出口王仁三郎 文献検索

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原著名出版年月表題作者その他
物語78-4-221933/12天祥地瑞巳 歎声仄聞王仁三郎参照文献検索
キーワード: 物語
詳細情報:
場面:
巌島
あらすじ
 朝香比女の神一行の舟は東北に向かって進む。すると、浮島の方から荒浪を押しわけながら、多角多頭の大悪竜が、数万トン級の船が走るような凄じい勢いで進んで来る。それはゴロスやグロノスではなく、八岐大蛇であった。
 朝香比女の神が「舟よ広くなれ大きくなれ」と歌うと、舟は上下前後左右に拡がり、堅い岩山のようになった。八岐大蛇は大舟には対抗できないと、水中に姿を隠した。そこで、朝香比女の神は言霊を宣ると、海水は忽ち熱湯のように煮えくり返り、八岐大蛇は熱湯に焼かれて、全身糜爛れ、もがきき苦しみ、海上をのたうち廻り、ついには死体となって、赤い腹部を現わし、水面に浮び出た。
名称
朝香比女の神 天晴比女の神 初頭比古の神 起立比古の神 立世比女の神 八岐大蛇
国津神 グロノス ゴロス 曲津見
葦原の国 天津祝詞 万里の島
 
本文    文字数=9298

第二二章 歎声仄聞〔一九七八〕

 朝香比女の神の一行はグロノス、ゴロスの化身なりし巌島の邪神を生言霊の光に島もろとも焼き尽し給ひ、春風のそよろに渡る万里の海原を、舳を東南に向け悠々進ませ給ひける。
 初頭比古の神は御歌詠ませ給ふ。

