出口王仁三郎 文献検索

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物語71-2-151926/02山河草木戌 紺霊王仁三郎参照文献検索
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第一五章 紺霊〔一八〇四〕

 シヤカンナ、コブライ、コオロの三人は、玄真坊の姿を見失はじと行進歌を歌ひながら進んで来る。コブライは甲声を絞りながら、

『玄真坊の慌て者  大野ケ原を吹く風に
 驚きをつたか魂消たか  頭を先に尻後に
 突出しながら不細工な  スタイルさらして行きよつた
 彼奴のやうな慌て者  生みよつた親の面が見たい
 蛙のやうな面をして  トンビのやうな尖り口
 もの言ふたびに目と鼻と  口とを一つによせる奴
 もしも地獄があつたなら  地獄の町の見世物に
 出したらよつく流行るだろ  アア面白い面白い
 オーラの山に立籠り  ドエライ山子を企みよつて
 目算ガラリと相外れ  ダリヤの姫には目尻下げ
 面を草紙に使はれて  大きな恥をかきながら
 蛙の面に水かけた  やうな彼奴の無神経
 呆れてものが言はれない  またもや一つの大望を
 企むは企んでみたものの  これまたドエライ失敗で
 火事場泥棒のやり損ね  左守の館で捕へられ
 冷い牢屋へブチ込まれ  右守の司の訊問を
 シヤーツクシヤーの呑気相に  煙りにまいて答弁し
 左守の館に引き出され  またも御託相ならべ
 お庫の金を取り出して  己がポツポへ托し込み
 夜昼なしに山路を  走つた揚句に情けなや
 捕手の奴に見つけられ  千尋の谷間にザンブリと
 俺等と共に飛び込んで  命死せしと思ひきや
 こんな所へやつて来た  不思議も不思議こんなまた
 不思議が世界にあるものか  玄真坊の慌て者
 アレアレあこに倒れてる  野壺のはたのクソ蛙
 掴んで大地にぶちつけた  やうなザマしてフン伸びて
 ビリビリ慄うてけつからア  何と因果な奴だなア
 この有様を眺むれば  お気の毒でもあるやうだ
 またまた小気味がよいやうだ  こんな奴等をただ一人
 助けてみたとこで仕よがない  とは言ふものの俺たちも
 こんな淋しい街道を  行くのにや人数が多いほど
 心が丈夫になるやうだ  厭でも応でも助けよか
 コラ コラ コラ コラ玄真坊  早くしつかりせぬかい』と
 胸と頭の嫌ひなく  グチヤ グチヤ グチヤと踏み込めば
 ウンとばかりに呻きつつ  息ふき返し玄真坊
 『アイタタタツタ アイタタタ  俺の頭を踏みやがつた
 肋の骨を二三本  どうやらコブライが折りよつた
 元の通りにして返せ  親から貰うた大切な
 一生使ふ宝だぞ  アイタタタツタ アイタツタ
 コレコレシヤカンナ左守さま  私の仇を討つとおくれ
 どしても虫がいえぬほどに  ああ惟神々々
 目玉飛び出しさうだわい』  

