出口王仁三郎 文献検索

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物語72-2-111926/07山河草木亥 問答所王仁三郎参照文献検索
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第一一章 問答所〔一八二〇〕

 スガの宮の広い境内の片隈に問答所といふ建物を新築し、ヨリコ姫、花香、ダリヤ姫の三人が昼夜出勤してゐた。さうして表の大看板に「宗教一切の問答所」と筆太に書き記し、その傍に細字にて、
「如何なる、宣伝使、修験者と雖もお相手仕るべく候。万々一妾が説き伏せられし暁はスガの宮の宮仕を辞し、妾に勝ちしお方に役目をお譲り可申候也。無冠の女帝ヨリコ姫」
と書き記しておきたりける。

 大胆至極のヨリコ姫  猪喰た犬のどこまでも
 人をば何とも思はない  その心根はありありと
 大看板に現はれぬ  五月雨の空低うして
 山時鳥啼き渡り  若葉も老いし夕間暮
 異様の服装身にまとひ  錫杖ついた修験者
 網笠目深にかぶりつつ  問答所の玄関に
 立塞がりて声高く  頼まう頼まうと訪へば
 花香の姫は立出でて  いと丁寧に敬礼し
 『見れば貴方は修験者  いづれの方かは知らねども
 ヨリコの女帝がお待ちかね  定めて問答せむために
 お運びなさつたに違ひない  先頭一のお前様
 シツカリおやりなさいませ  妾は側に侍りて
 高論卓説一々に  拝聴さしてもらひませう
 それが妾の第一の  大修業となるのです
 早くお上がりなされよ』と  盥に清水を汲み来たり
 草鞋とくとく脚絆まで  脱がせて足を洗ひやり
 庭下駄渡せば修験者  案に相違の面持ちで
 ニツコと笑ひ庭下駄を  足に引掛け悠々と
 境内隈なく経めぐりつ  如何なる事の質問を
 出してやらうかと首ひねり  時を移すぞ抜目なき
 ヨリコの姫は窓開けて  今訪ひ来たりし修験者の
 変姿怪態打ち眺め  思はず知らずホホホホと
 笑ひこけては起き上がり  覗きゐるこそあどけなき
 修験者心に思ふやう  『大胆不敵の女奴が
 大看板を掲げつつ  人を煙りに巻いてゐる
 どんな奴かは知らねども  吾が足洗うた女奴は
 チヨイと渋皮むけてゐる  どことはなしに香しき
 匂ひが鼻にプンと来た  どうしてもこしても彼奴をば
 俺の女房にせにやおかぬ  さはさりながら今晩の
 問答にもしや負けたなら  赤恥かいて男さげ
 スゴスゴ帰らにやならうまい  宝の山に入りながら
 手ぶらで帰るも気がきかぬ  何とか工夫をめぐらして
 ヨリコの姫とかいふ奴を  木端微塵に説きくだき
 往生させてキユーバーが  威勢をあつぱれ輝かし
 三五教の聖場を  うまうま占領した上で
 スコブッツエン宗の本山に  立替へすればそれでよい
 トルマン国では下手を打ち  千草の姫には生き別れ
 男を下げたその揚句  青竹払ひを喰はされし
 風の神でも追ふやうに  田吾作杢兵衛おかめ等に
 おつ払らはれし無念さよ  あつぱれ此処で旗をあげ
 会稽の恥を雪がねば  大黒主の御前に
 出でて言訳立たうまい  大足別の将軍も
 定めて怒つてゐるだらう  何か一つの手柄をば
 やつて見せねば救世主  教祖の光も暗雲だ』
 などと自己愛利己主義の  勝手なことを考へつ
 襟をば正し目をすゑて  玄関さして帰り来る
 そのスタイルの可笑しさに  ヨリコの姫は窓の内
 またもや笑ひこけながら  一室に入りて顔貌
 鏡に向かつて髪の風  繕ひをへて白妙の
 衣を長く身にまとひ  問答席に立ち出でて
 四辺眩く坐しゐたり  花香の姫の案内に
 ついて出て来る修験者  ヨリコを一目見るよりも
 眼は眩み胸をどり  舌の自由を失ひて
 宣る言霊も口籠り  体内地震は時じくに
 勃発したるあさましさ  かくてはならじと修験者
 吾と心を取直し  臍下丹田に胆玉を
 グツと据ゑつけやや反り身  ヨリコの女帝を睨めつけて
 軽く目礼施しつ  不恰好にできた口許を
 パツと開いて『某は  ハルナの都に名も高き
 大黒主の片腕と  世に聞こえたるキユーバーぞや
 そも大黒主の神様は  七千余国の月の国
 片手に握る聖雄ぞ  普天の下や率土の浜
