出口王仁三郎 文献検索

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原著名出版年月表題作者その他
物語70-3-221925/08山河草木酉 優秀美王仁三郎参照文献検索
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第二二章 優秀美〔一七八九〕

 教務総監のジヤンクは一室に立て籠り、千草姫の行動の常ならぬのに心を悩め、かつチウイン太子、王女、テイラ、ハリスの行方不明となりしこともまたジヤンクが心配の種となつた。いつとはなく、うつらうつらと眠りにつく。時しもあれ、容色端麗なる異様の神人、何処ともなく現はれ来たり、「ジヤンク ジヤンク」と肩をゆすり玉ふ。ジヤンクはハツと驚き目をさませば、夢にみしと同様の神人が厳然として、吾が目の前の椅子に腰うちかけ、ニコニコしながら、
神人『我は第一霊国の天人言霊別のエンゼルであるぞよ。汝はトルマン国の現状を憂慮し、心胆を悩ませゐる段、実に感服の至りだ。汝の至誠天に通じ、今やエンゼルとして汝の神業を輔くべく降り来たれり、ゆめゆめ疑ふな』
ジヤ『ハイ、何事も愚鈍の私、進退維谷まつて、憂愁に沈みをります際、尊き神様の御降臨、実に有難う存じます。何とぞ何とぞ御守護あらむ事を偏に希ひ上げ奉ります』
エンゼル『汝が心配いたしてをるチウイン太子を始め、王女チンレイ、テイラ、ハリスの面々は神の守護により、少時ある所に囲まひおきしが、いよいよ教政改革断行の時期到来したれば、今に会はしてやらう。汝は飽くまでもトルマン国の教務総監となり、チウイン太子を輔けて、正しき教化を行へ。また左守、右守はチウイン太子、既に定めをれば、太子の意見に従ふべし。王女チンレイは照国別の弟子春公なる者を夫となし、ハリマの森の神殿に三五の大神とウラルの神と併せ祭り、春公を神主となし、チンレイと共に永遠に奉仕せしめよ』
ジヤ『ハイ、何から何まで、御指導下さいまして有難う存じます。神様……エンゼル様に恐れながらお伺ひいたしまするが、ガーデン教王様は精神に御異状ありとみえ、言行頓に一変し、この老臣も実に困難いたしてをりまするが、教王様は元の正気にお返り遊ばすでござりませうか』
エンゼル『彼は八岐大蛇の片割の悪霊に憑依され、精神惑乱しをれば、しばらく閑地に静養せしめよ。また千草姫はすでにすでにこの世を去り、その遺骸に高姫の霊憑依し、日の出神の生宮と称し、あらゆる醜態を演じ、乱暴を働きゐるは、全く金毛九尾の悪狐の霊の致すところ、ずゐぶん注意すべし』
ジヤ『ハイ、心得ましてございます。千草姫様でないとすれば、この老臣も大いに考ふるところがございます。何とぞ何とぞ過ちなきやう、御守護願ひ奉ります』
エン『かれ高姫の再来たる千草姫は常に特に気を付けよ。さらば』
といふより早く、忽ちその神姿を消させ玉ふた。ジヤンクは神恩を感謝し、讃美歌を歌ふ。

ジヤ『日はくれはてて道もなし  雪は野山に堆く
 つもりて歩まむ由もなし  行手に悩む旅人の
 頭上を照らし日の神は  暗をば晴らし積む雪を
 解かせ玉ひて己が行く  大道を開かせ玉ひけり
 アア有難や有難や  御国に尽す赤心を
 神は諾なひ玉ひけむ  困り切つたる今日の宵
 吾が枕辺におごそかに  現はれ玉ひ宣り玉ふ
 その御言葉は夢ならず  誠の神の御出現
 仰ぐも高し須弥の山  守らせ玉ふ木の花の
 姫命にましますか  ただしは言霊別神か
 何れにますかは知らねども  姿雄々しき瑞御霊
 乾ききつたる吾が霊を  うるほし玉ひ清鮮の
 血汐を吾が身に漲らし  救はせ玉ひし嬉しさよ
 ああ惟神々々  主の大神の御前に
 謹み感謝し奉る  喜び感謝し奉る』

