出口王仁三郎 文献検索

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物語70-3-211925/08山河草木酉 三婚王仁三郎参照文献検索
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第二一章 三婚〔一七八八〕

 シグレ町の九尺二間の臨時御殿には、主客八人膝をすり合して月の輪となり、面白さうに笑ひながら内局組織の大会議が開かれてゐる。
チウイン『宣伝使の言はれた通り、もはや教政改革の時期が迫つて来たやうだ。しかしこの際教政改革に最もよき人物を採用せなくてはなるまい。どうぢやレール君は左守司となつて教政の重任に当つてくれまいか』
レール『仰せとあらば喜んでお受けいたしませう。しかしながら左守、右守家は今日まで世襲となつてをりますが、もし私が左守とならばテイラさまのお家はどうなるのですか』
『左守家、右守家世襲制度はこの際全廃せなくてはなるまい。何事も根本的の大改革だからな。ついてはテイラさまを君の妻君に余が仲人しよう』
『太子様、一寸お待ち下さい。拙者にはマサ子といふ妻もあり子もございます。左様なことは到底出来ますまい』
 チウインはニコニコ笑ひながら、
『ア、そんな心配は要らないよ。これが証拠だ』
と言ひながら、マサ子から預かつた離縁状を投げ出した。レールはつくづく封筒の表を見、また裏をかへして見、
『チエ、山の神の奴、洒落た事をしをるな』
と封をおしきり見れば、水茎の跡鮮かに細々と長い手紙が記してある。
チウ『ハハハハハハ、どうだレール、一寸その文句を読んで聞かしてくれたまへ』
レ『ハイ、しかたがありませぬ。女房から離縁状をもらふなんて、男としては余り褒めた話ぢやありませぬ。しかしもうかうなつちや破れかぶれです。サア聞いて下さい、読み上げますから』

前文御免……「何ぢや失敬な、挨拶もせずに前文御免とけつかるわい。夫を馬鹿にしてけつかる」……エー、妾こと不思議の御縁によりまして、貴方様の妻となり子までなしたる間柄でございますれども、貴方は万民の忌み嫌ふ向上運動だとか、免囚運動だとか反逆人のやうな行ひを遊ばすので、兄弟親類近所合壁より排斥し、妻たる私までが非常な圧迫を受けますのみならず、日夜番僧どもの凄い目で睨めつけられ、かよわき女の身として到底耐へ切れませぬ。しかるに貴方は今度、畏れ多くも王妃の御輿に対し不隠の御行動を遊ばし、重大事件を引き起し、囚はれ人とおなり遊ばしたのも、全く天地の神に見離され給ひしことと推察いたします。かかる重大事件を犯せし上は、もはや貴方は死刑は免れますまい。それゆゑ今の中にどうか妻子が可愛いと思召さるるなら、私を離縁して下さるであらうと、堅く堅く信じます。何事も因縁因果の廻り合ひとお締め下さいませ。そしてこの子は幸ひに貴方が出獄されるやうな事がありましたらお返しいたします。また御不幸にして極刑におなり遊ばすやうな事があれば、是非なく貴方の忘れ形見として育てますから、御安心下さいませ。たとへ無罪になつてお帰り遊ばすとも、私は断じて貴方と夫婦となる事はいたしませぬ。よつて兄弟親族と相談の上離縁状を差上げますから、宿世の因縁とお締め下さいませ。
         妻マサ子より
   レール殿