『くさぐさの曲の艱みを放りつつ
  御舟やうやく安くなりける

 晃々と浪を照らして天津日は
  春の海原のぞきたまへり

 目路の限り万里の海原に霞立ちて
  風暖かき浪路楽しも

 黒雲に海原包み浪立てて
  グロノス、ゴロスは猛びたるかも

 グロノスもゴロスも公の功績に
  逃げ失せたるぞ勇ましかりけり

 海底に遊べる小魚の姿さへも
  透き通り見ゆ清しき今日なり

 わが公の御供は楽し言霊の
  水火の光を居ながら拝しつ

 万里の島と葦原の国土を拓きまして
  公が渡らす万里の海原

 月も星も白く輝く海原に
  立つ白浪は陽に耀へる

 月と日と星の光に守られて
  吾行く舟は恙あらじな』

 起立比古の神は御歌詠ませ給ふ。

『楽しさの限りなるかも吾公の
  御舟に曲のたはむれ見る今日

 生島ゆ島に渡らふ水鳥の
  翼は白く浪にうつれり

 水底を飛びたつごとく思はれぬ
  澄みきらひたる水鳥の影は

 仰ぎ見る鷹巣の山は紫の
  雲漂ひて日影は高し

 曲津見は戦ふたびに破れつつ
  西方の空に消え失せにけり』

 立世比女の神は御歌詠ませ給ふ。

『白馬ケ岳は雲に霞みて空の奥に
  もやもや燃ゆる白雲のどけし

 白雲は天津日の下をよぎりつつ
  この海原に影を落せり

 遠の海は青く見えつつ目路近き
  浪は白々輝けるかも

 鷹巣山は白馬ケ岳に比ぶれば
  澄み渡りつつ高さ及ばず

 吾伊行く浪路遥けく守りませ
  主の大御神鋭敏鳴出の神

 公が旅を安く守りて鋭敏鳴出の
  神は折々唸らせたまふも

 御光の神の出でます海原に
  遮らむ雲は忽ち消ゆるも

 海中の岩に浪の秀突き当り
  白き飛沫は高のぼりつつ

 白浪は飛沫となりて高のぼり
  再び水に落つるさやけさ

 次ぎ次ぎに飛沫立ちつつまた消えつ
  今日の浪路の風静かなり』

 天晴比女の神は御歌詠ませ給ふ。

『天も地も隈なく晴れし海原の
  旅行く今日の穏かなるも

 帆を揚げず艫櫂用ゐぬ磐楠舟の
  進むは神の功なりけり

 何事も神の心に任せたる
  公の御舟は安く進むも

 海鳥の啼く音か国津神等の
  叫びか仄かに響き渡らふ

 東北の浪に浮べる島ケ根ゆ
  怪しき声は響き来らしも』

 朝香比女の神は御歌詠ませ給ふ。

『浪の秀を渡り聞ゆる声は悲し
  国津神等の叫びなるらむ

 とにもあれ角にもあれや声すなる
  島に向ひて吾は進まむ』

 かく歌はせ給ふや、御舟は心あるものの如く、思ふ舳を東北に変じ、波上に霞める島影さして進み行くこそ不思議なる。
 初頭比古の神は御歌詠ませ給ふ。

『天地の神の心か吾舟は
  神言のまにまに方向をかへたる

 風の方向変りて公が御舟は
  東北の島をさして流るる

 彼方此方と水面に峙つ巌ケ根は
  草木も生ひず赫々映ゆるも

 荒風に立ち騒ぎたる浪頭の
  島を洗ひしあとにやあらむ

 島影も次第々々に近く見えて
  歎かひの声高まりにける

 片時も疾く速やけく御舟の
  御行待つらむ歎かひの声は』

 起立比古の神は御歌詠ませ給ふ。

『仄見ゆる島は広しも曲津見に
  歎かふ神の声にやあらむ

 曲津見は島より島に渡らひて
  荒び狂ふかこれの神世に』

 立世比女の神は御歌詠ませ給ふ。

『歎かひの声は次ぎ次ぎ高まりぬ
  進めよ進め御舟よ速く

 海原を右や左ととび交ひて
  御舟を守る水鳥の影

 水鳥は空を真白に染めながら
  歎きの島ゆ飛び立てる見ゆ

 グロノスやゴロスの曲津の片割の
  国津神等を艱ますなるべし

 西南の風は力を増しにつつ
  公が御舟の進みは速し』

 天晴比女の神は御歌詠ませ給ふ。

『歎かひの声は水鳥ならずして
  神の御声と吾も思へり

 束の間も早く御舟よ進みませ
  歎きの島を救はむがために』

 朝香比女の神は島影の近づきしを打ち眺めながら、

『曲神に艱まされたる国津神の
  最後の際の叫びなるらし

 主の神の御稜威畏み片時も
  疾く進まなむ島の岸辺に

 ただならぬ百神等の歎き声
  いやますますも高まりにつつ』

 かかる折しも、浮島の方面より荒浪を押しわけながら多角多頭の大悪竜、幾千丈とも限りなく、浪飛沫を立て、此方に向つて数万噸級の船の走るが如き凄じき勢にて進み来るあり。
 朝香比女の神はこの光景を打ち見やり給ひつつ、

『グロノスにあらずゴロスにあらずして
  正しく八岐の大蛇なりける

 吾舟をただ一口に葬らむと
  勢強く進み来るなり

 舟よ舟よ広くなれなれ大きくなれよ
  八岐大蛇の数百倍となれ』

 かく歌はせ給ふや、磐楠舟は次第々々に上下前後左右に膨れ拡ごり、堅き事岩の如く、忽ちその形山の如くなりければ、初頭比古の神は余りの不思議さに驚き給ひて御歌うたはせ給ふ。

『今更に公の御稜威の畏さを
  思ひて吾は心戦く

 八岐大蛇来向ふ影に驚きつ
  更に御稜威に畏みしはや

 天界は意志想念の世界とは
  かねて知りつつ今更驚きぬ

 かくならば八岐大蛇も何かあらむ
  御舟の舳に截り放るのみ』

 起立比古の神は御歌詠ませ給ふ。

『進み来る大蛇の勢強くとも
  公の御舟に対ひ得べしや

 山のごと弥拡ごれる御舟に
  乗れる吾身も大きくなりぬ

 吾身体次第々々に太りつつ
  無限の力備はりしはや』

 かく歌ひ給ふ折しも、多角多頭の大蛇は御舟間近く進み来り余りの大船に驚きにけむ、大口を開き鎌首を立てたまま、さも無念さうな面持にて、ざんぶとばかり水中に怪しき姿をかくしける。茲に朝香比女の神は、臍下丹田に魂を鎮め、天に向つて合掌し、天津祝詞を奏上し、生言霊を宣らせ給へば、海水は忽ち熱湯の如く煮え返り、八岐大蛇は潜むに由なく且熱湯に焼かれて全身糜爛れ藻掻き苦しみ、海上をのたうち廻り、遂には死体となりて赤き腹部を現はし、水面に浮び出でたり。立世比女の神はこの状を見て、

『あはれあはれ公の言霊幸はひて
  大蛇は脆くも亡びけるかな

 潮水は沸き返りつつ湯気立ちて
  大蛇は遂に滅びけるかも

 百旬に余る大蛇の遺骸は
  浪の上赤く浮べる凄さよ

 物凄き形相なして迫り来し
  大蛇はあへなく身亡せけるかも

 大蛇神よ今日より御魂を立て直し
  再び神と蘇り来よ』

 天晴比女の神は御歌詠ませ給ふ。

『奇びなる朝香の比女の神言に
  磐楠舟は拡ごりにけり

 膨れ膨れ太り太りて極みなく
  公の御舟は巌となりける

 常巌の堅き御舟もかろがろと
  進みゆくかも歎きの島に』

 朝香比女の神は御歌詠ませ給ふ。

『曲津見の醜の大蛇は亡びたり
  歎きの島は蘇るべし

 黄昏に近づきければ吾舟は
  歎きの島に急ぎ進めよ』

 かく宣らせ給ふや、御舟は一潟千里の勢をもつて黄昏近き海原を進み行く。

(昭和八・一二・二五 旧一一・九 於大阪分院蒼雲閣 加藤明子謹録)



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