出口王仁三郎 文献検索

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物語72-1-21926/07山河草木亥 時化の湖王仁三郎参照文献検索
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第二章 時化の湖〔一八一一〕

 妖幻坊の杢助や  金毛九尾の高姫は
 初稚姫の神徳と  猛犬スマートの威に怖れ
 祠の森を逸早く  雲を霞と逃げ出だし
 薄の茂る大野原  彼方こなたとかけ廻り
 うろつき魔誤つきしがみつき  意茶つき喧嘩も病みつきで
 施す術も月の空  遥かにかがやく小北山
 その霊場に蠑螈別  魔我彦司の居ると聞き
 斎苑の館の総務職  笠にきながら妖幻坊
 ウラナイ教の大教祖  高姫司と名乗りつつ
 二人は手に手をとりながら  一本橋を撓づかせ
 河鹿の流れを打ち渡り  魔風恋風吹き荒ぶ
 蠑螈館に来て見れば  目界の見えぬ文助が
 白き衣を着けながら  受付席に控へゐる
 高姫見るより驚いて  
『これこれお前は文助か  この聖場は高姫の
 教を伝ふる蠑螈別  神の司の館ぞや
 蠑螈の別の教の祖  高姫司をさしておいて
 教を布くとは虫がよい  ちつと心得なさりませ
 この御方は産土の  山の台に千木高く
 大宮柱太知りて  鎮まりゐます素盞嗚の
 神の教に仕へます  三羽烏の御一人
 杢助総務でござるぞや  早く挨拶した上で
 いと丁寧におもてなし  神の如くに敬へ』と
 大法螺吹き立て尻を振り  松姫館に駈け込んで
 お千代やお菊に揶揄はれ  腹は立てども虫こらへ
 木端役員初徳を  旨く抱き込み小北山
 神の館を奪はむと  あらゆる手段を尽すをり
 頂上の宮の鳴動に  荒胆つぶし逃げ出だし
 二百の階段驀地  下るをりしも文助に
 思はず知らず衝突し  曲輪の玉を遺失して
 高姫初徳もろともに  雲を霞みと逃げ出だし
 怪しの森の近くまで  逃げ来るをりしも妖幻坊
 吾が懐に隠したる  曲輪の玉の影なきに
 顔青ざめて思案顔  芝生の上にどつと坐し
 萎れかかりしその風情  見るより高姫怪しみて
 様子を問へば妖幻坊  如意の宝珠に勝りたる
 曲輪の玉をはしなくも  小北の山に落としたり
 初徳両人吾が命を  奉じて小北の山に行き
 曲輪の玉を奪り返し  帰り来たれと命ずれば
 尻を痛めた両人は  チガチガ坂をよぢ登り
 文助司を気絶させ  やうやく曲輪の玉を奪り
 再び怪しの森影に  走り帰れば妖幻坊
 高姫二人は喜びて  やにわに玉を引奪り
 その懐に捻ぢ込みぬ  をりから下る闇の幕
 これ幸ひと両人は  闇に潜める初徳の
 頭の辺を目がけつつ  闇に打ち出す石礫
 夜目の見える妖幻坊  金毛九尾の二人連れ
 雲を霞みと逃げ出だし  浮木の森の狸穴に
 しばらく身をば潜めつつ  曲輪の玉を応用し
 一夜に造る城廓は  天を摩しつつそそり立つ
 金毛九尾の高姫は  実の城と思ひ詰め
 杢助司の妙術を  口を極めて称讃し
 高宮彦は妖幻坊  おのれは高宮姫となり
 高子宮子の侍女を  狸と知らず侍らせて
 恋に狂へるをりもあれ  三五教の宣伝使
 初稚姫に踏み込まれ  妖術ここに暴露して
 妖幻坊は座に堪へず  高姫司を引つ抱へ
 もはや運命月の国  デカタン国の高原の
 空翔けり行く折りもあれ  にはかに吹き来る烈風に
 耐りかねてか高姫を  かかへし腕くつろげば
 空中滑走の曲芸を  演じて地上に墜落し
 高姫息は絶えにけり  さは然りながら高姫は
 吾が肉体の失せしをば  夢にも知らず幽界の
 八衢街道をとぼとぼと  彼方此方に彷徨ひつ
 杢助司の所在をば  探し求めて三年振り
 月日も照らぬ岩山の  麓に荒屋構へつつ
 往来の精霊引つ捕へ  底つ岩根の大ミロク
 日の出の神の生宮を  悟れよ知れよ救世主
 此処に居ますと法螺を吹き  騒ぎ廻るぞ可笑しけれ
 三年を過ぎし暁に  トルマン国の王妃なる
 千草の姫の身死りし  その肉体を宿となし
 再び現世に蘇生り  千草の高姫となりすまし
 国王までも尻に敷き  あらむ限りの狂態を
 日夜演ずるをりもあれ  言霊別の化身なる
 梅公司に謀られて  包むに由なく忽ちに
 金毛九尾と還元し  トルマン城を後にして
 雲を霞と逃げ出だし  妖僧キユーバーの行衛をば
 探るをりしも入江港  浜屋旅館の一室で
 思はず知らず杢助に  化けおほせたる妖幻坊に
 出会しここに両人は  手に手をとつて夜の道
 浜辺に出でて乗合の  高砂丸に身を任せ
 スガの港をさして行く  波瀾重畳限りなき
 いと面白き物語  完全に委曲に述べてゆく
 ああ惟神々々  恩頼をたまへかし。

