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原著名出版年月表題作者その他
物語80-3-171934/07天祥地瑞未 水火垣王仁三郎参照文献検索
キーワード: 物語
詳細情報:
場面:
忍ケ丘
あらすじ
 忍ケ丘には生き残った猛獣、毒蛇、水奔鬼などが押し寄せていたが、冬男は精霊であるので、形体をもった悪魔の襲来は防ぎようがなく、苦心していた。そこへ、朝空男の神と国生男の神が天降って、冬男たちを助けた。
名称
朝空男の神 海 川 国生男の神 熊公 虎公 冬男 山
イヂチ 水奔鬼 魍魎 主の神 譏り 毒蛇 爬虫族 猛獣 曲津見 曲霊 笑ひ
天の鳥船 火炎山 忍ケ丘 清水ケ丘 水奔草 精霊 火の湖 御樋代 予讃の国 葭原の国土
 
本文    文字数=11121

第一七章 水火垣〔二〇二一〕

 火炎山の爆発により、附近百里の地は全く湖水となり、湖水は熱湯の如く煮えくり返り、猛獣、毒蛇、イヂチ等の毒虫も大半殲滅の厄に遇ひけるが、中にも最も甲羅の強く、鱗の堅き爬虫族は、湖水の岸辺に集り来り、汀辺の水奔草や葭草の中にもぐり込み、一層その害毒甚しくなりゆくこそ歎てけれ。
 朝空男、国生男二神が天降りたる忍ケ丘は、陥落の難は免れたれども、約一里附近まで湖水の展開せるより、あらゆる曲津は忍ケ丘に向つて、幾百千とも限りなく上り来る物凄さ、名状すべからず。
 冬男、熊公、虎公、山、川、海の精霊は、忍ケ丘のわが住処には一歩も踏み入れさせじと全力を尽し戦へども、悲しきかな精霊の身の上なれば、形体を持てる悪魔の襲来を喰ひ止むる由もなく、苦心を極め居たりける。ここに、天の鳥船に乗りて天降りましたる二柱の神の神力に力を得て、稍落着きながら御前に恐る恐る進み寄り、

『火の湖の現れしより曲神は
  処失ひ集ひ来むとす

 二柱神の天降りし間もあらず
  曲津は此処に押し寄せ来る

 力限り防げど精霊わが力
  如何で及ばむ救はせ給へ』

 これを聞くより二神は立ち上り、忍ケ丘の常磐樹の幹に御身を支へながら、
 朝空男の神は歌ふ。

『葭原の予讃の国原治むべく
  天降りしわれよ心安かれ

 如何ならむ曲鬼大蛇押しよすも
  われはやらはむ生言霊に』

 国生男の神は歌ふ。

『朝夕に神と力を一つにし
  忍ケ丘を安く守らむ』

 冬男は歌ふ。

『有難し二柱神の御宣言
  聞きてわれらは蘇りぬる』

 朝空男の神は歌ふ。

『汝等は精霊なれどわが宣らむ
  生言霊を補ひまつれ』

 冬男は歌ふ。

『御宣示頸に受けて力限り
  われ等は宣らむ生言霊を』

 かかる折しも、阿鼻叫喚の声、鬨の声、一時にドツと起り、猛獣、毒蛇、水奔鬼は最も平安なる棲処として忍ケ丘の麓に集り来り、咆哮怒号するあり、のたうちまはるあり、忍ケ丘のまはりは水奔鬼の矢叫の声かしましく、一斉に上らむとせしも、二神等の生言霊に妨げられて上りあぐみたるぞ面白き。二神及び冬男以下の精霊は、交る交る生言霊を宣る。
 朝空男の神は音吐朗々として歌ふ。

