出口王仁三郎 文献検索

リンク用URL http://uro.sblog.jp/kensaku/kihshow.php?KAN=79&HEN=1&SYOU=3&T1=&T2=&T3=&T4=&T5=&T6=&T7=&T8=&CD=

原著名出版年月表題作者その他
物語79-1-31934/07天祥地瑞午 離れ島王仁三郎参照文献検索
キーワード: 物語
詳細情報:
場面:
竜宮島
あらすじ
 麗子は、人面竜身の湖中の怪物にさらわれ、竜神の都に連れてこられる。数多の人面竜身の竜神族は、麗子を歓迎して、神輿に乗せて大竜殿に連れてゆく。
 麗子は艶男への恋心は残っていたが、「竜神の王の大竜身彦の命に嫁ぎ、人間の子孫を生もう」と心を決めた。麗子は竜宮の弟姫と呼ばれ、島の司として称えられた。
名称
麗子 大竜身彦の命 竜神
艶男 国津神 竜宮の弟姫
伊吹山 迦陵頻伽 大竜殿 人面竜身 神輿 水上山 本津心 竜宮島
 
本文    文字数=8792

第三章 離れ島〔一九八四〕

 麗子は人面竜身の湖中の怪物にさらはれ、黒雲の中をしばし何処ともなく、一瀉千里的の速力にて運ばれつつ、とある紫壁蒼瓦の門前におろされ、ふと辺りを見れば湖水すれすれに浮べる竜神の都の表門前なりける。
 数多の人面竜身の竜神族は、「ウオーウオー」と叫びながら、身体に藻の衣を纒ひ、顔面のみを出して幾百千ともなく、門の両側に端坐し迎へ居たり。
 竜神の王は声もさはやかに歌ふ。

『あはれあはれ
 百年千年相待ちし
 国津御祖の愛娘
 麗子姫を今此処に
 迎へまつりぬ今日よりは
 竜の都の王となりて
 われ等が一族悉に
 人面竜身のこの姿を
 人の姿に生み直し
 竜神族を悉く
 国津神等のみすがたに
 よみがへらせて天地の
 恵を湖の中までも
 照らさせ給へ麗子の姫よ
 ウオーウオー
 あなさやけおけ
 竜の都の鉄門は今や
 天と地との一時に
 開けし如くさやさやに
 開け初めけりあな尊
 あなさやけおけ
 あな面白の出でましよ』

と、各自くさぐさの音楽を奏で、歓迎の意を表し、竜神族は一斉に立ち上り、陸に湖に出没して踊り狂ふその声、天地も崩るるばかりに思はれける。
 麗子はあまりの変りたる光景に、稍しばし不審の念晴れやらず、艶男の恋しき兄の事は忘れられず、父母の安否を気遣ひながら黙然と俯いて居る。
 竜神の王は莞爾として、麗子の手をそつと握り、

『いぶかしくおぼしめすらむこの島は
  竜神族の棲める都よ

 君なくば竜神族はいつまでも
  このあさましき姿保たむ

 頭のみ人と生れて身体は
  このあさましき竜の姿よ』

 ここに麗子は最早詮なしと決心の臍をかため、人面竜身のあはれなるこの族と嫁ぎ、人間の子孫を生み了せむものと、雄々しくも艶男に対する恋心を断ち切らむとしたが、どうやら心の底に一片の名残が残つて居た。

