出口王仁三郎 文献検索

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物語70-3-171925/08山河草木酉 春の光王仁三郎参照文献検索
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第一七章 春の光〔一七八四〕

 千草姫は、恋しさ懐しさ、夢寐にも忘れぬキユーバーの所在が分らぬので、精神ますます混乱し、照国別、照公の神司を神勅と称して、無念晴らしのため無理やりに牢獄に王の命令を藉りて投ぜしめ、あらゆる残虐の手を加ふべく獄卒に厳命を下した。またチウイン太子、チンレイを修行のためと称して城内より放逐し、テイラには、キユーバーの所在を求むべく厳命し、ハリスを好餌をもつて過たしめ、今までの旧臣系統を殲滅せむ事を計るなど、実に悪逆無道の魔王となつてしまつた。千草姫はたちまち金毛九尾の悪狐に精霊を占領され、ガーデン王は八岐大蛇の片割にその心魂を占領され、千草姫の頤使に甘んじ、キユーバーを救ひ出さむと八方に手を廻し、極力捜索に全力を注ぐ事となつた。されどもチウイン太子が、荒井ケ獄の岩窟に閉ぢ込めておいた事は、さすがの日の出神の肉宮も悟る事を得なかつた。千草姫はハリマの森に、キユーバーの一日も早く帰り来たらむ事を祈願するため、数多の従臣を従へ警戒厳しく輿に乗つて、朝夕二回参拝を励むこととなつた。
 マーク、レールの両人はチウイン太子から、千草姫の肉体は既に他界し、金毛九尾の悪霊と入り代つてゐることを懇々と説き聞かされ、かつまた新聞の号外によつて、照国別、照公が牢獄に投げ込まれ、日夜残虐の手に見舞はれ、生命の危険を感じ、もはや立つてもゐてもをられなくなつたので、レール、マークの両人に耳打ちし、千草姫が参拝の途中を待ち伏せ、石礫をもつて彼を亡ぼさむ事を命じた。両人は喜び勇み、一身を国家のために捨つるは今この時と石礫を懐にし、千草姫の輿の通過を今や遅しと待つてゐた。千草姫は首尾よく参拝を終り、七八町ばかり、数多の番僧や徒士に守られ帰つて来ると、路地口より躍り出でたる二人の兇漢、たちまち輿を目がけて石礫を二個まで投げつけた。石礫はどうしたものか手が狂つて命中せず、輿はそのまま城内さして悠然と帰り行く。二人はたちまちその場で番僧に捕縛され、一応小本山で取調べの上、重大犯人として城外の牢獄に投げ込まるる事となつた。相当に広い牢獄も満員売切れの盛況で、定員二人の牢獄へ投ぜらるる事となつた。この監房には照国別、照公の両人が手を縛られたまま収容されてゐる。レールは照国別を見て、
『ヤあなたは照国別の宣伝使様ぢやございませぬか。どうしてまたこのやうな所へ入れられなさつたのです』
照国『別にこれといふ悪い事はした覚えがありませぬが、国王の厳命だといつて、吾々両人は厳しく手足を縛られた上、昨夜から投り込まれてをります。いづれ嫌疑が晴れ、晴天白日の身となつて近い中に出獄し得るだらうと思つてゐます』
レ『ハテ、怪しからぬ事をやるものだ。太子様に承れば、貴方様は今度の軍を応援下さつた殊勲の第一人者と聞いてをりますのに、姐己の千草姫、いよいよもつて怪しからぬ事をやりよつたのでせう』
『なに、チウイン太子に縁故のある方ですか』
『ハイ、実は私の宅に太子、王女様を初め左守、右守のお嬢さままで忍んでおられます。このごろは千草姫に金毛九尾の悪狐が憑依し、功臣を退けあらゆる暴虐の手を加へむと致しますので、城下の人気は鼎の湧くがごとく、いつ大騒動が勃発するか分らぬやうになつて来ました。チウイン太子様は非常にこの事を御心配遊ばし、教政の改革を断行すべく、今や大衆の代表者を集め御計画中でございます。やがて貴方も無事出獄が出来るでせう』
『なるほど、承ればチウイン太子様の聰明なる、きつと教政の改革を遊ばすでせう。あの千草姫は、決して本ものぢやございませぬ。御本人の霊は既にすでに脱殻となり、金毛九尾の悪狐が巣食つてゐるのですから、このままにしておかうものならトルマン国は混乱の巷となり、刹帝利家の滅亡は免れますまい。てもさても困つた事が出来たものですなあ。時に貴方は何の嫌疑によつてかやうな処へ入れられたのですか』
『吾々両人は向上運動の主張者兼宗教改革運動の代表者でございますが、チウイン太子の内命により、姐己の千草姫をベツトすべく、石礫をもつて車の辻の路地にまちうけ、輿を目がけて石礫を二個まで投げつけたところ、不幸にして命中せず、残念ながら、目的が達成せないのみか、脆くも番僧にふん縛られ、重大犯人として此所へ送られたのです。いづれ吾々は助かりますまいが、運を天に委して刹那心を楽しんでをります。何れ人間は一度は死なねばならぬものですから、国士として大衆の代表として殺されるのは満足です』
『ヤア、御精神を承り、感服いたしました。どうです、これから歌でも謡つて、面白くもない時間を費やさうぢやありませぬか』
『ヤ、それはいい所へ気がつきました。四人がかはるがはる歌ひませう。まづ宣伝使から口切りをお願ひ致しませうかな』
照国『しからばお先へ失礼』
と言ひながら四辺に目を配り、獄卒の近くに居ないのを見て、

