出口王仁三郎 文献検索

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原著名出版年月表題作者その他
物語79-2-81934/07天祥地瑞午 相聞(二)王仁三郎参照文献検索
キーワード: 物語
詳細情報:
場面:
鏡の湖
あらすじ
 艶男は今度は白萩に言い寄られる。そこへ、大海津見の神の娘の海津見姫の神が鏡の湖から現われ、艶男に「八十姫の願ひことごときき入れて この島ケ根をにぎはせ給へ」と宣示する。艶男は「如何にして百の女神にまみえなむ 身体の弱きひとり身吾は。男の子吾ひるまじものとおもへども ねたみ心を如何にをさめむ」などと答えるが、海津見姫の神は「心強く進め」と言う。
 姫が去って、艶男が考え込んでいると、白萩が「姫の言葉を受けるように」と身を近づけて誘惑する。艶男は身を引き、「自分には病気がある」と逃げをうつ。

 女神が誘惑する歌の例
名称
艶男 白萩 海津見姫の神
大竜身彦の命 大海津見の神 国津神
無花実 鏡の湖 百津桂木
 
本文    文字数=9648

第八章 相聞(二)〔一九八九〕

 艶男は女神等の恋の鋭鋒をさけて、鏡の湖畔なる百津桂木の樹蔭に太き息をもらしつつありしが、忽然として辺の叢よりあらはれたる白衣、紅袴の乙女は、右手に白萩の花の満開せるを持ち、左手に玉水盃を捧げながら、艶男の側近く進み寄り、満面笑みを湛へて、玉水盃の水を艶男の前に差し置き、

『珍しき艶男の君よ御水召せよ
  今日の暑さは咽喉のかわけば

 わらはこそは露にうるほふしら萩の
  花はづかしき乙女なりけり

 そよと吹く風にも靡く白萩の
  かよわき姿を愛で給はずや

 白萩の花は清しも鏡湖の
  底まで透ける真清水に似て

 白萩の香りを添へて玉水盃に
  御水奉る今日の嬉しさ

 真清水を掬ばせながら白萩の
  花の香りを愛でさせ給へ

 夏冬のけぢめもしらに白萩は
  伊吹の山に淋しく匂ふも』

 艶男はこれに答へて、

『ありがたし乙女の君の志
  われいただかむ桂木の蔭に

 湖の水は清しも白萩の
  花は床しも乙女の姿か

 百千花咲き匂へども吾にして
  手折らむ力なきぞかなしき』

 白萩は歌ふ。

『汝が心いづらにあるか白萩の
  花はづかしき吾にもあるかな

 さりながら手折らせ給へ白萩の
  花におく露こぼるるまでも

 汝が君の情の露にうるほひて
  吾は生くべき白萩の花よ

 この島に百花千花匂へども
  ただ一本の白萩のわれ

 風吹かば露やこぼれむ花散らむ
  早く手折らへ一本の白萩』

 艶男は歌ふ。

『白萩の花美しと見る吾は
  岩の上に生ふ無花実なるよ

 花のなき無花実のかげに繁りたる
  草花にして実のなき吾なり』

 白萩はまた歌ふ。

『なやましき心の丈をしら萩の
  梢もみゆく汝は山風

 山風は如何にはげしく吹くとても
  木蔭の白萩散らむとはせず

 わが持てる白萩の花に露とめて
  心のあかしと君にまゐらす

 よしやよし露の情はあらずとも
  君のみそばに細く咲くべし

 人の目を漸くここにしのび草
  しのびかねたるわが思ひかな』

 艶男は白萩の情のこもる言葉に、ほつと当惑しながら、こともなげに鏡の湖面を眺めてゐる。白萩は水面の小波を指さしながら、

『みそなはせ鏡の湖の小波の
  底の心は動かざるらむ

 鏡湖の底ひもしらぬわが思ひ
  写して匂ふ白萩の花よ

 八千尋の底ひもしらぬ思ひねを
  君は知らずやみそなはさずや

 君のために玉の緒の生命消ゆるとも
  悔いなき吾と思召さずや

 かくならば生命死すとも動かまじ
  深き心をくみとらすまでは

 伊吹山百草千草匂へども
  君のよそほひに勝る花なし

 玉の緒の生命をかけて恋ひ慕ふ
  君は情なき薊の花かも』

 艶男は歌ふ。

『さまざまの汝が言霊に打出され
  吾はいらへの言葉だになし

 はろばろと波の秀ふみて来ながらに
  かかるなやみは思はざりけり

 竜宮の島の乙女に囲まれて
  吾は行手をふさがれにけり

 足引の山より高き父母の恩
  おもへば春の心起らじ

 伊吹山尾根より吹き来る青嵐を
  朝夕あびて戦く吾なり

 竜宮の恋の嵐の強ければ
  わが身はかなく散らむとするも』

 かく歌ふ折しも、鏡湖の波を左右に分けて、あらはれ来る三柱の女神あり。主と思しきは前に立ち、稍年若き乙女は後辺に立ち、悠々として水面を渡りながら、艶男の憩ふ百津桂木の樹蔭に、莞爾として寄り来る。白萩はこれを見るより、忽ち大地にひれ伏し、「ウオーウオー」と叫びながら恭敬礼拝怠りなく、頭を大地につけたるまま身動きもせず、うづくまり居る。女神は樹蔭に憩ふ艶男に軽く黙礼し、紅の唇を開き、

