出口王仁三郎 文献検索

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物語72-3-181926/07山河草木亥 法城渡王仁三郎参照文献検索
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第一八章 法城渡〔一八二七〕

 ヨリコ姫は訪ね来し高姫の、酢でも蒟蒻でも、一条縄ではいけぬやんちや牛たることを看破し、下から上まで白綸子づくめの衣装を着、髪を長う後ろに垂れ、中啓を手に持ち、絹摺れの音サラサラと、廊下を寛歩しながら悠々然と問答椅子に寄りかかり、

ヨリコ『何神の化身にますか白梅の
  花の薫も高姫の君

 久方の天より高く咲く花も
  君の装に及ばざるらむ

 君こそはウラナイ教の神柱
  日の出の神と聞くぞ尊き』

高姫『お世辞をばならべて稜威高姫を
  揶揄ひたまふ面の憎さよ

 追従を喰ふよな神でござらぬぞ
  ヨリコの姫よその顔洗へ

 今日こそは汝が生死のさかひ目ぞ
  善悪別ける神のおでまし』

『これはしたり高姫様の御言葉
  ヨリコの姫もあきれかへりぬ

 妾こそ誠の神にヨリコ姫
  醜の荒風いかで恐れむ

 恐ろしきその顔は奥山の
  岩窟に住める鬼かとぞ思ふ』

『何といふ失礼なことを吐すのだ
  泥棒上がりの山子女奴

 みやびなる歌よみかけて神の宮
  汚さむとするずるさに呆れし

 これからは誠の日の出が現はれて
  汝が心の闇を照らさむ』

『吾が霊は昼夜さへも白雲の
  空に輝く月日なりけり

 久方の天より下るエンゼルの
  内流受けし吾ぞ生神』

『猪口才な泥棒上がりの分際で
  生神などとは尻が呆れる

 尻喰へ観音様の真似をして
  装ひばかり胸の狼』

『狼か大神様か知らねども
  吾の霊はいつも輝く

 吾が霊は空に輝く日月の
  光にまして四方を照らさむ』

『ぬかしたり曲津の巣ぐふ霊で
  尻餅月日の螢の光り奴』

『五月雨の闇を縫ひゆく螢火も
  夜往く人のしるべとぞなる

 螢火を数多集めて文をよみ
  国の柱となりし人あり』

『えらさうに理窟ばかりを夕月夜
  山にかくれてすぐ闇とならむ

 大空に神の御稜威も高姫の
  光を見れば目も眩むらむ』

『君こそは大高山の山伏か
  朝な夕なに大法螺吹くなり』

『法螺貝はこの世の邪気を払ふてふ
  誠の神の神器なりけり

 法螺一つ吹けないやうな弱虫は
  この世の中に生きて甲斐なし』

『魂はよしや死すとも法螺の貝
  音高姫になりわたるかな』

『玄真坊法螺貝吹きの妻となり
  世を乱したる汝ぞ悪神

 法螺吹いて錫杖をふり村々を
  かたつて廻る乞食祭文

 オーラ山大法螺吹きの山の神
  スガの宮にてまた法螺を吹く』

『何なりと勝手な熱を吹きたまへ
  科戸の風に伊吹きはらへば』

『伊吹山鬼の再来と聞こえたる
  汝はこの世の曲津神なる』

『汝こそはミロクミロクと大法螺を
  吹きまくるなる醜の曲神』

『こりやヨリコ口に番所がないかとて
  この生神に楯をつくのか』

『たてつくか嘘をつくかは知らねども
  汝がほこには手答へもなし』

『手答へのなき歌垣に立つよりも
  言霊車めぐらして見む

 いざさらば吾が訊問に答へかし
  汝が生死の別るるところぞ』

『いかならむ問ひにも答へまつるべし
  早河の瀬の流るる如くに』

 高姫拳を握りつつ  雄猛びなして立ち上がり
 ヨリコの姫を睨つけて  声の調子もいと荒く
 面上朱をば注ぎつつ  扇パチパチ卓を打ち
 『これこれヨリコの女帝さま  これから直接問答だ
 天地の元を創りたる  大根本の根本の
 生神様の名は如何に』  言へばヨリコは笑たたへ
 『如何なる難題ならむかと  思へばそんな事ですか
 天地の元は無終無始  無限絶対永劫に
 静まりゐます国の祖  国常立の神様よ
 この一柱の神おきて  外に誠の神はない
