出口王仁三郎 文献検索

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物語72-2-121926/07山河草木亥 懺悔の生活王仁三郎参照文献検索
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第一二章 懺悔の生活〔一八二一〕

 大黒主を笠に被て  七千余国の月の国
 吾が物顔に振舞ひつ  大足別の軍勢を
 片手に握り片手には  スコブッツエンの経典を
 力となしてトルマンの  神の国をば振り出しに
 タラハン城やデカタンの  大高原に散布せる
 数多の国々ことごとく  吾の掌裡に握らむと
 心驕りしキユーバーも  天運茲に尽きたるか
 三五教の宣伝使  梅公別の神力に
 千辛万苦の計画も  根本的に破壊され
 寄辺なくなく大野原  雨に衣はそぼち濡れ
 吹き来る風に髪の毛を  梳りつつ漸くに
 スガの港に来て見れば  前代未聞の大慶事
 山王の神の旧跡に  三五教の大神の
 珍の御舎千木高く  鰹木さへもきらきらと
 ハルの湖辺に影写し  眩きばかりの光景に
 舌を捲きつつすたすたと  この世を忍ぶ蓑笠の
 軽き扮装草鞋ばき  手被脚絆を身に纒ひ
 金剛杖をつきながら  爪先上がりの山道を
 あえぎあえぎて上り見れば  社の傍に建てられし
 さも宏壮な大道場  宗教問答所と筆太に
 書き記したるに目をつけて  思はずにやりとほくそ笑み
 宗教問答に対しては  これだけ広い月の国
 キユーバーの右に出づるもの  ただの一人もなかるべし
 いよいよ天運循環し  一陽来復時到る
 神の光もいや長く  八千代の椿優曇華の
 花咲く春に遇ふ心地  ああ面白し面白し
 坊主鉢巻締め直し  いかなる奴かは知らねども
 高が知れたる女ども  奮戦激闘秘術をば
 尽して挑み戦へば  何の手間暇要るものか
 風に木の葉の散るごとく  旭に露の消ゆるごと
 春の氷の解くるごと  スカ屁を放つたるその如く
 影も形もなき崩れ  尻はし折つて一散に
 雲を霞と逃げ出すは  今目の当り見るやうだ
 いかなる女か知らねども  天下唯一の救世主
 神徳無双のキユーバーが  舌鋒にかかつちや耐るまい
 相格崩して笏を捨て  大地にバツたと鰭伏して
 謝り入つて吾が弟子に  どうぞ加へて下さいと
 歎願いたすに違ひない  アア面白い面白い
 五月の空は曇れども  キユーバーの心の空晴れて
 日月天に照るごとく  スガの山下宮の棟
 輝き渡らむ神の国  占領なさむは案の内
 なぞと高をばくくりつつ  問答所の玄関に
 立ちて様子を窺へば  花に嘘つく美婦人の
 花香の姫に迎へられ  ハツと驚き眉を寄せ
 ハートに波は打ちながら  素知らぬ顔を装ひつ
 庭下駄覆いて境内を  参拝すると言ひながら
 作戦計画備へつつ  いよいよこれから正念場
 舌端火を吐きヨリコ姫  煙に巻いてくれむずと
 いきまきゐたる可笑さよ  案内につれて奥の間の
 問答椅子によりかかり  ヨリコの姿を眺むれば
 案に相違の気高さに  魂消んばかり驚けど
 元より曲者胴を据ゑ  二口三口戦へど
 元より蟷螂の斧をもて  竜車に向かふごとくなる
 話にならぬ勝敗に  腰を抜かして打ち倒れ
 二人の姫に介抱され  夜具を着せられ一夜を
 これの館に明しける  明くれば女帝のヨリコ姫
 キユーバーの傍に立ち寄りて  
 『スコブッツエン宗の教祖さま  昨夜は誠に御失礼
 直日に見直し聞き直し  宣り直されて悠りと
 これの館に投宿し  妾の下僕となりなさい
 女ばかりのこの館  男がなくては仕様がない
 風呂も焚かして上げませう  お飯も炊かして上げませう
 下駄の歯入は言ふもさら  雑巾もつて床の間の
 掃除はおろか竹箒  手に携へてお屋敷の
 隅々までも清らかに  木の葉や塵を掃きなされ
 それが嫌なら便所の  お掃除さして上げませう
 女ばかりの行く雪隠  香しい匂ひがしますぞや』
 言へばキユーバーは諾づいて  
 『いかにも女帝様ご尤も  私は偉い男だと
