出口王仁三郎 文献検索

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物語70-3-181925/08山河草木酉 鳳恋王仁三郎参照文献検索
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第一八章 鳳恋〔一七八五〕

 千草姫は傲然と日の出神気取りで、刹帝利を脚下に跪かせながら、
『三千世界の救世主、底津岩根の大みろくの太柱、第一霊国の天人、日の出神の生宮が、汝ガーデンに申し渡す仔細がある。性根を据ゑてしつかり聞けよ』
王『ハイ、何事なりとも仰せ下さりませ。絶対服従を誓つてをりまするから』
千草『汝が言葉、日の出神、満足々々。汝はこれより三千世界の覇者となり、世界統一の神業にかからねばならぬ大責任があるぞや。それについては、人間の分際としては如何ともすることは出来ない。このたび天より天降りたる日の出神、千草姫の肉体を宿といたし、神変不思議の神力をもつて、まづ第一にトルマン国の足元を浄め、逆臣を排除し、水晶霊をよりぬいて神の御用に立て、神政成就の基礎を固むべき神界の経綸なれば、一言一句といへど、決して反いてはなりませぬぞ。御承知であらうなア』
『ハイ、謹んで御神命を承りませう』
『汝は神の命を用ひず、八岐大蛇の霊の憑依せし、田舎育ちのジヤンクを依然として、国政に当らしむるのは、神界の大命に反き反逆の罪最も重し。一時も早く勇猛心を発揮し、かれジヤンクを放逐せよ』
『ハイ、御神命は確かに承知いたしてをりますが、トルマン国切つての、彼は人望家。三十万人の国民は彼一人を力といたし、三千騎の兵士は彼を大将軍と尊敬してをりますれば、いかに神命なればとて彼が頭上に斧鉞を加ふる事は、国家存立上いな刹帝利家存立上、最も危険至極かと存じます。なにとぞこの儀のみは少時保留を願ひたう存じます』
『ホホホホホホ、愚かなり、ガーデン王、彼がごとき野武士をもつて、トルマン神国を統理せしめむとするは、あたかも巨岩を抱いて海に投ずるより危ふからむ。神力無双の日の出神、天降りたる以上は、何の躊躇逡巡するところあらむ。速やかに英断をもつて彼ジヤンクを放逐せよ』
『しからば是非に及びませぬ。しかしながら、彼を放逐すれば、教政を輔弼する重僧がござりませぬ。沢山の臣下はあれど、何れも大衆の信望をつなぐに足らず、国帑を私し、各々競うて金殿玉楼を造り、豪奢の生活を送り、大衆の怨府となつてをりますれば、ジヤンクに代るべき適当の人物なきに苦しみまする』
『ハルナの都の大黒主が信任厚きキユーバーを召出だし、彼に国政を任せなば、国家はますます栄え、天下は太平、民は鼓腹撃壤の聖代を来たさむ事、鏡にかけて見るごとくであるぞや』
『そのキユーバーを召出ださむにも、今において行方分らず、何とぞ何とぞ神様の御神眼にて、在所をお知らせ下さらば、速やかに彼を迎へ取り、御神慮に叶ふやう取計らうでござりませう』
『汝においてその覚悟がきまつた上は、何をか言はむ。神が引寄せるによつて、速やかにジヤンクの職を解き、国許へ追ひ返すべし』
『ハハア、たしかに承知仕りました』
『さすがは汝は名君、神の心に叶ひし者、ヤ、満足々々』
 かかる所へ恭うやしく現はれ来たのは、教務総監のジヤンクであつた。
ジヤ『謹んでお伺ひいたします。お差支へはございませぬか』
千草『決して遠慮には及ばぬ。神が許す、何なりと申し上げて見よ』
ジヤ『恐れながら、殿下に申し上げます。トルマン国の危急を救ひ給ひし、三五教の宣伝使照国別、照公の神柱を、何の罪もなきに、城外の牢獄に投げ込み給ひしは、教務総監のジヤンク、合点が参り申しませぬ。いかなる事の間違ひかは存じませぬが、彼二柱の神司においては、一点の疑ふべき言行もなく、全く冤罪でございまする。何者が讒言いたしましたか存じませぬが、賢明なる殿下のお考へをもつて、速やかに解放遊ばされ、二柱の前にその無礼を陳謝遊ばさねば、この国土は永遠に保たれますまい。この儀とくとお考へを願ひます』
王『……』
千草『愚かなり、ジヤンク。汝は今日ただ今より、この日の出神の生宮が、教務総監を解職する。足元の明るい内、旅装を整へ国許へ蟄居したがよからう』
ジヤ『これは心得ぬ神様のお言葉、トルマン国の教政はガーデン王様の統治し給ふところ、その教政を内助遊ばすのは王妃の君。しかるに何ぞや、王または王妃の名を用ひざる日の出神の命令によつて、国家を代表したる教務総監の解職が出来ませうか。ジヤンク断じて辞職は仕らぬ。なほなほ不審に堪へざるは、トルマンの国土を将来統治し給ふべき地位にあらせらるるチウイン太子様を始め、王女チンレイ様を、修行のためと称し、あるひは神の命令と称し、世界視察の名の下に放逐遊ばしたのは、いよいよ以て怪しからぬ次第ではござらぬか。教務総監ジヤンクに一言のお答へもなく、かかる重大事を、勝手気儘に断行さるるは、自ら教国の綱紀を紊乱し、王家の滅亡を招くべき因ともなるでござりませう。どうか賢明なるお二方様、ジヤンクのお言葉に耳を傾け、冷静に御思案を願ひまする』
