出口王仁三郎 文献検索

リンク用URL http://uro.sblog.jp/kensaku/kihshow.php?KAN=71&HEN=1&SYOU=5&T1=&T2=&T3=&T4=&T5=&T6=&T7=&T8=&CD=

原著名出版年月表題作者その他
物語71-1-51926/02山河草木戌 転盗王仁三郎参照文献検索
キーワード: 物語
詳細情報:
場面:

あらすじ
未入力
名称


 
本文    文字数=13396

第五章 転盗〔一七九四〕

 玉清別夫婦は神の子、玉の子と共に、まだ夜のあけぬ中から神殿の大掃除をなし、山野の供物を献じ祝詞を奏上してゐる。

『高天原の聖場に元津御祖の大神の大神言もちて、天かけり国かける天使八百万神集ひに集ひます、東の都は日出る国の御名も高き、いと清々しき小雲の川を囲らせる綾の聖地の八尋殿、また西の国に至りては、パレスチナの国の御名も高きエルサレムの都、オリブ山の頂に宮柱太しく立てて鎮まります厳と瑞との二柱従ひ玉ふ神使、朝夕に天かけり国かけりまし、ウブスナ山の聖場には神素盞嗚の尊、常磐堅磐に御あとを垂れさせ玉ひ、四方の青人草は言ふも更なり、草木虫族の端に至るまで、恵みの露を垂れさせ玉ふ尊き清き大御心を拝み奉り、朝な夕なにこの神床に厳の御魂を斎き奉りて仕へまつる事の由を、いと平らけく安らけく聞召し相諾なひ玉ひて、バラモンの枉神に退はれたる三五の神柱玉清別をして、再び世の光となり、塩となり、花ともなりて、天晴れ大御神の大神業に仕へ奉らしめ玉へ、仰ぎ願はくばこれの家内をして諸々の枉事、罪穢あらしめず、日々の業務を励み勤めて、ゆるぶ事なく、怠る事なく、神谷の村の鑑として常磐堅磐に臨ませ玉へと畏み畏み祈願み奉らくと申す。三五の大神守り玉へ幸はへ玉へ、惟神の御魂幸はへましませ』