 如何でござる高姫』と  顔さしのぞけば高姫は
 フフンと笑ふ鼻の先  
 『何と分らぬ神司  あきれて物が言へませぬ
 大慈大悲の神様は  天下万民ことごとく
 安養浄土に救はむと  心をくばりたまひつつ
 底津岩根に身をかくし  時節を待つて種々の
 艱難苦労のそのあげく  いよいよミロクの大神と
 ここに現はれましますぞ  その神様の生宮は
 どこにござるかヨリコさま  すつかり当てて下さんせ
 もしも妾が負けたなら  現在お前さまの目の前で
 生きたり死んだりして見せる』  言へばヨリコは嘲笑ひ
 『貴女の仰せは違ひます  神の御書を調ぶれば
 この世の初めと在す神は  国常立の大神ぞ
 その他の百の神々は  皆エンゼルのまたの御名
 これより外にありませぬ』  言へば高姫グツと反り
 『ホホホホホホホホホホホ  これや面白い面白い
 三五教の盲神  こんな事をば偉さうに
 世の人々に打ち向かひ  誠しやかに教へるのか
 国常立の大神が  もしもこの国にござるなら
 妾の前に連れ参れ  それが出来ない事なれば
 空想理想の神でせう  この高姫の問ふ神は
 生きた肉体持ちながら  生きて働き生きながら
 人を救くる神ですよ  その神様はどこにある
 それを知らしてもらひたい』  言へばヨリコは打ち笑ひ
 『肉体もつてます神は  産土山の聖場に
 千木高知りてはおはします  神素盞嗚の大御神
 三千世界の太柱  これより外にはありませぬ
 貴女の守るウラナイの  お道の神は何神か
 確り妾は知らねども  大した神ではござるまい』
 言へば高姫腹を立て  
 『神は清浄潔白で  仁慈無限に在しませば
 兎の毛の露の悪もない  人を殺して金を奪り
 数多の男女を誑らかし  泥棒稼ぎをするやうな
 輩を使ふ神ならば  誠の神ではござるまい
 お前の素性を調ぶれば  オーラの山の山賊の
 親分してゐた曲津神  神素盞嗚の大神の
 正しく清く鎮座ます  この聖場に腰据ゑて
 神をば汚す曲津神  早く改心した上で
 一時も早くこの席を  退きなされヨリコさま
 何ほど改心したとても  白布に墨がついたなら
 洗うても洗うても洗うても  墨のおちないその如く
 どうせ貴女は傷者よ  傷ある身霊が神業に
 奉仕するとは理に合はぬ  これでも返答ござるかな
 この高姫は済まないが  泥棒などはやりませぬ
 大根本の根本の  誠の神の太柱
 妾に傷がもしあれば  どうぞ探して下さんせ
 そもそも誠の神様は  身霊相応の理によつて
 善には善の神守り  悪には悪の神がつく
 傷ある身霊にや傷の神  清い身霊にや清い神
 これが天地の相応だ』  言へばヨリコは俯むいて
 高姫一人残しおき  すごすご一室に入りにける
 高姫後を見送つて  大口開けて高笑ひ
 『オホホホホオホホホホ  狐や狸の正体を
 日出神の御前に  包むよしなく現はして
 尻尾を股に挟みつつ  すごすご奥へ逃げ込んだ
 ほんに小気味のよい事よ  もうこの上はヨリコとて
 この高姫に打ち向かひ  楯つく勇気はござるまい
 誤り証文認めて  今日から貴女にこの館
 お任せ申し奉る  罪ある妾の身の素性
 何とぞ隠して下されと  哀訴歎願と来るだろう
 アア面白や心地よや  今日からこれの神館
 棚の上から牡丹餅が  落ちて来たよな塩梅に
 吾が手に入るは知れたこと  もしも問答に負けたなら
 妾の役目を渡すぞと  書いた看板が証拠ぞよ
 待てば海路の風が吹く  神が表に現はれて
 善悪正邪を立て別ける  この御教は三五の
 決して神の教でない  今目の当り高姫が
 実行なしたる生言葉  生証文のウラナイ教
 千秋万歳万々歳  ウラナイ教の大神の
 御前に謹み畏みて  今日の生日の足る時の
 成功守り玉ひたる  恵みに感謝し奉る
 ああ惟神々々  御霊幸倍ましませ』と
 四辺かまはず大声を  張り上げながらただ一人
 傍若無人の振舞ひは  よその見る目も憎らしき。