千草『黙れジヤンク、天地神柱の言葉に二言はないぞ。一時も早く職を去つて郷里へ帰れ』
『ハハハハハハ、これは怪しからぬ。未だ教王殿下より、帰国せよとの命令は受けてはをりませぬ。恐れながら、王妃の君にはこの重臣を任免黜陟遊ばす権能はございませぬ。またたとへ教王殿下より解職を厳命さるるとも、国家危急の場合、このジヤンク、一歩も動きませぬ』
『左守、右守の重臣が他界し、邪魔者が無くなつたと思うての汝の暴言、もはや容赦は致さぬぞや、覚悟召され』
『容赦いたさぬとは、どうしようと仰せらるるのでござりますか』
『三千世界の救世主、底津岩根の大みろくの太柱、第一霊国の天人、日の出神の生宮が、立所に汝が生命を取り、その肉体を烏の餌食となし、その精霊を最低の地獄に墜してやるがどうぢや。それでも辞職をいたさぬか』
『アハハハハ、モウその長たらしい御神名は、ジヤンク聞き飽きましてございます。王妃には狂気召されたか。狂気とならば危険千万、座敷牢を造つて、病気本復するまで閉ぢ込めておきますぞ』
千草『汝不忠不義の曲者、肉体上から言へば、王妃の君、神界より申さば、三千世界の救世主、底津岩根の大みろく……』
と言ひかけるのを、ジヤンクは手を振り面を顰めて、
『モウモウ結構でございます。第一霊国の天人日の出神の生宮は、とつくに承知いたしてをります。しかしながらよくお聞き下さいませ。大衆同盟会なるものが組織され、千草姫様においてこの際御改心なき時は、たちまちクーデターを行ひ、教政を根本的より改革せむと、拙者の所まで挙宗一致的に申し出でてをりまするぞ。このジヤンクは王妃様の御危難を救ふべく、大衆同盟会の幹部連をいろいろと、口を極めて説き諭し、宥めてゐる最中でござりまするが、もはや拙職の力では及ばないところまで、衆心激昂し、何時大暴風大怒濤の襲来して、この殿堂を根底より覆へすやも計り知られませぬ。実に危急存亡のこの場合、何とぞ何とぞ御熟考を願ひたう存じます。もはや申し上ぐることはございませぬ。これにて教務所に引下がりまする。左様ならば、御両所とも、よき御返詞を下さいますやう、鶴首してお待ち申してをりまする』
と言ひ捨て、足音高く憤然として教務所指して出でて行く。後に千草姫、ガーデン王は少時無言の幕を下してゐた。
千草『ガーデン王殿、汝は今ジヤンクの言葉を聞き、よほど心を悩ませてゐる様子に見えるが、彼がごとき悪魔をして、教政の枢機に参与せしむるは危険この上なし。教王家の一大事、天下の前途を思はば、神の命に従ひ、彼が命を奪る工夫を、一時も早くめぐらされよ』
王『ハイ、絶対的に教王家に危害を及ぼし、天下を転覆する悪魔とならば、非常手段を用ひ、彼を亡ぼさねばなりますまいが、苟くもウラルの神に仕ふる者、かかる暴虐の手を下すことは、私としては到底出来ませぬ。何とぞ何とぞ、最前仰せられた通り、神徳をもつて、彼が命を立所にお断ち下さらば、実に仕合せでござりまする。一国の教王が刺客を用ひて、重僧を亡ぼす如きは、殷の紂王にもまさる悪虐、かかる事が大衆の耳に入りますれば、到底大衆は承知いたしますまい。神様より命をおめしになる方法をお取りになれば、これに越したる良策はございますまい』
『如何にも、汝の言一理あり。いざこれより日の出神の生宮、ハリマの森に参拝いたし、ウラル彦命と協議の上、彼が命を召取るであらう。ガーデン王殿、臣下に輿の用意申しつけられよ』
『早速申しつけ、準備に取りかかりませう』
 その日の七つ時、またもや千草姫は輿に乗り、数多の番僧に護衛されながら、ハリマの宮に詣で、神殿にて何事か分らぬことをベチヤベチヤ囀り、狂態を演じながら、再び輿に乗つて行列いかめしく帰り来る。この行列の間は、大衆の通行を禁じ、一間ごとに番僧を立たせ、物々しき警戒をやる事となつてゐる。そこへ、宣伝歌を声高く歌ひながら、平然として現はれ来たり、輿の前方を横切らむとするや、警固の番僧は苦もなくこれを取押さへた。この物音に千草姫は、輿の簾を上げ眺むれば、眉目清秀の一美男子である。千草姫はたちまち恋慕の情おこり、いかにもして、この美男子を城内に連れ帰らむものと煩悶しながら、思ひ切つて、輿の簾を上げ、半身を外に現はし、
『ヤアヤア番僧ども、その犯人は妾において、自ら取調べたき仔細あれば、妾と共に城内へ引立て来たれよ』
と厳命する。番僧は王妃の言葉、一も二もなく承諾し、この犯人を縛つたまま、輿の後に従ひ城内に送り届けることとなりぬ。

(大正一四・八・二五 旧七・六 於丹後由良秋田別荘 松村真澄録)



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