出口王仁三郎 文献検索

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物語72-2-131926/07山河草木亥 捨台演王仁三郎参照文献検索
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第一三章 捨台演〔一八二二〕

 雪隠掃除を引受けた  偽改心のキユーバーは
 玉清別の神司  ダリヤの姫と相並び
 祝詞をあげる姿見て  心猿意馬が狂ひ出し
 睦まじさうな様子見て  やけてたまらず地団太を
 踏んでは見たが今少時  館の様子を考へて
 その上何とかせむものと  いろいろ雑多とすみずみに
 心を配りゐたるこそ  スガの宮居の館には
 剣呑至極の代物ぞ  五日六日と経つ中に
 キユーバーは恋の焔をば  胸に燃やしてダリヤ姫
 何とか物にせむものと  考へすます折りもあれ
 便所掃除のその際に  厠に入りしダリヤ姫
 これ幸ひ屈強の場合ぞと  手洗鉢の前に立ち
 柄杓に水を汲みながら  ダリヤの両手に注ぎつつ
 隙を覗ひ白魚の  繊手をグツと握りしめ
 『これこれもうしダリヤさま  私は貴女に真剣だ
 私の願ひを今一度  聞いてもらはにや死にまする
 睾丸さげた大丈夫  繊弱き女に手を合し
 頼むは畢竟恋ゆゑぞ  恋に上下の隔てない
 主人僕といろいろに  名は変れども人間は
 何れも天帝の分霊  尊い卑しいなどと言ふ
 そんな区別があるものか  雪隠掃除と侮つて
 私の言ふこと聞かぬなら  此方も一つ思案する
 後日に臍をかまぬやう  性念をすゑて御返答
 天晴れなされよキユーバーが  乗るか反るかの境目だ
 一人の男を生かさうと  殺さうとお前の胸次第
 醜い男と言つたとて  虎や熊ではあるまいし
 目鼻口耳眉毛まで  立派についてゐる男
 手足の指も五本ある  お前も美人と言つたとて
 道具に変りはあらうまい  早く思案を定めてくれ
 私も男の意地だもの  言ひ出したことア後に引かぬ
 サアサア返答』と詰寄れば  ダリヤの姫は打ち笑ひ
 『これこれキユーバーのお爺さま  お前は本気で言ふのかい
 お酒に酔うて言ふのだろ  道理で顔がチト赤い
 そんな下らぬ囈言を  言ふ間があつたら逸早く
 屋敷の掃除をするがよい  ヨリコの姫さまが聞いたなら
 えらいお目玉喰ふだらう  決して悪いこと言ひませぬ
 その手を放して下さんせ』  言へばキユーバーは目を剥いて
 『どうしてどうして放さうか  この手を放した事ならば
 お前は直ぐさまヨリコ姫  女帝の前に飛び出して
 俺のしたこと告げるだらう  さうなりや俺もこの館に
 お尻を据ゑてゐられない  一旦弓を放れたる
 征矢は元へは帰らない  良き返答』と詰寄れば
 ダリヤ金切声を出し  
 『あれあれ怖い助けて』と  息を限りに呼ばはれば
 花香は驚き馳せ来たり  この有様を打眺め
 『誰かと思へばキユーバーどの  ふざけた事をするでない
 ここは尊き神館  心得なさるがよろしからう
 渋紙見たやうな面をして  天下の美人の手を握り
 恋の鮒のと何のこと  お前の面と御相談
 した上その手を放さんせ  本当に呆れた売僧だな
 改心すると詐つて  少時館に忍び込み
 まめまめしくも見せかけて  恋の欲望を達せむと
 企らみゐたる猫かぶり  お前のやうな悪党は
 一時も早く去犬がよい  しつこうその手を放さねば
 ヨリコの女帝に告げるぞや』  言へばキユーバーは胴を据ゑ
 大口開けて高笑ひ  
 『アツハハハハハツツツツ  こらこら小女章魚バイタ
 俺を何方と心得る  大黒主の御信任
 最も厚き救世主  スコブッツエン宗の大教祖
 キユーバーの君でござるぞや  高が知れたる薬屋の
 一人娘や杢兵衛の  はした娘の身をもつて
 頬桁たたくおとましや  ヨリコの姫が何怖い
 オーラの山に立籠り  山賊稼いだ兇状持ち
 バラモン署に出頭して  恐れながらと出かけたら
 一網打尽貴様等も  同類仲間と見做されて
 暗い牢獄に打ち込まれ  日の目も見ずに呻吟し
 喞ち嘆けど是非もなく  忽ち日陰の罪人と
 なつて行くのは目のあたり  それでもキユーバーの要求を
 拒絶するのか花香姫  ダリヤの姫のあまつちよよ
 俺もかうなりや自暴自棄だ  スガの御殿を根底から
 でんぐり返し宮司  玉清別のデレ親爺
 吠面かわかし見せてやらう』  などと傍若無人なる
 キユーバーの言葉に呆れ果て  花香は直ちに奥の間に
 駈け込みヨリコの前に出で  キユーバーの暴状逐一に
 話せばヨリコは打ち笑ひ  衣紋繕ひ悠々と
 便所の近くに寄り来たり  
 『ホツホホホキユーバーさま  誠に親切有難う
 お尻の掃除をした上に  お手まで握つて洗うとは
 ようマア念の入つたこと  御親切感じ入りました
 これこれそこなダリヤさま  キユーバーさまの言ふことを
 心よく聞いて上げなされ』  言へばダリヤは涙声
 『何ほど私がスベタでも  卑しい身分であらうとも
 便所掃除をするやうな  爺さまに言葉をかけるさへ
 汚れるやうな気がします  まして妾を女房に
 なつてくれとはあんまりだ  腹立ち涙が乾き果て
 呆れてものが言へませぬ  なにとぞ許して下さんせ』
 ワツとばかりに泣き入れば  さすがのキユーバーも手を放し
 ヨリコの方に打ち向かひ  
 『これこれヨリコの女帝さま  猫を被つてゐた私
 かく現はれし上からは  破れかぶれだお前さまの
 首玉一つをもらはうか  それが嫌なら直様に
 バラモン署へと駈け込んで  お前の素性を素破抜き
 縄目の恥をかかさうか  如何でござる』と洟すすり
 肩肱怒らし詰寄れば  ヨリコの姫は打ち笑ひ
 『妾が今まで悪行を  稼いだ証拠がどこにある
 分らぬことをおつしやると  正反対に此方から
 お前をバラモンのお役所へ  訴へませうかキユーバーさま
 如何に如何に』と反対に  逆捻喰はせばキユーバーは
 少時躊躇ひ息こらし  黙然として打ち沈む
 ああ惟神々々  この顛末は如何にして
 落着するかこの先の  成行こそは面白き。

