出口王仁三郎 文献検索

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原著名出版年月表題作者その他
物語79-3-221934/07天祥地瑞午 天変地妖王仁三郎参照文献検索
キーワード: 物語
詳細情報:
場面:
水上山
あらすじ
 艶男は燕子花を忘れられず、真砂と白砂を伴って大井ケ淵で舟遊びをした。すると、白萩、白菊、女郎花の声で、「自分達は艶男が忘れられず藤ケ丘にいる」と謡う。艶男が憐れに思っていると、淵の水がにわかに大きな波紋を描き、水煙とともに人面竜身の燕子花が現われた。艶男も真砂、白砂も驚き、茫然として、あちらこちらと立ち狂う水煙を眺めている。波紋は益々激しくなり、舟も覆るばかりの荒波となった。艶男は意を決して立ち上り「わが恋ふる燕子花姫の荒びにや われはとどむる力だになし。かくなれば何をいなまむわれも亦 水の藻屑となりて消ゆべし」と謡う。そして、一天俄にかき曇り、暴風が吹き荒み、大地は震動して、荒波に飲まれて舟諸共に三人の姿は水中深く隠れてしまった。
 これより日夜の震動止まず、雷轟き、稲妻閃めき、暴風吹き荒み、雨は盆を覆した如く、地鳴震動間断なく、さしもに平穏な水上山の聖場は、阿鼻叫喚の巷と化した。
 岩ケ根は竜彦を一大事と背に負ひ、高殿に上って、難を免れた。しかし、国津神たちの右往左往に泣き叫ぶ状は目も当てられぬ惨状であった。
 そんなところへ、天より降り来た容姿端麗な女神が、四柱の侍神を伴い、此場に降られた。
名称
艶男 岩ケ根 女郎花 燕子花 白菊 白砂 白萩 竜彦 真砂
国津神 魔神
大井川 大井ケ淵 人面竜身 藤ケ丘 水上山
 
本文    文字数=8712

第二二章 天変地妖〔二〇〇三〕

 艶男は、岩ケ根他四天王等の言葉を尽しての諫めに、死を思ひとどまりたれども、何故か大井ケ淵の恋しくて堪らず、朝な夕なの区別なく、淵に舟を浮べて遊ぶを唯一の慰みとなしゐたりける。
 岩ケ根は、もしや艶男に間違ひ無きやと案じ煩ひながら、真砂、白砂を左右に看視兼接待役として従はしめたり。小雨ふる夕べ前、かたの如く艶男は真砂、白砂を伴ひ、大井ケ淵に暫時の舟遊びを試みにける。黄昏の幕稍迫らむとする折しも、不思議なるかな、微なる声何処ともなく響き来るを、よくよく耳をすまして聞けば、以前竜の島根にて、艶男に思ひをかけし白萩の悲しげなる声にぞありける。
 白萩の声。

