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物語72-3-221926/07山河草木亥 妖魅帰王仁三郎参照文献検索
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第二二章 妖魅帰〔一八三一〕

 スガの宮の神司玉清別を初め、天人のやうな三人の美人が千草の高姫と問答の結果、放逐されたといふ評判が、スガの町をはじめ近在近郷まで電のごとく俄かに拡がつてしまつた。それゆゑスガの神館は押すな押すなの大繁昌、立錐の余地なきまで参詣者が集まつて来た。宗教問答所の看板は矢張り以前のまま掲げられ、ただ違つたところはヨリコ姫の名が千草の高姫と書き替へられたばかりである。智仁勇の三徳を備へたとばかり町人の評判になつてゐたヨリコ姫を、説き伏せるやうな千草の高姫は、どんな偉い奴かも知れないといふので、看板はあつても問答せうといふものは一人もなかつた。妖幻坊は例のごとく離棟の室に固く錠を卸して昼の中は眠つてゐる。
 コオロ、コブライの二人は偵察隊として朝未明より入り来たり玄関に立ち塞がり、「頼まう頼まう」と呼ばはれば、悠然として現はれ来たる千草の高姫は、

『玄関に頼むと声をかけゐるは
  誰が命か聞かまほしさよ』

コオ『吾こそはスガのお宮に詣できて
  看板を見て問答せむと思ふ』

コブ『吾とても宗教問答所の看板を
  見て腹が立ち君を訪ひけり』

高姫『面白し睡けさましに汝二人
  吾が言霊に薙ぎふせて見む』

コオ『偉さうにおつしやりますな照月に
  黒雲かかるためしこそあれ』

コブ『如何ほどに知恵さかしとも女の身
  太い男に勝ち得べきかは』

高姫『男てふ衣被りしこけ女
  なにかはあらむ一時に来よ』

コオ『今しばし待つてござれよ眩ひする
  やうな珍事が突発するぞや』

コブ『何なりと吐いてござれ今しばし
  汝が断末魔近くありせば』

高姫『見る影もなき木わつ葉が玄関に
  立ちてたはごと吐くをかしさ』

コオ『高姫よしばらく待てよ汝こそは
  見る影もなきやうにしてやる』

コブ『えらさうに言つても一寸先見えぬ
  曲津の盲哀れなるかな』

高姫『朝早く神の館に乗り込んで
  縁起の悪い口を開くなよ』

コオ『おのが尻つめつて人の痛さをば
  知らぬ愚か者あはれなりけり』

コブ『身も魂も痺れ果てたる曲津身は
  刃にさすも耐へざるらむ』

高姫『訳もなきことをベラベラ吐くより
  便所の掃除なりとせよかし』

コオ『スガ山の塵吹き払ふ大掃除
  日のある中にはじめてくれむ』

コブ『神々がいよいよ表に現はれて
  狸の尻尾露はして見む』

高姫『何をいふ狐狸の身魂奴が
  誠の神の前恐れぬか』

コオ『間男か真の神か知らねども
  どこやら臭い糞の香ぞする』

コブ『臭いはず千草の姫と言ふぢやないか
  鼻高姫よ鼻を折られな』

高姫『吾こそは高天原より下りしゆ
  名を高姫と言ふぞ尊き』

コオ『何ぬかす訳も知らずに偉さうに
  頬桁たたく事のをかしさ』

コブ『この女郎妖幻坊の妖怪に
  現をぬかす馬鹿女かも』

高姫『やかましい玄関先でつべこべと
  恥を知らぬか木わつ葉武者ども

 神館わけの分らぬ奴が来て
  吾が魂を汚がさむとぞする』

と言ひながらスタスタと踵を返し奥に入る。

コオ『これや女俺が怖くて逃げるのか
  どこどこまでも追つて往くぞや』

コブ『面白いとうと尻尾をまきやがつた
  奥の一室にふるてゐるだろ』

 二人は執念深くも玄関をつかつかと上がり、問答席に入つて見ると高姫は怪訝な顔して問答席に控へゐしが、二人の姿を見るより、

『どこまでも礼儀を知らぬ馬鹿男
  許しも得ずに奥に入るとは』

コオ『天地の神の道をば知らずして
  図々しくも聖地に居るとは

 魂消たよおつ魂消たよ千草姫
  見ると聞くとは大違ひなる』

高姫『何なりと勝手な熱を吹くがよい
  分らぬ奴は相手にはせぬ』

コオ『甘い事いうて逃げるか千草姫
  どこどこまでも調べにやおかぬ』

コブ『今日の中金毛九尾の正体を
  現はしくれむあら頼もしや』

