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物語72-99-11926/07山河草木亥 筑紫潟王仁三郎参照文献検索
キーワード: 物語
 
本文    文字数=16651

霊界物語 特別篇 筑紫潟

 世は烏羽玉の闇となり  山河草木ことごとく
 言問ひさやぐ世の中を  常磐堅磐の松の世に
 治めむためと厳御魂  天津御神の御言もて
 豊葦原の瑞穂国  綾の高天に天降りまし
 至善至美なる御教を  蒼生に説き諭し
 朝は東夜は西  南船北馬の難を越え
 神の稜威も伊都能売の  天津誠を宣べませど
 悪に溺れし世の中は  神の言葉に服はで
 力かぎりに刃向かひつ  沐雨櫛風の苦業さへ
 水泡に帰せむとなせしをり  天津御神は畏くも
 厳の御霊の杖柱  珍の御教を助けむと
 瑞の霊を下しまし  瑞穂の国の中心に
 高天原を築かせつ  経と緯との機をおり
 心も清き紅の  錦の教を垂れたまふ
 手段となして畏くも  明治は二十五年より
 天津御神の御心を  筆に写して詳細に
 蒼生に教へます  その神文を一々に
 清書せよと命ぜられ  飛び立つばかり勇み立ち
 止め度もなしに慢心の  階段えちえち攀ぢ登り
 神の見出しに預かりし  吾こそ真の信仰と
 心の黒き黒姫が  神書の心をとり違へ
 瑞の霊の宣り言を  残らず曲と貶しつつ
 小北の山に巣ぐひたる  ウラナイ教の偽教主
 鼻高姫ともろともに  魔我彦誘ひ聖地をば
 後に見捨てて出でてゆく  いよいよ陰謀七八分
 成功なさむとせし時に  瑞の霊は厳かに
 天の岩屋戸押し開き  天地に塞がる叢雲を
 伊吹払ひに払ひまし  御空は忽ち五色の
 祥雲棚びき日月の  清き光に曲神の
 頭を忽ち射照らせば  黒姫身魂に巣食ひたる
 常世の国の曲神は  汚れし身体ぬけ出だし
 力も落ちて身体は  忽ち神の冥罰を
 被り百日百夜の  修祓うけて敢なくも
 命の親と頼みたる  高山彦を残しおき
 黒白も分かぬ烏羽玉の  暗き黄泉路に旅立ちて
 八衢街道の四つ辻に  鼻高姫の精霊と
 出会し種々の物語り  天国地獄の問答を
 いと諄々とはじめける  その経緯を瑞霊
 或夜の夢に八衢に  精霊出でて聞き取りし
 一伍一什の顛末を  ここにあらあら述べ立つる
 時は昭和の第二年  新の十月十九日
 神に心を筑紫潟  肥前の国の島原の
 南風楼の二階の間  北極星を枕とし
 加藤明子に筆とらせ  口解きたる物語
 述ぶるも楽し惟神  神のまにまに始めゆく
 ああ惟神々々  御霊幸はへましませよ。

