出口王仁三郎 文献検索

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物語71-3-201926/02山河草木戌 困客王仁三郎参照文献検索
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第二〇章 困客〔一八〇九〕

『瑞魂の大神が  勅命を畏みフサの国
 ウブスナ山の霊場ゆ  月の神国に蟠まる
 大黒主の悪身魂  言向和し天国の
 神園に救ひ助けむと  照国別の宣伝使
 一行四人は河鹿山  烈しき風に吹かれつつ
 祠の森や山口や  怪しの森を乗り越えて
 彼方こなたと駈けめぐり  神の誠の御教を
 国人達に宣り伝へ  病めるを癒し貧しきを
 救ひ助けて今ここに  百の神業仕へつつ
 トルマン国の危難をば  救ひて此所まで来たりけり
 ああ惟神々々  神の身魂の幸はひて
 吾等が使命を詳細に  遂げさせ玉へと願ぎ奉る
 大日は照るとも曇るとも  月は盈つとも虧くるとも
 たとへ大地は沈むとも  曲津の神は猛ぶとも
 誠の神の御力  吾が身に浴びしその上は
 如何なる曲も恐れむや  進めや進めいざ進め
 吾等は神の子神の宮  虎狼や獅子熊や
 鬼や大蛇の曲神が  如何ほど猛り狂ふとも
 何か恐れむ敷島の  大和男子の宣伝使
 勝利の都に至るまで  いつかな怯まぬ雄心の
 大和心を振り起し  進みて行かむ大野原
 地獄は忽ち天国と  吾が言霊に宣直し
 上は王侯貴人より  下旃陀羅に至るまで
 神の救ひの手を伸べて  一蓮托生救ひ上げ
 瑞の霊の神力を  現はしまつる吾が使命
 遂げさせ玉へ惟神  皇大神の御前に
 畏み畏み願ぎ奉る  三千世界の梅の花
 一度に開く神の国  開いて散りて実を結ぶ
 日の大神や月の神  大地を守らす荒金の
 司とゐます瑞魂  神素盞嗚の大神の
 深き恵みは忘れまじ  尊き勲功は忘れまじ
 進めよ進めいざ進め  悪魔の砦に立向かひ
 摂受の剣を抜き持ちて  言向和すは案の内
 アア勇ましや勇ましや  神の使命を身に受けし
 名さへ尊き宣伝使  到る所に敵はなし
 バラモン教やウラル教  如何ほど刃向かひ来たるとも
 皇大神の賜ひてし  厳言霊の光にて
 暗夜を照らし神徳を  月の御国に輝かし
 照らさにやおかぬ吾が使命  守らせ玉へと願ぎ奉る
 ああ惟神々々  霊幸はへましませよ』

 かく歌ひながら入江の村近き田圃道まで、やつて来たのは照国別、照公、梅公別の三人であつた。
照公『モシ、先生、モウ日も暮れ近くなりましたが今晩は入江の村で宿をとり、緩り休息を致しまして、明日は船でスガの港へ行かうぢやありませぬか』
照国『なるほど、大分に疲れたやうだ、まづ此所で一服しやう。モウあの村へは遠くはあるまいから』
梅公『先生、今晩は是非入江村で泊りませう。浜屋といふ景色よい宿屋がございますから是非そこへ泊つて、明日スガの港に着く事に致しませう。スガの港にはアリスといふ薬屋の長者がありまして、その息子にはイルク、娘にはダリヤ姫といふ熱心な三五教の信者がをります。キツと待つてゐるに違ひありませぬから』
照国『さうだ、梅公別さまは一度お泊りになつた事があるさうだから、心安くてよからう』