などと、体も動かぬ癖に腮ばかりを叩いてゐる。
コブ『ハハハハ、オイ玄真さま、起きたらどうだい。体も動かぬくせに毒つきやがつて何のザマだ。サア起きたり起きたり、起きな起きぬでよいワ、吾々三人は放つといて行くからのう。仇討つてくれの何のつて、馬鹿にするない』
玄真『オイ、コブライ、さう怒るものぢやないワイ、とつくりと話を聞いてくれ。仇を討つてくれといふのは、この途端の立石を叩き毀してくれと言ふのだ。こいつがあつたばかりに、俺がこんな目に遇うたのだもの』
コブ『ナールほど、こいつア怪体な石だな。ヨーヨー ヨーヨー ヨーヨー、目が出て来たぞ。それ鼻だ、口だ、耳まで生えて来たぞ。此奴、化立石だな』
 立石は俄かに白髪の姿と変じ、
『ギヤアハハハハ、コラ耄碌ども、俺を誰だと心得てをるか、俺は月の国でも名高い小夜具染のお紺といふ鬼婆だぞ』
コブ『ナニ、小夜具染のお紺?、まるで狐みたいな奴だな。小夜具染でも椿染でもかまふものかい。そんなヒヨロヒヨロした婆アの態をしやがつて、偉さうな口を叩くない。俺を何方と心得てけつかるのかい』
お紺『ギユーフツフフフ』
『コラ、お紺、ソーラ何ぬかしてけつかるのだい。ギユフフフフとは何だい。それほど牛糞が欲しけら、そこらの街道を歩いて来い、馬糞も牛糞も沢山落ちてるワイ。おほかた汝ド狐の化けそこねだろ』
『グツグツ吐すと、わいらも一緒に食つてやろか。折角玄真の野郎を食つてやらうと思へば、汝達が出て来やがつて邪魔をさらすものだから、いささか困つてゐるのだ。エ、グヅグヅさらさずに早く何処へ行け。サアこれから汝等が通つた後は、このお紺が玄真坊の体を叩きにして団子に丸めて食つてやるのだ、ギヨーホツホホホホ、何とはなしに甘さうな香がするワイ……のう』
玄真『オイ、コブライ、シヤカンナの兄貴、コオロの乾児、メツタに俺を見捨てやせうまいの、この婆アを平らげてくれないか』
シヤ『ウーム、どしたらよかろかの。コブライ、お前はどうする考へだ?』
コブ『……………』
お紺『喧ましいワイ、泥棒ばかりがよりやがつて、何をゴテゴテ言ふのだ。汝の成敗さるる所はこの先にある、楽しんで行つたがよからうぞ。この玄真坊といふ奴、このお紺といふ女房があるにも拘らず、梅香といふスベタ女郎に現をぬかし、俺に空閨を守らせた無情冷酷なクソ爺だ。その恨みが重なつて道端の立石となり、玄真坊の売僧が、通りやあがつたら通りやあがつたらと、寒い風に吹かれながら、此所に待つてをつたのだ。サ、モウかうなりや最早百年目、ジタバタしても叶ふまい。小夜具染のお紺の面を見覚えてをるだろな』
と言ひながら、カツカツと喉を鳴らした途端に、パツパツと火を吹き出し、玄真坊の禿頭を、紅蓮の舌で嘗め尽す。その熱さ苦しさに、玄真坊は手足をジタバタさせながら、蚊の鳴くやうな声を出して、
『オーイ、シヤカンナ、助けてくれ助けてくれ』
といふ声さへも次第々々に細つてゆく。シヤカンナは見るに見かねて、一生懸命に「一二三四五六七八九十百千万」と天数歌を歌ひ終るや、小夜具染のお紺の姿は煙草の煙のごとくに、フワリフワリと空中に揺れながら消えてしまつた。
 不思議にも玄真坊は体の自由が利き出し、またもや一行の先に立ち、性こりもなく、頭を先に尻を後ろにポイポイと蝗の蹴り足よろしく、細い脛をふん張りながら進み行く。三人はまたもや玄真坊に瞬く内に二三町ばかり遅れてしまつた。
コブ『モシ、シヤカンナさま、よほど玄真坊は罪な男と見えますな。あのお紺といふ奴、一遍玄真坊と結婚したに違ひありませぬナ、玄真坊ぢやなくつても、あの面では私だつて厭になりますワ』
シヤ『サア結婚か、お紺か、み紺か知らぬが随分むつかしい御面相だつた。かやうな妖怪が出没する以上は、ヤハリ地獄の八丁目に違ひなからうよ。マアボツボツ前進することにせうかい』
コブ『何だかそこら中が淋しくなつたぢやありませぬか、まるきり壺を被つてるやうな気分になりました。コオロ、お前はどうだ』
コオ『俺だつて、やつぱり淋しいワイ。しかしながらお紺でもお半でもよいから、チヨイチヨイ出てくれると退屈ざましになつていいぢやないか。玄真坊にやチツとばかり気の毒だけれどのう』
コブ『サ、御両人、参りませう』
と言ひながら先に立ち、

『思へば思へば不思議なる  妖怪変化が現はれて
 怪態な面を見せよつた  玄真坊の慌て者
 こんな街道の真中で  よい恥さらしをやりよつた
 彼奴もチツとは良心の  かがやき亘ると相見えて
 俺等三人を後に置き  逃げるが如くに行きよつた
 思へば思へば可哀さうぢやな  サアサアこれから気をつけて
 行かねばどんな妖怪が  出現するかも知れないぞ
 気をつけめされよ御両人  八衢街道の不思議さは
 たうてい現界ぢや見られない  アア面白い怖ろしい
 恐い悲しいジレツたい  思へば思へば情けない
 ああ惟神々々  目玉が飛び出しさうだワイ』

