出口王仁三郎 文献検索

リンク用URL http://uro.sblog.jp/kensaku/kihshow.php?KAN=71&HEN=3&SYOU=17&T1=&T2=&T3=&T4=&T5=&T6=&T7=&T8=&CD=

原著名出版年月表題作者その他
物語71-3-171926/02山河草木戌 夢現神王仁三郎参照文献検索
キーワード: 物語
詳細情報:
場面:

あらすじ
未入力
名称


 
本文    文字数=12928

第一七章 夢現神〔一八〇六〕

 千草の高姫、玄真坊の二人の計略にウマウマとかけられ、穴の中に生埋めにされたコブライ、コオロの両人は命カラガラ穴から這ひ出し、泥まぶれになつて息をつきながら、
コブ『オイ、コオロ、どてらい目に遇はせやがつたぢやないか、狸坊主と狐女郎奴が。本当にいい馬鹿を見たぢやないか』
コオ『本当に俺やもう、憎らしうてたまらぬワイ。しかしあの女は何処ともなしに可愛い奴だ。たとへ生埋めにされて、死んでしまつても元々ぢやないか。憎らしいのはあの玄真坊だ。これからどこどこまでを後追つて生首引つ捉へ、腹癒せをしやうぢやないか』
コブ『ウンウン、そりやさうだ、俺たちを助けてくれた千草姫が俺たちを殺す筈はない、玄真坊が千草姫の前で旧悪を言はれちや男前が下がると思つて、俺たちを亡きものにさへすれば如何な事も出来ると思つて、あんな悪虐無道の事をしたのだらう。さアこれから後追駈け生首を引抜き、千草姫の前で赤恥をかかせにや腹が癒えないワ。千草姫だつて、あんなヒヨツトコ男に心からラブしてゐさうな筈がない。きつと懐のお金を捲き上げられたら頭から青洟を垂れかけられるか、睾丸をギユーツと締めつけられてフンのびるくらゐが関の山だらうよ、ウツフフフフフ』
コオ『ともかく、こんな所で小田原評定やつた所で、はじまらぬぢやないか、さアこれから彼奴の後追つて仇討ちと出かけやう』
コブ『後追ひかけやうと言つたつて、何方に逃げたか分らぬぢやないか』
『ナニ、この木の端切れを道の真中に突つ立てて、倒けた方に行つて見やう。きつとそつちに居るといふ事だ』
『そら、さうかも知れぬのう』
と言ひながら木片を拾ひ真直ぐに立てて離して見た。木片は南へバタリと倒れた。これより両人は月夜の道を南へ南へと駈けて行く。

両人『神が表に現はれて  善と悪とを立別ける
 この世を造りし神直日  心も広き大直日
 ただ何事も人の世は  直日に見直せ聞直せ
 世の過ちは宣直せ  などと教ふる三五の
 神の教は聞きつれど  どうしても見直し宣直し
 聞直しさへ出来ぬ奴  世界に一つ見つかつた
 泥棒上がりの玄真坊  オーラの山に立籠もり
 山子企んで失敗し  またも其辺をうろついて
 人を苦しめ女をば  悩ませ来たる悪僧奴
 危ふい命を助けられ  落とした金まで吾々に
 掘つて貰つてその恩を  仇で報うた曲津神
 何処へ失せたか知らねども  草を分けても尋ね出し
 恨みを晴らさにや惜くものか  神がこの世にゐますなら
 きつと善悪立別けて  玄真坊の曲神を
 懲し戒め給ふべし  とはいふものの吾々は
 御気の長い神さまの  お罰にあたる時を待つ
 余裕はちつとも身に持たぬ  一時も早く玄真の
 生首引抜き仇をば  打たねば男の意地立たぬ
 アア憎らしや憎らしや  不倶戴天の仇敵と
 定めてこれから両人は  四方八方に駈け廻り
 彼の在所を尋ね出し  命を取らいでおくものか
 アア憎らしや憎らしや  泥棒上がりの玄真坊
 命を取らいでおくものか  アア憎らしや憎らしや
 一寸刻みか五分試し  骨も頭も粉にして
 喰はねば虫が承知せぬ  アア腹が立つ腹が立つ
 今度の恨みを晴らさねば  死んでも死ねぬ吾が心
 憐れみ給へ自在天  大国彦の御前に
 真心籠めて願ぎ奉る  旭は照るとも曇るとも
 月は盈つとも虧くるとも  たとへ大地は沈むとも
 仇を討たねばおくものか  悪逆無道の玄真坊
 何処の果に潜むとも  神の力と吾々の
 熱心力に尋ね出し  彼が所持する黄金を
 スツカリ此方へ引奪り  最初の目的達成し
 男を立てねばおくものか  ああ惟神々々
 御霊幸倍ましませよ』  