 今まで思うてゐたけれど  女のお前にへこまされ
 口さへ開かぬ不甲斐なさ  もちつと修業が足らないと
 ボツボツ悟らして貰ひました  いよいよこれから私は
 懺悔の生活営んで  人の嫌がる便所の
 掃除を大事に勤めませう  太閤さまでも初まりは
 信長公の草履持ち  下から上つた出世なら
 基礎はなかなか固けれど  雲を渡るよな計画は
 危険の伴ふものと知り  すつかり改心いたしました
 なにとぞ私に目をかけて  気長く使つて下さんせ
 天晴れ修業が出来たなら  三五教の神様の
 御用の端でも務めます』  言へばヨリコは諾づいて
 『汝の言葉に偽りが  なければそれでよろしかろ
 これから確り気をつけて  お便所の掃除をなさいませ
 これこれ花香よダリヤさま  今日からキユーバーのお爺さま
 ここの下僕と定まりました  遠慮会釈は要らないで
 ひどく使つてやりなさい』  などと得意の面持を
 二人の前に輝かし  吾が居室さして入りにける
 ああ惟神々々  神の光に恐れたか
 但しは思ふことありて  キユーバーが一時呆けたか
 雲の上から地の底へ  下つたやうな境遇に
 甘んじ暮すはずはない  雨か暴風雨か将風か
 地震雷洪水か  神ならぬ身の知るよしもなく
 花香の姫やダリヤ姫  不安の色を浮べつつ
 ヨリコの言葉に従ひて  キユーバーを下僕と使ひける
 ああ惟神々々  神の経綸の面白さ。
 玉清別の神司  ダリヤの姫ともろともに
 宮の階段刻みつつ  神の御前に額づきて
 祝詞を唱ふる折りもあれ  箒を持ちしキユーバーは
 ダリヤの姫の後姿  穴の開くほど打ち眺め
 『アーアほんに何とまあ  姿の綺麗な淑やかな
 どこに欠点ない娘  俺も男の端だもの
 女の持てない事あろか  トルマン城に乗り込んで
 天下の美人と聞こえたる  千草の姫さへ惚かした
 腕に覚えのある男  高が知れたる薬屋の
 娘ぢやないか赤心を  尽してかかれば訳もなく
 俺に靡くに違ひない  女護の島か竜宮の
 乙姫館に住みながら  女の尻の大掃除
 朝から晩まで柔順しう  やつてゐるのも気が利かぬ
 エーエ思へばじれつたい  心猿意馬奴が狂ひ出し
 どうしてもかうしても耐らない  とは言ふものの今しばし
 辛抱しなくてはならうまい  こんな所で襤褸出して
 追放されやうものならば  肝腎要の吾が企み
 またもや画餅になるだらう  恥を忍んで朝夕に
 苦労するのも後のため  今に見てをれヨリコ姫
 花香の姫やダリヤ姫  俺に秋波を送らねば
 ならないやうにしてやらう  それが男の腕前だ
 先の百より今五十  などと短気な事はせぬ
 大望抱へしキユーバーの身  大器晩成といふことは
 吾には尊き金言だ  恋雲しばし吹き散れ』と
 吾と吾が身を伊吹きしつ  箒で払ふ可笑さよ
 玉清別はダリヤ姫  後に従へ階段を
 下りて見ればキユーバーは  箒を持ちて庭に立ち
 空行く雲を打ち眺め  感慨無量の為体
 見るよりダリヤは傍に寄り  『キユーバーさまえ』と背叩き
 笑へばキユーバーは吃驚し  揉手をしながら腰屈め
 『ハイハイ誠に御失礼  お二人さまの言霊の
 清き響に憧れて  思はず知らず恍惚と
 霊を抜かれてをりました  サアサア私がお館へ
 お伴をさして貰ひませう』  言へば玉清別司
 右手を振りつつ『キユーバーさま  決して心配要りませぬ
 ダリヤの姫と二人連れ  滅多の事はありませぬ
 左様ならば』と言ひ捨てて  神館さして帰り行く
 後見送りてキユーバーは  舌をチヨンチヨン打ち鳴らし
 『チエー畜生馬鹿にすな  睦まじさうに二人連れ
 甘き囁きつづけつつ  これ見よがしに行きよつた
 怪体が悪いと思へども  ここをも一つ耐へねば
 肝腎要の大望が  成就せないと思へばこそ
 歯ぎりを噛んで辛抱する  アア叶はぬ叶はぬ耐らない
 目玉飛び出すやうだワイ』  

(大正一五・六・三〇 旧五・二一 於天之橋立なかや旅館 加藤明子録)



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