出口王仁三郎 文献検索

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物語72-2-151926/07山河草木亥 災会王仁三郎参照文献検索
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第一五章 災会〔一八二四〕

 トルマン国の王妃なる  千草の姫の体をかり
 ふたたび娑婆に甦り  千草の高姫と名を変へて
 曲の精霊に沁み込んだ  ウラナイ教をどこまでも
 たてにやおかぬと雄猛びし  前世に契りを結びたる
 大雲山の洞穴に  棲へる大蛇の乾児なる
 妖幻坊に再会し  またもや夫婦の縁結び
 彼方こなたと彷徨ひつ  スガの港の北町に
 やうやく吾が家を買ひ求め  スガの聖地に建てられし
 三五教の神殿を  向かふに廻して勢力を
 比べむものと雄猛びし  立派な神殿造り上げ
 俄か役員二三人  雇ひ来たりて厳かな
 口調をもつて寄り来たる  善男善女に相向かひ
 四脚の机を前に置き  椅子に腰かけ悠然と
 コツプの水を啜りつつ  エヘンと一声咳払ひ
 扇片手に持ちながら  信者の上に目を注ぎ
 花を欺く美貌もて  涼しき声にて語るらく
 『皆さまようこそお詣りよ  妾は人間に見ゆれども
 決して俗人ぢやありませぬ  第一霊国天人の
 霊を受けて生れたる  日出神の生宮で
 底津岩根の大弥勒  三千世界の救世主
 千草の高姫と申します  妾の教ふる御教は
 ウラナイ教と言ひまして  天下に比類のない教
 盲は目が開き聾は聞こえ  躄は立つて歩きます
 肺病腎臓心臓病  胃病は愚か十二指腸
 盲腸炎に神経痛  気管支加答児に肺加答児
 流行性感冒コレラ病  猩紅熱にパラチブス
 横根や疳瘡や骨うづき  陰睾田虫に疥癬虫
 如何なる病も高姫が  心に叶うた人ならば
 即座に癒して上げますよ  それぢやといつてウラナイの
 誠の教の分らない  お方にや神徳やりませぬ
 三五教の神様と  どちらが偉いといふやうな
 比較研究の信者には  罰こそあたれ神徳ない
 ここの道理を聞きわけて  絶対服従の信仰を
 皆さま励んでなさいませ  斎苑の館に総務をば
 務めてござつた杢助さま  神素盞嗚の大神の
 三羽烏と言はれたる  天下唯一の宣伝使
 三五教に愛想をば  おつかしなさつて高姫が
 教の道に賛同し  遂に進んで背の君と
 おなり遊ばし御教を  天下に開いてござるといふ
 珍現象になつたのも  決して不思議なことでない
 メツキは直ぐに剥げるぞや  正真正銘のウラナイ教
 擦れば擦るほど光り出す  鋭敏の頭脳の持主の
 杢助さまは逸早く  ウラナイ教の誠をば
 感得されて三五の  曲津の教を捨てられた
 これだけ見ても分るだらう  スガの宮居の神司
 玉清別といふ人は  何処の馬骨か牛骨か
 あるひは狐の容器か  狸のお化か知らねども
 どうしてあのやうなスタイルで  神の聖場が保てませう
 見てゐて下され一月も  経たない中にメチヤメチヤに
 壊れてしまふは目のあたり  鏡にかけしごとくです
 誠の救ひの神様は  ウラナイ教より外にない
 ヨリコの姫や花香姫  ダリヤの姫とかいふ女
 何をしとるか知らねども  清浄無垢の神館
 月に七日の不浄ある  女を三人も泊らせて
 どうして神が喜ばう  もしも喜ぶ神なれば
 必ず曲津に違ひない  妾も最早四十三
 若い姿はしてをれど  月に七日のお客さま
 宿泊なさるやうな身ではない  これを思うてもウラナイの
 神の教は誠ぞや  気をつけなされよ皆の人
 必ず曲津の御教に  迷うて地獄の先駆けを
 なさらぬやうにと気をつける  ああ惟神々々
 ウラナイ教の大御神  ヘグレのヘグレのヘグレ武者
 ヘグレ神社の大御神  リントウビテンの大御神
 地上大臣地上姫  地上丸さま行成さま
 定子の姫さま杵築姫  弥勒成就の大御神
 貞彦姫の大御神  言上姫さま春子さま
 その外百の神様の  御前に謹み高姫が
 日出神と現はれて  この場に集ふ人々の
 守護を命じおきまする  ああ惟神々々
 御霊幸はへましませよ』  かかるところへ修験者
 錫杖左手につきながら  深網笠に顔隠し
 いと荘重な言霊を  張り上げながら入り来たり
 『ウラナイ教の大本部  教祖の君に御面会
 お願ひ申す』と言ひながら  群集の中をかき分けて
 演壇目がけて進みより  高姫司の前に立ち
 『拙僧こそは月の国  ハルナの都に現れませる
 大黒主の御寵臣  スコブッツエン宗の大教祖
 キユーバーと申す僧でござる  どうか一場の演説を
 許させ玉へ』と呼ばはれば  高姫不審の眉ひそめ
 どこかで聞いた声の色  面は笠で見えねども
 もしや自分の恋ひ慕ふ  キユーバーの君ではあるまいか
 『なにはともあれ御登壇  結構なお話し頼みます
 これこれ皆の御信者よ  妾はこれから降壇し
 奥の一室で休みます  この御方は修験者
 必ず尊いお話を  して下さるに違ひない
 神妙にお聞きなされや』と  言ひつつ人をかき分けて
 隣りの部屋に身を潜め  様子いかにと窺ひぬ
 キユーバーも千草の高姫の  顔を見るより仰天し
 ハートに浪は騒げども  そしらぬ顔を装ひつ
 賛成演説はじめける  キユーバーはコツプに水をつぎ
 オホンと一声咳払ひ  神官扇を斜に構へ
 笠抜ぎ捨てて群集を  ジロジロ見廻し声高く
 『拙僧こそはウラナイの  道に永年苦労した
 諸国巡礼の行者です  今現はれた高姫の
 教主の君は人でない  天津空より雲に乗り
 小北の山の聖場に  天降り玉ひし生神ぞ
 皆さま喜びなさいませ  この神様を信じなば
 寿命長久福徳円満  五穀豊穣息災延命まがひなし
 そもそも神には正神と  邪神の二つの区別あり
 神を信仰するならば  誠の神を敬うて
 邪神を捨てなされ  誠の神は生命を与へ
 病を癒やし福徳を  授け玉ふ仁慈無限のおやり方
 曲津の神は病気を起し  貧乏を齎し命を縮め
 大雨大風地震まで  人の嫌がる事ばかり
 一生懸命にするものだ  スガの御山に建てられし
 三五教もその通り  善の仮面を被りつつ
 悪魔の神を呼び集へ  この世の中を乱さむと
 朝な夕なに念じてる  何とぞ皆さま気をつけて
 スガの山へは行かぬやう  近所合壁いましめて
 ウラナイ教の神様の  おかげを頂きなされませ
 ああ惟神々々  私も教主に用がある
 一先づ御免』と言ひながら  悠々演壇降りつつ
 高姫司の潜みたる  隣の部屋をさして行く
 数多の信者は怪訝顔  何が何やら分らぬと
 たがひに小言をつきながら  ボツボツ家路に帰り行く
 ああ惟神々々  目玉飛び出す面白さ。

