出口王仁三郎 文献検索

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物語72-1-71926/07山河草木亥 鰹の網引王仁三郎参照文献検索
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第七章 鰹の網引〔一八一六〕

 常磐丸の船中における玄真坊、コブライ、コオロの直接行動的争ひも無事に済んで、船端に皷の波を打たせながら水上静かに辷り行く。
 船中の無聊を慰むるため、彼方此方に面白き国の俗謡が聞こえて来た。中にも最も著しきは恵比須祭の欵乃である。船頭は舷頭に立ちながら海に馴れたる爽かな声で、節面白く唄ひ出した。

『正月のー朔日二日の初夢に  如月山の楠の木を
 舟に造り今おろす  白銀柱押し立てて
 黄金の富を積ませつつ  綾や錦を帆にかけて
 宝の島へと乗り込んで  数多の宝を積み込んで
 追手の風に任せつつ  思ふ港へ馳せ込んで
 これのお倉に納めおく  ヨーン デー ヤール
 神の昔の二柱  金輪際より揺るぎ出でたるこの島を
 自転倒島と言ふとかや  山には常磐のいーろいろ
 黄金白銀花咲いて  お山おろしが吹くとても
 散らぬ盛りに国々は  浦々までも豊かにて
 五穀草木不足なく  七珍万宝倉に満ち
 とざさぬ御代の恵みより  長命無病と聞くからは
 四方の国より船寄する  綾や錦の下着より
 縞に木綿の紅までも  唐に大和を取りまぜて
 商ふ店の賑やかさ  猟漁りの里々は
 山に雉鴨鶴もある  裏の港の磯つづき
 あけて恵比須の浪塩は  ヤンサ目出たやお鉢水
 ヨーン デー ヤール』  

 玄真坊はこの歌を聞いて飛び上り、自分も一つ負けぬ気になり、貧弱な頭から、こぼれ出した欵乃は一寸変ちきちんなものである。

『春の海面よく光る  大島小島数々と
 碁石のやうに並ぶ中  海賊船が右左
 彼方此方と横行し  宝を積んだ船見れば
 一目散にやつて来て  否応言はさずぼつたくり
 ゴテゴテ言へば命まで  貰つて帰る凄い船
 こんな手合に出会つたら  ヨーン デー ヤール
 金鎚さまの川流れ  一生頭が上るまい
 俺も昔は山賊の  大頭目と手を組んで
 オーラの山に天降り  杉の梢をからくりに
 数多の火影を輝かし  天から星が下りまし
 天帝の御化身救世主  玄真如来の説法を
 聴聞なさると触れ込ませ  あなたこなたの村々ゆ
 善男善女を誑かし  もう一息といふ処へ
 三五教の梅公別  女房をつれて出で来たり
 二人の女ともろともに  蛸の揚げ壺喰はされた
 実にも甲斐なき蛸坊主  今から思へば恐ろしや
 ヨウマア天地の神々は  この悪僧をいつまでも
 生かしておいて下さつたと  思へば冥加がつきるやうだ
 ヨーン デー ヤール  彼方こちらとさまよひつ
 よからぬ事のみ企らみて  三百人の不良分子
 彼方此方に振り向いて  自分は一人タニグクの
 山の岩窟にダリヤ姫  せしめんものと連れ込めば
 藻脱けの殻の馬鹿らしさ  それから愈やけとなり
 神谷村の里庄なる  玉清別の館にと
 忍び込みたるダリヤをば  奪ひ返して吾が妻に
 無理往生にせむものと  思うたことも水の泡
 まだまだ悪い事ばかり  やつて来たこと思い出しや
 全身隈なく冷汗が  夕立のごとくに湧いて来る
 ヨーン デー ヤール  今乗る船は常磐丸
 斎苑の館の神様の  御用を遊ばす宣伝使
 照国別の師の君に  危ふき所を助けられ
 心の底から立直し  お伴に仕へ侍り行く
 ヨーン デー ヤール  サアこれからはこれからは
 心の基礎をつき直し  神に刃向かふ仇あれば
 鬼でも蛇でもかまはない  命を的に飛び込んで
 今まで悪を尽したる  その補ひをせにやならぬ
 アア面白や面白や  面白狸の腹皷
 打つ波の上をスクスクと  狸坊主の蛸坊主
 人が笑はうが謗らうが  そんな事には構はない
 これから世間に恥さらし  自分の罪の償ひを
 天地の神にせにやならぬ  玄真坊もこれからは
 三五教の宣伝使  神の司の僕とし
 一生この世を送りませう  ダリヤの姫やその外の
 美人のことは思ひきり  一生懸命に神様の
 誠の道を伝へませう  ヨーン デー ヤール
 ああ惟神々々  神は吾等と共にあり
 人は神の子神の宮  神に任せしこの体
 虎狼も何かあらむ  上下揃うて世を円く
 治むる時をまつの世の  弥勒菩薩の再来と
 仕へまつらむ斎苑館  神素盞嗚の大神の
 御前に誓ひ願ぎ奉る  御前に誓ひ願ぎ奉る
 ヨーン デー ヤール』  

 常磐丸は漸くにして翌日の真昼ごろスガの港に安着した。この港には鰹の漁が盛んである。ちやうど常磐丸の着いたころ、網引きが始まつてゐた。一行は旅の憂さを慰むるため漁師に頼んで引網の中に加はり、ともに面白可笑く歌をうたふこととなつた。
 幾艘の船は網の周囲に集つて音頭をとりながら陸上に向かつて網を引き上げる。親船が先づ歌の節々の初めを謡ふと、他の船の漁師たちはこれに和して後をつぎ、以て力の緩急を等しくする、その調子はちやうど木遣節のやうである。

