出口王仁三郎 文献検索

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物語72-3-191926/07山河草木亥 旧場皈王仁三郎参照文献検索
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第一九章 旧場皈〔一八二八〕

 千草の高姫、キユーバーの両人は意気衝天、猛火の燎原を焼くがごとき荒つぽい鼻息で、玉清別以下、スガの宮の関係者一人も残らず叩き出し、天から降つて湧いたる儲ものに、嬉しさあまつて現三太郎となり、杢助が北町のウラナイ教本部に寝てゐる事も打ち忘れ、あまり虫は好かねども、言霊戦の大勝利を得せしめた原動力ともいふべき天然坊のキユーバーを此上なきものと褒めそやし、聖場に立籠つて天下併呑の夢をむさぼつてゐた。
キユ『モシ、生宮様、キユーバーの働きはチツとばかり腕が冴えてゐるでせう、決して生宮様御一人のお手柄ぢやござりますまい』
高姫『そら、さうだとも、車も両輪なければ運転しない、人間も二本の脚がなけりや歩けない道理だからな』
『そら、さうでせうとも、お飯食べる時でも片手ぢや駄目ですからな。箸だつて二本なくちや、香の物だつて、はさむ事は出来ませぬ。神代の昔、那岐那美二尊は天浮橋に立つて陰陽の息を合せて、いろいろの神様をお造り遊ばしたものですもの。どうです、ここで旧交を温めて拙僧は伊邪那岐命となり、生宮様は伊邪那美命となり、トルマン国を振出しに印度七千余国は申すもさらなり、この地のあらむ限り鵬翼を伸ばさうぢやありませぬか。あなたもトルマン国の王妃となり遊ばした腕利きだから、そのくらゐの事は、お考へでせうな』
『そんなことア、キユーバーさま、いふだけ野暮だよ。三千世界の救世主、底津岩根の大弥勒ぢやないか、この生宮は天もかまへば地もかまふ、五十六億七千万の小宇宙をも統一する天来の神柱だもの、このチツポケな地球ぐらゐ、統一したつて、広大無遍の宇宙に比ぶれば虱の眉毛に生いた虫の放つた糞に生いた虫の、その虫の糞に生いた虫の放つた糞くらゐのものだよ』
『何とマア大きな事をおつしやるかと思へば、小さい事まで御説法遊ばすのですな』
『きまつた事だよ、至大無外、至小無内の弥勒の御神権を具備してゐる救世主ですもの』
『生宮さまの広大無遍な抱負には、いかなこのキユーバーも舌をまきましたよ。このキユーバーだつてハルナの都に権勢並びなき七千余国の大棟梁、大黒主様の片腕ですもの』
『これこれキユーバーさま、大弥勒さまの前でそんな小つぽけな事はやめて下さい。この神は小さい事は嫌ひであるぞよ。大きな事をいたす神であるぞよ、昔からまだこの世にない事をいたす神であるぞよ』
『三五教のお筆先そつくりぢやありませぬか、フツフフフフ。時に生宮さま、あの杢助とかいふ第二号をどうするつもりですか』
『ア、あまり嬉しくつて、時置師の神様を念頭から遺失してをつた。ヤアこりやかうしてはをられませぬ、キユーバーさま、お前さまここに待つてをつて下さい。この成功を夫に聞かして喜ばすため、ちよつと北町まで行つて来ますから』
『モシモシ高姫さま、私の前であまりひどいぢやありませぬか。第一号をほつたらかしておいて、第二号に秋波を送るなんて、チツとばかり聞こえませぬな。何ぼ行かうとおつしやつても、このキユーバーが放しませぬよ』
『お前さま、自惚もいい加減にしておきなさい、一号どころか、八号ですよ、要するに天保銭だからな』
『こいつアひどい、二文足らぬとおつしやるのですか、貴女の目には、それほどこのキユーバーが馬鹿に見えますかい』
『なに、馬鹿どこかいな、八文といつたら大変立派な人だといふ事だよ、ダンダン筋の法被を着た仲仕や労働者や、旗持ちを一文奴といふだらう。一文奴で普通の人間だ。小説を作つたり、新聞の記事を書いたり、雑誌を著す学者を三文文士と言ふだらう。三文文士にならうと思へば大学の門をくぐつて来にや、さう安々とはなれませぬからな。それから、ハルナの都のお役所にも諮問(四文)機関といふものがあるだらう、諮問機関に集まつてゐる人は大黒主さまのお尋ねに一々答へるといふ智者学者だ。それから、も一文上に顧問(五文)官といふのがある』
