出口王仁三郎 文献検索

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原著名出版年月表題作者その他
物語80-2-141934/07天祥地瑞未 報哭婆王仁三郎参照文献検索
キーワード: 物語
詳細情報:
場面:
火炎山
あらすじ
 火炎山の頂上では、虎、熊、獅子、狼、豹、大蛇等の猛獣が、火口の周囲で、火種を盗まれないように、日夜固く守つている。火種を奪われ、葭原の大原野に放たれれば、猛獣毒蛇はたちまち焼き殺され、全滅の憂目にあってしまうのだ。秋男はこの火種を奪い取り、葭原全帯の悪魔の巣窟を焼き尽そうと計画していた。
 猛獣毒蛇の前衛をつとめていた譏り婆は、秋男の登山を阻止しようと、種々様々の魔術をつくして、しばらくの間あたりを闇の幕に包んでおいた。
 山上の火口の周囲では、猛獣の王が集まって対策を協議している。そこへ、秋男一行が登山してきたので、猛獣は、大雨、風、雷を起して防ごうとするが、一行はひるまない。そこへ、譏り婆が現われるが、秋男が言霊を奏上すると消えてしまい、嵐もおさまる。
名称
秋男 梅 狼 大蛇 熊 桜 獅子 譏り 竹 虎 豹 松 笑ひ
水奔鬼
天の数歌 皮衣 火炎山 火種
 
本文    文字数=8621

第一四章 報哭婆〔二〇一八〕

 火炎山の頂上に、虎、熊、獅子、狼、豹、大蛇等の猛獣が、火口の周囲に棲息し、何者にも火種を盗まれざるやうと、日夜固く守つてゐる。もしこの火種を奪はれ、葭原の大原野に放たれることあらば、それこそ一大事、猛獣毒蛇は忽ち焼き殺され、全滅の憂目にあはむことを恐れ、猛獣毒蛇の王は協議の上、当番を選びて噴火口の周囲を固く守り居たりける。秋男はこの火種を奪ひ取り、山村原野に放火して、一斉に葭原全帯の悪魔の巣窟を焼き尽さむと計画したりける。しかるに猛獣毒蛇どもの前衛を務むる譏り婆の水奔鬼は、力限りにこれを阻止すれども、動もすれば秋男が登山するの恐れあり、如何にもしてこれを妨げむと、種々様々の魔術をつくし、暫時の間を闇の幕に包みおきたるなり。山上の火口の周囲には、猛獣の王首を鳩めて山麓より響き来る言霊の水火に戦きながら、如何にもして火取の敵を防がむやと、協議の真最中のところへ、すたすたと息をはづませ登り来りしは、笑ひ婆ア、譏り婆アの二鬼である。
 虎王は二鬼を見るより慌しく声をかけ、