 かく歌ひをる時しも、チウイン太子は照国別、照公、レール、マーク、テイラ、ハリス、および王女チンレイ、テルマン、春公の面々を引伴れ、意気揚々と帰り来る。ジヤンクは太子を見るより抱きつき、涙の声を絞りながら、
『アア太子様、よくマアお帰り下さいました』
といつたきり、後はあまりの感激に打たれて、一言も出し得なかつた。太子もこの老臣がただ一人、悪魔の中に孤城を守つてゐたかと思へば、そぞろ涙を催し嬉し涙にむせ返り、ハンカチにて両眼を拭ひながら、少時言葉も得出ださず俯むいてしまつた。
照国『ジヤンク様お喜びなさりませ。太子様はこの通り御壮健でゐらせられます。そして教政大改革の準備として、既に棟梁の臣をお定めになり、お帰りになつたのでございますから、どうか貴方様は、太子様を新教王と仰ぎ、教王様に退隠を願ひ、千草姫の悪霊を追ひ出し、教政に御尽瘁あらむ事を希望いたします』
ジヤ『ハイ、何から何まで有難うございます。只今も尊きエンゼルが吾が枕辺に出現遊ばし、いろいろさまざまと教化の大本につき、お諭しを頂きました。何分よろしくお願ひ申します』
『この度、大英断をもつて仁恵令を発布されましたのは、人心を新たにする上から見ても、誠に結構な事と存じます。ついては荒井ケ嶽の岩窟に、チウイン教王様が押し込めおかれたる妖僧キユーバーを、速やかに解放されむ事を希望します』
『なるほど、実のところはキユーバーの所在が分りませぬので、何の処置も取つてをりませぬが、所在が分りました以上は、速やかに解放いたしませう』
『チウイン教王様の御継職について、目出たくこれで、国内の風塵は掃き浄められました。サアこれから千草姫の審神を致しませう。ジヤンク殿、御一同、拙者と共に千草姫の居間までお越しを願ひませう』
 一同は頷きながら照国別の後ろより、足音を忍ばせ、千草姫の居間にと進み寄つた。室内には女の声、
『王妃様、どうか、こればつかりはお助け下さいませ』
千草『何といつても、其方は絶対服従を誓うたではないか。お前の乳房をこの焼金で切り取り、大神様にお供へいたし、キユーバーの所在を知らして頂かねばならぬのだ。モクレンともあらう者が、今はの際に卑怯未練な、命が惜しいか、テモさても悲しさうな面わいの。何ほど逃げても、走つても、この一室に閉ぢ込めた上は助かりは致さぬぞや。サ、観念の眼を閉ぢなさい。神の贄になるのだつたら、其方も光栄だらう』
モク『いかなる御用も承りまするが、どうか娘のテイラに一目会はして下さいませ。その上にて如何なる御用も勤めまする』
千草『ホホホホそんな事を言つて、この場を逃げ出し、千草姫の悪口をふれ歩き、吾が神徳をおとさうと致す考へだらう。さやうな計略に乗る千草姫ではござらぬぞや』
と優しい面に殺気を帯び、金火箸を白くなる所まで焼き、キヤアキヤアと泣き叫ぶモクレンの乳房に今やあてがはむとする時しも、照国別は力かぎり、外よりドアを打ち破り、「ウーン」と一声、睨みつくれば、千草姫は慌てふためき、尻のあたりより狐の尻尾の八岐になつたのをブリンブリンと振りながら、天窓を伝ひ、何処ともなく姿をかくしける。
 因にテルマンは新教王の見出だしによつて、番僧頭に任ぜられ、新教王の神政を国民は謳歌し、今まで乱れ切つたるトルマン国も、小天国を現出するに至つた。ああ惟神霊幸倍坐世。

(大正一四・八・二五 旧七・六 於丹後由良秋田別荘 松村真澄録)
(昭和一〇・六・二四 王仁校正)



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