出口王仁三郎 文献検索

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物語70-2-91925/08山河草木酉 針魔の森王仁三郎参照文献検索
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第九章 針魔の森〔一七七六〕

 東西南の三方に  大海原を囲らして
 突出したる月の国  世界最古の文明地
 七千余国の国王は  おのおの鎬を削りつつ
 バラモン教や印度教  三五教やウラル教
 その外数百の宗教が  互ひに覇をば争ひつ
 解脱や涅槃や無よ空よ  霊主体従体主霊従
 弥勒成就や神政の  再現などといろいろと
 主義や主張をふりまはし  思想の混乱絶え間なく
 中にも大黒主神は  ハルナの都に割拠して
 右手に剣を携へつ  左手にコーラン説きながら
 難行苦行のありだけを  信者に強ゆる暴状は
 天地も許さぬ悪邪教  改めしめて国民の
 苦痛を除き助けむと  主の大神の御言もて
 照国別は梅公や  照公司を伴ひて
 河鹿峠を打ち渡り  葵の沼に立ち向かひ
 十五の月に心胆を  洗ひ清めてデカタンの
 大暴風に襲はれつ  大高原を進み行く
 デカタン高野の中心地  トルマン国は昔より
 ウラルの教を信奉し  神の教のそのままの
 政治を布きて来たりしが  月行き星は移ろひて
 思想は日に夜に悪化しつ  ウラルの教は日に月に
 衰へしより虚に乗じ  バラモン教やスコ教や
 盛んに跳梁跋扈して  国民性は三分し
 国運危ふくなりければ  あまり信仰強からぬ
 トルマン王も目を覚まし  やうやく神を崇敬し
 国人たちに模範をば  示さむものと思ふをり
 スコブツエン宗の教祖と  自ら名乗る妖僧が
 大黒主の派遣せし  大足別と結託し
 トルマン城を粉砕し  スコブツエンの根拠をば
 常磐堅磐に固めむと  あらゆる手段を回らして
 警備少なき国情に  つけ入り暴威を揮ふこそ
 実に怖ろしき限りなり  ガーデン王や千草姫
 右守左守の老臣も  心を痛めて国防の
 協議に頭を悩めしが  左守右守の忠臣は
 刃の錆となりはてて  トルマン国の柱石を
 失ひたるぞ是非なけれ  照国別に守られて
 チウイン太子の率ゐたる  二千と五百の精兵は
 トルマン城を十重二十重  囲みて王城威喝せし
 大足別の全軍の  背後を衝いて一斉に
 総攻撃を始めける  この有様を見るよりも
 ガーデン王は雀躍し  城兵五百を指揮しつつ
 大足別の大軍を  前後左右より打ちまくる
 驕りきつたる敵軍は  不意の援兵の襲来に
 あわてふためき馬を捨て  武器をも捨てて四方八方
 命からがら逃げながら  あちらこちらの家々に
 放火しながら野良犬の  遠吠えなして隠れける
 トルマン城を包みたる  醜の村雲やうやくに
 晴れて天日晃々と  輝き玉ふ神世となり
 国民上下の歓声は  一度に湧きて天地も
 揺るがむばかりの勇ましさ  風塵全く治まりて
 ここにガーデン刹帝利  忠義のために斃れたる
 左守右守の英霊を  まづ第一に慰めて
 感謝の意をば表せむと  ハリマの森の奥深く
 社殿を造りて祀り込み  ハリマの宮と名づけける
 そもこの清き森林は  幾千年を経たりてふ
 苔むす老木鬱蒼と  昼なほ暗く思ふまで
 立並びつつ吹く風に  ゴウゴウ枝を鳴らしつつ
 世の太平を謳ひゐる。  ここに照国別司
 ガーデン王や太子をば  率ゐて祭の長となり
 祝詞の声も朗かに  唱へ上げむとする時に
 千草の姫の寵愛を  独占したるキユーバーは
 肩で風きり傲然と  照国別の前に出で
 口を極めて祭礼の  儀式に欠点ありとなし
 罵詈嘲弄を極むれば  チウイン太子は腹を立て
 妖僧キユーバーを引捕へ  縛して籐丸籠に乗せ
 城内さして帰りけり  千草の姫はチウインが
 この行動を聞くよりも  髪逆立てて怒り立ち
 一旦平和に治まりし  トルマン城はここにまた
 再び黒雲塞がりて  またもやお家の大騒動
 惹起したるぞ是非なけれ  ああ惟神々々
 神のまにまに瑞月が  口述台の浮船に
 安臥しながら由良湊  日本海の怒濤をば
 眺めながらに述べて行く  昔の神代の物語
 守らせ玉へと主の神の  御前に祈り奉る
 ああ惟神々々  御霊の恩頼を賜へかし。