『秋風を待つ間の長き白萩は
  遠き思ひに尋ね来にけり

 生命までもと思ひし人は影もなく
  あと白萩の花と散りけり

 添はまくと思ひし夢の悲しさに
  身もしら萩の花は萎れつ

 恨めしき君なりにけり燕子花の
  花のみ手折りて露もおくらず

 この思ひ何時の世にかは晴らさむと
  恋ふるも悲しき萩の仇花

 現世に生くる甲斐なきわが身ぞと
  思へば苦し君に捨てられて

 百花の多かる中に汝が君は
  燕子花のみ愛づるは恨めし

 朝な朝な露重げなる萩が枝に
  君は心をかけて見ざりしよ

 故郷の竜の都の白萩を
  藤ケ丘辺に移して匂へり

 白萩は情の露に捨てられて
  細き生命を汀辺に保てり

 橘と香れる君のよそほひは
  われを思はす種にぞありける

 荒波をかき別け乗り切りこの淵に
  伊寄り来りて君に焦るる

 御声を朝な夕なに聞かまほしと
  白萩われは淵に潜むも

 太刀膚のわが身に怖ぢていとこやの
  君は島根を離りましけむ

 いとこやの君を生命と頼みてしを
  つれなき心恨めしみ思ふ

 竜神の身にしあれども人恋ふる
  心に変りあるべきものかは

 恨めしさ悲しさ此処に凝まりて
  恋の淵瀬に悲しみ泣くなり』

 艶男は微にこの声を聞きて、白萩の心の憐れさに両眼をうるほしながら、

『われとても木石ならぬ身なれども
  一つの身なり如何に報いむ

 われもまた歎きの淵に沈みつつ
  胸晴らさむと此処に遊べる

 黄昏を君の歎きの声聞きて
  悲しく淋しくなりにけらしな

 恋故に生命惜しまじわれはただ
  垂乳根のためながらふのみなり』

 かくいふ折しも、またもや上手の方より悲しき声聞え来る。

『われこそは汝を慕ひし白菊の
  露に霑ふ蕾の花よ

 一本の花橘と思ひしを
  君は百花千花を手折れり

 恨めしく悲しく生命堪へがてに
  われは湖路を渡り来しはや

 わが思ひいや深ければこの淵の
  底に潜みて竜となりぬる

 万代の末にも枯れぬ白菊を
  枯らし給へる君ぞ恨めし

 千早振る神代の事も人ならば
  問はましものを白菊の花

 君ケ代をいと長月の空清く
  咲かむ白菊あはれと思へ

 水上山菊の下水如何なれば
  流れて淵に沈むなるらむ

 祈りつつ待つ長月の菊の花を
  何れの時か君の手折るや

 山の端を出でゐる月の顔は
  君の面と白菊の花

 わが思ひいや深ければ八千尋の
  湖を渡りて慕ひ来つるも

 類なき君のよそほひ見染めてゆ
  白菊われは乱れむとせり

 玉の緒の生命惜しまじ君許に
  近く棲みなば淵の底ひも』

 艶男はこの声を聞き、狂気の如く胸を燃やしながら、

『今日はまた悲しき声を聞く日かな
  今は前後も白波の上

 秋されば白菊の花手折らむと
  われは心を替へずありける

 白菊の匂ひめでたくわが袖に
  香りて時じく忘らへなくに

 惜しまるる生命ならねど今しばし
  わが子の生ひたち待たせ給はれ』

 白菊の声として、

『御言葉偽りなくばわれとても
  なやみ晴らして時を待つべし』

 かかる折しも、稍下流に当りて、女郎花の細き声ひびき来る。よくよく耳をすまして聞き居れば、

『われこそは竜の島根に育ちたる
  か弱き花の女郎花ぞや

 君恋ひてわが身やつれぬ玉の緒の
  生命死せむと幾度思ひし

 八潮路を渡りてここに大井川
  淵瀬に沈むも君おもへばなり

 細々と降り来る雨は君思ふ
  悲しきわれの涙なるぞや

 如何にして悲しき思ひ晴らさむと
  波路を分けて此処に来つるも

 水上山斜面に匂ふ女郎花の
  やさしきよそほひ見そなはさずや

 君恋ひてここに幾日を重ねけり
  露の情の雨に濡れむと

 われは今見るに堪へざる醜神の
  竜と思へば悲しかりけり

 幾千代もこれの淵瀬に沈みゐて
  君が御幸を護らむと思ふ

 白萩も白菊の君もわれもまた
  藤ケ丘辺に君を待つなり

 玉の緒の君が生命の果つるまで
  なやみ苦しみ待たむとぞ思ふ

 竜神の悲しき心を思ひやり
  夢の枕にも偲ばせ給へ』

 かく響く折しも、淵の水は俄に大なる波紋を描き、水煙とともに立ち昇りたるものあり。よくよく見れば人面竜身の燕子花なるに、艶男も真砂、白砂も一度に驚き、茫然として、あちらこちらと立ち狂ふ水煙を眺めゐる。波紋は益々激しく、遂には舟も覆らむばかりの荒波となりければ、艶男は意を決して立ち上り、

『わが恋ふる燕子花姫の荒びにや
  われはとどむる力だになし

 かくなれば何をいなまむわれもまた
  水の藻屑となりて消ゆべし』

 真砂、白砂の両人は驚きて、艶男の左右の手をしつかと握り、涙ながらに、

『若君よはやらせ給ふ事なかれ
  君には父母と御子いまさずや

 玉の緒の生命死するはいと易し
  重きは国の務めなるぞや

 思ひきや大井の川の舟遊びに
  かかる歎きの身に迫るとは

 上津瀬にはた中津瀬に下津瀬に
  聞ゆる声は魔神なるらむ

 若君よ魔神の甘き言の葉に
  かかりて生命捨てさせ給ふな

 若君の生命はわれ等があづからむ
  真砂、白砂力限りに』

 白砂はあわてて、

『風荒れて波高まりぬいざ舟を
  岸辺に寄せむ真砂よ舟漕げ』

 真砂はこたへて、

『艫も櫂も波に浚はれ如何にして
  岸辺に着かむこの荒川を』

 かくいふ折しも、一天俄にかき曇り、暴風吹き荒み、大地は震動して、荒波の猛りに舟諸共に三人の姿は水中深くかくれける。
 これより日夜の震動止まず、雷轟き、稲妻閃き、暴風吹き荒み、雨は盆を覆せし如く、地鳴震動間断なく、さしもに平穏なりし水上山の聖場は、阿鼻叫喚の巷と化し去り、岩ケ根は竜彦を一大事と背に負ひ、高殿に上りて、難を免れゐたりける。
 国津神たちの右往左往に泣き叫ぶ状、目も当てられぬ惨状なりける。
 かかるところへ、天より降り来ませる容姿端麗なる女神、四柱の侍神を伴ひ、この場に降らせ給ふ。

(昭和九・七・二〇 旧六・九 於関東別院南風閣 林弥生謹録)



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