高姫『奴ども早く帰れよ神館
  汚せば神の冥罰うけむ』

コオ『甘いこと言うておどすか千草姫
  尻が呆れる雪隠がをどる』

コブ『糞婆のくせにお白粉べつたりと
  化けてゐやがる金毛九尾奴』

高姫『貴様らは館を汚しに来たのだろ
  何とも言へぬ臭い香がする』

コブ『知れたこと道場破りをおつぱじめ
  尻尾出すまで戦ひ止めぬ』

高姫『これはまた困つた奴が来たものだ
  青大将奴線香立てよか』

コオ『蛇が蛙ねらつた時のごとく
  呑んでしまはにや帰りやせないぞ』

コブ『山鳩が豆鉄砲を食つたよな
  面してふるふ高姫をかし』

高姫『何なりと悪口雑言つくがよい
  言霊幸はふ国と知らずに』

コオ『言霊の幸はふ国と知ればこそ
  悪の言霊打ちやぶるなり』

コブ『言霊を打ち出だしつつ高姫の
  醜の肝玉うち抜きて見む』

高姫『笑はせる線香のやうな腕をして
  打つも打たぬもあつたものかい』

コオ『なかなかに俺は容赦は線香の
  煙となつて燻べてやらう』

コブ『煙たげな顔して慄ふ千草姫
  灸すゑられ汗をぶるぶる』

高姫『胡麻の蠅見たよな奴がやつて来て
  酒手貰はうと息まいてゐる』

コオ『汝こそは逆手使うて聖場を
  奪い取つたる曲者ぞかし』

コブ『逆さまになつて謝わるところまで
  動きはせぬぞ二人の男は』

高姫『このやうな訳の分らぬ代物に
  問答するのは嫌になつたり』

コオ『否応を言はさず館につめかけて
  荒肝取らねば帰るものかい』

コブ『それやさうぢやコオロお前の言ふ通り
  膏を取つて誡めてやらう』

高姫『油虫朝も早から這うて来て
  神の燈明消さむとぞする』

コオ『お前こそ神の燈明消す奴よ
  暗い心の醜神司』

コブ『このやうな訳の分らぬ妖婆をば
  相手にせずにもう去のうかい』

高姫『これや奴たうとう往生しよつたな
  高姫さまの威勢に怖ぢて』

コオ『もう帰のと思へばまたも貴様から
  小言いふ故また一戦せむ』

コブ『瓢箪で鯰おさへるやうな奴
  いつまで居ても果しあるまい』

高姫『そろそろと奴が弱音吹きかけた
  知恵の袋の底も見えたり』

コオ『何吐かす知恵は幾らもあるけれど
  受取る力汝にない故』

コブ『相応の道理によつて馬鹿者には
  馬鹿を言ふより道もなければ』

高姫『負け惜しみ強いと言つてもほどがある
  餓鬼畜生さへ呆れて逃げむ』

 かく、くだらぬ掛合ひをやつてゐるところへ、大勢の老若男女が捻鉢巻して歌を歌ひながら、神前に奉ると称し山車を曳いて登つて来る。高姫はこの光景を見て鼻うごめかし、得意満面の体で表を眺めてゐると、一昨日叩き出したヨリコ姫、玉清別、花香、ダリヤ、アル、エスおよびイルク、その他三五教の宣伝使の一行が、美々しく衣服を着かざり、鬱金の捻鉢巻をしながら、問答所の広庭へ山車を留め、どやどやと玄関口に上がり、
ヨリコ『これはこれは千草の高姫様、一昨日は妾に取つて終生忘るべからざる結構な御教訓をたまはり、翻然として蓮の花の開くがごとく、天地の道理を悟らしてもらひました。汚れはてたる身でございますがお礼のため、この通り山車に供物まで満載して参りました。花香もダリヤもどうか妾からよろしく申し上げてくれとの事でございます』
 高姫は傲然として、
『善哉善哉、改心が何より結構ですよ。お前さまも折角ここまで聖場を造り上げ、おつ放り出されて、さぞ残念でございませうが、一旦創のついた体は至粋至純な大神様の御用は出来ませぬから、お気の毒とは思へども、これも前世の因縁でせう』
ヨリコ『重ね重ねの御教訓有難うございます。ちよつと妙な事をお尋ね申しますが、貴女はこの聖地の神司とおなり遊ばした以上、一点の身に曇りはございますまいね』
高姫『お尋ねにも及びますまいよ。この高姫の身に兎の毛で突いたほどでも悪事欠点があつたら、この聖地に安閑と御用をしてゐる事は出来ませぬ。それは天地の規則ですからねえ』
『失礼な事を申し上げますが、人間といふものは知らず識らずに罪を犯してゐるものです。もし貴女に欠点を発見した時は、この聖場をお立ち退き遊ばすでせうね』
『神の言葉に二言はありませぬ。どうか妾の素性に欠点があるならお調べ下さい。いつでもこの聖場を立ち退きますから』
