出口王仁三郎 文献検索

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物語72-3-201926/07山河草木亥 九官鳥王仁三郎参照文献検索
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第二〇章 九官鳥〔一八二九〕

 キユーバーは、杢助に呶鳴りつけられ、高姫には嘲笑され、おためごかしに五百円で買つた北町の家を貰つたことは貰つたものの、杢助、高姫のことだから、いつ変替へを言うて来るかも分らない。
キユーバー『エエ本当につまらない、高姫さまの提燈持ちをして町々をふれ廻り、杢助の奴は手を濡さずして結構な神館を占領し、千草姫と喋々喃々、意茶ついてゐるかと思へば、ごふ腹でたまらないワ。待て待て、ここが一つ辛抱のしどころだ、時節を待つて杢助を叩き出し、完全に高姫を此方の物となし、スガの神館の神司となつて一つ羽振りを利かしてやらう』
と伊万里焼の達磨の出来損なひのやうな面構へを晒しながら悄々と帰つて行く。北町の神館に帰つて見ればきちんと錠が卸り、こじても捻ぢてもちつとも開かない。
キユ『エエ杢助の奴、人を馬鹿にしてゐやがる。待て待て、ひよつとしたら隣の元の家主に鍵を預けておきやがつたかも知れぬ』
と呟きながら樽屋の表へ立ちはだかり、
キユ『御免なさい、拙僧はウラナイ教本部の高等役員キユーバーですが、もしや杢助さまが鍵でも預けてはおかなかつたでせうか、一寸お尋ねいたします』
 主人の久助は蛙の鳴くやうな妙な声がするので表へ来て見ると妖僧が立つてゐる。
『ヤ、御用でございますかな』
キユ『別に用といふやうな事はありませぬが、今日からあの神館は拙僧の所有物となり居住するつもりです。杢助さまが鍵でも預けておきはしませぬかな』
久『たしかに預かつてゐますが、……この鍵は誰が来ても渡してくれな……との仰せ、たとへ貴方がお買ひになつても滅多にお渡し申すわけには参りませぬ』
『元来この家の代金は拙者が三百円、杢助さまが三百円出して買つたのですから、当然半分は拙者の物、しかしながら、お前さまも聞いてゐられるだらうが、スガの宮の神館は問答の結果、杢助さまの領有となり、最早この神館は不必用となつたので、拙僧に買つてくれぬかとのお頼みだから、残り三百円をおつ放り出し今買つて来たのですよ。怪しう思はれるのなら、あまり遠くもないからスガの神館まで行つて調べて来て下さい』
『あのお金はさうすると貴方が半分お出しなさつたのですか、ヘエー』
『さうですとも、拙僧はスコブッツエン宗の教祖大黒主様の片腕ともいふべき豪僧だ、いつもお金が懐に目を剥いてゐる。杢助ごときは諸国修業の遍歴者だからお金の有らう筈はなし、話に聞けば、ハルの湖で高砂丸に乗り込み、高姫が暴風雨に遇うて沈没したので、夫婦とも真裸となり、命からがらスガの港に着いたくらゐだから、一文半銭も金を持つてゐる道理がないのだ。あの三百円も実は怪しいものだよ。どこかで何々して来よつたのかも知れたものぢやない』
『アア左様でございますか。そんなら如才はございますまいから鍵をお渡し申します』
と懐より取り出しキユーバーに渡した。キユーバーは機嫌を直しながら肩を四角にゆすり、北町の小路を大股に跨げて帰り行く。
キユ『ヤア久し振りに俺の巣が出来たワイ、ヤ巣ではない、御本丸が出来たのだ。いよいよ今日から北町城の城主天然坊キユーバーの君様だ。かうなると第一に必要なものは嬶村屋だ、いな女帝様だ。いづれこの神館へはちつとは美しい女も参つて来るだらう、四五日の間に物色して、これぞといふ奴を選み出し、当座の鼻ふさぎに引つ張り込んでおかう、その間に千草姫が何とかならうから』
 などと独り言をほざきながら、押入れから夜具を引つぱり出し、揚股をうつて寝てしまつた。しばらくすると、トントンと表戸を叩いて隣のお三がやつて来た。
『御免なさいませ、キユーバー様はお宅でございますか』

