出口王仁三郎 文献検索

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原著名出版年月表題作者その他
物語79-1-11934/07天祥地瑞午 湖中の怪王仁三郎参照文献検索
キーワード: 皆神山
詳細情報:
場面:
水上川
あらすじ
 万里の海に葭の島がある。この島は葦原の国土に比べて約十倍の面積を有している。島の中央の高山を伊吹山と称し、その麓をめぐる湖水を玉耶湖と言う。伊吹の山には、桔梗、女郎花、撫子、萩、山吹、椿などの花樹が繁茂し、春夏秋冬の分ちなく艶を競って咲き乱れ、芳香は風に薫じ、地上の天国のようである。
 この島には、竜神と称する種族が、この山を中心として湖面にも出没し、安逸な生活を楽んでいた。しかし、竜神族は人面竜身にして、未だ人間としての形体を備えていなかったので、竜神族の王は、国津神のように人体を備えたいと、日夜焦慮していた。
 玉耶湖の上流に水上山という饅頭形の大丘陵がある。国津神はこの丘陵を中心に安逸な生活を送っていた。この里の酋長は山神彦、妻は川神姫であった。夫婦には、眉目秀麗な男女二柱の子、兄の艶男と、妹の麗子があった。二人の兄妹は互に睦び親しんで、影が身体に従うが如く、どこへ行くのも一緒であった。

 ある日、麗子が水上川の岸辺にいると、川の中からぬつと首を水面に現し、歌う男がある。それは兄の艶男だった。麗子は自分も水に入ろうとするが、その水はとても冷たかった。実は、それは、兄ではなく、湖底に潜む竜神族の王であつた。竜神の王は国津神を捕らえて、嫁にして、国津神同様の子を産まそうと考えていたのである。
 麗子は艶男に「水から上がれ」と言うが、艶男は反対に「水に入れ」と歌う。麗子は「艶男は冷たい水は嫌いなはずなのに」と、兄ではなく竜神の化身であるかと思案する。
 そうしているうちに、艶男と見えた男は人面竜身と変じ、麗子の体を抱えて、湖中に浮ぶ伊吹山の方面をさして逃げ去ってしまった。
名称
艶男? 麗子
天之峯火夫の神 川神姫 国津神 山神彦 竜神
葦原の国土 天之岩戸 伊吹山 仙人掌 高天原 玉耶湖 大宇宙 人面竜身 万里の海 水上川 水上山 葭原の国土
 
本文    文字数=9142

第一章 湖中の怪〔一九八二〕

 天之峯火夫の神、大宇宙の高天原に生れましてより、幾千年の星霜を経たれども、天未だ備はらず、地また稚くして、水母なす漂へる島々の中にも、別けて美しく地固まりし天恵の島あり。この島を葭の島と言ひまた葭原の国土とも言ふ。この島国は葦原の国土に比して約十倍の広袤を有し、万里の海の中に漂ふ生島なり。
 この島の中央に屹立せる高山を伊吹の山と称し、その麓をめぐる幾百里の湖水を玉耶湖と言ふ。この湖水は水清くして湖底の砂礫鏡を透して見る如く、清麗の気自ら漂ふ。
 伊吹の山には、桔梗、女郎花、撫子、萩、山吹、椿などの花樹繁茂し、春夏秋冬の分ちなく艶を競ひて咲き乱れ、芳香風に薫じ、さながら地上の天国を現出せるものの如し。数多の竜神と称する種族、この山を中心として湖面に出没し、或は山に登りて安逸なる生活を楽しみつつありき。さりながら、竜神族はいづれも人面竜身にして、未だ人間としての形体そなはらざりければ竜神族の王は、如何にもして国津神のごとく人体をそなへたきものと、日夜焦慮しつつありける。
 この湖水の上流に当りて、水上山といふ饅頭形の大丘陵ありて、国津神はこの丘陵を中心に安逸なる生活を送りつつありき。この里の酋長を国津神の祖と称し、その名を山神彦と言ひ、妻の名を川神姫と称へられける。
 山神彦、川神姫の夫婦が中に、眉目形すぐれて雄々しくやさしき、男女二柱の御子ありき。兄をあでやか(艶男)と言ひ、妹をうららか(麗子)と言ふ。二人の兄妹は互に睦び親しみて、影の身体に従ふが如く、いづれの土地に到るも離れたることなかりける。
 大空に一点の雲もなく、月は皎々として東の野辺の草より昇らせ給ひ、星は黄金白銀の光りを御空一面にまたたかせ、えも言はれぬ眺めなりける。
 麗子はこの大自然の風光に憧れ、ただ一人吾を忘れて水上川の岸辺を下り行けば、清しき水面にうつる月の光り、星のまたたき、川水を銀色に輝かせつつ流るる状態のいとも床しくいとも目出度きに憧れながら、月下の川辺に立ちて歌ふ。

『あなさやけおけ
 天之岩戸も開け放れ
 御空の雲霧かげもなし
 東の御空を見れば十四夜の
 月は昇れり葭原の
 国土の草木をいてらして
 輝く野辺の露見れば
 さながら星の光かも
 水上川を眺むれば
 水は澄みきり澄みきらひ
 静に流るる月の光
 真砂にまがふ星の光
 ああ天国か楽園か
 この光景を吾一人
 見るは惜しけれ父のみの
 父も来ませよ母そはの
 母も来ましてこの眺め
 心ゆくまでみそなはせ
 兄の君なる艶男も
 吾後追ひて来りませ
 ああこの清水川水よ
 生きの生命の輝きか
 汀に香るあやめ草
 月の光に照らされて
 濃き紫のやさ姿
 あざやかなるかも吾兄の
 君の粧ひそのままよ
 吾足下を眺むれば
 やさしき清き撫子や
 黄色に照らふ女郎花
 仙人掌の花あかあかと
 吾立つ川辺に香るなり
 ああ兄の君よ艶男よ』