 天地寂然として黒雲みなぎり、濃霧は四辺を包み、昼なほ暗き夜のごとくにして咫尺を弁ぜず、蒸し暑き嫌らしき悪臭を帯びたる空気身辺を襲ふ。八万地獄の草枕、旅に出で立つ黒姫の曲の精霊は、ただ一人小声に呟きながら、なほ現界に吾が肉体のあるものと信じ、
黒姫『いよいよ世の終末は近づけり、日月天に輝けども、世道人心紊乱の極に達し、中空に妖雲起りて、下万民飢渇に苦しむ。時は今なり時は今なり、妾こそは、厳の霊の恩命を拝し、この暗黒の世をして、光明世界に転換すべき大責任を双肩に担へり。アア高山彦は、何を苦しみてか躊躇逡巡する、日の出の神の肉の宮、高姫司は何処にありや。神諭にいふ世の終りの時至らば、至誠至実の神柱三人あればかなりと聞く、その三人とは、竜宮の乙姫殿の肉の宮この黒姫の身魂をはじめ、日の出の神の肉宮とあれます小北山の高姫司、高山彦をおきて外に誠の神柱は世に非じ、アア思へば思へば吾が身魂の責任の重かつ大なる、古今その比を見ず、東西その例を聞かず。変性女子の身魂と自称せる彼贋神柱が末路を見よ、彼が光は螢火にも如かず、彼もし真の瑞霊なりせば、この世の終末に際し一大火光となりて、せめては地上の低空を飛翔往来し万民の目を醒ませ、神聖の神国を樹立すべきに非ずや。口先ばかりの瑞霊、その影の薄きこと、冬の夕日に如かず。アア至れり至れり、吾が願望の成就の時期、高姫来たれ、高山彦、吾につづけ』
と呼ばはりながら、木枯荒ぶ茅野原を、神官扇を右手に持ち、左手にコーランを携へて、八衢街道の入口に、かかるをりしも向かふより、脛も現はにいそいそと、金剛杖をつきながら、髪ふり乱しだん尻を、ぷりんぷりんと右左、振舞ひながらやつて来る。女は言はずと知れた小北山、日の出の神と自称する高姫司の精霊ぞ。
高姫『マアマアマアマア、黒姫さまぢやないかいな。ここはどこぢやと思つてゐますか。生前に日の出の神の言ふことを、半信半疑の態度で聞いてゐたものだから神罰は覿面、お前さまはこれから地獄の旅に向かふのぢやないか。生前には比較的豊満の霊衣もすつかりと剥脱され、形ばかりの三角形の霊衣を額に頂いてゐるスタイルは、まるきり地獄の八丁目を歩いとる亡者ですよ。アアもう今となつては、この日の出神の生宮もお前さまを助けるわけにはゆきませぬわ、マアマアマア、えらい事になりましたなア』
と目を丸うし、口を尖らして名乗りかけた。
黒姫『どこの乞食婆がやつて来るのかと思へばお前さまは高姫さまぢやないか、このごろは天地暗澹として四辺暗く、空気が悪いので、まあまあ気の毒な、持ち前の病気が出て発狂しなさつたのだらう。ちつと確りしてもらはぬと竜宮の乙姫の肉宮も困るぢやありませぬか。ホホホホ、あのまあ小むつかしいスタイルだこと、こんなことを大将軍様にお目にかけたら、千年の恋も一度にさめますぞや』
『ほつといて下さい、黒姫さま。お前さまは聖地において慢心した結果、日出神の教に背き、神罰を蒙つて百日百夜の修祓を受け、筍笠のやうに骨と皮とになつて、お国替へをなさつたのぢやないか。それでもまだ現界に生きてゐるつもりですか。何とまあ慢心した身魂の迷うたのは可憐さうなものだなア。アア底津岩根の大ミロク様、この黒姫さまも一度は竜宮の乙姫の肉の宮まで勤めた神界の殊勲者ですから、如何なる罪がありませうとも、神直日大直日に見直し聞き直し、どうか地獄行きだけはお許し下さいまして、せめては第三天国の入口までなと上げてやつて下さいませ、惟神霊幸はへませ』
と両眼より玉の涙を滴らせながら、天に向かつて合掌する。
黒姫『高姫さま、確りして下さい。決してこの竜宮の乙姫は死んだ覚えはございませぬよ。お前さま余り慢心が強くて信仰に酔つ払つたものだから、これほどピチピチしてゐる私を亡者と間違へてゐるのですよ。なるほど百日百夜の修祓を受けたのは事実です、しかしまだ死んだ覚えはありませぬ。かう常暗の世の中となつては、世界万民を助けるために、底津岩根の大ミロク様の神柱、日出神の生宮を兼たお前さまが確りしてもらはなくちや、どうしてミロクの世が建設せられませう。お前さまは、あまり大将軍さまに現を抜かし、恋に眼が眩んで千騎一騎のこの場合になつて呆けたのでせう。アア高姫さま、気の毒な方ぢやなア、伊都能売の大神様、天の大ミロク様、三千世界の人民が可憐さうと思召すなら、どうぞこの高姫さまの狂人を本心に立ち直らして下さいませ、高姫さまさへ元の正気にお帰りなされば私の肉体はいつ国替しても構ひませぬ』
高姫『あーあ、仕方のないものぢやな。これほど言うても黒姫さまの精霊殿は判らぬのかいな。エエぢれつたい、惟神霊幸はへませ』
黒姫『アア高姫さまも判らぬやうになつたものぢやなア、長らく聖地を離れて小北山に陣どり、鰯の昆布巻になつてゐるものだから、肝腎の時に、発狂してしまつたのだらう。生きてゐるか、死んでゐるか、見分けのつかぬやうになつては、神柱も何もあつたものぢやない。アア気の毒だなア』
   ○

