出口王仁三郎 文献検索

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物語71-1-61926/02山河草木戌 達引王仁三郎参照文献検索
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第六章 達引〔一七九五〕

 恋に狂うた妖僧の  天真坊はどこまでも
 ダリヤの行方を探らむと  コブライ引きつれ夜の道
 普門品をば唱へつつ  毒蛇の禁厭しながらに
 スタスタ行けば山の根に  いつの間にやら突き当り
 行手の道を失つて  やむを得ざれば立往生
 明くなるまで待ちゐたる  かかるところへ向かふより
 一人の男がすたすたと  息せききつてはせ来たり
 小石につまづきバツタリと  二人が前に倒れける
 玄真坊は怪しみて  よくよく見ればこは如何に
 岩窟の中に見覚えの  泥棒の顔と見るよりも
 得たりと矢庭にひつ掴み  こぶしを高くふりあげて
 これやこれや貴様はバルギーと  示し合せてダリヤ姫
 逃がした奴に違ひない  早く白状いたさねば
 貴様の命は朝のつゆ  忽ち消えて後もなく
 なるが承知かこれやどうぢや  すつぱりこんと白状せよ
 言へば男は顔をあげ  アイタタタツタ アイタタツタ
 お前は名高き天真坊  三千世界の隅々も
 一目に見通す神様だ  お前さまのために頼まれて
 ダリヤの行方を探すもの  見違へられては堪らない
 真偽のほどは言はずとも  神さまならば知れませう
 どうぞ許して下さんせ  決して神の御前で
 毛頭嘘は言ひませぬ  言へば玄真うなづいて
 顔色和らげ声低う  そんならお前はダリヤをば
 探しに行つてくれたのか  これやこれやコブライ間違ひは
 なからうか調べてくれよ  言へばコブライ首をば
 上と下とに振りながら  こいつはバルギーの配下だが
 シヤカンナさまに頼まれて  ダリヤとバルギーを探すべく
 先頭一に出た奴だ  決して嘘ではありませぬ
 安心なさるがよろしかろ  言へば玄真頷いて
 なるほど貴様の言ふ通り  此奴の言葉は真だらう
 ダリヤの行方は分つたか  バルギーの様子は探つたか
 早く知らしてくれないか  気が気でならぬこの場合
 言へば盗人は首を振り  私はコオロといふ男
 一番槍の功名を  致さんものと取るものも
 取りあへずして飛び出し  神谷村をのり越えて
 ハル山峠の頂上に  登つて見れば行く人の
 話の中にダリヤ姫  バルギーによう似た二人連れ
 神谷村の神の家に  匿れて居るといふ事を
 敏くも耳に入れました  それゆゑ後へすたすたと
 引き帰したる次第です  屹度二人は神谷の
 村に匿れてゐるでせう  アイタタタツタ アイタタツタ
 向かふ脛をばすりむいて  これこの通り血糊めが
 ぼとぼと流れてをりまする  早く助けて下しやんせ
 お前のためにこんな目に  遇うた私を捨てたなら
 忽ち神の罰当り  ダリヤの姫は手に入らず
 あなたも終にや谷底へ  スツテンドウと転げおち
 えらい目見るに違ひない  アア叶はぬ叶はぬかなはない
 目玉とび出すやうだわい  アイタタタツタ アイタタツタ

