出口王仁三郎 文献検索

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物語70-3-201925/08山河草木酉 千代の声王仁三郎参照文献検索
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第二〇章 千代の声〔一七八七〕

 シグレ町のレール、マークの留守宅には、チウイン太子、チンレイ、テイラ、ハリスの四人が淋しく頭を鳩めて密談をやつてゐる。
テイラ『もし太子様、レールさまやマークさまは、到頭やりそこなつて捕はれたさうぢやござりませぬか。妾は水汲みに参りました際、そこに落ちてゐた号外を見て吃驚しましたよ』
チウ『ナニ、やりそこなつたかな。ヤアこいつア困つたな。かうしては居られまい。ジヤンクの処へでも行つて二人を救ひ出す工夫でもせなくてちやなるまい』
『およしなさいませ、剣呑ですよ。金毛九尾の悪狐の憑依した千草姫ですもの、どんな難題をつけて、またもや太子様を牢獄に投げこみ命をとるか知れませぬから』
『それだといつて、国家の志士を見殺しにするわけにはゆかぬぢやないか。余はこれから、どうなつても構はぬ。二人の遭難を坐視するには忍びない。一つあらゆる手段を尽して助けて見ようと思ふのだ。どうか君たち三人は外に出ぬやうにして待つてゐてくれ』
チンレイ『お兄様、千金の御身をもつて軽挙妄動はお止しなさいませ。万一お身の上に危険が迫り、お命でも失ひ遊ばすやうな事があつては、それこそトルマン国は常暗になつてしまひますわ。これだけ人心騒々しく、豺狼虎竜の跋扈跳梁する世の中、何ほど太子様の権威だつて、どうする事も出来ますまい。今の重僧どもは我利我欲の外に何も念はござりませぬ。千草姫の化物に誑惑され、金の轡をはまされてゐる悪人ばかりでありますから、太子様だとて、吾が身の栄達のためには容赦はいたしませぬよ。教務総監のジヤンクさまでも動かさうとしてゐるのですもの。そんな剣呑な所へ、お越しになつてはいけませぬ。こればかりは思ひ止つて下さい』
と太子の袖に縋りつき涕泣する。
チウ『ヤ、困つたな。そんならしばらくお前の意見に任して待つ事としようかい』
 かくいふ所へ二三人の男ドヤドヤと入り来たり、ソツと門口を覗きながら、
『ヤア、誰か来てゐるやうだ、オイ誰だい。レール、マークの大将は不幸にして捕まつたやうだが、お前は誰だい』
チウ『ヤア兄弟か、マア這入り給へ。実は俺もなア、親分が捕まつたと聞いて、向上会員と共に、様子を考へに来たところ、誰も連中が来てゐないので、留守師団長をやつてゐたのだ。お前は誰だつたいな』
男『俺かい、俺やタールにハール、ケースの三人だ。号外を見てこいつは大変だと思ひ、誰か見舞ひに来てゐるに違ひないと、取るものも取り敢ず駈けつけて来たのだが、お前は一体誰だつたいのう』
チウ『俺かい、俺はレールの兄貴の秘蔵の弟だ。お前たちの名は常から聞いてゐたが、俺は特別の任務を預かつてゐたから、お前達に隠してゐたのだ。かうなれば黙つてをるわけにはゆかぬが、何とか運動をやつてるだらうね』
タール『ヤア実は号外を見るより、同志がクルスの森に集まり、親分を何とかして取返さうと相談してる最中に、数百の番僧隊がうせやがつて、十重二十重に取り囲んだものだから、どうする事も出来ず、同志は四方に散乱してしまつたのだ。本当に俺たちの運動に対しては、親分の入獄は泣き面に蜂だ。痩児に蓮根だ。どうにもかうにも、今のところ手のつけやうが無いわい。オイ、兄貴、何かいい考へはなからうかな』
チウ『待て待て、さう慌てたところで仕方がない。今は役僧どもの頭が非常に鋭敏になつてゐるから、大きな声で物一つ言ふ事も出来ない。しばらく成行に任し、時を得て奪ひ返すより外に方法はなからうぞ。マアゆつくりし給へ』