照国『ここはいづこぞ月の国  トルマン国の城外に
 淋しく立てる牢獄ぞ  数多の罪人ひしひしと
 いづれの牢獄も充満し  トルマン国の滅亡を
 叫びゐるこそ歎けれ  そもそもこれのトルマンは
 ウラルの神の開きたる  月第一の神国ぞ
 物質文明の魔の風に  吹き立てられて大衆の
 頭に立ちて御教を  布く神柱初めとし
 それに随ふ従僧は  敬神尊祖愛国の
 誠の道を忘却し  ただ自己愛に耽溺し
 下大衆の平安を  残る隈なく脅かし
 肉をばけずり骨をそぎ  国の力は日に月に
 日向に氷と消えてゆく  かかる所へバラモンの
 大足別の軍勢は  妖僧キユーバーを先頭に
 この神国を奪はむと  三千余騎を従へて
 勢ひ猛く攻め来たる  この国難を見るよりも
 チウイン太子は逸早く  全国内の兵員を
 一度に召集遊ばして  討伐軍を組織なし
 在野の英雄ジヤンクをば  抜擢なして重用し
 照国別の神軍を  加へてここに堂々と
 敵の後ろをつきければ  大足別は前後ろ
 敵の砲火をあびながら  軍馬や武器を遺棄しつつ
 あらゆる民家に火を放ち  雲を霞と逃げ散りぬ
 この戦ひに左守司  右守も共に陣没し
 トルマン城は柱石を  今や全く失ひて
 教務の運用中絶し  国民不安の気に打たれ
 人心恟々たりしをり  千草の姫は忽ちに
 天命尽きて他界され  その肉体に常世国
 生れ出でたる悪狐奴が  巣ぐひて王を誑惑し
 総ての智者や忠義もの  一人も残らず排斥し
 この神国を魔の国と  乱さむものと企むこそ
 実にも忌々しき次第なり  吾等は神の命をうけ
 世界のあらゆる国々の  難みを救ひ助けむと
 産土山の聖場を  立ちて漸く来て見れば
 思ひもよらぬこの難み  実に口惜しき次第なり
 さはさりながら吾々は  尊き神の守りあり
 大空つとふ望の月  一たん黒雲包むとも
 忽ち科戸の風吹かば  もろくも雲は散りはてて
 再びもとの満月と  輝き渡り下界をば
 隈なく照らさむ吾が御霊  必ず案じたまふまじ
 汝も国家大衆の  危急を救ふそのために
 神に等しき行動を  取らせたまひしものならば
 天地の神は何として  汝等二人を見捨てむや
 一旦雲はかかれども  やがては天地晴明の
 日月下界を照らす如  難みは晴れて万民の
 救ひの主と仰がれて  時めきたまふは目の前り
 勇ませ玉へ惟神  神に誓ひて神司
 ここに言挙げ奉る  朝日は照るとも曇るとも
 月は盈つとも虧くるとも  印度の海はあするとも
 千草の姫は滅ぶとも  誠一つの汝等は
 必ず神の御恵みに  トルマン国の御柱と
 輝きたまふも近からむ  吾等二人も牢獄に
 苦しき日夜を送れども  恵みの神は日ならずに
 現はれたまひて速やかに  安く救はせたまふべし
 ああ惟神々々  御霊の恩頼を願ぎまつる』

