出口王仁三郎 文献検索

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物語70-3-191925/08山河草木酉 梅花団王仁三郎参照文献検索
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第一九章 梅花団〔一七八六〕

 千草姫は意気揚々として城中に帰り来たり、ガーデン王の居間に入り、
『日の出神の生宮、ガーデン王に申し渡す仔細がある。よつく承れ』
王『ハイ、首尾よう御下向になりまして、お目出たうございます。御用の趣、慎んで承りませう』
千草『第一霊国の天人、日の出神はウラル彦命、盤古神王等とジヤンクの処置について、長時間協議をこらせし結果、ここ一週間の間に彼が命をたち、教国の害毒を除くべく評定がきはまつたぞや。それまでは汝、必ず必ず、彼に暴虐の手を加ふる勿れ。自然に消滅いたす神の仕組を致しておいたから……』
『ハイ、その御神勅を承り、大いに安心仕りました。ついては教国の枢機に任ずべき重臣として採用すべきキユーバーは、神界において、何時お召出し下さいまするか』
『否、心配は致すに及ばぬ。彼キユーバーは神界において、眷族を使ひ、よくよく査べみれば、当城の牢獄を破り、逃げ行く途中、狼に追撃され、終にはもろくも全身を群狼のために喰ひつぶされ、非業の最後をとげたとの、眷族どもの復命。止むを得ず、盤古神王と相談いたせしところ、第一天国の天人の霊を天より遣はすによつて、日の出神殿、その身霊を城中へ伴ひ帰り、教政を執らば、トルマン国は申すに及ばず、三千世界の支配者として、世界万民に仰がるべし、――とのお告げなれば、この日の出神心も勇み、役僧どもに守られて帰途につくその途すがら、一介の男子と化し、吾が輿に近よらむとし玉ふや、心眼開けざる盲同様の番僧どもは、輿に危害を加へ無礼を与ふる者となし、即座に捕縛してしまつたのである。てもさても訳の分らぬ俗物くらゐ困つた者はござらぬぞや。オホホホホ』
『その身霊の宿つた男子は如何なされましたか』
『ただ今玄関口に番僧付きそひ、待たせあれば、汝は最敬礼をもつてお迎へ申して来たれ。三千世界の救世主、日の出神の片腕ともなり、汝が教政を輔くる教務総監ともなるべき、現幽両用の大神人であるぞよ。サ、早く早くお迎へなされ』
 王は「ハアハア」と頭をさげながら、玄関口に自ら走り出た。警固の番僧はハツと驚き、最敬礼を施してゐる。ガーデン王は捉はれ人の前に両手をつき、恐れ戦きながら、
『これはこれは、第一天国の天人の霊様、分らぬ臣下どもが、いかい御無礼を仕りました。何とぞ何とぞこちらへお上り下さいませ』
 梅公は無言のままニコニコしてゐる。護送の番僧は驚いて、手早く縄目をとき、青くなり無礼を陳謝し、猫に追はれし鼠のごとく小さくなつて、スゴスゴと帰り行く。
梅『拙者は、天津御国より盤古神王の命をうけ、トルマン国を救はむため、人体を顕はし突然現はれし者、当家には日の出神の生宮、三千世界の救世主、大みろくの太柱、第一霊国の天人様が御降臨の筈、どうかその居間へ案内めされ』
と応揚にいふ。ガーデン王は千草姫が、第一霊国の天人といふ事は、九分九厘まで信じてゐたが、今この神人の言葉を聞いて、一層確信を強め、ペコペコしながら、梅公の先に立ち、千草姫の居間を指して案内する。千草姫は梅公の姿を見て、ますます悦に入り、
『ヤ、これはこれは、高宮彦殿、よくマア妾が神業を助けむと、お越し下さいました。妾は神界においては、日の出神、またの名は高宮姫でございます。ヨモヤお忘れはございますまいなア』
梅『いかにも、某は高宮彦に間違ひない。しかしながら余はその後天国に昇り、仙術をもつて若返り、今はかくのごとく絶世の美男子となつて、衆生を済度すべく再臨したのだ。日の出神の生宮殿、もはや安心あつてよからうぞ』
千草『いかにも、これにてトルマン国の基礎も定まり、教王家の祥兆、実に慶賀に堪へませぬ。ガーデン王殿、神界秘密の用事あれば、しばらく命令を下すまで、この場をお外しなされ』
王『ハイ畏まりましてございます。御用がございましたら、何時なりとも、お呼び出しを願ひます。左様ならば、高宮彦様、日の出神様、ゆつくりとお休み下さいませ』
と言ひながら、イソイソとして吾が居間に皈り行く。梅公は忽ち体を崩し、大胡坐をかきながら、
『オイ、君、千草君、いないな高姫君、よくもマア化けたものだな。どうだい、久振りでまた一芝居打たうぢやないか、僕ア時置師の杢助だよ』