 高姫は一室に隠れてキユーバーの演説を聞いてゐたが、
『背恰好といひ、顔の形といひ、声色といひ、トルマン城で会うたキユーバーに少しも違はない。ハテ妙な事になつて来たワイ、悋気の深い杢助さまは別館に寝てゐらつしやるから、いいやうなものの何時目が醒めるか分らない。もしキユーバーさまであつたなら、どうしやうかな』
と胸を抱いて考へてゐる。そこへキユーバーが足音忍ばせ入り来たり小声になつて、
『これ、千草姫どの、この面を覚えてゐますか』
高『ハイ、そのお顔を忘れてなりませうか、天下に類例のない御容貌ですもの。そして貴方、ひどいぢやありませぬか、どこをうろついてゐらつしやつたのです』
キユ『時に千草殿、スガ山の神館にはヨリコ姫といふ山賊上がりの女が傲然と構へ込み、宗教問答所と大看板を掲げ、「妾を説き伏せた人にはこの館の役目をお渡し申す」と図々しくも掲げてゐるのだ。どうだ、お前は一つ問答に行く気はないか』
『ナニ、ヨリコ姫がそんな事を書いてをりますか、何といふ馬鹿でせう、己が刀で己が首、飛んで火に入る夏の虫とはこの事でせう。ヤア面白い、それぢや今日から準備しておいて、明日は出かけてやりませう』
『ヤ、早速の御承知有難い、及ばずながら拙者もお伴いたしませう。しかし千草姫さま、お前さまにこれはあるのかい』
と親指をつき出す。
 高姫はやや口ごもりながら思ひきつて、
『ハイ、時置師の神の杢助さまといふ立派な夫がございます。大きな声でおつしやると目が醒めますから、どうか小声で言つて下さい』
キユ『誠の夫が来てゐるのに、誠の夫の俺が何遠慮する必要があるか、その杢助とかいふ奴、俺の女房を横取りしよつた曲者だ。ヨーシ、奥へ踏み込んで談判をやつてやらう』
と立ち上がらうとする、高姫は矢庭に胸倉をグツと取り、喉を締め、あて身をくわし、床の下にソツと投り込んでしまつた。アアキユーバーの運命はどうなるであらうか。

(大正一五・六・三〇 旧五・二一 於天之橋立なかや旅館 北村隆光録)



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