『モシモシ高姫さま、顧問と五文とは違ひますぜ』
『顧問でも五文でも、いいぢやないか、甲も乙も互ひに勝敗、優劣、高下のない相手同志をさして五文と五文といふぢやないか、さうだから五文の人間は最も立派なものだ。その上が六文だ、六文銭は、軍術の達人真田幸村の旗印だよ。真田といふ人物は後世まで名を轟かした大阪陣の参謀長だ。七文といふのはなア、昨日俺がヨリコ姫をこつぴどく問ひつめただらう、あれが七文だ』
『そら、質問と違ひますか』
『質問でも七文でもツとチのと違ひぢやないか、そんな七六つかしい質問はやめて下さい。その一文上が八文だ、八文が一番結構だよ。も一文ふやすと、苦悶といつて苦しみ悶えねばならぬからな、も一文ふやすと、十文だ、銃文といつたら鉄砲の穴だ、尻の穴もヤツパリ銃門の中だよ』
『何とマアお前さまの口にかかつたらこのキユーバーも盾つけませぬワ、しかしこの八文をどうして下さるつもりですか。よもや八門遁甲の術をもつて拙僧を、埒外へ放逐するやうな事はありますまいね』
『マア心配しなさるな。今回の功労に免じてチヨイチヨイお尻くらゐは、ふかしてあげますワ、大弥勒さまのお尻をふかうと思へば並や大抵のことでは拭けませぬぞや。ヨリコ女帝のお前さまはお尻の掃除をやつてをつたさうだが、あのやうな、アタ汚いお尻の掃除をしてゐるより、大弥勒さまの神徳の籠つた御肥料さまの掃除をさしてもらふ方が、何ほど光栄だか出世だか知れませぬよ、ホツホホホホ』
『エー、人をお前さまは馬鹿にしてゐるのだな』
 かく話してゐるところへ杢助の妖幻坊は高姫の帰りが遅いので、スガ山のトロトロ坂をエチエチ上りながら館の前までやつて来た。
 玄関口に佇んで様子を聞けば、境内はシンとして人影もなく、静まり返り、閑古鳥が鳴いてゐる。しかしながら館の奥の方にコソコソと囁く声が聞こゆるやうにもあるので、ソツと館の裏へまはり、窓から中を覗いて見ると酒肴を真中におき、高姫、キユーバーが意茶ついたり揶揄つたり、面白さうに話し合つてゐる。妖幻坊は腹が立つてたまらず、雷のやうな声を出して窓の外から、
『コラツ』
と一声叫ぶや否や、キユーバーは驚いて一間ばかりも飛び上がり、天井裏で禿頭をカツンと打ち、再び板の間に蛙をぶつつけたやうになつて、手足をピリピリとふるはせ、ふんのびてしまつた。さすが、高姫はビクとも動かず静かに窓の外を覗き、
『ホツホホホホ何ですか杢チヤン、そんな大きな声を出したつて、聾はゐやしませぬよ。高姫の耳は蚯蚓の泣声でも聞こえるのですからね、どうか騒がないでゐて下さい。今この坊主をうまくちよろまかして、三五教が百日百夜の丹精を凝らし、建て上げたこの神館を、スツカリと証文つきでもらつたのですからね、マアお這入りなさい、人が見たら、見つともないから』
と平気な顔で構へてゐる。杢助は表にまわり玄関口より大手を振つて入り来たり、
『一昨日の日の暮に、この坊主と出たぎり、今日になつても帰つて来ないものだから、チツとばかり気がかりでならないので、スガの町々を尋ねまはり、もう尋ねる処がないものだから、ここへやつて来れや、キユーバーの野郎をつかまへて、何だか妙な目つかひをやつてゐたぢやないか』
高『杢チヤン、そんな野暮なことを言ふのぢやありませぬよ。この間も貴方に言つた通り、このキユーバーといふ山子坊主は、一寸ばかり小利口な奴だから、うまくちよろまかして使ひ倒し、今日の成功を勝ち得たのですからね。まだまだ此奴を使はにやならぬ用がありますので、一寸いやな奴だけど色目をつかつて、つらくつてゐるのですよ。天下無双の英雄豪傑時置師の神さまのやうな立派な夫があるのに、どうしてこんな蛙の泣き損ねたやうな面した売僧坊主に、指一本でも支へさす気遣ひがありますか。そこは貴方の御判断に任せますから、マア御機嫌を直して一杯飲んで下さい。今日からこの館は時置師の神さまの領有権が出来たのですからな、高姫の腕前もずゐぶん凄いものでせう。ホツホホホホ』
