつ
  吾垂乳根に会ふ日を待たむ

 垂乳根の心の悩み思ひつつ
  はからず王にいそひ奉るも』

 エームス王は歌ふ。

『玉の緒の生命をかけし恋故に
  天にも昇る思ひするかな

 朝月や夕月、アララギ、センリウの
  真心照りて今日は楽しも』

 アララギは歌ふ。

『若王の清き御前に招かれて
  嬉しさゆゑに吾魂震ふも

 チンリウの姫の心を慰めつ
  今日の吉日に吾は逢ひにき

 若王に永久に仕へて吾もまた
  御国の栄えを祈り奉らむ』

 朝月は歌ふ。

『若王の御言畏みさまざまと
  言霊打ちて破れけるかな

 如何にして姫の心を迎へむと
  千々に心を砕きけるかや

 チンリウ姫心うごきて吾魂は
  いや新らしく光りそめたり』

 夕月は歌ふ。

『吾もまた如何なるやと危ぶみし
  姫の心は動き初めたり

 アララギの生言霊の助けにて
  今日の吉日に逢ふぞ嬉しき』

 いよいよ茲に盛大なる結婚の式を挙げることとなり、城の内外には国津神等の歓呼の声、天地を動がすばかりなり。殿中には荘厳なる結婚式が開かれてゐる。媒介役たるアララギは祝歌を歌ふ。

『天地の開き初めてゆ例なき
  今日の吉日に逢ふぞ目出度き。

 大栄山に日は昇り
 木田川面に月浮ぶ
 木田山城の清庭に
 大宮柱太知りて
 備へも堅きこの城に
 エールス王の若王は
 アヅミの王の愛娘
 チンリウ姫を迎へまし
 今日の夕べの吉時に
 華燭の典を挙げ給ひ
 夫婦仲よく睦まじく
 千代の堅めを永久に
 サールの国の国王と
 国津神等に敬はれ
 堅磐常磐の巌ケ根に
 果なき広き国原を
 領有ぎ給ふ代となりぬ
 父大王は大栄の
 御山を越えて今ははや
 イドムの国の王となり
 アヅミの王を退けて
 時めき給ふ尊さよ
 さはさりながら吾王は
 仁慈無限にましまして
 国津神等を愍れまし
 恵の露に霑ひて
 鳥獣虫魚にいたるまで
 王の御徳に服従ひて
 今日の吉日を歌ふなり
 木田山城の茂森の
 梢に潜む田鶴の声
 いともさやかに聞ゆなり
 松は千歳の色深く
 常磐の状を現はせり
 チンリウ姫は賢女よ
 また細女よこの国の
 妃の君と現れまして
 四方に輝き給ふべし
 吾は二十年姫君の
 御側に侍り仕へ来て
 今日の吉日に逢ひけるも
 神の恵の露なれや
 ああ有難し目出度しと
 今日の吉日を祝ぎ奉る』

 エームス王は歌ふ。

『昔より例も聞かぬ喜びに
  逢ひにけらしな姫を娶りて

 天地は清く晴れつつ吾胸も
  御空の月と晴れ渡りつつ

 大栄山尾の上に澄める月光も
  今日は一入清しかりけり

 野辺を吹く風の響も何となく
  今日の喜び歌ふがに聞ゆ

 大栄山尾根にかがよふ月影も
  木田の流れに浮びて祝ふ

 小波も立たぬ夕べの川の面に
  月影円く澄みきらひたり

 吾心頓に勇みて天地に
  生の生命の尊さ思ふ

 吾父の心和めて妻のために
  イドムの国を蘇らせむ

 かくならばアヅミの王は吾父よ
  エールスもまた父なりにけり

 イドム国サールの国と手を引きて
  伊佐子の島に永く栄えむ』

 チンリウ姫は歌ふ。

『何事も皆打ち忘れ今日の日の
  吾は嫁を楽しむものなり

 時まちて父の御国を返さむと
  思ふは吾身の願ひなりけり

 情あるエームス王の妃となりて
  親に孝養尽さむと思ふ

 木田山城照らす夕べの月見れば
  笑ませ給へり王の面に似て』

 朝月は歌ふ。

『国津神山の如くに集まりて
  今日の吉日を歌ふ声すも

 幾万の国津神等の鬨の声
  天と地とに響き渡れり』

 夕月は歌ふ。

『夕月の光冴えにつ若王の
  今日の喜び祝ふがに見ゆ

 吾もまたこれの蓆に列ねられ
  嬉しさあまりて言の葉もなし

 山も川も歓ぎ喜ぶ状況見えて
  五月の雨は晴れ上りたり』

 センリウは歌ふ。

『姫君の雄々しき心の幸はひに
  安けく異邦の月を見しかな

 前の日にイドムの城に眺めてし
  月にも増して清しかりけり

 吾姿面ざしまでも姫君に
  似たりと人の言ふぞあやしき』

 アララギは歌ふ。

『姫君も汝も吾乳呑み足りて
  はぐくまれたるためなりにけり

 賤女といへども汝は乳兄弟
  姫にまがひて美しきかも』

 いよいよチンリウ姫は結婚の儀式を済ませ、これより王の寝室に進み入る事となりけるが、乳母のアララギは勝れざる面持にて、窃かにチンリウ姫を一間に招ぎ語るらむ。
『姫様、大変な私には心配事が出来ました。如何致しませうかと思案に暮れて居りますが、どうか御許し下さいませ。乳母が一生の過ちですから』
と、チンリウ姫は意外の乳母の言葉に胸を轟かせながら、