 キユーバーは恋の情火に包まれ耐へきれずなり、ダリヤ姫の手を握つて、威しつ瞞しつ口説いて見たが、挺子でも棒でも動かないダリヤの強情にヤケを起し、バラモン署に訴へるなどと脅喝を試みた。されどもキユーバーのごとき売僧、しかも念入りに出来た醜男には横丁の牝犬にケシかけても飛びつかない面構へ、まして絶世の美人が秋波を送る道理なく、三人の美人に寄つて集つて恥づかしめられ、無念骨髄に徹し、……もうこの上は破れかぶれだ、ヨリコの素性を素破抜き、バラモン署に訴へ、この怨みを晴らさにやおかぬ……と言ひながら問答所の看板を睨めつけ、それに啖唾をはきかけ、後足で砂をひつかけ夜叉のごとき相好を現はし、ダリヤ姫の兄イルクに会つて目的を達せむものと、一言の挨拶もなく、厭らしい捨台詞を残してこの場を立ち去つた。
 キユーバーは直ちに薬屋の表門を潜り玄関に立ち塞がり銅羅声を出して、
『七千余国の月の国を御支配遊ばす大黒主の神司のお見出しに預かつたるスコブッツエン宗の教祖キユーバーの君でござる、是非主人に面会ないたしたい』
と呼ばはる声に番頭のアルは慇懃に出で迎へ、
『ヤア何方かと思へばお前さまは、お館の掃除番ぢやないか、ナーンぢや吃驚した。大黒主だの、スコブッツエン宗の教祖だなどと大変な大法螺を吹くものだから、いかなる貴顕紳士がお出でかと思つたのに、何のことだ、よい加減に御冗談をしておかつしやい、サア早くお館へ帰つたり帰つたり』
『黙れ番頭、この方は大黒主の片腕、天然坊のキユーバーといふ大救世主だぞ、スガの館の様子を覗ふべく掃除番となつて入込んでをつたのだ。今に見ておれ、貴様の主人も老耄も貴様も共にフン縛つて、暗い暗い牢獄へブチ込んでやるぞ。早くこの方を立派な座敷へ導け、老耄や主人へ言ひ聞かすことがある』
アル『嘘か本真か知りませぬが、一寸この由を主人に伝へて来ますから、待つてゐて下さい』
キユ『グヅグヅしてゐると承知ならぬぞ、早く奥に行け』
と叱りつける。アルは舌打ちしながら、
『チエツ、売僧坊主奴が』
と小言呟きつつ主人の居間に駈け込んだ。少時するとイルクはスタスタ入り来たり、
『ヤア誰かと思へば掃除番のキユーバーだな、何の用だ。俺も忙がしいから長つたらしい話は面倒だ、手取り早く言つてくれ』
キユ『こりやイルク、勿体なくも大黒主様の寵臣キユーバーの君に向かつて、立ちはだかつて物申すといふ失礼なことがあるか、控へをらうぞ』
イル『何のことぢや、テンと訳が分らぬ。オイ アル、横町の精神病院へ行つて院長さまを頼んで来い』
『馬鹿を申せ、グヅグヅいたすと当家は断絶の憂目に会ふぞ、今まで大黒主の命によつて三五教の内幕を探るべく忍び込んでゐたのだ。探れば探るほどいよいよ怪しからぬ事をいたしてをる。大黒主様に対して少しも敬意を払つてゐない、この方がこの次第を詳さに言上しやうものなら、大変なことになるぞよ』
『ハイ、いかなる悪い事があるかも知れませぬが、信仰はもとより自由でございます。キユーバーさまでも大黒主さまでも、悪い事さへなけりやチツとも恐れませぬ、どうぞお構ひ下さいますな』
『よし、構うてくれなと申したな、後で吠面かわくな』
と言ひながら足の運びも荒々しく、其処辺り金剛杖にて打壊しながら、大手を振つて表門をくぐり何処ともなく姿を隠した。

(大正一五・六・三〇 旧五・二一 於天之橋立なかや旅館 北村隆光録)



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