杢『オイ、このキユーバーをこのままにしておけば縡切れてしまふぞ、お前の得意な活とかを入れて、蘇生さしてやつたらどうだい』
『杢チヤン、そんな心配要りませぬよ、田圃の蛙を掴んで大地で投げて御覧なさい。丁度この通り手足をのばしてビリビリとふるひ一時は目をまはかしますが、しばらくすると目を開け、古池の中へドンブリコと飛び入り、アナタガタガタ オレキレキと泣くぢやありませぬか』
『キユーバーも蛙にたとへられや、チツとばかり可哀さうだ。命に別条さへなけれや、いいやうなものの、あまり殺生ぢやないか』
『何が殺生ですか、自分が勝手に飛び上がつて勝手にフン伸びたのですもの、チツとも吾々にかかり合はないのですからな。キユーバーが自由の権利を振つて空中舞ひ上がりの術を演じ、吾々夫婦の酒の肴になつてゐるのですもの』
 かく話すをりしも死真似をしてゐたキユーバーはムクムクと起き上がり、ワザと空とぼけたやうな顔して、
『アーア、飛行機に乗つて大空中を巡行してゐたと思へば、にはかに雷鳴轟き暴風吹きまくり、飛行機もろとも地上へ転落し、五体は滅茶々々になつたと思へばヤツパリ夢だつたかな。これも全く生宮様と時置師の神様の恩頼だ、南無生神大明神帰命頂礼謹請再拝謹請再拝』
杢『ウツフフフフ何とマア、怪体な坊主だのう、一種異様の奇病があると見える。かういふ病気は親のある間に癒しておかぬと一生不治の難病になるかも知れないよ、ワツハハハハ』
高『ホツホホホホこれキユーバーさま、本当にお前さまは身の軽い方ですね。妾また、お神がかりかと思つてをりましたよ』
 妖幻坊は膝を立直し、居直り気味になつて、
『オイ、天然坊のキユーバー、俺の女房を掴まへて何を言つてゐたのだ、三文だの、五文だの、八文だのと、何のことだい。其方の出やうによつては俺にも一つの虫がある、サアきつぱりとこの杢助の前で白状せい』
キユ『メメメメめつさうな、尊い尊い、結構な結構な、生宮さまに対し、私のやうな下劣な貧僧が恋の鮒のと、そんな大それたことが出来ますか、お言葉交すも恐れ多いと存じ忠実に勤めてゐますよ。どうぞ悪くはとらないやうにして下さいませ。何はともあれ千草の高姫さまに、うまくたらし使ひにされてゐるのですからな。いづれ行先はお払ひ箱だと覚悟を定めてをります』
妖『こりや、高姫、キユーバーの申すことに、間違ひなけりや今日はこれで忘れて遣はす。しかしながら、此奴を此処においてはチツとばかり都合が悪い。幸ひ北町の本部が空くことになるから、あれをキユーバーにくれてやつたらどうだ』
高『杢助さまさへ御承知なら、くれてやりませう、この館を占領したのもその一部分はキユーバーさまの斡旋努力与かつて功ありといふものですからな』
杢『オイ、キユーバー、お前の功労に免じて北町の神館を与へるから、すぐさま帰つて休息したがよからう。神殿も諸道具一切も附け与へるから有難く頂戴せい』
キユ『ハイ、有難うございます。それでは頂戴いたしませう。十分に念入りに掃除をしておきますから、どうぞ、時折りはお遊びにお出で下さいませ』
妖『いや、これほど立派な神館が手に入つた以上は最早必要を認めぬ、また行く必要もない、お前の勝手にしたがよからう』

 言へばキユーバーは喜んで  頭ペコペコ下げながら
 『ウラナイ教の神館  有難く頂戴いたします
 左様ござればお二人さま  後でゆるゆるお楽しみ』
 などと言葉を残しつつ  北町さしていそいそと
 大手を振つて帰り行く。  

(大正一五・七・一 旧五・二二 於天之橋立なかや旅館 北村隆光録)



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