出口王仁三郎 文献検索

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物語72-2-161926/07山河草木亥 東西奔走王仁三郎参照文献検索
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第一六章 東西奔走〔一八二五〕

 妖幻坊は別館の戸を開け、ズシンズシンと床を響かせながら現はれ来たり、
『ヤア高チヤン、御苦労だつたな、ヤ、信者が最早皆帰んだと見えるな』
高『ハイ、みな帰しましたよ、これから貴方と妾と二人の舞台ですワ、酒でも燗して上げませうか』
妖『ウン一杯つけてもらつても好いが、しかし何だか妙な香がするぢやないか、どこともなしに男臭くて仕方がないがのう』
 高姫は素知らぬ顔で、
『ハイ、それやさうでせうよ、ここに猪が一匹絞めてございますもの、ちよつと御覧なさい、床の下に放り込んでおきましたよ』
妖『何だ、これや人間ぢやないか、ひどい事したものぢやないか』
高『人間の猪(死体)ですよ、此奴はね、妾がトルマン城にをつた時からスコブッツエン宗の教主だと威張り散らし、大黒主を笠に着たり、一方では大足別をかつぎ、どうにもかうにも仕方がないので、妾の美貌を幸ひ此奴をちよろまかせ、トルマン城の危急を救うたのですよ』
『なるほど、しかしながら、スコブッツエン宗の教祖といへば大黒主様のお片腕だ。大蛇様の兄弟分、……ウンとどつこい、大蛇のやうな勢ひを持つてゐる立派な宣伝使だ。どうだ高姫、この坊主に活を入れて生きかへらし、お前の方から色仕掛けで親切に待遇し、此奴を手蔓として大黒主に取り入り、トルマン国の政権を握つてしまはうぢやないか。さうすりや、スガの宮なんか叩き潰さうと、どうせうと此方の勝手だからなア』
『さすがは杢助様、よい所に気がつきました。どれだけ知恵があるか知れませぬねえ、そんならこのキユーバーを助けてもよいのですか』
『アー、いいとも好いとも、しかしながら色をもつて、ちよろまかしてもよいが、要領を得さしては不可ないよ、ちつと俺も妬けるからのう』
『そんな事は御心配下さいますな、ヘン、それほど安つぽい高姫と思つてもらつちや片腹痛うございますワ』
『俺が此処にゐると話が仕難いかも知れぬ、別室に入つて休むから、そこはお前の力で旨く取り込んでおけ』
『何ほど甘つたるい事を言つても決して怒りませぬね』
『口先ばかりなら、どんなこと言つてもよい。つまりお前が甘く操つて下僕代りに使ひさへすればよいのだ』
と言ひながら別館に姿を隠してしまつた。高姫はキユーバーを床下より引き上げ活を入れ、天の数歌を奏上した。ウンと一声息吹き返し四辺きよろきよろ見廻しながら、
『ヤアお前は千草ぢやないか、人の喉を締めたりして気絶さすとは甚いぢやないか』
高『そんな事は当然ですよ、よう考へて御覧なさい。焼餅焼きの嫌な嫌な爺が裏に寝てゐるのに、お前さまが談判するなんて出て行きなさるものだから、喧嘩しては近所になりが悪いと思うて一寸喉に手をあてただけですよ。息を止めたの殺さうのと、そんな大袈娑な事をした覚えはございませぬよ』
キユ『本当にお前は今の夫が嫌なのか』
『それやさうですとも、好きだつたらどうして貴方の目を眩まして気絶してゐるのを生きかへらしませうか。妾の今の夫は怒るのも甚いけれどまた機嫌の直るのも早い、アツサリした人ですからなア。それで今も今とて夫に相談しましたら、俺に心配は要らない、キユーバーさまを可愛がつて上げるが好いと言ふのです、何と今の男は開けてゐませうがな』
『どちらが開けてゐるのか、弄ばれてゐるのか、テンと訳が分らぬワイ。しかし一旦気絶してゐたところを呼びいけたところを見れば些しは信用してもよいワイ。そんなら今の夫には済まないが、時々は御無心を言うてもよいか、その時は頼むよ』
『それやさうですとも、貴方の口で貴方がおつしやるのですもの、貴方の御自由ですワ。それはさうと、明日はスガの宮に乗り込み、ヨリコ姫と一生一代の問答をやらうと思ふのですが、妾もちつとばかり心許ないやうな気がしてなりませぬ。一つ今晩の間に練習しておきたいと思ひますがなア』
『サア、お前もなかなかの雄弁家だが、ヨリコといふ奴はまた稀代の雄弁家だ。懸河の弁を振つて滔々とやり出す時は、如何なる雄弁家も旗を捲き鉾を収めて逃げ出すのだからのう。一つ夜分の宣伝かたがた練習するのもよからう、本町に出てやつて見たらどうだい。俺は見え隠れに跟いて行つてやるからのう』