『せめてこの子が男の子なら
  櫂を持たせて
 ホラ ホーオ サツサア ヤツチンエエ
 イヤンホ サツサー ヤツチンエエ。
 スガは照る照る太魔の島曇る
  あいの高山雨が降る。
 大高お岩は二つに割れて
  割れて世がよいヨヤハアサツサ。
 引けよ若衆きれ否加勢
  十二船魂勇ませて。
 旦那大黒内儀さま恵比須
  中の子供がお船魂。
 船の艫艪へ鶯とめて
  明日は大漁と鳴かせたい。
 船は新造でも艪は新木でも
  船頭さまが無けれや走りやせぬ。
 ホラ ホーオ サツサ ヤツチンエエサツサ
 ヤツチンエエ ヨイヤハアサツサ』

照国別『これ照公さま、何と面白い網引ぢやないか、沢山の船頭衆が黒いお尻を出し、真裸の真跣で黒い鉢巻を横ンチヨに絞めて、大きな網を海上一面に張り廻し、言霊を一斉に揃へて鰹を上げる処は何ともいへぬ壮観の感に打たれるぢやないか』
照公別『いかにも師の君の仰せの通り、壮絶快絶の極みですな。吾々宣伝使も、この引網に倣つて一遍に少なくとも数万人の信者を引き寄せ、うまく宣伝をやつたら面白いでせうな。どうです先生、これからスガの町へ行つたら、大公会堂でも借り込んで、数万の町民に一度に聴かせてやつたら、大神の神徳に浴する信者が沢山に出来るかも知れませぬ。労少なくして効多き、最も文明式の方法ぢやありますまいか』
『イヤイヤさうではないよ、公会堂なんかは神の道の宣伝には絶対に適しない。公会堂は政治家や主義者の私淑する処だ、そんな処で神聖な神様の教をしたところで、身魂に相応しないから、労多くして功無しだ』
『そんなら先生、劇場はどうでせうか』
『なほなほ不可ない、劇場は遊覧客の集まる処だ。歌舞伎や浄瑠璃や浪花節、手品師、活動写真等やる処で、たとへ聴衆が幾らやつて来ても、遊山気分で出て来るからチツとも耳へ這入らない。却つて神の御名を傷つけるやうなものだ』
『なるほど、さう聞けば仕方がありませぬな、そんなら学校の講堂はどうでせうか』
『学校の講堂は学問の研究をする処だ。深遠微妙な形而上の真理や信仰は、たうてい学校の講堂で話したところで駄目だ。何人も研究心を基礎として聞くから、何人も真の信仰には入れないよ。青年会館だの倶楽部だの公会堂だの、民衆の集まる処は凡て駄目だ。夜足で捕つた魚や網で捕つた魚は、同じ魚でも味が悪い。一匹一匹釣の先に餌つけて釣り上げた魚は味が良いごとく、神の道の宣伝は一人対一人が相応の理に適うとるのだ。やむを得ないなら五六人は仕方がないとしても、それが却つて駄目になる』
『なるほど、さうすると仲々宣伝といふものは、容易に拡まらないものですな』
『一人の誠の信者を神の道に引き入れた者は、神界においてはヒマラヤ山を千里の遠方へ一人して運んで行つたよりも、功名として褒めらるるのだからなア』
『さうすると先生は入信以来、どれくらゐ誠の信者をお導きになりましたか』
『残念ながら、未だ一人も誠の信者を、ようこしらへてゐないのだ』
『ヘーエ、さうすると、梅公別や吾々は宣伝使の試補となつて廻つてゐますが、まだ信者の数には入つてはゐないのですか』
『マアそんなものだな』
『何と心細いものぢやありませぬか』
『さうだから心細いと何時も言ふのだ』
『この玄真坊さまはさうすると、まだ信者の門口にも行かないのでせうね』
『ヤアこの玄真坊殿はずゐぶん悪い事もやつて来たが、お前に比べては余程信仰が進んでゐるよ、すでに天国へ一歩を踏入れてゐる』
『それやまたどうしたわけですか。吾々は未だ一度も大した嘘もつかず、泥棒もせず嬶舎弟もやらず、正直一途に神のお道を歩んで来たぢやありませぬか。それに何ぞや大山子の張本、勿体なくも天帝の御名を騙る曲神の権化ともいふべき行為を敢てした玄真坊殿が天国に足を踏込むとは、一向に合点が行きませぬ』
『大なる悪事をなしたる者は悔い改むる心もまた深い。真剣味がある。それゆゑ身魂相応の理によつて、直ちに掌をかへすごとく地獄は化して天国となるのだ。沈香も焚かず庇も放らずといふ人間に限つて、自分は善人だ、決して悪い事はせないから天国に上れるだらうなどと慢心してゐると、知らず識らずに魂が堕落して地獄に向かふものだ。悪い事をせないのは人間として当然の所業だ。人間は凡て天地経綸の主宰者だから、この世に生れて来た以上は、何なりと天地のために神に代るだけの御用を勤め上げねばならない責任をもつてゐるのだ。その責任を果す事の出来ない人間は、たとへ悪事をせなくとも、神の生宮として地上に産みおとされた職責が果されてゐない。それだから身魂の故郷たる天国に帰ることが出来ないのだ』

照公『天国に吾が魂在りと思ひしに
  地獄に向かへる事の歎てさ

 今よりは心の駒を立直し
  神の任さしの神業励まむ』

玄真『身はたとへ根底の国に沈むとも
  神の恵みは忘れざるらむ』

照国『千早振る神の恵みは世の人の
  夢にも知らぬ処に潜む

 暗の夜を照り明さむと宣伝使
  よさし玉ひぬ瑞の大神』

(大正一五・六・二九 旧五・二〇 於天之橋立なかや別館 北村隆光録)



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