出口王仁三郎 文献検索

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原著名出版年月表題作者その他
物語79-3-171934/07天祥地瑞午 還元竜神王仁三郎参照文献検索
キーワード: 物語
詳細情報:
場面:
竜宮島 水上山
あらすじ
 白萩と白菊が嘆いているところへ女郎花も加わり、「竜の島の女神は皆艶男を思い想像妊娠している」と三人で嘆いていると、艶男の霊身が現われ、「燕子花と一緒に水上山に帰っている」と告げて消える。
 三女神は、矢も楯もたまらず、元の竜体に変じ、玉耶湖を渡って浦水の浜辺から大井川の川口を通り、水上山の聖地にやって来た。しかし、一旦還元した竜神は容易に人面を保つ事がかなわないので、大井川の藤の丘と言ふ樹木密生したところに忍び棲んだ。
 これ以後、艶男は、三竜神の魂に夜な夜な引き込まれ、にわかに大井川の川辺が恋しくなって、ことある毎に馬に乗り、川を渡って、藤ケ丘の谷間に遊ぶこととなった。
名称
女郎花 白菊 白萩
艶男 燕子花 竜神
伊吹山 浦水の浜 大井川 想像妊娠 玉耶湖 藤ケ丘 水上山 百津桂樹
 
本文    文字数=6631

第一七章 還元竜神〔一九九八〕

 白萩は白菊と共に深き憂に沈みながら、百津桂樹の森に分け入り、思ふ存分泣かむものと、籠樹の蔭に立ちて述懐を歌ふ。

白菊『匂へども手折る人なき一本の
  あはれ野菊は吾なりにけり

 伊吹山嵐にふるふ一本の
  あはれ野菊はいづらになびかむ

 いろいろと花は匂へど白菊の
  花はかなしも草にかくれて

 艶男の花の香りはいづらなる
  風の便りを聞くよしもなし

 艶男の君の手折らす白菊の
  花はもとより枯れむとすらむ

 きせ綿を吹きはらはれし白菊の
  花は涙の露にしをれつ

 吾恋ふる君の情の露もなく
  あはれ白菊枯れなむとすも

 滝津瀬のしぶきの露も白菊の
  吾ははかなき生命なるかも

 八重に咲く竜の宮居の白菊の
  花恥かしも水鏡見れば

 八千年の菊の香りを楽しみし
  甲斐もあらなく秋風吹きぬ

 白菊をかざして御前に奉ると
  思ひしことは夢なりしかな

 白銀の色香を保つ白菊の
  薫りはあせて木枯寒し

 君は淡く吾白菊の色は濃く
  在りしその日をしのべばかなし

 竜神の貴の島根に匂ひてし
  花ははかなく木枯に散るも

 吾思ふ心の丈も白菊の
  君は雲井にのぼりましけむ

 なげきても返らぬものと思ひつつ
  なほ歎かるる森の下かげ

 君ゆゑに生きの生命の延びちぢみ
  ある世はかなし泡沫の夢

 会はざればかくも心をいためまじ
  君が色香のあせたるくるしさ』

 白萩は歌ふ。

『君は早や吾の姿にあき萩の
  うてなに吹ける木枯なりしよ

 白萩の露にかたむくよそほひを
  君はいとひて雲がくれせしか

 歎けども如何にせむすべしら萩の
  吾はかなしき花なりにけり

 天かけり地かけるとも恋ふる君の
  後をば追はむとひたに思ふも

 いたづらに死する生命の思はれて
  今一度を会はむとぞ思ふ

 吾心清く正しく花咲けば
  想像妊娠まむ白萩の露

 あざやかに御国に匂ふ白萩の
  花もしをれぬ乾ける露に

 白萩の露の生命は惜しまねど
  想像妊娠みし子をいかにせむ

 この里の女神はことごと艶男の
  御子をまさしく想像妊娠める

 よしやよし貴のうまし子生まるとも
  父なき思へば如何にかなしき』

 かかる時、同じ思ひの女郎花は長袖に面を覆ひながら、只一人悄然として入り来り、桂樹の蔭に二人の女神のひそめるを見て、稍驚きながら、

『伊吹山匂ふ白萩、白菊の
  君にまさずや吾は女郎花よ

 よもすがら君の姿の見えぬより
  吾はい寝ずに明けにけらしな

 姫神はいづれも姿をかくしつつ
  あなたこなたの樹蔭に歎けり

 吾もまた人目をよぎて泣かむかと
  この森かげにしのび来にけり』

 白菊、白萩は、女郎花の来れるに驚きの目を見はりながら、恥かしげに歌ふ。

『恋すてふ心はおなじ友垣の
  共泣く今日はかなしき日なるよ

 歎くとも及ばざるらむ天地の
  神に祈りて会ふ日待つべし

 せむすべも泣く泣く吾は森蔭に
  恥をしのびて歎かひ居るなり』

 かく歌ふ折しも、百津桂樹の森をそよがせて入り来る神あり。よくよく見れば思ひきや、生命をかけて恋ひ慕ふ艶男の姿なりける。
 三人の女神は、はつと驚きながら物をも得言はず、呆然として清しき男子の姿を眺め居る。艶男は百津桂樹の茂枝に直立しながら静に歌ふ。

『真心の綱に引かれて吾は今
  生言霊に渡り来れり

 姫神の歎きは知らぬにあらねども
  今日の吾身を許し給はれ

 身体は水上山に帰りたり
  君にひかるる御魂の吾よ

 水上山遠く帰ると思へども
  汝が誠の力に動けず

 ともかくも吾を許せよいく年の
  後には必ず来りまみえむ

 燕子花姫は水上の山に在りて
  輝きにけむ国人の上に

 伊吹山麓に匂ふ白萩の
  やさしき心吾忘れめや

 白菊の清きよそほひ如何にして
  吾は忘れむしばしを待ちませ

 女郎花やさしき花の御手振りを
  恋しく楽しく心に止むる

 いざさらば吾は伊吹の山の上に
  身魂鎮めて御園を守らむ』

と言ひつつ、さつと吹く湖風に艶男は霊身をのせ、山の尾の上を取り巻く白雲の奥深くかくれける。
 ここに白萩、白菊、女郎花の三女神は、艶男、燕子花の二人は肉体共に水上の山深く住めることを悟り、矢も楯もたまらず、如何にしても玉耶湖を打ち渡り、日頃の思ひを達せむと、忽ち元の竜体と変じ、ざんぶとばかり湖中に飛び込み、波の面をおよぎながら、南をさして進み行く事とはなりぬ。
 漸くにして三柱の竜神は、浦水の浜辺に安着せるが、恰も月照り渡る真夜中頃なりければ、大井川の川口より窃に水上山の聖地をさして上る事とはなりぬ。一旦還元したる竜神は容易に人面を保つ事能はず、大井川の対岸なる藤の丘と言ふ樹木密生せる個所に忍び棲む事とはなりぬ。
 これより艶男は三竜神の魂に夜な夜な引き込まれ、俄に大井川の川辺恋しくなりて、遑あるごとに駒をうたせ川を渡りて、藤ケ丘の谷間に遊びける。

 波の花栄居の浜も竜神の
  渡り来しより浦水の浜とふ。

(昭和九・七・一九 旧六・八 於関東別院南風閣 谷前清子謹録)



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