出口王仁三郎 文献検索

リンク用URL http://uro.sblog.jp/kensaku/kihshow.php?KAN=72&HEN=3&SYOU=21&T1=&T2=&T3=&T4=&T5=&T6=&T7=&T8=&CD=

原著名出版年月表題作者その他
物語72-3-211926/07山河草木亥 大会合王仁三郎参照文献検索
キーワード: 物語
詳細情報:
場面:

あらすじ
未入力
名称


 
本文    文字数=13793

第二一章 大会合〔一八三〇〕

 スガの港の百万長者と聞こえたる薬種問屋の奥の室には、若主人のイルクをはじめ老父のアリスにダリヤ姫、ヨリコ姫、花香姫、門番のアル、エスおよびスガの宮の神司たりし玉清別までが首を鳩めて密談に耽つてゐる。
ヨリコ『アリス様、イルク様、その他皆さまに、妾はお詫をいたさねばなりませぬ。せつかく大枚なお金を出して、立派なお宮を造つて頂き、道場の主とまで任けられまして、身に余る光栄に浴してをりましたが、ツイ妾の慢心より宗教問答所などと看板を掲げたのが災の因となり、妾を初め玉清別様、ダリヤ姫様、および御一門に対し、非常の損害をおかけ致しその罪まことに万死に値いたします。熟々考へますれば、オーラ山に立籠り泥棒の親分とまでなつて悪事悪行を敢行してきた罪深い体、どうして神様のお屋敷に勤めることが出来ませう。折角の聖地もウラナイ教の高姫さまに渡さねばならないやうな破目になりました。これ皆妾の至らぬ罪でございますから、何とぞ何とぞ思ふ存分の御成敗を願ひたうございます』
アリス『ヨリコ姫様、左様なお心遣ひは御無用にして下さい。三万や五万の金を使つてお宮を建てたところで、別に私の宅の財産が傾くといふわけでもなし、一旦、ウラナイ教に渡した以上は是非なしとして、再び以前に幾層倍増した立派な御神殿を造り上げ、ウラナイ教の向かふを張つて見せてやらうぢやありませぬか。なア伜、お前はどう思ふか、老いては子に従へといふ事もあるから、お前の意見に任しておく』
イルク『当家の財産は、もとより罪の固まりで出来たのですから、なにほど立派なお宮を建てても、神様の御用に立たないのは必然の結果です。決して私は惜しいとは思ひませぬ。神様のお許しあれば、当家の財産全部を投げ出して立派なお宮を造りたうございます』
アリス『成程、伜の言ふ通りだ、お前に何もかも一任しておく。皆さま、伜とトツクリ相談して下さい、私は老年の身、失礼いたしまして、離棟で休ましてもらひます』
と座敷杖をつきながら、病みあがりの体を引き摺つて離棟をさして出でて行く。
玉清『私も永年の間神谷村で苦労艱難をいたし、何とかして三五の道を再興させたいものと千辛万慮の結果、当家の発起によつて立派な宮が建て上がり、大神様の神司となり、先祖も業をつむ事になつて大変に喜び勇んで奉仕してをりましたが、モウかうなれば、何とも致し方がございませぬ。私はこれより神谷村に立ち帰り、もとのごとく里庄をつとめ、村民を安堵させてやりませう』
ダリヤ『モシ、玉清別様、あまりお気が短いぢやありませぬか。どうぞしばらく、何とか定るまで待つてゐて下さいませ。やがて間もなく、三五教の宣伝使がお出で遊ばすでせうから、その上トツクリ御相談遊ばしての上のことに願ひたうございますす』
玉清『敗軍の将は兵を語らず、しからば少時お言葉に甘へ、逗留さして頂きませう』
アル『モシ若旦那さま、決して御心配要りませぬよ、キツとあの高姫といふ奴、今に尻尾を出しますからマアしばらく待つてゐて下さい。私とエスとが一生懸命に彼奴の素性を探索してゐます。モウここ十日と経たない中に、キツと杢助夫婦を叩き出して御覧に入れます。キユーバーの野郎も臭い代物です。少時成行きに任して見てゐたらどうでせう』