照公『四方八方の景色を遠く見渡せば
  コバルト色に遠山かすめり』

照国『薄墨にぼかしたやうな山影は
  スガの里なる高山ならむ』

梅公『夏草の生ひ茂りたる広野原
  進み行く身の楽しくもあるかな

 今日の日も早や暮れむとす草枕
  旅の疲れを宿に癒さむ』

 三人が休んでゐる後ろの草の中から何だか、ウンウンと呻り声が聞こえて来る。梅公別は耳敏くもこれを聞き、ツカツカと叢の中の呻き声を尋ねて近づき見れば、醜い賤しい面をした坊主が一人半死半生の態で倒れてゐる。梅公別は直ぐさま天の数歌を奏上するや、倒れ人はムクムクと起き上がり、
『どなたか知りませぬが、よくまア助けて下さいました。拙僧はバラモン教の修験者で天真坊と申します』
 梅公別は、どこか見覚えのある顔だなア……とよくよく念入りに調べて見ると、オーラ山に立籠つて大望を企んでゐた妖僧の玄真坊なることを知り、
『やアお前は玄真坊ぢやないか、オーラ山で改心をすると言ひながら、再び悪に復つて三百の手下を引率れ、各地に押入強盗をやつてゐるといふ噂であつたが、天罰は恐ろしいものだ。何人に、お前は虐げられて、こんな所へ倒れてゐたのだ。察するところ持前のデレ根性を起し、女に一物を締めつけられ、息の根の止まつたのを幸ひ、かやうな淋しき原野に遺棄されたのだらう、さてもさても憐れな代物だな』
玄『これはこれは恐れ入りました。私はお察しの通り、女に睾丸を締めつけられ、三万両の金をぼつたくられ、かやうな所へ、ほかされたものでございます。只今かぎり悪事は止めまする。さうして女などには、キツと今後目をくれませぬから、どうぞ私をお荷物持ちにでも構ひませぬ、お伴に連れて行つて下さいませぬか』
梅『やア、俺にはお師匠様がある。俺一人の一了簡ではどうする事も出来ぬ。先づお師匠様の御意見を聞いた上のことにしやう』
 照国別は最前から二人の問答を聞き終り様子を知つてゐるので、梅公別の言葉も待たず、
『ヤ、玄真坊とやら、もはや日の暮にも近いから、緩りと宿屋にでも行つて話を承らう。これから吾々は入江村の浜屋旅館に一泊するつもりだ。お前も一緒に行かうぢやないか』
玄『へ、何とおつしやいます、浜屋旅館にお泊りでございますか。あの家はお客があまり沢山で、どさくつてゐますから、少し景色は悪うございますが、玉屋といふ立派な宿屋がありますから、其処へお泊りになつては如何でございませう。私もお伴をさせて頂きますから』
梅『ヤ、一旦浜屋旅館と相談がきまつた上は是非とも浜屋へ行かう。吾々の精霊は已に浜屋に納まつてゐるのだから』
『そら、さうでございませうが、ならうことなら待遇も良し、夜具も上等なり、家も新しうございますから、玉屋になさつたら如何でございませうかな』
『ハハハハハ、この男は十日ばかり浜屋旅館に泊つてゐたのだらう。越後獅子に小ぴどくこみ割られ、捕手にフン込まれた鬼門の場所だから、浜屋は厭だらう。ヤ、それは無理もない。しかし吾々がついてゐる以上は大丈夫だ。ソツと後ろから跟いて来い。お前の身柄は引受けてやるから、その代り、今までのやうな心では一日だつて安心に世を暮す事は出来ぬぞ。心の底から悔い改めるか、どうぢや』
『ハイ、生れ赤子になつてお仕へいたします。何とぞお助け下さいませ』
『ウン、ヨシ、先生、今かやうに申してゐますが、しかしながら此奴の悪事は芝を被らねば直らない奴でございますが、私も何とかして、改心をさしてやりたうございますから、お伴をさせて下さいませ。梅公別が無調法のないやうに引受けますから』
照国『ともかく、二三日間連れて見やう。どうしてもいかなけりや、突放すまでの事だ。さア日も暮れかかつた、急いで行かう』
とまたもや声も涼しく宣伝歌を歌ひながら、入江村の浜屋をさして進み行く。
 浜屋の表口にさしかかると客引の女が、二三人門口に立つて、
『もしお客さま、どちらにお出ででございます。明日の船の都合もよろしうございますから此方にお泊り下さいませ。十分丁寧に、待遇も致しますから。さうして、加減のいい潮湯も沸いてゐますから、どうぞ当家でお泊りを願ひます』