と言ひながら蛙の行列向かふ見ずに、形ばかりの細道を南へ南へと走つて行く。はるかの前方にコンモリとした山蔭が見える。二人は芝生の上にドツカと尻を据ゑ、
コオ『オイ、兄貴、行途もなしに走つてをつた所で腹は空る、足は疲れる、どうする事も出来ぬぢやないか、一つ此処で考へて見やうぢやないか』
コブ『やア、もウ、俺もコンパスが動かなくなつて来たのだ。仇の所在も分らないのに、この広い田圃を走つたところで雲を掴むやうな話だ。思へば思へば馬鹿らしいぢやないか。俺たちはかう南へ南へと走つてゐるのに、彼奴らは反対に北へ北へと走つたとすれば、きばれば、きばるほど遠退く道理だ、こいつア一つ考へねばなるまいぞ』
『それでも杖占をやつたら南へ倒けたぢやないか。吾々は南へ走るより仕方はないのだ。アアかうなると犬が恨めしいワイ。俺がもし犬だつたら、彼奴の行つた後を嗅付けるのだけど、この人間様の鼻ぢやカラツキシ駄目ぢやからのう』
 二人はかく話しながらグツタリと弱り、眠気さへ催し、遂には原野の中で前後も白河夜船の客となつてしまつた。
 ここへ忽然として現はれた白衣の神人がある。神人は言葉静かに、
『汝はコブライ、コオロの両人ではないか』
 両人一度に、
『ハイ、左様でございます。貴方様は一寸お見かけ申せば、どこかの貴婦人と拝しまするが、何方へお越しでございますか』
神人『吾こそは霊鷲山に跡をたるる豊玉別命であるぞよ。その方は今日まで現世に犯せし罪悪によつて、種々雑多の神罰を受け、玄真坊、千草姫の悪人のため土中にまで埋められ、九死に一生を得ながら神徳の尊き事を忘れ、ただ一途に彼を恨み、剰つさへ懐中の金子を奪ひ取らむと企んでをらうがな』
コブ『ハイ、仰せの通りでございます、恐れ入りました』
『汝ら両人、今の中に吾が教を聞き、悔い改めざれば無間地獄に堕ちるであらう。どうだ、今の中に玄真坊に対する恨みを打ち切り、本然の誠に帰る気はないか』
『イヤ、もう私だとて、元より悪人ではございませぬが、臍の緒の切り所が悪かつたために人並みの生活も出来ず、何時の間にやら自暴自棄となり、泥棒仲間に首を突つ込み、悪事の有らむ限りを致して来ました。同じ人間に生れながら、豺狼のやうな事をすることは、私の良心に大いに恥てをりますなれど、この肉体を保全するために止むを得ず、種々よからぬ事を企みもし、やつても来ました。どうせ私は、今までの罪業に由つて地獄の底へ落とされるものと覚悟してゐます。どうせ今から心を改めても、地獄に堕ちるのですから、悪をやるなら徹底的に悪業をやりたい決心を抱いてをりまする』
『如何なる悪人といへども、悔い改めによつて悪は忽ち消滅し、善の方面に向かふ事が出来るものだ。人間の肉体を持つてこの地上に在るかぎりは、絶対の善を行ふ事は出来ない。それで何事も神に任せ、神を信じ、神を愛し、日夜信仰を励んだならば、きつと生前死後共に安逸の生活を送る事が出来るであらう』
『ハイ、有難うございます。いかなる神様を信仰すればよいのでせうか、私はこれまでバラモン神を信じてゐましたが、一度も安心や幸福を与へられた事はございませぬ』
『何れの神も皆、元は天帝の御分霊、神徳に高下勝劣は無けれども、今日の世の中は盤古神王の世も済み、バラモン自在天の世も過ぎ去り、今はミロク大神の御世と変つてゐるのだ。それゆゑ汝ら両人は今日より三五の大神を信じ、惟神の名号を唱へ、能ふる限りの善事を行はば、きつと安逸の世を送る事が出来るであらう。夢々疑ふこと勿れ』
と宣り給ふや否や、忽然として煙のごとく消えさせ給うた。両人はフツと目を醒し、
コブ『オイ、コオロ、お前起きたか、俺やもう大変な夢を見たよ』
コオ『ウーン、俺も妙な夢を見たのだ。もう玄真坊征伐は止めやうかい』
『さうだな、玄真坊も悪いが俺も悪いから、これまでの因縁と諦めて泥棒も止め、玄真坊征伐も止めやうぢやないか』
『俺たちア、泥棒を止めたら喰ふことは出来ぬが、これから身の振り方をどうしたらいいのかなア。実は夢の中に神様が現はれたが、あんまり怖ろしうて、勿体なうて、お尋ねする事も忘れたが、これから何商売をしたらよいのかな』
『俺たちのやうに泥棒の外に何も芸を知らぬ者は商売も出来ず、学問も無し、仕方がないから修験者となつて一杖一笠の比丘となり、人の門に立つて物乞ひでもやらうぢやないか。そして三五の神様のお道を一人にでも言ひ聞かせ、死後の世界の安養浄土を開く準備をしやうぢやないか』
『兄貴お前もさう思ふか、実は俺もさう考へたところだ。さア、さうと相談が定まれば、両人にはかに比丘となつて印度七千余国の霊山霊場を巡拝しやう。玄真坊のやうな悪人でさへも、修験者といふ役徳によつて見ず知らずの他人から、あの通り土の中へ葬られるのだ。俺たちア修験者でないために、死骸を路傍に遺棄されてゐたのだからな。これを考へて見ても、神様に仕へるくらゐ結構な事はないからのう』
 ここに両人は意を決し、別に墨染の衣も、杖も笠も無けれども宣伝歌を口吟みながら、人里を尋ねて進み行くこととなつた。