 かく歌ふ折しも、川底を真昼の如く輝かしながら、ぬつと首から上を水面に現し、歌ふ男がある。よくよく見れば麗子が歌中の人物、艶男の兄であつた。
 麗子は余りの不思議さと嬉しさとに、川中に裳裾からげて飛び入らむとしたが、片足をさし入れた刹那、脛もきれるばかりの冷たさに驚き、元の岸辺に馳せ上り、茫然として男の顔を眺めゐたりき。これはその実麗子が兄ではなく、この湖底に潜む竜神族の王であつた。
 竜神の王は如何にもして国津神をとらへ、これと嫁ぎて人面竜体を脱し、国津神同様の子を産まむことを思索してゐたのである。しかしながら、水中にある竜体は底の藻草をもつて包まれたれば、さながら青き着物を着たる如く麗子の目に見えてゐる。
 麗子は日頃恋ひ慕ふ艶男と思ひつめ、嬉しさと愛しさとの声をしぼりて歌ふ。

『天晴れ天晴れ
 御空は清し月清し
 星の光はさやかなり
 かかる畏き天空を
 そのままうつし浮べたる
 玉耶の湖の清しさよ
 その清しさの真中に
 高くそびゆる伊吹山
 いぶきの狭霧早や晴れて
 天もあざやか地もうらら
 吾恋ひまつる兄の君は
 この湖に何時の間に
 遊び給ふやいぶかしし
 如何に清けく澄めるとも
 この湖の水底は
 吾足さへもきるるかと
 思ふばかりの冷たさに
 吾は震ひをののきぬ
 如何にして汝は何時迄この水に
 浸り給ふかいぶかしや
 はや上りませ陸の上に
 如何に水面は清くとも
 花咲き満つる陸の眺めに
 如何でしかめやうららなる
 地上に早く上りませ
 懐しの君恋しき君よ早や来ませ
 いとしき乙女ここに在り
 愛しき乙女ここに在り
 はや上らせよ兄の君よ』

と力限りに歌ひながら艶男の上陸をうながしてゐる。水中の男はこれに答へて、

『なつかしの麗子の君よ妹よ
 汝と吾とはとこしへに
 この葭原の国中に
 玉の緒の生命ながらへて
 百年千年八千年も
 生きて栄えて果てしなく
 伊吹の山の主となり
 この地の上に天国を
 建てむと思ふ真心に
 汝に先き立ち今ここに
 吾は来つるよこの水は
 心のままに変るぞや
 冷たき心持つならば
 この川水は冷ゆるらむ
 あつき心を持つならば
 これの湖水はあつからむ
 熱くもあらず冷たくも
 なくて楽しく今吾は
 汝を迎へむ竜の都へ
 心はげまし水中に
 飛び入りませよ麗子の君よ』

 かく歌ひながら麗子の入水をうながしてゐる。麗子は恋しき兄の、言葉を尽しての招きに心はをどり、忽ち水中に飛び込まむかと思ひしが待てしばし、腑に落ちぬ事あり。常に水中をきらはせ給ふ兄の君が、かかる冷たき水中に全身を没し、顔のみを上げて安々と言葉をかけさせ給ふはただ事ならじ。或は竜神の化身ならむかと、うつぶして思案にくれてゐる。水中の男は艶男の声そつくりにて、

『天晴れ天晴れ
 御空は晴れて月あかし
 玉耶の湖水は底ひまで
 澄みきらひつつ大空の
 月をうつせり千万の
 星を流せり汝が眼には
 天津御国の荘厳を
 うつして清しき玉耶湖の
 水はゆるやかにして香りあり
 何をためらひ給ふぞや
 妹背の契り今ここに
 汝と結ばむ厳御霊
 瑞の御霊の仲立に
 清く清しき夫婦仲
 いざや来らせ給へかし』

 麗子は磯辺に立ちて歌ふ。

『兄の君の仰せはよしと思へども
 家にのこせしちちのみの
 父の許しのなき身とや
 ははそはの母の心もまだわかぬ
 今日の吾等の如何にして
 嫁ぎの道をつとむべき
 如何に恋しき君なればとて
 父と母との許しなく
 たとへ御許しありとても
 この広き葭原の国土に
 せまき水面に嫁ぐべき
 何はともあれ垂乳根の
 家に帰りて定むべし
 陸地に上らせ給へかし』

 かく互に、水中に飛び込めよ、上陸せよ、と兄妹が水陸両方面からかけ合つてゐる。
 かかる所へ一天にはかにかき曇り、闇の塊は四辺に落下し、咫尺暗澹、波狂ひ立ちて優しき乙女の心は、狂はむばかりなりにける。忽ち暗中より一塊の火光現るよと見る間に、艶男と見えし男は人面竜身と変じ、乙女の体をひつ抱へ、水上高く捧げながら湖中に浮ぶ伊吹山の方面さして逃げ去りにける。

 竜神の化身に乙女はとらへられ
  行き方知れずなりにけらしな

(昭和九・七・一六 旧六・五 於関東別院南風閣 谷前清子謹録)



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