玄『エイ、碌でもない役にも立たぬ蠅虫めツ、こればかりの創に泣き面をする奴があるかい、よう今まで泥棒を稼いでをつたものだなア。これやコブライ、貴様がしやうもない子供の言うた事を真に受けて飛び出さうとするものだから、こんな目にあつたのだ。エエもうかうなりや仕様がない、どうせ此処を通らにやならぬ一筋道だ。神谷村に居るとすりや、いづれ此処にうせるだらう、ほんとに訳のわからぬ野郎だなあ』
コ『勝手になさいませ、天来の救世主天帝の化身と大看板を打つたお前さまが、ダリヤ姫の所在くらゐ分らぬといふのはテツキリこの世を騙る売僧坊主だ。お前さまも、もつとは天眼通が利いてゐるかと思つたに、交際へばつき合ふほど金箔が剥げて、おまけに鼻持ちのならぬ糞坊主だ。もうこんな事は止めますわ、サア今までの日当をどつさり下さいませ。のうコオロお前も確りして立ち上がれ、此奴の懐中の金をぼつたくらうぢやないか。泥棒はお手のものだからのう』
コオ『それやさうだ、俺ももつと気の利いた坊主だと思つてゐたに愛想がつきた。慈悲も情けも知らぬ糞坊主だ。俺がこの通り向かふ脛をやぶつて苦しんでをるのに、お経の一口も言うてくれるぢやなし、悪口を叩くといふ不敵の悪僧だ。どうだ二人してバラしてやらうぢやないか』
『エン、こんな悪僧をバラすぐらゐは箒で蝶を押さへるよりも容易い事だ。お前は其処へ立つて見てをれ、俺が荒料理してやる。もうかうなりや破れかぶれぢや、ヤイ売僧坊主、きりきり懐中物をすつかり渡せ、四の五の言ふと六な事は出来ないぞ。七転八倒九るしみもがいて十(渋)面つくつてももはや百年目だ、なにほど迷惑千万な顔をしてもこのままにしてをく(億)といふわけにや行かぬ。サア懐中物を残らずちよう(兆)戴せうかい』
玄『アハハハハ。おい小盗人野郎、俺をどなたと心得てをる。オーラ山において三千の部下を擁し、泥棒の大頭目としてその名も高き玄真坊だぞ。名を聞いてさへ驚くシーゴー、ヨリコ姫は俺の部下だ、見事お前等の細腕で盗れるなら取つて見よ。ある時は泥棒となり、ある時は救世主となり、千変万化の活動をいたす天真坊だ。素より天眼通なんか分つて堪らうかい』
コ『ヤアそいつは一寸気が利いてをる、ヤ大いに分つてをる、そんなら追撃は一段落をつけて、改めて玄真坊頭目の片腕とならうぢやないか、のうコオロ、お前だつて泥棒より外にする所作がないのだから、よもや不足はあるまい』
コオ『何分兄貴、よろしう頼むわ、玄真坊頭目の前、お取りなしを願ひます』
玄『アハハハハ、面白からう、しかしながらここしばらくは猫を被つて天帝の化身で澄まし込んでゐなくては仕事が出来ないからのう。ダリヤ姫をどうしても吾が手に入れなくては肝腎の仕事が出来ない。彼奴はスガの港の富豪の娘だから甘く彼奴をひつつかまへ、ウンと言はしたが最後、一躍して長者の主人だ。さうなりや貴様等は一の番頭二の番頭に抜擢してやらう。アアいう富豪のレツテルを被つて泥棒をしてをりや滅多に足のつく事はないからのう』
コ『成るほど、お説ご尤も、如何にも左様候へ、名案名案』
 玄真坊は両手を振り握り拳で胸板を交る交る打ちたたき雄猛びしだした。