両人『神が表に現はれて  善と悪とを立別ける
 この世を造りし神直日  心も広き大直日
 ただ何事も人の世は  直日に見直せ聞直せ
 身の過ちは宣直せ  などと教ふる三五の
 神の教は目の辺り  吾等が夢に現はれて
 教へ給ひし神人の  御言葉こそは尊けれ
 悪逆無道の限りをば  尽し来たりし吾々も
 大慈大悲の大神の  情けの言葉に目を覚まし
 転迷開悟の花咲いて  今や真人と成り初めぬ
 人は神の子神の宮  珍の身魂を受けながら
 曲津の棲処に使はれて  どうして神の御前に
 復命なさむ術あらむ  ああ惟神々々
 神の恵みの幸はひて  吾等二人の行末は
 天国浄土の花園に  安く導き給へかし
 朝日は照るとも曇るとも  月は盈つとも虧くるとも
 たとへ大地は沈むとも  曲津の神は猛るとも
 誠の力は世を救ふ  誠一つの三五の
 神に従ふ吾々は  如何なる悪魔も恐れむや
 虎狼や大蛇など  一時に襲ひ来たるとも
 神の守護のある限り  安く進ませ給ふべし
 アア有難し有難し  闇路に迷ふ盲目の
 にはかに両眼うち開き  日出の国の花園に
 進み出でたる心地なり  アア有難し有難し
 神の教を聞きしより  吾が魂は何となく
 春駒のごと勇み立ち  雲井に登る如くなり
 ああ惟神々々  御霊幸はへましませよ』

と元気よく歌ひながら、旅の疲れも空腹の悩みも打ち忘れスガの港の方面さして進み行く。

(大正一五・二・一 旧一四・一二・一九 於月光閣 北村隆光録)



オニドでるび付原文を読む    オニド霊界物語Web