千草『如何にも、あなたは杢チヤンでしたかいな。何とまア、立派な御容色だこと。私、あまり変つてゐらつしやるので、外の方だと思つてゐましたよ』
梅『何とすごい腕前ぢやないか。あれほど僕に固い約束をしておきながら、美しい男が通つたといつて、其奴を喰へ込まうといふ了簡だから、本当に男はよい面の皮だ。その美貌で、なまめかしい言葉で、あやかされてしまや、どんな硬骨男子でも一たまりもなく参つてしまふよ。幸ひ僕は時置師の本人だからよかつたものの、さう小口から男を喰はへられちや約らないからのう』
『ホホホホあれだけ、固う約束をしておいたものですもの……、貴方こそ、よい女をみつけて、妾をみすて、どつかへうろついてをつたのでせう。本当に苛いワ』
『馬鹿いふない。僕ア、お前の所在を捜し索ねて、ほとんど三年、彼方此方と苦労をしてをつたが、お前がハリマの森の神殿で祈願をこめてる時、後ろ姿をチラツと見て、よくも似たりな似たりな、高チヤンに瓜二つ……だと思ひ、先へ廻つて、輿の中を覗かうとした時、番僧の奴に取つ捕まつてしまつたのだ。お前の霊は、どこまでも王妃の霊と見えて、偉いものだのう』
『そらさうです共、第一霊国の天人ぢやございませぬか。ヤツパリ上になる霊はどこまでも上にならねばなりませぬからな』
『時にお前、これからどうする考へだ。俺と一緒に此処を逃げ出し、また曲輪城でも造つて仲よう暮す気はないか、それが聞きたいのだ』
『そら、貴方のお言葉ならどうでも致しますけれど、これだけ立派なトルマン城を扣えながら、別に曲輪城なんか拵へる必要はないぢやありませぬか。これから貴方と私と、ここを根拠としてウラナイ教の本山となし、三千世界の救世主と天晴れ現はれたらどうでせうかな』
『あ、それもよからう。そんならこれから、お前と一つ内々相談をしようか』
『どうか、さう願ひませう』
『この室は何だか窮屈でたまらない。お前の寝所がないか。どうか其処へ案内してもらつて、久振りで寝物語りをやりたいものだがな』
『あ、さう願ひませう。ホホホ、何だか恥づかしいワ』
と言ひながら、目尻を下げ、梅公の手を曳いて己が居間へと伴ひゆき、ドアを固くとざし外から開かないやうにして、絹夜具を布いて二人は枕を並べて横たはつてしまつた。
梅『オイ、高チヤン、久振りだな』
千草『本当にお久しうございます』
『お前が自惚鏡の前で、ウツトコを映写してゐた時分もずゐぶん綺麗だつたが、その時に比べて見て、一入美しうなつたぢやないか』
『何だか知りませぬが、三十年も若くなつたやうな気がいたしますワ。これ御覧なさい、肌の艶なんか、まるで白金の光のやうですわ。しかし杢チヤンも大変綺麗になつたぢやありませぬか。まるつ切り、ダイヤモンドのやうな、体から光が現はれるぢやありませぬか』
『そらさうだらうかい。第一天国の天人の霊だもの、しかしこれから大神業を開始するについては、先づ第一に天下に向かつて、お前と私との信用を得るため、仁恵令を行はねばなるまい。思ひ切つて、牢獄の囚人を解放したらどうだ』
『ハイ、恋しき貴方のお言葉、否む訳には行きませぬ。仰せに従ひ、仁恵令を行ふやう、ガーデン王に申しつけませう。しかしながら特別の重大犯人だけは許すことは出来ませぬ。吾々の身辺を窺ひ、いつ危害を加へるか知れませぬからな』
『ハハハハ高チヤン、やつぱりお前は女だ。そんな気の弱い事をいふものぢやない。牢獄に一人の囚人もゐないやうにするこそ、仁恵といふものだ。お前は照国別、照公の両宣伝使を非常に気にかけてゐるやうだが、この際思ひ切つて放免した方が、何ほどお前の信用が上るか知れないよ。城下の噂を聞けば、大変な事になつてゐるよ。三五教の宣伝使を二人まで牢獄へ打ち込むなんて、怪しからぬ千草姫だ。今クーデターを行ひ、千草の首を取り、大衆の怨みを晴らさにやおかぬ……とそれはそれはエライ悪い人気だよ。さうだからこの際、お前がガーデン王に言ひつけ、仁恵を行ひ、大衆の疑ひをはらせ……といふのだ。これよりよい方法はないからなア』
『なるほど、それも一つの政策としてはよいかも知れませぬな。時に杢チヤンに折入つて願ひたいのは、あのジヤンクといふ奴、なかなかのしたたか者で、日の出神の生宮の神命でさへも拒むといふ剛腹者だから、一寸困つてゐるのよ。何とかして彼奴を放り出す工夫はありますまいかな』
『ハハハ吹いたら飛ぶやうなジヤンクが何だ。しかしいま彼を放逐すると却つてお前の人気が悪くなり、大望の邪魔になるから、あのままにしておけ。今にこの杢助が頭を上げたが最後、ジヤンクなんか、谷底へ一けりに蹴り落としてしまふ考へだからな』