高山彦『朝日は照るとも曇るとも  月は盈つとも虧くるとも
 たとへ大地は沈むとも  曲津の神は荒ぶとも
 誠の心にや叶はない  小北の山より遥々と
 高姫さまや黒姫が  山川千里を越えながら
 幾十回と限りなく  足を運びし熱誠に
 つい動かされ老骨を  ひつさげながら神界の
 御用の端に仕へむと  妻子を後に振捨てて
 浪花の里に流れ入り  花柳の巷も厭ひなく
 神のおんため道のため  烏のやうな黒姫を
 老後の妻と定めつつ  小北の山に往きかへり
 贋の教と知らずして  日の出神と自称する
 高姫さまの筆先を  一字も残らず読みつくし
 その収穫は五里霧中  荒野を彷徨ふ心地にて
 三年四年と過ぎけるが  皇大神の御心に
 背きしためか黒姫は  百日百夜の苦しみを
 身に受けながら淋しげに  吾を見捨てて神去りぬ
 さは去りながら人間は  神代の昔の因縁を
 持ちて生れしものなれば  いかに汚き黒姫も
 吾が女房と諦めつ  くだらぬ教を謹みて
 聞きゐたるこそ嘆てけれ  今日は吾妹が昇天の
 百日祭になりぬれば  心の手向をなさむとて
 霊の鎮まる奥津城に  花供へむと進むなり
 黒姫はたして霊あらば  吾に一言今までの
 誤解を謝せよ天地の  神の御前に平れ伏して
 神に背きし罪業を  悔い改めて根の国や
 底の国なる苦しみを  よく助かれよ惟神
 神は汝と共ならば  必ず地獄の苦を逃れ
 天津御国に安々と  神の助けに昇るべし
 ああ惟神々々  頓生菩提黒姫よ
 後に残りし吾が命  あまり惜しくはなけれども
 自殺をなせば天の罪  自然に死して汝が後を
 慕ひて行かむその日まで  身魂を研いて天国の
 神の御苑に復活し  半座を分けてわれ待てよ
 汝が昇天せし後は  一人くよくよ老の身の
 淋しさ勝る冬の夜  衣は薄く歯はふるひ
 足もわなわな行き艱む  この窮状を憐れみて
 国治立の大御神  一日も早く黒姫が
 御後を追はせ給へかし  ああ惟神々々
 御霊の恩頼を願ぎまつる』  
 かく歌ひながら  高山彦の精霊は
 枯草茂る荒野原  杖を力にとぼとぼと
 八衢さして進み来る  黒姫見るより狂喜して
 黒姫『お前は吾が夫高さまか  何処にどうしてござつたの
 合点のゆかぬ事ばかり  日の出神の生宮の
 高姫さまが発狂して  私を亡者と誤解する
 百万言を尽せども  心の狂うた高姫は
 私の言葉は糠に釘  豆腐に鎹応へなく
 如何はせむと思ふをり  かすかに聞こゆる吾が夫の
 声を力に佇めば  まがふ方なき吾が夫と
 知りたる時の嬉しさは  百万人の味方をば
 得たるがごとく思ひます  日の出神の生宮の
 高姫さまよよつく聞け  高山彦のハズバンド
 ここに現はれます上は  私が亡者になつてるか
 あなたが発狂してをるか  いと明白に分るだろう
 まさかの時の助け舟  アア天道は人を殺さない
 アア有難し有難し  吾が夫さま』と縋りつく
