出口王仁三郎 文献検索

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物語71-1-31926/02山河草木戌 門外漢王仁三郎参照文献検索
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第三章 門外漢〔一七九二〕

 千年の齢を保つ丹頂の鶴は枯木に巣は造らない、空を飛ぶ鳥さへ突かれた巣には怖れて帰らず、地を潜る獣も一たん狙はれた穴には再び近づかぬ道理、バラモン教の悪神に根城を覆へされ、タラハン城下を立ち出で、打ちもらされし残党を集めて、人跡稀なる谷蟆山の蜂つづき神谷の平原に三十余戸の家をつくつて、あくまでも祖先伝来の三五の道を遵奉し、昼夜孜々として家業を励み、時を得れば再び三五の法城を築いて天下に雄飛せむものと、日の出別の宣伝使に仕へたる玉清別は此処に千代の住家を定め、遠大な望みを抱いて時期の到るを待つてゐた。
 玉清別には神の子、玉の子といふ二男子があつた。神の子は幼少より神童と呼ばれ、村内にその神名を轟かしてゐた。玉清別の妻玉子姫は夕餉の用意をなさむと、門先の井戸端に出でて釣瓶に片手をかけ水を汲まむとする時しもあれ、異様の托鉢僧が錫杖をがちやづかせながら、三文奴を従へ、さも鷹揚な態度で現はれ来たり、玉子姫の美貌を不出来な目鼻を一つに寄せて微笑しながら眺め、手鼻をツンとかみ、
天真坊『拙者は天帝の化身天来の救世主天真坊と申す名僧知識でござる』
と、さも鷹揚に出歯をむき出して語る。玉子姫は一目見るより思はず吹き出さむとする臍茶の苦痛を奥歯にかみ殺して、しみじみ見れば見るほど醜男も醜男、不男も不男、これほど念入に出来上がつた面がまへでは、横町の雌犬にけしかけても叶はぬはずの恋、ましてづうづうしく人間の美人、匿ひおいたダリヤ姫に向かつて慕うて来るとは、恋なればこそと可笑しさに堪へ兼ね、「ホホホホホツ」と笑へば、天真坊はますます居丈高になり、
天『これはしたり、当家の奥様とあらう者が吾々の顔を見て、一言の挨拶もなく冷笑するとは何事でござる、あなたの御心底心得申さぬ』
玉『これはこれは天帝の化身様とやら、何用あつてお越し下さいました。エー御用があらば手つ取り早くおつしやつて下さいませ。エーちよつと御様子を伺へば貴方は他宗のお方と見えますが、当家は宗旨が違ひますから、どうぞお帰りを願ひます』
 天真坊は……ハハア最前の化小僧がこの村は三五教と言ひよつたが、これや一つ三五教に化けてやらねばなるまいと態と素知らぬ顔をしながら、
天『エー宗旨が違ふといま仰せられましたが、要するに宗旨なんかは枝葉の問題でございます。神様は元は一株、時代とエー、国との都合によつて、あるひは神と現じ、あるひは仏と現じ、自由自在の活動を遊ばすのが誠の神でござる。拙者はかやうな僧形をしてをれど真実は三五教を信仰いたすもの、拙者の弟子には照国別、梅公、照公などの宣伝使もございますから、何宗か知りませぬが、しばらく拙者の申す事を一応お聞き下されたい』
玉『アア左様でございますか、有名な照国別の宣伝使のお師匠様とおつしやる以上は、貴方はお名前は何とおつしやいますか、それを承つた上、都合によつてはお話を聞かしてもらひませう』
『拙者は最前も申す通り、天来の救世主、天帝の化身シーゴーヨリコ別の命でござる』
『ホホホホホ。まるきりオーラ山の山賊みたやうなお名前でございますな』
『これは怪しからぬ、拙者はオーラ山に立ち向かひ、シーゴー、ヨリコの頭目を言向和し一泡吹かせ、天下の禍を除き、記念のために彼ら頭目の名を吾名と致した剛のものでござる』
『あら左様でございますか、エー、オーラ山には天帝の化身天来の救世主玄真坊とかいふ山子坊主がをつたやうに噂に聞いてをりますが、その玄真坊はどうなりました。定めし貴方の御神力によつて打ち滅ぼされたことでございませうねえ』
 コブライは天真坊の袖をグイグイ引きながら、
『もし天真さま、駄目ですよ。足許の明るい中にとつとと帰りませう。この女一通の女ぢやございませんよ。グヅグヅしてをると化が現はれますぜ』
 天真坊は小声で、
『馬鹿いふな、ダリヤ姫が当家に匿れて居るといつたからは、何とかかとか言うて彼女を引張りだすまで、ここを動かないつもりだ。貴様去にたければ勝手に去ね』
 玉子姫は耳ざとくも二人の囁き話を聞き終り、
『ホホホホ、やつぱり貴方はオーラ山の玄真坊様でせう。実は奥座敷にお前さまの尋ねてござるダリヤ姫さまが、バルギーといふ気の利いた男さまと休んでをられますよ。それはそれは睦まじさうな御夫婦ですわ。玄真坊といふ修験者がやつて来たら、どうぞ入れないやうにしてくれとくれぐれも頼まれてをりますから、どうぞお帰り下さいませ。妾は夕飯のお仕度で大層忙しうございますから』
天『いかにも拙者は天帝の化身玄真坊でござる。一度はオーラ山において悪神に嗾され、ちよつとばかり善からぬ事をいたしたなれど、悪に強ければ善にもつよい道理、今日の玄真坊は清浄無垢、昔日の玄真坊ではござらぬ。それゆゑに天帝より天真坊と神名を賜はつた者、拙者を一夜お泊め下されば家の御祈祷にもなり、子孫長久、福徳円満疑ひなし、まげて一夜の宿をお願ひ申したい』
玉『左様ならば一寸まつて居て下さい。妾一了簡には行きませぬ、主人に相談して参ります』
と言ひながら足早に奥にかけ込んだ。
 何時までまつても手桶に水を汲んで入つたきり、ピシヤリと中から錠を卸し、猫の子一匹顔を見せぬ。玄真坊は門口に立ち、三五教の宣伝歌を歌つて主人の疑ひを晴らさむものと、皺枯声を張りあげ仔細らしく歌ひ出した。