 照公はまた歌ふ。

『吾は照公神司  吾が師の君に従ひて
 トルマン国に来て見れば  思ひもよらぬ大騒動
 この国難を救はむと  大和心をふり起し
 神の司は忽ちに  軍の司と早がはり
 チウイン太子と諸共に  命を的に戦へば
 神の守りは著く  トルマン国を覆ひたる
 醜の黒雲忽ちに  隈なく晴れて日月の
 光も清く照りにけり  しかるに何ぞ計らむや
 神に等しき勲功を  樹てし吾々両人を
 金毛九尾の悪魔らの  千草の姫やガーデンの
 王の御霊を誑惑し  かかる汚き牢獄に
 あらゆる恥辱を与へつつ  閉ぢ込めおくぞ歎てけれ
 照公はたとへ死するとも  誠の道に尽すもの
 すこしも厭ひはせぬけれど  一大使命を帯びたまふ
 吾が師の君を苦します  この残念を如何にして
 晴らさむよしもなきままに  心をこめて大神の
 御救ひ祈り声あげて  血をはく思ひの吾の胸
 推量あれよ御両人  神の救ひの一日も
 早くあれよと願ぎまつる  救ひの神の一日も
 早く現はれ玉へよと  畏み畏み願ぎまつる
 ああ惟神々々  御霊幸はへましませよ』

レール『吾は今牢獄の内にありながら
  忘れざりけり国の行末』

マーク『玉の緒のよしや命は捨つるとも
  如何で惜しまむ国のためには』

照国別『いさぎよしレール マークの赤心を
  聞くにつけても涙こぼるる』

照公『梅公の珍の司は今いづこ
  聞かま欲しやと朝夕祈るも』

照国別『梅公の珍の司は吾々を
  救はむために近く来たらむ』

 かかる所へ一人の牢番、靴音高く入り来たり、四辺を見廻し人無きを見て安心せしものの如く、
『もし師の君様、私は春公でございます。葵の沼においてお姿を見失ひ、このトルマン城下へ参りましたところ、何の手掛りもなく、師の君一行の所在が分りませぬので、看守を出願し、やつと十日以前に合格し、かかる卑しき獄卒を勤めてをります。どうか御心配下さいますな。時期を考へ屹度お助けいたします。王様からの厳命で、「湯も水も与へな、食料は日に一回にいたせ、彼らが自然に餓死するまで捨ておけ」との小ラマへの達しが参つたさうでございます。しかしながら私が当番に当つてをります以上、決して御心配下さいますな』
照国『ヤ、お前は春公だつたか、これも全く神様が、かかる事の出で来たるべきを前知したまひ、お前を牢番にするやう取計らつて下さつたのだらう。春公、覚られないやうに気をつけよ』
春『ハイ、心得ましてございます。どうか御一同様、御安心下さいませ』
 ラマが巡視に来たと見え、靴音がギウギウと高く聞こえて来る。春公は、
『オイ、未決囚ども、静かにいたさねば厳しき懲戒を加へるぞ』
と言ひながら、ラマに最敬礼をやつてゐる。高壁の外には新聞号外の配達のリンが耳騒がしく響いてゐる。デカタン高原の名物、大暴風は牢獄の桁をギクギク揺すつて通る。

(大正一四・八・二五 旧七・六 於由良海岸秋田別荘 加藤明子録)



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