『今となり怪しき言葉聞くものか
  汝の面に愁ひ漂ふ』

 乳母のアララギは一入声を潜めて、
『姫様、これが心配せずに居られませうか。滝津瀬、山風の側女に承りますれば、今まで王様は幾度も美しき妃をお迎へになつたさうでありますが、何れも一晩きりでお生命がなくなるさうで、その噂が遠近に伝はり、それゆゑにこの国では王様の妃になるものはないさうでございます。如何に高貴な身になつても生命がなくてはなりませぬからなあー。かくなる上は逃げ出さうとしても蟻の這ひ出る隙間もありませぬから』
と、息はづませて耳打ちする。
 チンリウ姫は歌ふ。

『恐ろしき事を聞くかもアララギの
  言葉も真言と思へば恐ろし

 如何にしてこの場を逃れ永遠の
  吾は生命をながらへむかな

 アララギによき智慧あればかしてたべ
  吾玉の緒の生命は重し』

 アララギは一入声を潜めて言ふ。
『姫様、この王様は熊と虎との中から出来た猛獣の化物で、あんな優しい姿はして居られますが、夜分になつて抱き付かれますと、余りに腕の力が強いため、か弱き姫君様は一息に締め殺されて、なくなるとの事、私も廿年間お仕へしまして、今この所で大切な姫君様を殺されたら申訳が立たず、いろいろ考へた結果、一つのよき智慧を搾り出しました。つまり吾娘センリウは乳兄弟の間柄故、姫様と面貌、姿寸分違はず、菖蒲と燕子花との区別が分らぬと申しますから、これを幸ひ姫様の御装束を着替へさせ、姫様はセンリウの着物を召して暗がりに隠れ、今晩一夜だけ様子を考へる事に致しませう。センリウは賤しき私の娘でございますから、貴賤の差は天地に比ぶべきものでござります。それで今夜の替玉を御許し下さらば、屹度姫様の危難をお救ひ申し上げます』
と、言葉巧みに説き立つれば、チンリウ姫は乳母アララギの黒き心を少しも覚らず、盛装を脱ぎ捨てセンリウ姫に着替へさせ、自分はセンリウ女の着物を着し一間に潜み待ち居たりける。しかるにその夜は余り変りたる様もなく、センリウ女は欣然として朝庭を逍遥して居る。チンリウ姫は乳母の袖を引きて小声になりながら、
『乳母、夜前は何も事がなかつたさうだが、王様は一体何と思召してござらうぞ。替玉を使はれて御心が付かないのであろうか』
と、稍心配気に言ひければ、乳母アララギはチンリウ姫の耳に口を寄せ、
『この祭壇に飾りある水晶の花瓶を庭に持出し、小石を持ちて静かに打つ時は、忽ち王様の歓心を得て、必ず姫様を愛し給ふと言ふ事でござります。王様は吾娘センリウを真正の姫様と思ふて居られますさうですから、夜前の替玉を恐れ多くて申されませぬから、この花瓶を庭に持ち出し、少しくお打ち下さいませ。清き音が出ますから』
と、最と懇切に説き諭せば、おぼこ娘のチンリウ姫は深き計略のあるとは知らず、水晶の花瓶を庭に持ち出し打ち給ひければ、水晶の花瓶はポカリと二つに破れたり。これを見るより乳母アララギは、チンリウ姫の髻をグツと握りて引摺り廻しながら、
『汝は姫様の侍女でありながら、お家の重宝を石をもつて叩き破るとは言語道断、吾子であつて吾子でない。皆様、大罪人が現はれました』
と、大音声に呼ばはるや、数多の司等が集まり来り、十重二十重に取巻き、狼藉者を逃すなと手毎に得物をもつて攻め来る。
 チンリウ姫は事の意外に驚き、乳母アララギに向ひ、
『汝の娘にあらず』
と呼ばはりければ、アララギは発覚しては大事と、姫の口に真綿を含ませ猿轡をかませ、頭部面部を打ち据ゑければ、血にじみ上り似ても似つかぬ醜悪なる面となりければ、茲に憐れや大罪人としてチンリウ姫は遠島の刑に処せられけり。

(昭和九・八・一四 旧七・五 於水明閣 森良仁謹録)



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