 聞くより高姫雀躍し  頭の髪を撫で上げて
 顔に塗つたる薄化粧  派出な単衣を身に纒い
 老海茶袴を穿ちつつ  桐の下駄をば足にかけ
 神官扇を手に持つて  ソロリソロリと門の口
 太夫の道中よろしくの  肩と尻とを振りながら
 反り身になつて本町の  人通り多き十字街
 月の光を浴びながら  キユーバーを後に従へて
 悠々然と出で来たり  道の傍に佇んで
 鈴を振るよな声絞り  
 『これこれ申し皆の人  ウラナイ教の大教主
 千草の姫の演説を  一通りお聞きなされませ
 妾は元はトルマン国の  王妃と仕へし身の上ぞ
 衆生済度のそのために  雲を押し分けて天降り
 市井の巷に往き来して  天地を創り給ひたる
 誠の親の御神徳  無限絶対無始無終
 厚き恵みの御由来を  世の人々に宣り伝へ
 八衢地獄の苦しみを  助けて神の永久に
 鎮まりゐます天国の  高天原の楽園に
 救ひ導き永久に  変らず動かぬ楽しみを
 与へむためのこの旅出  悪く思つたり疑がつて
 神をなみしちやいけませぬ  妾は王妃の身であれば
 この世に何の不自由も  不足もないのでございます
 大慈大悲の吾が心  世界の人の苦しみを
 見るに忍びずこの通り  女の繊弱き身をもつて
 寒さ暑さの嫌ひなく  世のため神の道のため
 難行苦行をしてゐます  皆さまお聞きでありませうが
 このごろ建つたスガ山の  神の館に三五の
 教の射場が出来ました  そこを守れる神司
 玉清別といふ人は  どこの馬骨か知らねども
 千草の姫に比ぶれば  まだまだ苦労が足りませぬ
 苦労もなしに真実の  香ばし花は咲きませぬ
 それのみならずスガ館  傍に建ちし大道場
 預かる女はヨリコ姫  花香にダリヤといふ女
 問答所の看板を  臆面もなく掲げ出し
 世人を煙にまいてゐる  そもそも人間といふものは
 一寸先の見えぬもの  どうして宗教の真諦が
 分る道理がありませうか  天から下つた生身魂
 日出神の永久に  宿らせ玉ふ肉の宮
 高姫でなくては分るまい  これから皆さま見てござれ
 明日は館に乗り込んで  ヨリコの姫を相手取り
 宗教問答おつ始め  誠の道に帰順させ
 天晴れ勝つて見せませう  何ほど偉そに言つたとて
 オーラの山に立て籠り  泥棒の手下の奴輩に
 姐貴姐貴と立てられて  威張つてをつたよな代物が
 どうして誠の神の道  完全に委曲に説けませう
 皆さま今から言うておく  何ほど仕事がせわしくも
 明日一日は張り込んで  この方とヨリコの問答を
 何方がよいか虚か実か  篤くり聞いたその上で
 よい判断をなさいませ  今から予告いたします
 ああ惟神々々  神が表に現はれて
 善と悪とを立別ける  ヨリコの姫もさぞやさぞ
 明日一日が断末魔  思へば思へば気の毒で
 個人としては耐らねど  お道のためと人のため
 神のおんため国のため  往かねばならぬ吾が思ひ
 皆さま察して下さんせ  何も好んで争論を
 やりたい事はなけれども  弱きを助け強きをば
 挫かにやおかぬ義侠心  これが黙つてをられうか
 此方の説が勝つたなら  ヨリコの姫を叩き出し
 その跡釜に千草姫  神の司となりすまし
 誠の教を宣伝し  スガのお宮を祀りかへ
 ヘグレ神社といたすぞや  ヘグレのヘグレのヘグレ武者
 ヘグレ神社の大神は  三十三相は未だ愚か
 五十六億七千万  ミロクの活動遊ばして
 この世の中を天国の  常磐堅磐の楽園と
 立替へ遊ばす経綸ぞや  喜び遊ばせ人々よ
 神の言葉に嘘はない  きつと成就さして見せう
 この世を創りし神直日  心も広き大直日
 ただ何事も人の世は  直日に見直し聞き直し
 世の過ちは宣り直す  神の教をかしこみて
 この世を乱し世の人を  誤らしむるヨリコ姫
 それに従ふ奴輩を  片つぱしから言向けて
 改心さして見せませう  アア勇ましや勇ましや
 明日の吉き日ぞ待たれける』  

 キユーバーは後ろの方から、蟇が風を引いたやうな響のある声を出して、

『神が表に現はれて  善と悪とを立別ける
 この世を創造りし神直日  心も広き大直日
 ただ何事も人の世は  直日に見直し聞き直す
 ウラナイ教の御教  皆さま耳を掃除して
 一言半句も漏らさずに  生宮さまの御託宣
 しつかりお聞き遊ばせよ  下つ岩根の大ミロク
 日出神の生宮と  現はれたまひし千草姫
 ヘグレのヘグレのヘグレ武者  ヘグレ神社の大神と
 現はれ此処に下りまし  鬼や大蛇の魂に
 とりつかれたる憐れなる  人の難儀を救はむと
 大慈大悲の心もて  現はれたまひし有難さ
 スガの宮居の神館に  頑張り暮すヨリコとは
 天地雲泥の違ひぞや  めつたにこんな生神が
 再び下ることはない  時は来たれり時は今
 爺さまも婆さまも孫つれて  近所合壁誘ひ合せ
 明日の大事な談判を  お聞きにお出でなさいませ
 よい後学になりまする  それのみならず神様に
 尊い御縁が結ばれて  万劫末代永久に
 おかげの泉に浸りつつ  この世このまま天国の
 生存権が得られます  必ず疑ひ遊ばすな
 スコブッツエン宗の大教主  キユーバーでさへも尾をまいて
 生宮様の後につき  お伴に仕へてをりまする
 これだけ見ても皆さまよ  生宮さまの御神徳
 ただでないのが分るだろ  ああ惟神々々
 御霊幸倍ましませよ』  

と歌ひながら、スガの町々を残る隈なく東西屋もどきに歩いてしまつた。

(大正一五・六・三〇 旧五・二一 於天之橋立なかや別館 加藤明子録)



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