イルク『いかにも、彼奴ア、私も怪しい奴だと思つてゐる、キツと神様が善悪を裁いて下さるだらう。大国常立尊様、神素盞嗚尊様は、あのやうな悪人に聖場を任して、安閑と見てござるやうな、ヘドロい神様ぢやございますまい』
 かく話してゐる所へドヤドヤと入り来たるは三五教の宣伝使照国別、照公、玄真坊、コオロ、コブライの五人連れであつた。
照国『御免なさいませ、拙者は三五教の宣伝使照国別でございます。梅公が何時やらは、いかいお世話に預かつたさうでございますが、まだ彼は当家へは帰つてをりませぬか』
イルク『ハイ、貴方が噂に高き照国別の宣伝使様でございましたか、私は当家の主、イルクと申します、いい処へ来て下さいました。サアサアどうか奥へお通り下さいませ』
照公『拙者は照国別様の弟子、照公と申します、何分よろしく』
玄真『拙者は玄真坊と申す修験者でございます、何分よろしくお見知りおき下さいまして以後御懇意に願ひます』
コオ『奴輩はコオロと申す、あまり、善くもない、悪くもない三品野郎でげす。不思議にも照国別様一行に難船した処を救けられお伴になつて参りました。どうか門番にでも使つてやつて下さい』
コブ『奴輩はコブライと申しまして、チツとばかり名の売れたやうな、売れぬやうな侠客渡世を致しますものでございます。何分よろしくお願ひ申します』
イル『ヤア皆様、よくこそお出で下さいました。何はともあれ照国別宣伝使様と共に奥へお通り下さい、チツとばかり当家には心配事が起りまして、相談の最中でございます』
照公『いかなる御心配か知りませぬが、幸ひ先生もゐらつしやるし、及ばずながらお力になりませう』
イル『ハイ、有難うございます。何分よろしく』
と挨拶し、自ら茶を出し菓子を出し、力かぎりに饗応する。
照国『当家は非常な旧家と見えますな、庭石の苔むしたる趣といひ、石燈籠といひ、旅の疲れを慰むるには屈強のお座敷、イヤ、どうも立派なお座敷を汚して済みませぬ』
イル『何をおつしやいます。見る影もなき破家に駕を抂げられまして、一家一門の光栄これに過ぎたる事はございませぬ。子孫の代まで言ひ伝へて喜ぶでございませう』
玉清『私は神谷村の玉清別と申す三五教の信者でございます。照国別様とやら、何卒なにとぞお見知りおかれまして、今後とも、よろしく御指導のほどをお願ひ申します』
照国『ヤアあなたは噂に承つた玉清別様でございますか、これは珍しい処でお目にかかりました。何分よろしくお願ひいたします。時にイルクさま、今ちよつと承れば当家には何か取込事があつて御相談の最中だと聞きましたが、どうかお邪魔になれば席を外しますから』
イル『イヤ、決して御心配には及びませぬ、実のところはスガの宮の件につきまして……』
と一伍一什を詳細に物語つた。
 照国別は「ウーン」と言つたきり双手を組んで少時思案にくれてゐたが、何か期するところあるもののごとく膝をハタと打ち三つ四つ頷いて、
『ヤ、分りました、どうか私に任して下さい、この解決はキツとつけて上げませう』
イル『何分よろしく、お頼み申します』
ヨリ『照国別の宣伝使様、妾は貴方のお弟子梅公別さまに非常なお世話に預かつたものでございます。此処にをりまするのは花香といつて妾の妹でございますが、不思議の縁で梅公別様の妻にして頂く事に内定してゐるものでございます。何分よろしくおとりなしをお願ひ申し上げます』
照国『ヤ、かねて梅公別からヨリコ姫様の事も花香姫様の事も聞いてをります、何事も神様の思召し次第ですからな』
花香『これはこれはお師匠様、初めてお目にかかります。妾はいま姉の申しました通り、梅公別さまに大変な御贔屓に預かつてゐる花香でございます。何分よろしく……今後のお世話をお願ひ申しまする』
 かく互ひに挨拶なせるをりしも、梅公別の宣伝使は重たげに大きな葛籠を背負ひ、エチエチ入り来たり、
梅公『ア、御免なさい、梅公別です、大変な御無沙汰をいたしました』