『ホホホホ、そらさうでせうな。貴方の御力量はとつくに承知してをります。広いこの世界に貴方に優る豪傑はないんですもの』
『そらさうだ、さ、一時も早う王を呼び出して、仁恵令を行ふべく取計らせたがよからうぞ』
『杢チヤン、さう急くにも及ばぬぢやありませぬか。久振りで焦がれ焦がれた男女が面会したのぢやありませぬか。マア今晩はゆつくりと抱いて寝て下さいな。わたえモウ杢チヤンの面みてから、勇気も何もなくなり、ヤヤ子のやうになつてしまつたワ』
『人気沸騰し、今やクーデターの勃発せむとする矢先だもの、一刻の猶予も出来ないよ。早く教王を呼び出して仁恵令を行はしめなくちや、安心して寝るわけにもゆかぬぢやないか。それさへ済めば、十日でも百日でも、三年でも五年でも、お前にひつついて放しやしないよ。厭といふところまで抱き締てやるからなア』
『ホホホホそんなら、教王に日の出神が命令を下しておきます。それさへ済めば寝て下さるでせうな』
『そらさうだとも、サ、早くやつてくれ。特別急行で頼むよ』
千草『承知しました。飛行機でやつつけませう、ホホホホ』
と笑ひながら、教王の居間にソロリソロリと、両手を拡げ、三つ四つ羽搏きしながら進み入る。教王は一生懸命にウラル教の教典を、首をかたげて調べてゐた。
千草『ホホホホ、ガーデン王殿、えらい御勉強、日の出神、誠に感じ入つたぞや。只今お出で遊ばした神人は、天国にても名も高き時置師の神様であつたぞや。この神が現はれ玉うた上は、トルマン城は大磐石、御安心なされ』
王『ハイ、有難うございます』
千草『ついては、日の出神が其方に申し渡す仔細がある。よつく承れ』
 王「ハイ」と俯むく。
千草『日の出神自ら教王の居間に現はれたのは、余の儀ではない。まづ第一に五六七神政開始のお祝ひとして、牢獄の囚人を、時を移さず、一人も残らず、仁恵令を発布して放免せられよ。これぞ全く、三千世界の救世主、底津岩根の大みろくの霊体、第一霊国の天人、日の出神の生宮の神命でござるぞや』
 ガーデン王は「ハイ」と答へて、直ちにジヤンクを呼び、牢獄の囚人を一人も残らず解放してしまつた。千草姫はニコニコしながら、吾が居間に帰つてみれば、梅公はグウグウと高鼾をかいて、他愛もなく眠つてゐる。
千草『コレ、杢チヤン、起きて下さらぬかいな。何ですか、タマタマお面みせておいて、本当にスゲナイ人だワ。もし、杢チヤンつたら、目をあけて下さいな』
 何ほど揺すつても、呼んでも、鱶のやうな高鼾をかいて一寸も気がつかぬ。千草姫は止むを得ず、梅公の寝姿を少時打ち見守つてゐた。
千草『ホホホ何とマア、気高いお面だこと。色あくまでも白く、搗立の餅のやうなお面の生地、眼許涼しく、鼻筋通り、口は大きくもなく、小さくもなく、お髭の具合といひ、お頭の髪といひ、肌の滑らかさ、お爪の光沢、どこに一つ、点の打ち所のない、宇宙第一の美男子だワ。こんな美男子を男に持つこの高チヤンは、何といふ仕合せ者だらう。ホホホホ、お涎が知らぬ間に一合ばかり、お膝の上へこぼれよつたワ。ガーデン王のやうなド茶瓶頭や、キユーバーさまのやうな、さいこ槌頭をみてゐた目には、一入立派に見えてたまらないワ。味の悪い腐つたドブ漬を食た口で、特製の羊羹を食た時のやうな気がするのだもの、ホホホホ。てもさても愛らしい、凛々しい、男らしい、神さまらしいお姿だこと』
と面を撫でたり、目をあけて見たり、なぶり物にして楽しんでゐる。時しも城外の牢獄の囚人を解放したため、囚人が一斉に「万歳万歳」と叫ぶ声、窓ガラスを通して響き来る。
千草『ホホホホ杢チヤンの御発明によつて、牢獄の囚人が解放され、万歳を叫んでゐるやうだ。囚人も万歳だらうが、この高チヤンも天下無双の英雄豪傑美男子に会うて万々歳だワ、オホホホホ』
梅『あーあーあ』
と欠伸しながら、両手をヌツと伸ばし、
『ヤア、高チヤン、お前そこにゐたのか』
千草『ハイ、ゐましたとも、貴方どうですか。何程ゆり起しても、喚いても起て下さらぬのだもの』
梅『オイ、金毛九尾の容物、千草姫の亡きがら、高姫の再来、しつかり聞け。俺は時置師の杢助でも何でもない。三五教を守護する第一霊国の天人、言霊別のエンゼルだ』
といふより早く、大光団となつて、千草姫の両眼を射ながら、窓の隙間より、音もなく出てしまつた。依然として老若男女の万歳の声、間断なく聞こえ来る。千草姫は余りの驚きにしばしの間は失心してしまつた。

(大正一四・八・二五 旧七・六 於丹後由良秋田別荘 松村真澄録)



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