 玄真坊は一生懸命に進行歌を唄つてゐる。

『アア恥づかしや恥づかしや  昔の俺の女房が
 執念深くも道端に  石の柱と化けよつて
 俺の通るを待伏せて  どぎつい憂目に会はせよつた
 ホンに女といふ奴は  仕末に了へぬ代物だ
 優しく言へばのし上がる  きつく叱れば吠えくさる
 殺してやつたら化けて出る  これは天下の通弊だ
 お紺の奴は俺の手で  殺した覚えはなけれども
 悋気の深い奴と見え  執念深くも化けて出て
 俺を食はふと言ひよつた  ても怖ろしい婆アだな
 あんな女にかかつたら  黐桶へ両足を
 突込んだよりもまだ辛い  苦しい思ひをせにやならぬ
 金と女といふ奴は  吾が身を亡ぼす仇敵と
 今や漸く悟りけり  とは言ふものの何処までも
 金と女は捨てられぬ  人と生れた上からは
 どしても女と黄金が  無ければこの世が渡れない
 善悪たがひに相混じ  美醜たがひに交はつて
 この世の総てが出来るのだ  これを思へば地獄だと
 言つたところで何怖い  地獄の中にも極楽が
 キツと設けてあるだらう  それを思へば幽冥の
 旅路も結局面白い  ドツコイドツコイ ドツコイシヨ
 アイタタタタタツタ アイタタツタ  何だか知らぬが足許に
 喰つきよつたに違ひない  皆の奴は何してる
 さつてもさてもコンパスの  弱い奴等は仕様がない
 俺はテクシーの自動車で  一瀉千里の勢ひで
 こんな所までやつて来た  彼奴等三人の姿さへ
 吾が目に入らぬ遅緩しさ  一筋道のこの街道
 外へは迷ふはずがない  アア待ちどうや じれつたや
 アイタタタタ アイタタツタ  またもやこんな街道の
 どう真中に立石が  出しやばりやがつて俺達の
 頭をコンとやりよつた  今度はさうは行かないぞ
 一二三四五つ六つ  七八九つ十百千
 唱へてやつたら滅茶々々に  烟となつて消えるだろ
 一二三四五つ六つ  七八九つ十百千
 万の神の御降臨  ひとへに仰ぎ奉る
 ああ惟神々々  恩頼を垂れ玉へ』

 不思議や立石は煙のごとく中空に消え失せてしまつた。玄真坊は何だか前進するのが俄かに恐ろしいやうな気がし出したので、しばらく路傍に佇んで三人の落伍組を待つてゐると、一行はヤツとの事でこの場へ追つ付き来たり、
シヤ『ヤ、とても早いコンパスだのう、またお紺に出会つたのだろ』
玄真『お察しの通り、お紺か何か知らぬが、またもや石柱が飛び出しやがつて、頭をおコンと打たしやがつた。けれどもな、お前の数歌の受売りをやつたところ、烟となつて、コツクリコと消えてしまつたのだ。てもさても数歌の威力といふものは偉いものだワイ……と、このやうに今感じたところだ』
『オイ玄真、向方に厳しい赤門が見えるぢやないか』
『ウンさうだ、いよいよ赤門だ。何だか小気味が悪いので、実アお前の追付くのを待つてゐたのだ』
『ハハハハ、ヤツパリ偉さうにいつても、心の大根は弱い所があると見えるワイ。サ、俺が先頭に立つから、お前等従いて来い』
と言ひながら、シヤカンナは一行の前に立ち悠々と赤門に近づいた。冥府の規則として白赤の守衛が二人厳然と控へてゐる。
赤『コリヤコリヤ、その方は何者だ』
シヤ『ハイ、私はタラハン城の左守の司シヤカンナと申す者でございます』
 赤は横に細長い帳面を繰りながら、
『成るほど、お前さまの命数は尽きてゐる。すぐさま天国へやつてやりたいは山々だが、チツとばかり八衢に修業をして貰はねばならぬかも知れぬ、何事も伊吹戸主の御裁断を仰いだ上のことだ。サ、お通りなさい』
とシヤカンナの尻を叩けば、シヤカンナは風に木の葉の散るごとく、フワフワフワと門内に翔つやうにして這入つてしまつた。赤は玄真坊に向かひ、
『オイ汝は玄真坊といふ悪僧だらうがな。汝はどうしても地獄代物だ、しかしながら未だ命数が残つてゐる。現界に未だ籍のある奴ア、ここの管轄区域ぢやない、サ、トツトと帰れツ』
玄『なるほど、ずゐぶん私は悪僧でございます。しかしながら一つも成功した事はございませぬ。何れも未遂犯でございますから、どうぞ大目に見て下さい』
赤『エー、ゴテゴテ言ふな、帰れといつたら帰らぬか』
と二銭胴貨のやうな目玉を剥出せば、玄真坊は慄ひ戦き縮こまつてしまふ。
赤『オイ、そこなる両人、その方もやつぱり泥棒稼ぎをやつてゐる奴だろ、コブライにコオロと言ふだろ』
コブ『お察しの通りでございます』
コオ『その通りでございます』
赤『汝もなかなか罪の重い奴だが、未だ現界に籍が残つてゐる。サア、一時も早く立ち帰れツ』
と赤門をピシヤツと閉め、白の守衛と共に門内に姿をかくした。三人は已むを得ずトボトボと元来し道を七八丁ばかり引き返したと思へば、自分の耳元にやさしい女の声が、電話がかかつて来たやうな程度で聞こえて来る。三人は揃ひも揃うて一度にパツと気がつき四辺を見れば、自分はタラハン河の河下に何人かに救ひ上げられ、沢山の見物に取りまかれ、一人の綺麗な女に介抱されてゐた。この女はトルマン国を抜け出した妖婦千草の高姫であつた。
 以上は甦つた玄真坊以下の幽界想念の幕である。

(大正一五・一・三一 旧一四・一二・一八 於月光閣 松村真澄録)



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