 これみな大黒主のもの  その領分に住む汝
 女帝と名のるは何故ぞ  事と品とによつたなら
 スコブッツエン宗の法力で  汝を厳しく捕縛して
 ハルナの都へ送らうか  いかなる悪魔の化身かは
 探りかぬれど汝こそ  この世を誑る探女なり
 天人天女にまがふなる  美貌を楯に世の中の
 有情男子の肝をぬき  おのれ女帝となりすまし
 七千余国の月の国  掌握せむとの下企み
 それと覚つた修験者  返答聞かむ』と詰めよれば
 ヨリコの姫は高笑ひ  
 『ホホホホホツホ ホホホホホ  どこの坊主か知らねども
 キユーバーといふ名は聞いてゐる  見ると聞くとは大違ひ
 ようマアそんな面をして  世界が渡れて来たものだ
 これを思へば世の中は  ホントに広いものですな
 お前のやうな醜面も  下品な姿も世の人は
 盲千人の例へにもれず  教祖様よ救世主
 などと喜び渇仰する  その心根がいぢらしい
 スコブッツエン宗といふ宗旨  女の乳房をえぐり出し
 要塞地帯までくりぬいて  神の御前に奉る
 蒙迷頑固の偽宗教  其方の顔を一目見て
 宗旨の全豹分りました  とるにも足らぬお前さまと
 問答したとて是非はない  一時も早く尻からげ
 尻尾を股に挟みつつ  逃げて帰るがためだらう
 グヅグヅしてると野狐の  尾尾が現はれまするぞや
 スガの宮にや鼻の利く  沢山な犬がをりますぞ
 ホホホホホ ホホホホ  あまり可笑しうて腸が
 撚れますぞや』と嘲弄へば  キユーバーは団栗眼に角をたて
 肩を四角に聳やかし  鼻息荒く腕まくり
 握り拳を固めつつ  力限りに卓を打ち
 コツプの水を踊らせつ  一口飲んで息をつぎ
 ヨリコの顔をいやらしく  下からグツと睨め上げて
 『ホンに素敵な女郎だなア  俺も諸国を遍歴し
 沢山な女に会うたれど  お前のやうな奴転婆を
 一度も見付けた事はない  それだけ度胸があるならば
 神さま等に仕へずと  オーラ山へでも飛んで行て
 ホントのヨリコに面会し  お弟子になつて泥棒の
 飯焚きなりとするがよい  ホンニ呆れてもの言へぬ
 愛想もこそも月の国  七千余国のその中に
 これほどきつい女郎あらうか  ハツハハハハハ』と苦笑ひ
 すればヨリコはキツとなり  
 『玄真坊やシーゴーの  三千人の泥棒の
 大頭目をこの腮で  しやくつて使うたヨリコとは
 この姐さまでござるぞや  驚くなかれ驚くな
 オーラの山を解散し  悪魔の道を廃業して
 水さへ清きハルの湖  吹き来る風に魂を
 清めすましてスガの山  神の誠の取次と
 忽ち変るヨリコ姫  如何なる悪人なればとて
 神に貰うた魂は  至善至美なる増鏡
 研けば光る人の魂  あまり軽蔑なさいますな』
 はじめて明かすその素性  聞くよりキユーバーは仰天し
 呆れて椅子からドツと落ち  尻餅ついて腰痛め
 アイタタタツタ アア痛い  薬よ水よ繃帯と
 ワザとに駄々をこねまわし  何とかなしてこの美人
 住まへる宿に一夜の  伽をなさむと企むこそ
 大胆不敵の曲者ぞ  ヨリコの姫はキユーバーが
 心の底まで探知して  そしらぬ顔を粧ひつつ
 煙草をスパスパ輪に吹きつ  
 『これこれ花香よダリヤさま  ここに一人の行倒れ
 売僧坊主が居りまする  蓆の破れでも持つて来て
 頭から尻までよく包み  雪隠の側へ持ち行きて
 其処に寝かして置きなされ  スコブッツエン宗の小便使
 天下を騙詐る糞坊主  雪隠の側が性に合ふ
 ホホホホツホ ホホホホ』  笑ひ残し悠々と
 扇に片頬あほぎつつ  吾が居間さして入りにけり
 キユーバーこの態見るよりも  剛腹立ちて堪り得ず
 ムツクと起きて胸倉を  掴み懲らしめやらむとは
 思ひ焦れど肝腎の  腰の蝶番脱骨し
 無念をのんで両眼を  剥き出しながら時ならぬ
 涙の雨に浸りける  夜はシンシンと更け渡り
 夜半を報ずる太皷の音  七五三と聞こえ来る
 花香ダリヤの両人は  しぶしぶ夜具をとり出だし
 キユーバーの上に被せつつ  各自寝室に入りにける
 ああ惟神々々  神の仕組ぞ面白き。

(大正一五・六・三〇 旧五・二一 於天之橋立なかや旅館 北村隆光録)



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