と祝詞を終り、庭園を親子四人連れ新空気を呼吸すべく逍遥し初めた。
 バルギーはダリヤ姫が寝息を窺ひ、ソツと裏口よりかけ出だし、どこかの家へ忍び込み、沢山な黄金をせしめてダリヤ姫を驚かせ歓心を買はむものと、無謀にも飛び出してしまつた。
 ダリヤ姫は玉清別が祝詞の声にフツと目をさまし、あわてて手水を使ひ神殿に簡単なる祝詞を奏上し、終つて吾が居間へ帰り、クラヴィコードをいぢつてゐると、そこへ玉清別夫婦が襖を静かに押しあけ、入り来たり、
玉清『ダリヤ様、お早うございます』
玉子『朝も早うから丹精な事でございますな、ほんとうにお手際がよく冴えてゐますワ』
 ダリヤはクラヴィコードを床に直し、一二尺後しざりしながら丁寧に両手をつき、
『これはこれは御主人様、奥様、お早うございます。いかいお世話に預かりまして誠に申し訳がございませぬ』
玉清『姫さま、何をおつしやいます、此処は神様の家、お世話さして頂くのは神様への御奉公でございます。お礼を申されましては却つて困ります、どうぞ気を使はずにユルユル御逗留下さいませ』
ダリ『ハイ、有難うございます。お言葉に甘へて、ユツクリとお世話に預かつてをりまする』
『しかしダリヤ様、貴女のおつれになつたバルキーとかいふ方は、何処へ行かれましたか御存じでせうなア』
『ハイ、夜前、妾のクラヴィコードをお聞きになり、直ぐおやすみになつたやうに思つてゐますが』
『ハテ、姫様は御存じがないのですか、今朝からお姿が見えないのですよ』
『ハ、左様でございますか』
と平然としてゐる。
玉清『姫様、一寸お伺ひいたしたいのですが、あの男の素性は御存じでございませうね』
ダリ『あれはバルギーと申しまして、タニグク山の泥棒の岩窟に小頭をやつてゐましたのだが、妾が、昨夜参つた玄真坊といふ妖僧にそそのかされ、泥棒の岩窟に囚れ、どうかして逃げたいと考へ、悪僧の酒に酔うたのを幸ひ、あのバルギーを色をもつてちよろまかし、うまく虎口を逃れたのでございます。まだ家へかへるまで道程もございますので、腹の悪い事と知りながらスガの里にかへるまで、何とか彼とか申して送らしてやらうかと考へ、道連れになつてるのでございます。実のところは、実際の事を御夫婦様に打ち明けたいと存じましたが、バルギーが何といつても側を離れないので申し上げる機会を得ずにをりました。御夫婦様は妾が悪い男を連れてゐると、さぞお蔑みでございませうが、右のやうな次第でございますから、どうぞよろしくお願ひ申します』
『いかにも、吾が家へお訪ねになつた時から妙な夫婦だと思つてゐました。どうして、まあ、貴女のやうな淑女と泥棒面の三品野郎と御夫婦で旅行されたのか、まるつきり……木馬嘶いて石女が子を産むやうな話だといつて家内と囁いてゐたところでございます。ヤアそれ聞いて安心いたしました。かのバルギーは、最早ここへは帰つて来ますまい。キツと吾々夫婦がお宅まで送つて上げますから御安心なさいませ』
『どうしてまた、あのバルギーが此処へ帰らないのでせう。あなたに送つて頂けばあのやうな危険な者に道連れにならずによいから一安心ですが、彼はまた何かよからぬ事でも致したのでございますか』
『エー、彼は昨夜深更に、村内の杢兵衛が家に覆面頭巾で暴れ込み、家族をフン縛り、金銭を残らず奪ひとり逃げ出す途端、門口の深井戸に落ち込み、バサバサと騒いでをつたところ、不寝番が見付け出し、井戸より引き上げ彼を引縛つて、杢兵衛の家に、つないであるさうでございます。今の先不寝番からさう訴へて参りました』
 ダリヤはビツクリしながら、
『エー、何とマア悪い奴でございますな、たちまち天罰が報うて来て吾と吾が手に深井戸に陥込んだのでございませう。しかしながら泥棒とは言へ、この山坂をタニグク谷から此処まで送つて来てくれた男、見捨てておくわけにもゆきませぬから、一目会はして下さいませぬか。彼に誠の道を説き聞かせてやりたうございますから、それとも村の掟で御成敗なさるのなら是非はございませぬ』
玉清『この村は三十三戸でございまするが、何れも三五教の信者で、人間を裁くといふ事を致しませぬ。誠の道を説き聞かせて、この村外れまで送り追放する事になつてをります。幸ひ姫様が御訓戒を与へて下さることなら、彼も満足するでせう。しからばこれへ連れ参りますから』
ダリ『ハイ、お邪魔ながらさう願へれば結構でございますが』
玉清『しからばこれから不寝番に申し付け、ここへ引張つて参りませう。しばらくお待ち下さい』
と言ひながら足早に出でて行く。
 玉子姫も夫の後に従ひ軽き目礼を施しながら吾が居間へと帰り行く。あとに残つたダリヤ姫は悪人とは言ひながら、何処ともなしに憐れを催し、どうかして彼の心を改めしめむと、クラヴィコードを弾じながら神に祈つてゐる。

『天と地とのその中に  生きとし生ける物は沢あれど
 神の形に造られし  人は霊の子霊の宮と言ふ
 そも人生の行路を尋ぬれば  川瀬の水の流るる如く
 朝夕べに変り行く  浮きつ沈みつ倒けつ転びつまた起きつ
 人生の波を渡り行く  善きも悪しきも押しなべて
 何れも人は神の御子  なすべき業は沢あれど
 人の宝を掠めとり  月日を送る人こそは
 人にして人に非ず  人の皮着る獣ならめ
 バルギーだとて生れついての  盗人には非ざらめ
 浮世の波に襲はれて  聞くも嫌らし盗人の
 群に入りたる事ならむ  人の情けは彼も知る
 吾を慕ひて山坂を  此処まで送り来たりしは
 恋とは言へど一片の  誠心の輝きあればこそ
 スガの港に至りなば  悪しき心を改めて
 真人にならむと誓ひたる  その舌の根の乾ぬ間に
 アアあさましや人の子の  家に忍びて黄金を
 盗む心は何事ぞや  吾が身を恋ふるその余り
 黄金の宝を奪ひとり  吾が歓心を買はむとや
 てもあさましの心かな  三五教の大御神
 彼が心に光明を  射照り通らせ片時も
 早く真人の群に入り  生きてこの世の用に立ち
 死しては神の常久に  あれます国に上り行き
 永久の生命を楽しげに  送らせ玉へ惟神
 バルギーの男の子に相代り  ダリヤの姫が真心を
 こめて祈願み奉る  ああ惟神々々
 恩頼を垂れ玉へ  恩頼を垂れ玉へ』