梅『ヤ、お前がさう言はなくても、此方の方からお世話になりたいと思つて来たのだ。一行四人だ、よい居間があるかな』
女『ハイ、裏に離棟がございまして、そのお座敷からはハルの海の鏡が居ながらに見えまする。何なら二三日御逗留下さいますれば、真帆片帆の行き交ふ景色は、まるで胡蝶が春の野辺に飛び交ふやうでございます』
梅『もし先生、さアお這入り下さい』
照国『そんなら御免蒙らうか』
と先に立つて縄暖簾をくぐる。玄真坊はビクビク慄ひながら、照国別の後ろになり小さくなつて跟いて行く。次に照公、梅公別は亭主や下女に愛嬌を振り撒きながら、奥の離棟に進み行く。
 まづ入浴を済ませ夕食を終り、四人は浴衣がけになつて、団扇片手に罪のない話に耽つてゐると、表の二階の間に、なまめかしい声が聞こえて来る。梅公別は不思議さうに首を傾け聞いてゐる。
照公『これ梅公別さま、何思案をしてゐるのだい。ありや何処の女が客とふざけてゐるのだい』
梅公『いや、どうも合点のゆかぬ声だ。千草の高姫ぢやあるまいかな』
『ヘン、馬鹿を言ふない、千草の高姫が、こんな所へ泊るものか。彼奴はきつと何処かの王城へ忍び入り、またもや刹帝利の后に化け込んでゐやがるだらう』
『ヤ、どうも怪しいぞ。一つ照公、お前調べて見てくれぬか』
 玄真坊は小さい声で、
『モシお三人さま、あの声は千草の高姫に間違ひございませぬ。私の睾丸を締めつけ、三万両の金をぼつたくつた大悪人でございます。どうぞ彼奴をとつちめ、三万両を取り返して下さい。さうすりや一万両づつ、お前さま等に進上いたしまする』
梅『馬鹿を言ふな、吾々は金なんか必要はない。まして左守の館でぼつたくつた金ぢやないか』
玄『ハイ、お察しの通りでございます』
梅『どうやら千草の高姫の相客は人間ぢやないらしいぞ。先生、これから私が正体を見届けて来ます。どうぞしばらく此処に待つて居て下さいや』
照国『人さまの居間へ飛び込んで調べるといふ失礼な事はないぢやないか、そんな事せずとも自然に分つて来るよ』
 かく話す時しも二階の障子をサツと開けて離れ座敷を覗いたのは千草の高姫であつた、梅公の顔と高姫の顔はピツタリと会つた。千草の高姫は梅公の顔をパツと見るより、恋しいやら怖ろしいやら、顔を真蒼にしてピリピリと慄ふた。妖幻坊の杢助は高姫の様子のただならぬに不審を起し、
『オイ、高チヤン、お前は様子が変ぢやないか、何をオヂオヂしてゐるのだ』
千『杢助さま、あれ御覧なさいませ、三五教の照国別、照公、梅公別の三宣伝使が離棟の居間に泊つてゐます。そして玄真坊が横にゐますのを見れば、三万両の金を取り返すために、息をふきかへして来たものと思はれます』
杢『やアそりや大変だ、三五教の奴と聞けば俺もチツと虫が好かない、何とかしてお前と二人、此所を逃げ出さうぢやないか』
『杢助さま、あなたも気の弱いことをおつしやいますな、斎苑の館で彼奴等を家来扱ひをしてをつたぢやありませぬか。一つ貴方の大きな声で呶鳴つて下されば、照国別などといふへぼ宣伝使は、一たまりもなく逃げ出すぢやありませぬか』
『ウン、それもさうだが、今荒立てては事が面倒になる。俺にも一つの考へがあるからのう』
『智謀絶倫と聞こえた貴方の事ですから、滅多に如才はありますまい。それで何もかも貴方にお任せ致しておきます』
『ウン、今夜の処置は俺に任しておけ。俺に計略があるから、さア千草の高姫、此方へおじや』
と言ひながら二階の段梯子をトントントンと下り、表へ出て番頭に小判を一枚握らせ、
杢『一寸月を賞して半時ばかり経てば帰つて来るから、表戸開けておいてくれよ』
と、うまく誤魔化し高姫と共に浜辺に駈け出し、一艘の舟を盗んで一生懸命にハルの湖の波を分けてスガの港へ向け漕いで行く。
 照国別の一行は一夜を此所に明かし、あくる日の朝早くより一艘の船を誂へ、これまたスガの港をさして進み行く事となつた。ああ惟神霊幸倍坐世。

(大正一五・二・一 旧一四・一二・一九 於月光閣 北村隆光録)
(昭和一〇・六・二四 王仁校正)



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