ター『オイ、ハール、ケース、兄貴がアア言ふから、ともかく一服しようぢやないか』
『ウン、よからう』
と二人はタールの後について狭い床かばちに腰を下した。
ター『ヤア、しかもナイスが三人もゐるぢやないか。オイ兄貴、うまい事してやがるな。一人寄つて三人も占領するとは、本当に凄い腕前ぢやないか。吾々の主義からいつても、こんな不道理のことア出来ない。どうだ婦人国有論の実行をやらうぢやないか』
チウ『馬鹿いふな。この三人はみな婦人向上会員だ。婦人参政権獲得運動の張本人だよ。レール、マークの両人が遭難を聞いて、親切に尋ねて来てくれたのだ』
ター『なるほど、そらさうだらう。これこれ御婦人、この際しつかり御活動願ひますぜ。しかし何時バラスパイが追跡して来るかも知れぬから、永居は恐れだ。兄貴またゆつくりお目にかからう。左様なら』
と足早に暗の路地に姿を消した。
 その夜は積んだり崩したり、いろいろと小声で話しながら眠つてしまひ、翌朝早うから三人の女が炊事をしたり、そこらを掃いたりやつてゐると、乳飲児を背に負うた二人の女が、相当な衣服を身に纏ひながら、門口に立ち、
女『もし、一寸お尋ね申しますが、レール、マークの宅は当家ぢやござりませぬか』
テイ『ハイ、左様でござります。誰方か知りませぬが、先づお這入り下さいませ』
女『妾はクロイの里のマサ子、カル子と申すものでござります。レールさまやマークさまが、小本山の役僧に捕まへられ、入獄をなさつたと聞きまして、取るものも取り敢ず遙々と尋ねて参りました。どうでござりませうかな。早速には帰つてござるやうな事はありますまいか』
テイ『貴女は、さうすると、マサ子さま、カル子さまとおつしやいましたが、レールさま、マークさまの奥さまぢやござりませぬか』
マサ子『ハイ、妾はレールの女房でござります。この方はマークさまの奥さまでござりますよ。向上運動とか何とかいつて奇妙な事を主人がやるものですから、妾の所まで番僧が張つてをりますの。本当に困つてしまひますわ』
チウ『ヤー奥さまでござりますか。サア、どうか此方へお掛け下さいませ。別に、さう御心配にも及びますまい。やがて許されて帰つて来られるでせう』
『ハイ、有難うございます。本当に妾二人は不運なものでござります。なにほど意見を致しましても、女の知る事でないと、一言にはねつけ、一言も女房の言ふ事を聞いてくれないものですから、たうとうこんな災難にあつたのでござります。親類や兄弟からも喧しく申しまして、縁を切つて帰つて来い帰つて来いと勧めるのですけれど、二人の仲に、切つても切れぬ鎹が出来ましたので、可愛い子供を継母の手に渡すのもいぢらしいと思ひ、泣きの涙で今日まで辛抱して来ましたが、もう堪へ切れませぬ。それでキツパリ縁を絶つてもらひたいと思ひまして尋ねて来たのでござります』
『女房が夫に離縁を請求するとは、如何なる事情があるにもせよ、不貞の甚しきものだ。今時の女性は、どれもこれも、我利しだから、困つたものだな』
『そりや一応ご尤もでござりますが、こんな夫に添うてをりましては、この世の中で安心して暮すことが出来ませぬわ。貴方はやつぱりレールのお仲間でござりますか』
『ハア、さうです。兄貴がかまつたものだから、是非なく嬶と一緒に、この牙城を守つてをります。ずゐぶん留守師団長も、いい加減なものですよ』
カル子『綺麗な御婦人が、しかも三人ゐらつしやいますが、この二人はどうやら、レールさまとマークの愛してゐられる御婦人でせう。本当に妻子に対し、あるにあられぬ心配をかけておきながら、何といふ酷い人だらう。マサ子さま、もう駄目ですよ。スツパリと断念しようぢやござりませぬか』
マサ子『本当にさうですな。こんな白首があるものですから妻子を顧みず、こんな所に好きすつぽうな暮しをやつてゐるのですよ。エーもう穢らはしうなつて来ました。サア帰りませう』