『アハハハハツハアハハハハ  幼少の時からこの俺は
 どてらい事が大好きで  何か大きな芝居をば
 打つてやらうと朝夕に  思ひ込んだがやみつきで
 ヨリコの姫をちよろまかし  オーラの山に三年ぶり
 岩窟を構へていろいろの  手段を廻らし三千の
 部下を集めて月の国  七千余国を己が手に
 掌握せむと企らみし  その魂胆も水の泡
 三五教の梅公に  肝腎要の牙城をば
 荒され今は是非もなく  第二の策戦計劃を
 遂行せむとハルの湖  浪押しわけて打ち渡り
 スガの港の富豪が  娘のダリヤに目をかけて
 一旗挙げむ吾が企み  色と恋との二道を
 かけたる俺の目算は  肝腎要の処になり
 どうやら画餅となりさうだ  とは言ふものの人間は
 七転八起といふぢやないか  一度や二度や三度四度
 失敗したとて構はない  あくまで初心を貫徹し
 行く処まではやつてみる  それが男子の本領だ
 コブライ コオロの両人よ  天下無双の英雄は
 玄真坊より他にない  世の諺に言ふ通り
 勇将の下に弱卒は  決して無いのはあたりまへ
 お前はこれから強卒と  なつて一肌脱いでくれ
 俺の天下になつたなら  貴様の要求は何なりと
 二つ返事で聞いてやろ  わが成功の暁を
 指折り数へ楽しんで  涎を手繰つて待つがよい
 アア勇ましや勇ましや  人は心の持ちやうだ
 なにほど失敗したとても  心の土台が確りと
 据つてをれば構はない  ああ惟神々々
 梵天帝釈自在天  大国彦の御前に
 畏み畏み願ぎまつる  エヘヘヘヘツヘエヘヘヘヘ
 愉快の事になつて来た  既に天下を取つたよな
 何とはなしに心持ち  ダリヤとバルギーが出て来たら
 此度はぬからず引つ捕へ  ウンと言はしてくりよほどに
 バルギーの奴は懲戒に  手足も指もバラバラに
 バラしてしまはにや後のため  吾が目的の邪魔になる
 そこをぬかるな合点か  エヘヘヘヘツヘ面白い
 いよいよ面白なつて来た』  

 なぞと、元気よく大法螺を吹いてゐる。そこへバルギーは村人に腰骨を叩かれた痛さに竹杖をつきながら、ヒヨロリヒヨロリとやつて来た。玄真坊は大喝一声、
『コリヤ泥棒奴、ダリヤ姫をどういたした。早く白状いたさぬと貴様の命がないぞよ』
バル『ヤアこれは天帝の御化身様、ようまあお迎ひに来て下さいました。ダリヤ姫ですかい、彼奴はさつぱりです。私ももう締めました、安心して下さい』
玄『こりや、バルギー、何を言つてをるのだ。俺の女房を連れ出しやがつて、何処へ匿したのだ。さあすつぱりと白状せい』
『俺はまた、天帝の御化身様に女房があるとは知らないものだから、ダリヤ姫に頼まれてスガの港に送るべく途中までやつて来たところ、神谷村の村端まで出て来ると、白い煙となつて天へ上つてしまひ、何ほど喚いたとて呼んだとて、春風の梢を渡る声ばかりだ。本当にあのダリヤといふのは人間ぢやなかつたらしいよ』
『馬鹿申せ、左様の事を言つて何処かに匿しておいたのだらう、白状せないと貴様の命を取らうか』
『何ほど命を取られても恩人の行方を貴様らに知らしてなるものか、男の口から一旦言はぬと言ふたら舌を抜かれても言はないのだ。そんな安つぽい男と思つてもらつては、このバルギーさまもいささか迷惑だ。こりや売僧坊主、それに不足があるのならどうなりと勝手にしたがよい。こりや其処にゐるのはコオロにコブライぢやないか、まだこんな売僧についてゐるのか、もうよい加減に目を醒せ』
コブ『俺も売僧だ売僧だと思つたが、今聞いて見れば大変な抱負をもつた偉丈夫だから、いま親分乾児の約束をしたのだ。もうこの上親分に毒づいて見よ、命令一下、貴様の命は貰うてやるぞ』
バル『ハハハハハ、猪口才千万な、サアかかるならかかつて見よれ。俺はかうして腰骨を打つて杖に縋つて居るものの、貴様等の三匹や五匹は物の数でもない。さあどうなりとしたがよいワ。首から斬るか腕から斬るか、さあ何処からなつと斬つて見よ』
と体一面竜の刺青をした肌を脱ぎ叢の上にどつかと坐し、三人の面を瞬きもせず睨めつけてゐる。

(大正一四・一一・七 旧九・二一 於祥明館 加藤明子録)



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