『思ひきや艶男の君にあらずして
  竜の都の君なりしはや

 かくならば何を嘆かむ今日よりは
  竜の都の君に仕へむ

 垂乳根の父と母とはさぞやさぞ
  わがなきあとを嘆かせ給はむ

 わが思ふ心の中の生命なる
  君もさぞかし嘆かせ給はむ

 さりながら竜神族のもろもろを
  助くる神業と思ひて慰む

 水の中にかかる都のある事を
  悟らざりしよ今の今まで

 夢なれば早く醒めかしわれは今
  見しらぬ国土に誘はれ来つ

 千万の竜神族に迎へられ
  夢路を辿る心地するかも

 竜神の王よもろもろ族たち
  われは今日より国土の君ぞや

 親を捨て恋を捨てたるわれにして
  如何でひるまむこの島国に

 わが言葉諾ふ力なかりせば
  われは黄泉に旅だちなさむ

 賤しけれど国の御祖の御子なるぞ
  汝竜神を如何で恐れむ』

 竜神の王は、麗子の直立せる前に跪きて、

『有難しうららの君の御言明
  幾代経るとも違はざるべし

 あさましき姿を持てる竜神の
  救ひの神は天降りましけり

 百年の願叶ひてわれは今
  救ひの神にあひにけるかも

 今までは湖の悪魔と国津神に
  貶すまれつつ禍なしけり

 今日よりは本津心に改めて
  天地の神業に仕へまつらむ

 伊吹山に続く竜宮島ケ根は
  われらが永久の住処なるぞや

 汝が君は今日より竜宮の弟姫と
  あらはれましてわれらを守らせ

 竜宮の弟姫これにある限り
  この島ケ根は安けかるべし』

 麗子は歌ふ。

『大空は高く涯なし湖底は
  深く広しも神の御稜威に

 もろもろの魚族残らずわが徳に
  まつろひ来れ安く守らむ

 国津神の御子と生れてこの島の
  君となりしは神の心か

 この島に見る月光も水上山に
  見るも等しき光ならずや

 月も日も隈なく照らせ竜宮の
  島根の君はここにありけり

 夜されば御空に月は輝きて
  この島ケ根を安く照らさむ

 朝されば天津日光は煌々と
  湖の底ひも明し給はれ

 月も冴えよ星も瞬け湖底の
  真砂も照れよ魚族も生きよ

 みぐるしき竜神族の身体を
  百年の後に人となさばや

 われは今竜神の君と嫁ぎつつ
  全き御子を生まむと思ふ

 この島にわれ天降りてゆ木も草も
  俄に光増しにけらしな』

 かかる所へ、遥か向ふの方より竜神たちは、金、銀、瑪瑙、瑠璃、硨磲、珊瑚、水晶等にて飾りたてたる神輿を担ぎ来り、弟姫の立たせる前にどつかとおろし平伏する。
 竜神の王はこの輿を指し弟姫に向ひ、

『いざ御駕籠召しませ百年千年経て
  つくりし輿よ君のみために

 一度も用ひし事のなき神輿
  君に捧げむわれの真心

 百年も千年も心用ひつつ
  所在宝につくりし輿はや

 この輿は君ならずして地の上に
  召すべき神はあらじと思ふ』

 麗子は意外の意外に、驚異の眼をみはりながら、

『思ひきやかかる島根にかくの如
  うるはしき宝の輿のありとは

 竜神の心をこめし輿なれば
  われもいなまじ乗りてや進まむ』

 竜神の王は大いに喜び歌ふ。

『有難し弟姫神の御言明
  聞くは吾身の生命なりけり

 生命にもかへて作りしこの神輿
  早く召しませ弟姫の神

 百神もさぞ喜ばむ百千年の
  心づくしも今報はれて』

 ここに麗子姫は、夢に夢見る心地して、神輿の鉄門を開き、さつと立ち入り、直立不動の姿勢をとれども、さりとて頭の天井につかふる憂ひもなく、最も高く広き神輿なりければ、長柄の棒を担ぐ竜神族は、幾百人とも数へ切れぬ多人数なりける。
 竜神の王は神輿の前に立ち、幣帛を振りながら先頭をなし、遥か彼方の御殿をさして進み行く。
 竜神等は、「ウオーウオー」と一斉に声を揃へ、天地を揺がさむばかりの勢にて、粛々と行列正しく前進する。
 行くこと約二十町ばかり、ここに七宝を以て飾られたる大楼門が巍然として建つて居る。白衣をつけし竜神たちは、左右に鉄門をぱつと開いた。神輿は粛々として門内に潜り入る。迦陵頻伽の声、彼方此方の木々の梢ゆ伝はり来り、その荘厳さ言語のつくすべきにあらず、神輿は大竜殿の玄関に恭しくおろされた。
 竜神の王は歌ふ。

『これこそはわが住む館よとこたちよ
  いざ進みませ奥の殿まで

 百年の匠になりし大殿は
  汝が出でまし待ちて居たるも

 漸くに建ち上りたる大殿よ
  先づ汝が命住みて治めよ』

 麗子は神輿の戸を開き、清楚たる姿にて、悠々清庭に立ち出で、竜神の王のしりへについて奥殿深く進み入る。
 これより麗子は、竜宮の弟姫と称へられ、竜神の王に大竜身彦の命と名を与へ、この島の司として輝き渡る事となりける。

 麗子は思はず知らず竜神に
  招かれ島の司となりける

 この島に跡をたれつつ竜宮の
  弟姫神と仰がれにける

 この神のいさをしなくば海中の
  魚族永久に栄えざるべし。

(昭和九・七・一六 旧六・五 於関東別院南風閣 白石恵子謹録)



オニドでるび付原文を読む    オニド霊界物語Web