『主の神の御水火に現れにし言霊を
  国の鎮めと清けく宣らむ

 アオウエイ天地処を変ふるとも
  ただに鎮めむ貴の言霊に

 幾万の曲神襲ひ来るとも
  斬りて放らむ言霊剣に

 麗しき厳の言霊幸はひて
  この国原の曲言向けむ

 炎々と燃えたちし火口は忽ちに
  消えて湖水となりにけらしな

 鬼大蛇たとへ幾万寄せ来とも
  恐るべきかは天津神われは

 火炎山忽ち湖となり果てぬ
  生言霊の幸はひによりて

 木も草も火の湖の底深く
  沈みけるかな曲の荒びに

 国土生むと天降り来りしわれなれば
  鬼も大蛇も物の数かは

 汚れたるこの国原も言霊の
  水火幸はひて澄み渡るべし

 心悪しき曲鬼どもの身の果ては
  ありあり見えぬ湖水の波に

 冴え渡る月の光も見えぬまで
  御空曇りぬ曲津の水火に

 白雲の空を渡りて天降りてし
  われ天津神よ曲等恐れじ

 迫り来る鬼や大蛇は多くとも
  忍ケ丘には光る玉あり

 譏り婆笑ひ婆アの水奔鬼も
  今は手向ふ力無からむ

 高山の火口は忽ち湖の
  底に沈みて湧きたつ湯の波

 千早振る主の大神の賜ひてし
  生言霊に刃向ひ得むや

 月も日もかくれて見えぬ葭原の
  国土を照らして安く治めむ

 天も地もわが言霊の功績に
  晴れゆく力を曲は知らずや

 常闇のこの国原を伊照らすと
  言霊鏡持ちて天降りし』

 国生男の神は歌ふ。

『波の上をわが見渡せば鬼大蛇
  溺るるさまの浅ましきかな

 煮え返る湖水の波にもまれつつ
  大蛇は血を吐き悶え居るかも

 奴婆玉の闇は襲へり曲津見の
  曲の吐く息いや重なれば

 懇に生言霊を宣りつれど
  曲の耳には入らざると見ゆ

 野も山も火炎の山の爆発に
  戦きにけむ草木は枯れたり

 果敢なかる世の状なれや地の上の
  曲悉く亡びむとすも

 低山は湖に没して火炎山
  頂狭く水に浮べり

 降る雨も激しかりけむ湖は
  低山高山皆浸しつつ

 曲津見も火炎の山の変動に
  恐れ戦き身亡せけるかな

 ほのぼのと霧を透して見ゆる湖の
  夕の眺めは淋しかりけり

 曲神の生命の果てか鬨の声
  この丘下ゆ聞え来るなり

 見の限り醜草生ふる大野原を
  生言霊の幸に清めむ

 昔より例もあらぬ天地の
  変動は神の戒めなるらむ

 目を開けて見られぬまでにいぢらしき
  この国原は神のいましめよ

 濛々と黒雲低う葭原の
  野空包みて月日は見えず

 八千尋の湖水の底に曲津見は
  またも潜みて災なすらむ

 如何程に曲津見大蛇荒ぶとも
  神の御稜威に言向け和さむ

 湯の如く沸き返りたる湖の
  水面に湯気は立ち昇りつつ

 遠近の区別もしらに災の
  神のいましめ畏きろかも

 世を救ふ誠の力は言霊の
  貴の功に如くものはなし

 われこそは御樋代神に仕へたる
  生言霊の司なるぞや

 いち早く忍ケ丘に天降り来て
  葭原国の状を見しかな

 美しき神の御国を生まむとて
  われは降れり神言帯びつつ

 ゑらゑらに歓ぎ賑はふ神国を
  生まで置くべき力限りに

 大蛇棲む葭原国もわがあれば
  いと安からむ勇みてあれよ』

 冬男は歌ふ。

『二柱神の天降らすこの丘に
  われ蘇り曲を防がむ

 二柱神の言霊幸はひて
  わがたましひの力添はりぬ

 かくなれば精霊われも勇ましく
  鬼の砦に向ひ進まむ

 現世の人と生れし心地かな
  わが霊身の輝き初むれば

 永年を忍ケ丘の鬼となりて
  岐美の天降りを待ちわびにける

 浅ましきみたまのわれも今日よりは
  神の御後に仕へまつらむ

 蘇り生きの生命を保ちつつ
  幽世の花となるぞ嬉しき

 浮腰のわがたましひも落着きて
  動かぬ心勇みたつなり

 鬼大蛇醜の鬼婆攻め来とも
  最早や恐れじ神なるわれは

 矢叫びの声は麓にどよめけり
  鬼も大蛇も登らむとして

 言霊の水火垣高く築きませば
  如何なる曲も登り得ざらむ

 神々の貴の恵みに抱かれて
  安く過ぎなむ忍ケ丘に

 狭霧たつ火の湖も恐れむや
  如何なる曲のよし潜むとも

 水奔鬼魍魎曲霊数の限り
  寄せて来るも何か恐れむ』

 熊公は歌ふ。

『思ひきや二柱神の出でまして
  国土の災除かせ給へり

 われは今忍ケ丘の鬼となれど
  元津みたまは神なりにけり

 たましひは元より清し惟神
  神に受けたる生命なりせば

 水奔鬼に追ひたてられて長き日を
  清水ケ丘にひそみたりける

 虎公と二人淋しく潜みたる
  清水ケ丘を思へば悲しき

 わが君も笑ひ婆アに計られて
  清水ケ丘に身亡せ給ひぬ』

 朝空男の神は歌ふ。

『種々の汝が物語聞くにつけ
  曲の猛びの強きをさとる

 葭原の国土は曲津の影もなく
  清め澄まさむ神なるわれは』

 虎公は歌ふ。

『ありがたし貴の御神の御言葉
  われは忘れじ幾世経るとも』

 山は歌ふ。

『妾とて鬼にはあらず惟神
  神の誠の御子なりしはや

 旅ゆきて忍ケ丘に立ち寄りつ
  笑ひ婆アに生命とられし

 鬼婆に玉の生命を奪はれし
  人のみたまは数限りなし

 二柱神の御稜威に水奔鬼の
  影を地上に消させ給はれ』

 国生男の神は歌ふ。

『果てしなき広き国原隈もなく
  清め澄まして曲滅さむ

 とにもあれ角にもあれやこの丘に
  館つくりて国土を治めむ』

 川は歌ふ。

『天地の神の光りのあれまして
  葭原の闇晴れそめにけり

 われとても同じ運命をたどり来て
  鬼となりける乙女なるぞや

 今日よりは曇りし心照りあかし
  生言霊を宣り続くべし』

 海は歌ふ。

『海山の恵みをうけてわれは今
  忍ケ丘に安く居るかも』

 冬男は歌ふ。

『果てしなき葭原の国土隈もなく
  照らさせ給へ二柱神

 力なきわれにはあれど御後に
  従ひ神業に仕へまつらむ

 熊も虎も山、川、海も神業に
  使はせ給へとこひのみまつる』

 朝空男の神は歌ふ。

『汝が願ひ諾ひわれは国生男と
  暫時を此処にとどまり治めむ』

 かく歌ひ給ひて、火の湖の平穏に復する日を待たせ給ひける。忍ケ丘の麓には数万の猛獣、毒蛇、水奔鬼など、逃場を失ひ、右往左往にひしめきあへりけり。

(昭和九・七・三〇 旧六・一九 於関東別院南風閣 林弥生謹録)



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