レール『ハハハハハハ。このレールも最早駄目だ。マサ子列車がたうとうレールを脱線しよつたわい。太子様、御命令に従ひ、左守司を奉職さして頂きませう。テイラ様の縁談は別として、……たうてい私のやうな、女房に尻を振られるやうな者に、テイラさまがどうして婚姻して下さいませうや、覚束なうございますからなあ』
太子『なに、そんな心配は要らないよ。俺の天眼通でテイラさまの心中を鏡にテーラして見ておいたのだ。なあテイラさま、異存はありますまい』
 テイラは「ハイ」と言つたきり、顔を赤らめ袖を掩うて俯向く。
太『ハハハハハハ、これで一夫婦落着だ。サアこれからはマークさまだ。マークさま、君は右守司になるのだよ』
マ『思ひもよらぬ御恩命、実に有難うございます。たうてい私ごとき不徳者の身をもつて、右守司などといふ重職には耐へ得られますまい。どうかもう少し軽い御用にお使ひ下さいますまいか。沐猴にして冠するものと世の笑ひを受けますから』
レ『オイ、マークそれや何を言ふのだ。太子様の御命令ぢやないか。そんな遠慮はするに当らないよ。俺だつて二つ返事で左守司を頂いたぢやないか』
マ『サアしばらく考へさしてもらひたいなあ』
レ『それや何を言ふのだ。考へも糞もあつたものかい。いつも言つてをつたぢやないか。「この運動が成功したら、君は左守になれ、僕は右守になる」と気焔をあげてゐた癖に、なんだ、卑怯に、今になつて尻込みするといふ腰抜があるか』
マ『……………』
太『オイ、マークしつかりせないか、何だその面は』
マ『ハイ、謹んでお受けいたします。至らぬ吾々どうかよろしくお引立を……』
太『アハハハハハハ、たうとう落城しよつたな。よしよし、それについては、ハリス女将軍を君の奥様にお世話しよう。ずゐぶん美人だらうがな』
マ『私には妻がございます。こればかりは御容赦を……』
太『それ、これを見ろ、これが証拠だ』
と一通の封書をマークの前に投げ出した。マークは不思議さうにその書面を手に取りあげ、よくよく見れば妻の筆跡である。直ちに封押し切り見れば、

カル子より、マーク様に離縁状を差上げます。人間は締めが肝腎ですよ。貴方も男でせう、滅多に女々しい、未練たらしい事は決して言はない方と信じてゐます……

マ『ヤこいつは手厳しい。嬶の奴、大変なメートルを挙げてゐやがるな』
レ『アハハハハハハ。態を見い、オイ、マークその次を読まないか』
マ『いやもう耐へてくれ。あまりひどい事が書いてあるので、読むに忍びないわ』
とパリパリパリと引き破り、やにはに頬張り、クシヤクシヤクシヤとかみたれこにし、灰の中に鉄の火箸で埋け込んでしまつた。
マ『エー、もう思ひ切りました。しかし嬶が離縁状をくれるのも無理はございますまい。第一彼奴の兄弟や親が没分暁漢ですから、カル子の奴、一刀両断的の態度に出よつたのですわい』
太『かうなる上はハリスさまを新夫人としても差支へないぢやないか』
マ『何事も太子様にお任せいたします。どうかよろしくおとりなしを……』
太『ヤアこれで二夫婦揃うた。ハリスさま、満足だらうな』
ハリ『ホホホホホホ。おつしやるまでもなく満足ですわ。私が始終求めてゐた理想の夫に出会つたのですもの』
 レールは頭を叩きながら、
『ヤーこいつは猛烈だ。耐らぬ耐らぬ耐らぬ、アハハハハハハ』
ハリス『ホホホホホホ』
マーク『エヘヘヘヘヘヘ』
チンレイ『もし兄さま、甚いわ、私だつて女ですよ。どうして下さるのですか』
太『ほんにお前の事は忘れてをつた。まさか俺の女房にするわけにも行かず、困つたなあ。まあ待つとつてくれ。何とか適当な夫を探してやるから』
チン『兄さま、そんな事言つて何時までも引張るのはいやですよ。妾だつて、性の欲に囚はれ、日夜悩んでゐるのですもの』
太『アハハハハハハ。こいつは猛烈だ。今時の女性は総てかふいふ式だから困つてしまふわ』
照国『王女様に適当な夫をお世話いたしませうか、なかなか気の利いた好人物ですよ。決してレールさま、マークさまに優つても劣らない人物です』
太『どうか世話をしてやつて下さい』
照国『実は私の弟子に春公といふ立派な男がおります。今は城外の牢獄の看守を勤めてをりますが、どうでせうかなあ』
太『どうかよろしう願ひませう。サア、チンレイ、これでお前も安心だらう』
チンレイ『兄さま、否ですよ、なんぼなんでも牢獄の番人なんて殺生だわ』
照国『実のところは春公といふ男、神様の命令により吾々の入牢を前知し、臨時牢番となつて、いろいろと便宜を与へてくれた義理堅い情深い神司です。きつと人物は保証いたします。男前もなかなか捨てたものぢやありませぬ。王女様に配はすには負けず劣らずの器量をしてをります』
チン『そんなら兄さま、お世話になりませうかねえ、ホホホホホホ』
太『お気に入りましたかなあ、やお目出たう。サアこれで一時に三夫婦結婚の約が結ばれた。一つ祝盃を挙げて歌はふぢやないか』
チン『兄さま、貴方の奥さまはどうなさいますか』
太『そんな事は言はなくてもお前も予てより聞いてゐるぢやないか。タラハン城のスダルマン太子の妹バンナ姫に定つてゐるぢやないか。親と親との許婚だもの』
チン『オホホホホホホ、えらい失礼な事申し上げました。ずゐぶん兄さまも執念深い方ですね』
太子『馬鹿言ふな、俺の事はかまはいでもよいわ。