   ○

 曲津の運命月の国  大雲山に蟠まる
 八岐大蛇の片腕と  世に聞えたる妖幻坊
 三五教の皇神の  清き明るき大道の
 光を怖れ戦きて  数多の魔神を呼び集へ
 神の大路を破らむと  心を砕き身を焦がし
 三五教に捨てられて  心ひがめる高姫の
 腸探り杢助と  身をやつしたる恐ろしさ
 身を粉にしても砕けても  潰さにやおかぬ三五の
 道こそ強き梓弓  ハルの海原船出して
 再び会ひし高姫と  教のとも船高砂の
 名に負ふ船に身を任せ  油を流せし如くなる
 浪も静かな海原を  鼻歌うたひ勇みつつ
 スガの港をさして行く。  

 妖幻坊、高姫の乗り込んだ高砂丸は余ほどの老朽船であつた。この船には建造以来、高砂笑といつて一種の妙な習慣が残つてゐた。高砂丸に乗り込んだ者は、大は政治の善悪より下は小役人の行動をはじめ、主人や下僕、朋友知己、その外あらゆる人物を捉へて忌憚なく批評し、悪罵し、嘲笑することが不文律として許されてゐた。遅々として進まぬ船の脚、退屈まぎれに種々の面白き話の花が咲いて来た。
 船客の一人、
甲『オイ、コブライ、玄真坊といふ売僧坊主は本当に仕方のない餓鬼坊主ぢやないか。天帝の化身だの、天来の救世主だのと大法螺を吹きやがつて、オーラ山に立て籠り、三五教の梅公別様に内兜を見透され、岩窟退治をせられてお払ひ箱となり、三百人の小泥棒を従へて再びオーラ山の二の舞をやらうと企らみ、スガの港のダリヤ姫に懸想して旨く肱鉄砲を乱射され、終ひの果てにやタラハン城の左守の司に腹まで切らせ、しこたま黄金を強奪り俺たちに揚壺を喰はし、入江港の浜屋旅館に泊り込み、千草の高姫とかいふ妖女に涎を垂らかし、眉毛をよまれ睾丸を締められ、所持金をすつかり奪られて、殺されよつたといふことだが、本当によい気味ぢやないか。俺たちが越後獅子に化けて、彼奴の面を曝してやつた時の狼狽やうつたらなかつたぢやないか、本当に思うても溜飲が下るやうぢやのう、エヘヘヘヘ』
コブライ『玄真坊なんか悪いといつたつて知れたものだよ、彼奴は女さへ当てがつておけばどうでもなる代物だ。ちつと山気はあるが、根が愚物だから、あんな奴は驚くに足らないが、このごろ三五教の宣伝使の話に聞けば、大雲山の妖幻坊とかいふ獅子と虎との混血児なる大妖魅が天下を横行し万民を苦しめ、三五教の聖地までも横領せむとして、第一霊国の天人の御化身初稚姫様とやらいふエンゼル様に太く誡められ、高姫とかいふ淫乱婆と手に手を把つてハルの湖を渡るといふぢやないか。三五教の照国別とかいふ生神様のお話だというて、今朝も埠頭に沢山の人が居てこそこそ話してゐたよ。俺たちは玄真坊さへもあの通りこつぴどくやつつけて肝玉を転倒へしてやつたのだから、万一妖幻坊に出会したら最後素首を捻切つて引きちぎつて、子供が人形を潰したやうな目に会はしてやり、天下万民の憂ひを除き救世主にでもなつてやらうと思ひ、もしやこの高砂丸に怪しい奴が乗つてゐやしないかと目をぎよろつかせてゐるのだが、ねつから悪魔らしい奴も見えず、いささか見当違ひで面喰つてゐるのだ。もしひよつと船底にでも潜伏してゐやうものなら、俺が口笛を吹くから、お前も加勢を頼むよ。名誉は山別けだからのう、オホン』
コオロ『ヘンえらさうに法螺を吹くなよ、内弁慶の外すぼり奴が、貴様の面で妖魅退治も糞もあつたものか、天に口あり壁にも耳だ。妖幻坊といふ奴は魔神の大将だから、俺たちの囁き話を千里外からでも聞いてゐるといふ事だ。口は禍ひの門といふから、まづ沈黙したらよからうぞ』
コブ『馬鹿をいふな、妖幻坊が怖くてこの世の中に居れるかい。何ほど強いといつても女の顔を見れや菎蒻のやうになる代物だから、知れたものだよ。見ると聞くとは大違ひといふ諺もあるから、実物に遇うたら案外しやつちもないものかも知れないよ、アハハハハ』
 妖幻坊、千草の高姫は船の底に青くなつて縮こまり、二人の話を聞いて腹は立つてたまらねど、何というても湖の上、水には弱い両人の事とて悔し涙を呑みながら、素知らぬ顔して控へてゐた。
 頃しも晴れ渡りたる東北の空に一塊の黒雲現はれると見る間に、忽ち東西南北に拡大し、満天墨を流したるごとく、昼なほ暗く、暴風吹き来たり、雨沛然として降り注ぎ、波浪は山岳のごとく猛り狂ひ、半ば荒廃に帰したる高砂丸は、めきめきと怪しき音を立て、忽ち転覆の厄に遇ひ、乗客一同は浮きつ沈みつ声を限りに助けを呼んだ。
 折りから激浪怒濤を犯して八挺櫓を漕ぎながら勢ひよく進み来たる新造船があつた。アア船客一同の運命はどうなるであらうか。

(大正一五・六・二九 旧五・二〇 於天之橋立なかや旅館 加藤明子録)



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