『朝日は照るとも曇るとも  月は盈つとも虧くるとも
 たとへ大地は沈むとも  誠の力は世を救ふ
 誠の力と言ふことは  天地造化の初めより
 世の末々に至るまで  この世を独り守ります
 宇宙唯一の神人の  珍の力といふ事だ
 ああ惟神々々  霊幸倍ひましまして
 天来唯一の救世主  産土山の聖場に
 現はれ給ふ瑞霊  神素盞嗚の大神の
 化身とあれし玄真坊  天帝の化身と言ふことを
 この家の主人委細かに  悟らせたまへ惟神
 慎み敬ひ願ぎまつる  神が表に現はれて
 善と悪とを立てわける  そもそも神は何者ぞ
 際限もなき大宇宙  作り給ひし造物主
 これこそ誠の神なるぞ  そもそも神は無形なり
 無声に居ますその限り  何ほど力があるとても
 そのままこの世を守るてふ  仕組は到底むつかしい
 それゆゑ神に選まれし  地上唯一の予言者を
 神の機関と相定め  神素盞嗚の精霊に
 珍の聖霊を宿しまし  下らせたまひし肉の宮
 これこそ世界の太柱  神の柱は天真坊
 決して間違ひござらぬぞ  早く疑ひ晴らしませ
 神はこの家に幸ひを  与へて霊肉もろともに
 天国浄土に救はむと  門の戸たたき立ちたまふ
 心の暗き人々は  神の柱を見誤り
 門の戸開いて迎へ入る  礼儀を知らぬ愚かさよ
 後の後悔間に合はぬ  早く心を改めて
 二つの眼にかけたまふ  青赤黒の眼鏡をば
 外して吾が身の顔を見よ  さすれば疑ひ晴れるだらう
 総て化身といふものは  人間並みの顔ぢやない
 五百羅漢か不動さま  悪鬼羅刹の相をして
 人の心をひくために  現はれ出づるものなるぞ
 何ほど顔がきれいでも  心に潜む枉神に
 注意せなくちや臍をかむ  やうな失敗出来るぞや
 省みたまへ玉子姫  この家の主玉清別の
 ために化身が宣示する  ああ惟神々々
 霊幸倍へましませよ』  

 神の子は窓から二人の姿をのぞき、この歌を聞いて吹き出しながら、小さい手を拍つて弟の玉の子と共に歌ひ出した。

『お化のやうな坊さまが  泥棒の乾児をつれて来て
 誠ぢや嘘ぢや化身ぢやと  甘いことをば言ひ並べ
 家のお父さまをごまかして  この家に一夜とまり込み
 ねてもさめても夢現  忘れられないダリヤさまを
 連れて帰らうと企みつつ  嘘八百を並べたて
 目玉をむき出し嘴を  無性やたらにとがらして
 臭い呼吸をば吐きながら  屋敷の空気を汚しよる
 もはや観念するがよい  万劫末代門口は
 お前のためには開かない  三五教に化けて来て
 甘い事せうとはそれや何だ  お尻喰ひの観音だ
 早く帰つたがよからうぞ  お杓に水を汲んで来て
 頭の上からぶつかけよか  尻尾を股へ捻ぢこんで
 一時も早く帰れかし  女を逐ふよな面でない
 早くいんでくれ貧乏神  アハハハハハハあの面を
 一寸見なされお母さま  小田の蛙の鳴き損ね
 夜食に外れた梟鳥  形容の出来ないスタイルだ
 ほんとに怪体な売僧坊主  神の館を逸早く
 尻に帆をかけ去んでくれ  お前の去んだその跡で
 お塩の三俵も振り撤いて  隅から隅まで大掃除
 致さにやならぬ厄介な  山子坊主が来たものだ
 イヒヒヒヒヒヒイヒヒヒヒ』  

と腮をしやくり頭を窓から突き出し、小さい足音を刻みながら奥に引つこんでしまつた。
 コブライは馬鹿らしくてたまらず、「チエツ」と歯がみをなし、睨みつけながら、斜になつて門口を出た。天真坊も「チエツ」と舌うちしながら駈けだす、待ち構へてゐた下男は手早く門の閂を箝めてしまつた。
 夕陽傾いて暗の扉は四方より拡がつて来る。執念深き玄真坊は現在恋慕ふダリヤがこの館に居ると聞いては、たとへ命を的にかけても目的を達せねばおかぬと、門先の石の上に腰をうちかけ、双手を組んで思案に暮れてゐる。塒求むる夕烏、近所の森の上から阿呆阿呆とおちよくるやうに頭の上から喚いてゐる。

(大正一四・一一・七 旧九・二一 於祥明館 加藤明子録)



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