 話変つて玄関口には、アル、エス、キユーバーの三人がしきりに口論を始めてゐる。
アル『こりや、便所掃除の糞坊主奴、バラモン署へ訴へるなんて脅喝文句を並べ立て、犬の遠吠的に逃げ失せながら、づうづうしくも何しにやつて来やがつたのだ。エエ汚ない汚ない臭い、糞の臭気が鼻をついて耐らないワ、サア去んだり去んだり』
キユ『ハハハハハ、馬鹿いふな、ここは今日から俺の領分だ。貴様こそ何処かへ出て往け、今奥で高姫さまと女帝との大問答が始まつてゐるやうだが、きつと高姫さまの勝ちだ。これやこの看板を見い、今にこの看板通り励行するのだ』
エス『ハハハハハこの糞坊主奴。高姫とかいふ婆に泣きついて応援を頼んで来よつたのだな、何と見下げ果てた腰抜け野郎だな。八尺の褌をかいた男が何だい、女の加勢を頼んで来るとは卑怯にもほどがあるではないか、糞垂れ坊主奴。まごまごしてゐると笠の台が無くなるぞ、サアサア足許の明るいうち股に尾を挟んで帰つたり帰つたり』
キユ『ハハハハハ馬鹿だのう。足許に火が就て、尻が熱うなつてゐるのにまだ貴様達は気がつかぬのか。まあ見てをれ、今に法城の開け渡しと来るから、その時は吠面かわくな。また薬屋の門番に逆転して番犬の境遇に甘んじ、ワンワン吠えながら勤めるのが関の山だ。何とあはれな代物だな、ウフフフフ』
 問答席にはヨリコ、花香、ダリヤ姫の三人が高姫とさし向かひになり、法城開け渡しの掛合中である。
ヨリコ『千草の高姫様、すつぱりと法城を開け渡しますから受け取つて下さい。貴女の問答には決して負けるやうな女ぢやありませぬが、妾も一つ感じた事がございます。何ほど立派な器でも焼きつぎにした器はやつぱり傷物です。貴女の最前おつしやつた通り、いかにもオーラ山の山賊の女頭目として世人を苦しめ、あらゆる罪悪を犯して来ました。かやうな罪深い身霊をもつて、至粋至純なる大神様の前に仕へまつるのは冥加のほどが恐ろしうございます。たうてい妾は汚れた罪の重い体、神様の御前に出る資格はございませぬ。貴女は今日までどんな事を遊ばしたか神ならぬ身の妾、すこしも存じませぬが、妾に比べては余ほど清らかなお身霊と拝察いたします。これから一まづスガの薬屋に引き取りますから、後は御勝手になさいませ』
高姫『ホホホホホ、なるほど、お前さまも比較的よく物の分る人だ。最前生宮の言うた言葉に感激して身の罪を恥ぢ、法城を開け渡す、その御精神、実に見上げたものですよ。しかし傷物はどこまでも傷物ですから、足許の明るい中、トツトとお帰りなさるがよからう』
『妾の妹の花香、ダリヤも妾に殉じて退席すると言ひますから、どうかこれも御承知を願ひたうございます』
『なにほど上面は綺麗でも傷物のお前さまに使はれてをつた代物だから、どうせ完全な器ぢやあるまい。自発的に退かうといふのはこれも感心の至りだ。何とまあ神界の御経綸といふものは偉いものだな、ホホホホホ』
と笑壺に入つてゐる。そこへキユーバーが得意面を晒し肩肱を怒らし、大手を振つて四人の前に入り来たり、
『千草の高姫どの天晴れ天晴れ、功名手柄お祝ひ申します。ヤイ、ヨリコ、花香、ダリヤの阿魔女ざまア見やがれ。俺の権勢はこの通りだ。サアこれから玉清別の野郎も、アルもエスも叩き払ひだ。エエ、臭い臭い、鼻が汚れるワ、腐り女、腐り野郎奴、一刻も早く出て失せろ』
と仁王立ちになり、蜥蜴が立ち上がつたやうなスタイルで四辺キヨロキヨロ睨め廻してゐる。

(大正一五・新七・一 旧五・二二 於天之橋立なかや別館 加藤明子録)



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