 かかるところへ村人の声ガヤガヤと、バルギーを引立てながら門口に送つて来た。
 バルギーは庭の植込の中に蹲みながら、ダリヤ姫に合はす顔なしと、顔をも得あげず落涙してゐる。ダリヤ姫は庭下駄を穿き、ツカツカとその側により、扇子もて二つ三つ彼の頭を軽く打ちながら、涙の声を張り上げて、
『これ、バルギーさま、お前さまは、妾に改心したといつた事はスツカリ嘘だつたのですね、何といふあさましい事をなさいました。世の中になす業は沢山あるに、夜陰に紛れて人様の家に忍び入り、悪虐無道にも人を括り上げ嚇し文句を並べ立て、汗や膏で貯はへた金を盗らうとは実に男子の面汚し、何といふ悪魔が貴方に魅つたのでせう。妾は貴方のやうな方とたとへ三日でも道連れになつたのが残念でございます。しかし妾も貴方にお断わり申さねばならぬ事がございます。三五教のピユリタンでありながら、どうかしてあの岩窟から身を逃れむと、今まで心にもない事を言つて貴方を騙つてゐました。決して私は貴方に恋慕してはゐませぬ。腹の底をたたけば、いやでいやで堪らないのですよ。しかしながら、スガの里へ帰るまで貴方をうまく利用しようと思つた私の罪、幾重にもお詫びをいたします。お前さまがこの村へ来て赤恥をかくのも、ヤツパリ私があつたため、私が悪いのです。どうぞ只今かぎり心を改めて真人間になつて下さいませ。そしてまたスガの里の方へでもお越しになりましたら、どうぞ吾が家へ訪問して下さいや。この村は三五教の信者で、人のよい方ばかりだから貴方の罪を許して下さるさうですから、サア早くどつかへおいでなさいませ。必ず必ず道で悪い事をなすつちやいけませぬよ。これは少しばかりですが路銀に使つて下さい』
と襟に縫ひこんであつた小判を一枚とり出しバルギーの懐に捻ぢこみ、「左様なら」と言ひつつ、しやくり泣きしながら与へられた吾が居間へと帰り行く。村人はムラムラとバルギーの周囲をとりまき、青竹持つて大地を叩きながら、
『サア立て、帰れ』
と後をおつたて、村外れをさして送り行く。
 玉清別夫婦はヤツと胸を撫で下し、再びダリヤ姫の居間に入り来たり、
『ダリヤ様、貴女の見上げたお志、側に聞いてゐた吾々二人は心の底から泣かされましたよ。あの御訓戒によつてバルギーも改心するでございませう』
ダリ『ハイ誠に赤面の至りでございます。バルギーさまが、あのやうなザマになつたのも、もとを訊せば私が悪いのでございます。お館に迷惑を掛けて相済みませぬ。穴でもあればもぐり込みたいやうな気分がいたします』
玉子『何おつしやいます、ダリヤ様、貴女の立場としては、時と場合によつて、バルギーを騙しなさるのも止むを得ませぬ、何事もみな神様のなさる業でございます。しかしながら天真坊といふ奴、途中に待ち受け、どんな事をするかも知れませぬから、二三日逗留なさつてお帰りなさつたら安全でございませう。その時は、屈強な村人を二三人つけて送らせますから御安心下さい』
ダリ『なにから何まで、お世話になりまして誠に有難うございます。何分よろしくお願ひ申します』

(大正一四・一一・七 旧九・二一 於祥明館 北村隆光録)



オニドでるび付原文を読む    オニド霊界物語Web