と早くも立去らむとする。
チウ『もしもし奥さま、そら違ひますよ。さう、誤解されちやレールさまや、マークさまに気の毒ですわ。これには深い訳があります。さう怒らずに一応私の言ふ事をお聞き下さい』
マサ『エーエー何とおつしやつても、私の耳には這入りませぬ。現在白首を見せつけながら百万遍の弁解をなさつても、私の耳へは到底這入りませぬ。こんな事だらうと思ひ、マサカの時の用意にと、カル子さまと相談の上に、親兄弟の承諾を得て、ここに離縁状を持つて参りました。レール、マークの両人は囚はれの身の上ですから、直接に渡すことは出来ませぬから、兄弟分の貴方に確かに渡しますから、どうか面会においでになつても、「マサ子やカル子の事はフツツリ思ひ切つて下さい。以後関係はありませぬから、児は貴方の出獄まで預かつておきます」と、伝へて下さい。エー残念やな残念やな』
と二通の離縁状を投げつけ地団駄踏みながら、路地口を一生懸命雲を霞と帰り行く。
チウ『ハツハハハハ、テイラさま、ハリスさま、お目出たう。到頭レール、マークさまの奥さまにしてしまはれたぢやないか。満足でせうね』
 二人は顔を真赤に染め、
『太子様、腹の悪い、揶揄もいい加減にして下さいな。ホホホホホホ』
チウ『ヤ、こいつは冗談だ。ハハハハハハ』
と笑ふをりしも、鈴の音けたたましく仁恵令の行はれ、囚人は全部解放されたといふ一葉の号外が舞ひ込んで来た。四人はこの号外を見るより思はず知らず手を拍つて、天地の神に感謝した。チウインにも三人の女の目にも嬉し涙が滲んでゐた。
 そこへイソイソとしてレール、マークの二人が帰つて来た。
チウ『ヤア、兄貴、よう帰つて来てくれた。今も今とて大変に心配をしてゐたところだ。ずゐぶん困つただらうな』
レ『ヤア有難う。おかげで解放されました』
マ『どうも御心配をかけて済みませぬ。ツイやり損じたものですから、あんな失敗をしたのですよ。時に珍しいお方を連つて帰りました。お目にかけませうか。路地の入口に待つて居られますから』
チウ『珍しい方とは、オイ君、誰だい』
レ『貴方の神軍を助けられたといふ、三五教の宣伝使様ですよ。不思議の縁で同じ牢獄へ打込まれて居つたのです』
チウ『なに、宣伝使、ヤアそりや、かうしてはをられぬ。ドレ、僕が御挨拶に行かう』
と言ひながら、レール、マークに案内させ、路地口に出て見れば、照国別、照公の二人がニコニコとして立つてゐる。
チウ『ヤア、宣伝使様、誠にお気の毒な事でござりました。何分継母に曲神が憑依してをりますものですから、清浄潔白な貴方様をあのやうな穢しい牢獄に投げ込んだものでござりませう。どうぞ私に免じ、了簡してやつて下さいませ』
照国『イヤ、貴方はチウイン太子様、国家のため、尊貴の御身を落とし御尽力の段、実に感謝に堪へませぬ。何事もみな神様の御経綸ですから、そんなお気遣ひは御無用にして下さい』
照公『太子様、いよいよ教政改革の機運が廻つて来たやうでござりますわ。お喜び下さいませ。もはや、かやうな貧民窟にお暮し遊ばす時期は済みました。どうか堂々と名乗りをあげ、教政改革にお当り下さいませ。私は師の君と共に、有らむ限りのお助けを致したい考へでござります』
チウ『ヤ、如何にも、お説の通りいよいよ時節が到来したやうに思ふ。サア、レール、マーク両人、ここで一つ臨時会議でも開いて、仮内局を組織しようぢやないか』
レ『ともかく、ここでは都合が悪うござりませう。九尺二間の御殿まで参りませう、アハハハハ』
と笑ひながら帰り来たり、ここに男女六人は頭を鳩めて、新内局組織の協議会を開いた。雀の声も今日は何となく勇ましく千代千代と聞こえ来る。

(大正一四・八・二五 旧七・六 於由良秋田別荘 北村隆光録)



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