 武士の子は轡の音に目を醒まし  乞食の子は茶碗の音に目を醒まし
 キユーバーは女の声に目を醒ます  寝呆けた顔を撫でながら
 響きのいつた濁声で  
 『ハイハイハイハイようお出で  何用あつてござつたか
 御用の赴き聞きませう』と  寝床を立つて上り口
 火鉢の前に四角ばり  お三の顔を睨つける
 お三はぎよつとしながらも  揉手をなして丁寧に
 鈴の鳴るよな声出して  
 『これはこれは当家の主のキユーバー様  お寝み中を驚かしまして
 誠に申し訳ございませぬ  妾は主人の言ひつけで
 お伺ひ申しに参りました  やがて主人が見えますから
 何処へも往つては下さるな』  言へばキユーバーは禿頭
 縦に揺すぶつて涎くり  
 『てもまア綺麗な女だな  俺もお前の知る通り
 今日から此所の主とはなつたれど  飯たく女もない始末
 お前のやうな渋皮の  剥けた女をいつまでも
 宿屋の下女にしておくは  可惜ものよ勿体ない
 おほかたお前を俺の女房に  貰うてくれとの掛合ひに
 久助さまがエチエチと  媒介せうとて来るのだらう
 お前も俺に添うたなら  今日から此方の奥様だ
 この家屋敷もすつかりと  お前と俺の共有物
 にはかに蠑螈が竜となり  天上したよな出世ぞや
 キユーバー司の救世主は  お前のためには福の神
 あまり憎うはあるまい』と  曲つた口から吹き立てる
 お三は顔を赤くして  
 『これこれ申しキユーバーさま  そんな話ぢやありませぬ
 深い様子は知らねども  杢助さまが渡された
 お金がさつぱり夜の間に  木の葉になつてしまうたと
 親方さまの御立腹  これやかうしてはゐられない
 お役人衆に訴へて  お前と杢助夫婦をば
 縛つてもらふかと御相談  妾は聞くに聞き兼ねて
 まうしまうし御主人様  御立腹遊ばすは尤もなれど
 短気は損気と申します  一まづ隣のキユーバーさまに
 実否を糺したその上で  訴へなさるがよからうと
 申し上げたら御主人は  そんならお前に任すから
 キユーバーが居るか居らないか  調べて来いとの御命令
 よもや如才はありますまいが  贋札などを使うたら
 お上の規則に照らされて  臭いお飯食はにやならむ
 それが気の毒と思うた故  主人の鋭鋒止めおいて
 親切づくで来ましたよ』  言へばキユーバーは驚いて
 『そんな怪体の事あろか  正真正銘の百円札
 手の切れさうな新しい  立派なお金ぢやなかつたか
 昨夜の間に泥棒が  お前の家へ飛び込んで
 お金をすつかりかつ攫へ  木の葉とかへておいたのだらう
 そんな馬鹿らしい出来事が  三千世界にあるものか
 何はともかく久助を  連れて出て来いキユーバーが
 天地の道理を説き聞かせ  疑念晴らしてやるほどに
 アハハハハハハわけもない  しやつちもない事言うて来る』
 などと嘯き取り合はぬ  お三は止むなく立ち帰り
 主人の前に両手つき  キユーバーの言葉そのままに
 委曲に談れば久助は  しきりに首を振りながら
 キユーバー館をさして行く  キユーバーはまたもや揚股を
 打つて鼻歌謡ひつつ  冥想に耽るをりもあれ
 表戸ガラリと引開けて  血相荒く入り来たる
 樽屋の主久助は  御免なさいと慳貪な
 言葉の端も荒らかに  庭にすつくと立つたまま
 『山子坊主のキユーバーさま  お前はよつぽど悪党だ
 杢助夫婦と腹合せ  魔法を使つて木の落葉
 金と見せかけ甘々と  大事の大事の吾が家を
 横領いたした曲者よ  もう了簡はならないほどに
 どんな言ひ訳なさろとも  決して耳はかしませぬ
 バラモン役所へ訴へて  私が白いかお前等の
 腹が黒いかきつぱりと  分けてもらはにやおきませぬ
 覚悟を定めてゐて下されよ  いま番頭をお役所へ
 出頭さしておきました  やがて縄目の恥をかき
 町内隈なく籐丸籠に乗せられて  詐欺横領の罪人と
 引き廻されて町人の  笑ひの種となつた上
 お前の命は風前の  燈火となつて消えるだろ
 南無阿弥陀仏阿弥陀仏  頓生菩提惟神
 目玉飛び出しましませ』と  体をぷりぷりゆすりつつ
 閾を蹴たてて帰り行く  後にキユーバーは手を組んで
 『自分の金でもないものを  自分の金だと法螺吹いた
 その天罰が報い来て  杢助夫婦の罪科の
 相伴せなくちやならないか  ほんに思へば口惜しい
 昔の聖人の教にも  口は禍ひの門とやら
 もうこれからは心得て  決して嘘は言はうまい
 とは言ふもののこの証り  どしたらはつきり立つだらう』
 などと青息吐息つき  表戸ぴしやりと引きしめて
 離棟の館に立籠り  中から錠を卸しおき
 長持開けて中に入り  布団被つて慄ひゐる
 キユーバーの身こそ憐れなり。  

(大正一五・七・一 旧五・二二 於天之橋立なかや別館 加藤明子録)



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