 高山彦は仰天し  
 『これやこれや黒姫迷ふなよ  お前はこの世の人でない
 百日百夜の病ひに  天命つきて現界を
 後に見捨てて行つた者  誤解するな』とたしなめば
 高姫鼻をつんとかみ  いとも急はしき口元で
 『高山彦がよい証拠  お前は亡者に違ひない
 早く神言奏上し  地獄の関門突破して
 天国浄土に行くがよい  高山彦に執着を
 のこしちやならぬ黒姫さま  左様ならば』と背を向けて
 一目散に駈け出せば  骨と皮との瘠腕を
 グツと伸ばして黒姫が  鼻高姫の後ろ髪
 むんずと捉んで引き戻す  高姫地上に転倒し
 『アアいやらしや いやらしや  亡者になつてもこの通り
 執着心の深い婆々  地獄に落つるは当然
 日の出神は知りませぬ  これから高山彦さまに
 とつつき散々愚知こぼし  なんなら冥途の道づれに
 伴れて行かんせ左様なら』  
 悪垂口を叩きつつ  また逃げだすを黒姫は
 頭に角を立てながら  線香のやうな手を出して
 襟髪グツと引き戻す  高姫ふたたび地の上に
 転倒したるその刹那  姿は煙と消えにけり
 高山彦はゾツとして  身慄ひしながら逃げ出せば
 またもや黒姫後を追ひ  
 『悪性男のハズバンド  この黒姫の黒い目を
 ぬすんで日出の生宮と  甘い約束したのだらう
 許しはせない』と言ひながら  氷のごとき冷やかな
 拳を固めて打ちおろす  全身汗にしたりつつ
 高山彦は手を合せ  
 『黒姫しばらく待つてくれ  三千世界にお前より
 外に増す花持たぬぞや  さはさりながら果敢なくも
 散り行く花は是非もなし  汝が後をばおはむかと
 天地の神に願ひても  業因未だ尽きざるか
 死ぬにも死なれぬ身の苦衷  察してくれよ黒姫』と
 両眼涙をたたへつつ  ことわけすれど黒姫は
 白髪頭を横にふり  皺涸れ声を張りあげて
 『悪性男のハズバンド  黒姫愛想が尽きたぞや
 鼻高姫の後を追つて  尻の世話でもするがよい
 煩さい親爺』と言ひながら  悋気の角をふりたてて
 夜叉のごとくに駈け出だす  かかるをりしも天空に
 天津祝詞の声聞こえ  梅の花片ちらちらと
 四辺におちて香ばしく  いと爽かな音楽に
 つれて紫雲をわけながら  気高きエンゼル悠々と
 下り来るよと見る中に  黒姫姿は後もなく
 煙と消えて室内に  眼くばれば高姫が
 黒姫霊璽の前に座し  片言交りの祝詞をば
 奏上しながら涙ぐみ  ぶつぶつ小言を言ひゐたり
 高山彦は夢さめて  ホツと一息つきながら
 鼻高姫の親切を  心の底より感謝しつ
 庭に出づれば大空に  皎々輝く望の月
 心も広く伏し拝み  感謝の祝詞を奏上し
 小北の山へと進み行く  ああ惟神々々
 御霊の恩頼ぞ畏けれ。  

(昭和二・一〇・一九 長崎県島原町南風楼にて 加藤明子録)



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