 千早振る神代のままに女と夫とが
  嫁ぎの道を開く今日かな

 三組まで夫婦揃うて盃を
  挙ぐるは御代の瑞祥なるらむ』

レール『吾が君の恵みの露を盃に
  汲みて嫁ぎをなすぞ嬉しき』

テイラ『世に稀な男子を夫にもちながら
  君に仕ふる吾ぞ楽しき』

マーク『有難し世嗣の君の媒介に
  今日新しき妻を持ちぬる』

ハリス『求めてし理想の夫に添ひながら
  世を開きゆく事の嬉しさ』

チンレイ『如何にせむ未だ見ぬ夫に身を任せ
  神の宮居に仕ふる吾が身を』

太子『ヤ、目出たい目出たい、これで余も安心した。モーシ宣伝使様、どうか祝歌を歌つて下さいませ』

照国別『億万年の昔より  億万年の末までも
 人の情けは皆一つ  男子と女と相睦び
 嫁ぎの道を開きつつ  神のよさしの神業に
 仕へたまはむ人びとの  今日の心の勇ましさ
 仰ぎ見るさへ楽しけれ  尊き神の引き合せ
 清き奇はしき女子と  男子がここに寄り集ひ
 嫁ぎの道を始めつつ  トルマン国の政事
 常磐堅磐に末永く  固めたまひし今日こそは
 天の岩戸のそれならで  十方世界も皎々と
 輝くばかりの思ひなり  ああ惟神々々
 神の恵みの弥深く  これの縁をどこまでも
 互ひに睦び親しみて  大神業に仕ふべし
 守らせたまへと主の神の  御前に祈り奉る
 鶴は千年の松ケ枝に  御子を生みつつ君が代を
 祝ぎまつりて緑毛の  亀は海より這ひ出でて
 底津岩根の聖場に  万世祝ひ舞ひ遊ぶ
 実にもミロクの新政か  神政成就の暁か
 実にも目出たき次第なり  ああ惟神々々
 御霊幸はへましませよ  朝日は照るとも曇るとも
 月は盈つとも虧くるとも  たとへ大地は沈むとも
 誠の神の結びたる  六人の縁はどこまでも
 解けざらまし惟神  神に誓ひて三五の
 照国別の神司  喜び祝ぎ奉る』
照公『目出たし目出たしお目出たし  ここに三夫婦相並び
 嫁ぎの道を始めまし  トルマン国の柱石を
 固めたまひし尊さよ  この喜びを吾々は
 言葉にかくる術もなし  ただ何事も目出たしと
 祝ぎまつる外はなし  ああ惟神々々
 御霊幸倍ましませよ』  

 かく互ひに謡ひ終り盃を汲みかはしてゐるところへ、如意棒をぶら下げてやつて来たのは、ラムのテルマンであつた。テルマンはニコニコしながら入り来たり、
『ヤア、レールさま、マークさまお目出たう。仁恵令が行はれ無事出獄せられたと聞き、取るものも取り敢ずお喜びに参りました。やチウイン太子様、お目出たうございます。どうかよろしくおとりなしを願ひ上げます』

(大正一四・八・二五 旧七・六 於由良海岸秋田別荘 加藤明子録)



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