『山裾に言霊ひびくは何者ぞ
  つぶさにかたれ二つの婆ども』

 熊の王は、

『汝等は何をためらふか一刻も
  早くまことを吾等に伝へよ』

 笑ひ婆は、

『アハハハハ、イヒヒヒヒ

 いけすかぬ餓鬼ども五つあらはれて
  この山の火を取らむとするも

 たましひのあらむ限りの力もて
  吾は今までふせぎゐたりき

 わが力最早つきなむ願はくば
  君の力を吾にあたへよ』

 譏り婆は歌ふ。

『イヒヒヒヒいらぬ世話やかす餓鬼どもが
  あらはれ火炎の山にのぼらむ

 われもまた力かぎりに防げども
  敵は言霊の武器を持つなり

 かくならば君の力をからむより
  外に手だてはなしと思へり』

 虎王は歌ふ。

『その方は小刀細工いたす故に
  もろくも敵にくじかれにけむ

 言霊の武器おそるるに足らざらむ
  魔術をつくして向ひ戦へ

 魔心のひるまずあれば言霊の
  剣もいかで恐るべきかは』

 狼の王は歌ふ。

『笑ひ婆ア譏り婆アの気の弱さ
  ききて狼あきれ果てたり

 闇の幕汝に与へあるからは
  彼がまなこをくらませ亡ぼせ』

 笑ひ婆、

『アハハハハ笑ひ婆アは根かぎり
  力の限り戦ひしはや

 迷はせど穴に落せど言霊の
  剣に彼はひるまざりける

 名に高き笑ひ婆アのたくらみも
  今や全くやぶれはてたる

 この上は君が力を借りるより
  わが生くる道更になからむ』

 狼の王、

『気のきかぬ二人婆アよ狼は
  今日より汝に暇つかはす

 くら闇の常夜の幕を持ちながら
  へこたれ悩みし腰抜けなるかな』

 獅子王は歌ふ。

『狼の君よしばらく待てよかし
  婆アの魔言のふかきをさとりて

 かくならばわれ等一度に魔力を
  あはせて敵を亡ぼさむかな

 熊も来よ虎狼も従へよ
  山を降りて敵に向はむ

 言霊の剣の光するどくも
  われ等は牙もて咬み殺すべし』

 かく山上の悪魔等は協議を凝らしてゐる。麓の樹蔭に夢よりさめたる如き秋男一行は、山頂の噴火するさまを眺めながら、

『ああ吾は譏り婆アにはかられて
  樹かげに夢をみてゐたりけむ

 如何ならむ艱みにあふもひるむまじ
  山の尾の上の火をとらざれば

 火の種をとられむことをおそれみて
  猛獣毒蛇は守りゐると言ふ

 ともかくも捨身となりて堂々と
  曲津の砦に押し寄せゆかむ

 火の種の一つありせば山に野に
  ひそむ悪魔の棲処を焼かむ』

 松は歌ふ。

『情なや譏り婆アのたくらみに
  大丈夫吾はあざむかれける

 かくならば最早覚悟し鬼婆の
  醜のたくみを退けゆかむ

 国のために心をいらつわが側に
  無心の桔梗は安く匂へり

 天津空仰ぎて見れば天津日は
  うす雲の中に輝き給へり』

 竹は歌ふ。

『笑ひ婆譏り婆アのさまたげを
  うちはらひつつ登りゆくべし

 にくらしや冬男の君の御生命
  とりたる婆アを征討めでおくべき

 この婆は曲津神等のさきばしりを
  つとむる醜の曲ものなるらむ』

 梅は歌ふ。

『大空はやや曇れども路の辺の
  千草は花をかざして匂へり

 一天はにはかに曇り太き雨
  降り出しにけり曲のたくみか』

 かく歌ふ折しも、山上の猛獣連は秋男一行の登山を喰ひ止めむとして、雲を呼び、風を起し大雨を降らし、雷を使ひ、忽ち天地は暗澹として修羅道を現出したりける。
 梅はこの光景を眺めて、

『頂にすまへる猛獣毒蛇の
  すさびなるらむ雨風しげし

 雷は高く轟き風荒れて
  山を登らむ手だてさへなき

 かくならば曲の力の弱るまで
  待ちて登らむ火炎の山頂』

 秋男は歌ふ。

『またしてもこざかしきかな曲神は
  黒雲おこし雨を降らすも

 曲神の醜の材料つくるまで
  心静かに樹かげに待たむ』

 雷鳴轟き稲妻ひらめき、山風強く吹き荒び、大雨沛然として降りしきり、樹下の宿りも雨洩りのために、皮衣もびしよ濡れとなり、大いに苦しみたれど、五人の大丈夫は少しもひるまず、天の数歌を奏上して時の過ぐるを待ち居たり。天地の闇を縫ふてひらめく稲妻の間より、鬼婆の影ちらりちらりと現はるるさま、一入いやらし。樹の枝高く怪しき声またもや聞え来る。
『ギヤハハハハ、獅子王様の力を借り、あらはれ来りし鬼婆ぞや。この笑ひ婆は以前と事変り、獅子王、熊王、虎王、狼王様方々の御力を拝借致してこれに現はれしものなれば、最早、汝等の言霊とやらにひるむべき。さあ、これよりは汝等の返答次第にて、骨を砕き、肉を削ぎ、血をしぼり、獅子王様のお食事に奉らむ。てもさても面白や勇ましや、イヒヒヒヒ、ウフフフフ、イヒヒヒヒ、オホホホホ臆病者、この方の言葉を聞いて胴ぶるひ致してゐるが、さてもさてもいぢらしい者だワイ。ギヤハハハハ、この方は汝が恐るる譏り婆ぞや。今日こそは汝等が運の尽き、獅子王様の力によつて生命を奪はるべし。じたばたしても、もう敵ふまい。さあ動くなら動いてみよ。神変不思議の金縛りの術にかけおきたれば最早びくとも動けまい。さてもさても心地よやな、ギヤフフフフ、ヒウーードロドロドロ、この方は水奔鬼の譏り婆アの幽霊ぞや。いやらしくはないか、いや、おそろしくはないかウフフフフ』
と幾度となく同じことのみ繰返す鬼婆の言葉に、秋男は胆力を据ゑ、再び天地を拝し、生言霊を奏上するや、さしも激しかりし雷鳴電光一時に止まり、山風の荒びも、降る雨も、ぴたりと止まりて、天地清明、空に一点の雲霧もなく、地上は錦の莚を敷き並べたる如く、日月輝き渡り、再び元の天地の光景にかへりたるこそ不思議なれ。

(昭和九・七・二八 旧六・一七 於関東別院南風閣 内崎照代謹録)



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