 番頭のアルは頭をピヨコピヨコ下げながら、
『ヤア、よう来て下さいました、先生、若旦那様も、大旦那様も大変、先生のお越しをお待ちでございました。これから一寸奥へ申して来ますから』
梅公『イヤ、それには及びませぬ、照国別の宣伝使が見えてゐるでせう。……私の方から伺ひます』
と、大葛籠を玄関にソツと下し、案内もなく屋内さしてニコニコしながら進み入る。
梅公『ヤ、先生はじめ皆さま、御一同、お早うございましたね』
照国『ヤ、今当家へ伺つたところだ、実はお前が、あの暴風雨に小舟を出して浪の上に消えてしまつたものだから、少しばかり心配してゐたのだ。ヤ、無事で結構々々、花香姫も先づ先づ御安心だらう』
ヨリ『梅公別の先生様、お久しう御目にかかりませぬ、先づ先づ御無事でお目出たうございます。花香も大変にお待ち申した様子でございます、これ花香、早く御挨拶を申さないか』
 花香姫は顔を赤らめながら恥づかしさうに手をついて、
『アノ、旦那様、イーエ、梅公別の宣伝使様、お久しうございます、妾、どれほど待つてゐたか知れませぬのよ』
 梅公別は無雑作に愛想よく、
『ヤ、奥さま、イヤ奥さまと言つては済まないが、花香姫さま、先づ先づ御壮健でお目出たう、私だつてヤツパリ花香さまの事ア何時でも忘れてゐやしませぬよ』
花香『ハイ、有難うございます。そのお言葉を聞いて得心いたしました』
照公『オイ、梅公、馬鹿にすない、何かおごつてもらはうかい。俺の前で、おやすくない処を見せつけやがつて、あまりひどいぢやないか、アツハハハ』
ヨリ『梅公別さま、当然ですわね、これ花香さま、何もオヂオヂすることはありませぬよ。言ひたい事あれば人さまの中でも構はない、ドシドシ言つたがよい、憚りながら姉さまがついてをりますからな』
照公『ヤ、これは堪らぬ、お面、お小手、お胴、お突とござるワイ。ヤ、かうなりやいよいよ敗北だ。照公砲台も沈黙せなくちやなるまい、ウツフフフフ』
梅公『仇話はさておいて、海上からほのかにスガ山の聖地を見れば怪しい雲が立つてゐました。何か変つた事はありませぬかな』
イル『ハイ、お察しの通り、その事に就きまして今、相談会を開いてをつたところでございます』
梅公『高姫、杢助、キユーバー等の悪人が聖地を占領せむとしてゐるのでせう』
イル『ハイ、已に占領されてしまつたのです。最早今となつては、手の出しやうもございませぬので……』
梅公『決して心配なさるな、梅公別がキツと解決をつけませう、悪人輩を一言のもとに叩き出し、もとの聖地に回復せむは吾が方寸にございます。ヨリコさまもダリヤさまも、玉清別さまも安心して下さい、キツともとの通りにしてお目にかけませう。おほかた、高姫と言ふ奴、ヨリコさまの素性を洗ひ、理窟づくめに放り出したのでせう』
ヨリ『ハイ、お察しの通りでございます。何分汚れた魂でございますから、聖場を守るなどといふ大それた事は出来ませぬ。妾の慢心から柄にも合はぬ宮仕へを致しまして聖場を汚し、皆さまに対し申訳がないので、この通り悄れ返つてゐるのでございます』
梅公『昔は昔、今は今、たとへ如何なる悪事があつても、悔い改めた以上は白無垢同然、一点の罪も汚れもあらう筈がありませぬ、左様な御心配は御無用になさいませ』
と慰めおき、照国別、イルク、玉清別を別室に招き、高姫追放の計画に密議をこらし悠然として再びもとの座に帰り来たり、

梅公『大空に塞がる黒雲吹き払ひ
  月日を照らす科戸辺の神

 よしやよし醜の黒雲包むとも
  科戸辺の神吹きや払はむ』

 これより一同はスガ山回復の策戦計画の準備に各々手分けをして取りかかり、明日を期して大挙スガ山に神軍を進むる事とした。ああ惟神霊幸倍坐世。

(大正一五・七・一 旧五・二二 於天之橋立なかや旅館 北村隆光録)



オニドでるび付原文を読む    オニド霊界物語Web