『そのお言葉を承つて、百万の味方を得たやうな心地がします。ホホホホ、花香、ダリヤさま、玉清別さま、アルさま、エスさまイルクさま、また再びこのお館に勤めてもらはねばなりますまい、オホホホホホホ』
とあくまで大胆不敵な態度をして見せる。
 照国別はつかつかと高姫の傍に寄り、
『ヤ、高姫さま、しばらくお目にかかりませぬ、私は照国別の宣伝使でございます』
高姫『ナニ照国別の宣伝使。ヤアお前はウラル教から脱走して来た、ヘボ宣伝使の梅彦ぢやないか。マアマアマア、出世したものだなア。腐り縄でも三年すりや役に立つ、乞食の子でも三年すりや三つになる。お前と別れてから最早十三四年にもなるだらう。まあ結構々々、これから改心して神妙にお勤めなさい。この高姫が弟子に使つて上げまいものでもない』
梅公『ヤ、千草の高姫さま、トルマン城でお目にかかりました者ですよ』
高姫『ハイ、いかにもお前さまは梅公別とかいふ方だつたな、いつ見ても綺麗だこと、どうかお前さまは何処へも行かずこの神館の役員となつて勤めて下さいな』
『ハイ、思召しは有難うございます、何分よろしうお願ひ申します。湖上でお目にかかりました貴方の夫、杢助さまはどちらにゐられますか、一寸お目にかかりたいものでございます』
『ハイ杢助さまは一寸お疲れて、離棟の別館でお寝みになつてゐられます』
『実は貴女の御成功を祝しお祝ひを持つて参りました。この沢山の箱包は杢助様へのお土産、この葛籠は高姫さまへの土産ですから、どうぞ受取つて下さい』
『ヤアどうも有難う、マア何と沢山のお土産だこと。随分沢山のお金がかかつたでせうなア』
『いやどう致しまして、サア、イルクさま、玉清別さま、この箱包は全部皆の方に手伝つてもらひ、杢助さまの別館の前まで運んでおいて下さい。そして合図をしたら一斉に蓋を開けるのですよ』
『ハイ畏りました』
と、村の若者十数人はイルクが監督の下に別館にエチエチ運んでしまつた。梅公別は、高姫の前に葛籠を置き、
『サア、高姫さま、この葛籠を開けてお目にかけませう、貴女に取つて大変な意味あるものかも知れませぬ』
と、意味ありげに笑ひながらパツと蓋を取れば、太魔の島にて真裸となし、追剥ぎをなし、蟻の巣に投り込んだフクエ、岸子の両人が白装束を着てすつくと立上がつた。高姫は打ち倒れむばかり驚いたが、さすがは曲者、気を取り直し、度胸を据ゑ、
『オー、何かと思へば白鷺が一番、妾のためにはこの上もない贈り物、今晩の酒の肴に料つて頂きませう』
 梅公はきつとなり、
『これ高姫殿、お呆けなさるな、この女は太魔の島の銀杏に祈願を籠むるをり、貴女が銀杏姫と名乗り、追剥ぎなさつた事があらうがな、それのみならず計略をもつて二人を蟻の森へ追込み、喰ひ殺させむと計つたでせう。まだその上この梅公までもたばかり、蟻に殺させやうとしたではありませぬか。これでも貴女は身に欠点がないと言はれませうか、サア返答承りませう』
 高姫は答ふる言句もなく、忽ち顔色蒼白となり、唇までもふるはせてゐる。
ヨリコ『モシ高姫さま、あなたもやつぱり追剥強盗をなし、謀殺を企らみ、ずゐぶん善からぬ事をなさいましたね、サア如何です、これでも貴女は完全無欠の身霊とおつしやいますか』
 梅公は合図の口笛を吹けば、如何はしけむ数十頭の猛犬現はれ出で、ワツウ ワツウ ワツウ ワツウと百雷の一時に轟くごとき犬の声、妖幻坊の杢助はたまりかね、正体を現はし、いづこともなく雲を霞と消え去つてしまつた。高姫は進退これ谷まり、白衣をパツと脱ぐや否や、たちまち金毛九尾白面の悪狐と還元し、雲を呼び雨を起し、大高山の方を目がけ電のごとく中空を駈けり姿を消してしまつた。ああ惟神霊幸倍坐世。
 因に言ふ。玉清別は元のごとくスガの宮の神司を勤め、ダリヤ姫は大道場の司となり、アル、エスの両人を掃除番となしおき、ヨリコ姫、花香姫は、照国別一行と共に聖地を去つて宣伝の旅に赴くこととなりける。

(大正一五・七・一 旧五・二二 於天之橋立なかや別館 加藤明子録)
(昭和一〇・六・二五 王仁校正)



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