『御祖神の御子あれますと聞きしより
  そこひを分けて吾は来にけり

 吾こそは大海津見の神の愛娘
  海津見姫とよばるる神なり

 竜宮の島根は未だ稚けれど
  汝が力をもちてつくれよ

 この島をつくり固めて御子を生み
  いや永久に守らせ給へ

 竜宮の島根は恋の島ケ根よ
  愛の花咲く神さだめ島

 姫神の数多住まへるこの島に
  渡りし君は助けの神ぞや

 人体をうまらにつばらに備へざる
  女神を救へ神のまにまに

 天地の百の草木をことごとく
  この島ケ根に植ゑ生はしける

 この島は海津見の神の真秀良場よ
  われも折々来りてあそべる

 水清き鏡の湖は海津見の
  神の宮居の入口ぞかし

 ここに来て弱き心をもたすまじ
  全き神子を生むべき島根よ

 八十姫の願ひことごときき入れて
  この島ケ根をにぎはせ給へ』

 艶男はおそるおそるこれに答ふ。

『如何にして百の女神にまみえなむ
  身体の弱きひとり身吾は

 ゆくりなくこの島ケ根に渡り来て
  百の乙女におそはれにける

 男の子吾ひるまじものとおもへども
  ねたみ心を如何にをさめむ

 ねたましき心をもつは姫神の
  常と知る故ためらひ居るなり』

 海津見姫の神は淑やかに宣り給ふ。

『心弱きことを宣らすな汝は男の子
  雄々しく清しくあるべきものを

 艶男の名を負ひませる君なれば
  ねたみ心におそはるべしやは

 この島の女神はのこらず神なれば
  ねたむ心は露ほどもなし

 稚き国土をつくり固むる業なれば
  ためらふことなく進ませ給へ』

 艶男はこれに答へて、

『姫神の心はよしと思へども
  吾には及ばず国津神の身よ』

 海津見の神は、

『日を重ね時をけみして次々に
  心雄々しく進ませ給はむ』

 かく歌ひながら姫神は静々と二人の侍女と共に、芒の穂の上を軽く渡りながら、大竜身彦の命の宮殿深く御姿をかくさせ給ひぬ。艶男と白萩は姫神を粛然として見送り、御影の見えぬまで伸び上り伸び上り眺めて居たが、ここに艶男は不審の念にうたれつつ、諸手を組み、太き息をもらし思案にくれてゐる。白萩は白衣の袖の艶男の息のさはるところまで近寄り来り、露の滴るまなざしを涼しくひらきながら、あらゆる媚を呈し、艶男の左手を握らむとせしにぞ、艶男は青天の霹靂の如く驚き、二三十歩後方に飛び退き、呆然として白萩の面を見つめてゐる。白萩はかなしき声をはり上げながら、

『情なやわがおもふ君は白萩の
  梢をもみゆく嵐なりけり

 雨霰嵐は如何に強くとも
  たゆまざるべし白萩の吾は

 この島に渡り来ませる君なれば
  如何でのがさじ弥猛心に

 姫神の御言葉汝はきかざるや
  たゆまずひるまず手折らせ給へ

 いやしかるわが身体におぢおそれ
  いなみ給ふか情なき君

 身体はよし竜体と生るとも
  恋てふ心に変りあるべき』

 艶男は決心の臍を固め、しばしの虎口を遁れむと、腕を組みながら憮然として歌ふ。

『はづかしさ恋しさあまりてただ吾は
  手折らむ道をためらひにけり

 さりながらしばしを待たせ給へかし
  吾には一つの病ありせば

 この病癒ゆるを待ちて白萩の
  君にまみえむよき日あるべし』

 白萩は満面を輝かしながら素直に歌ふ。

『村肝の心つくせし甲斐ありて
  艶男の君の心うごきぬ

 嬉しさにわが魂は輝きぬ
  幾日まつとも吾は恨まじ

 かくの如やさしき君と知らずして
  なやめ奉りし心はづかし

 いざさらば御殿に送り奉るべし
  早立たせませ桂木の蔭を』

 艶男の言葉の風に白萩は
  心静かに打ちなびきたり

 村肝の心満たねど艶男は
  白萩と共に御殿にかへれり。

(昭和九・七・一七 旧六・六 於関東別院南風閣 内崎照代謹録)



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