 ガーデン王は、不意に起つたバラモン軍の攻撃に周章狼狽の結果、右守司のスマンヂーを誤つて手にかけ、忠義一途の老臣左守司は陣中に倒れ、幸ひに敵軍を撃退し、ヤヤ安堵したりとは言へ、ハルナの都の大黒主この報を聞かば、またもや何時捲土重来、吾が都城を屠らむも図り難し、一旦は照国別宣伝使の神護とチウイン太子の智謀と、勇将ジヤンクの活動によつて、大勝利を得たるも、かかる戦国に国を立つるは到底武力のみにては叶ひ難し、まづ第一に大神を祀り、次いで忠臣義士の霊魂を斎き、国民に信仰の模範を示さむ……と照国別に乞ひ、ハリマの森のウラル彦を祀りたるお宮の傍に「国柱神社」と言ふ祠を建て、左守右守の英霊を鎮祭する事となつた。
 ガーデン王、チウイン太子、ジヤンクをはじめ城内の重臣は各自玉串を献じ、照国別の斎主のもとに無事祭典の式を終らむとするや、キユーバーは三五教の神司照国別が斎主となりしことを非常に憤慨し、千草姫の寵を得たるを力として乱暴至極にも祭壇に駈け上り、照国別の冠を叩き落とし、祠の前に立ちはだかり、大音声、
『アツハハハハハ、トルマン城の危急を救ひ、神謀鬼策を廻らし王家を救ひたるは、バラモン尊天の神力を充たしたるスコブツエン宗の教祖キユーバーでござる。そもそもこのお宮はウラル彦の神、盤古神王を祀りあり。しかるに天下を乱す悪神神素盞嗚尊の部下なるデモ宣伝使をして斎主たらしむるとは合点ゆかず、神明に対し畏れ多からむ。何者の痴漢ぞ、刹帝利の聰明を被ひまつりたる、ウラルの宮はウラル教の宣伝使をもつて斎主とすべし。万一異教の宣伝使をもつて斎主に当らしむるを得るとすれば、なにゆゑ今回の殊勲者たるこのキユーバーを除外し、神意に反いて不法の祭事を行ひたるか。祭典の主任は何人ぞ。いまこの場に現はれてその理由を説明せられよ。照国別の冠の脆くも地上に落ちたるは、神明許させ玉はざる象徴なり。これを霊的に考ふれば、国王殿下の御身の危険を意味し、国家の転覆を意味するものでござる。一時も早く照国別一派を縛り上げ、彼が生血を大神の前に贄となし、ウラル彦の大神に謝罪いたされよ。天来の救世主、キユーバーここに忠告仕る』
と呼ばはつた。ガーデン王はじめ居並ぶ重臣たちは、あまり大胆なるキユーバーの宣言に呆れはて、照国別の返答いかにと固唾を呑んで待つてゐる。
 照国別は少しも騒がず、冠を打落とされたるまま悠々として玉串を献じ、祭官一同を引き具し、トルマン城内さして帰らむとするや、キユーバーは両手を拡げてその進路を遮りながら、
『こりやヤイ、デモ宣伝使、首がとんだ以上はもはや城内へ立入る事は罷りならぬぞ。ヤアヤア城内の兵卒ども、彼を引捕へて牢獄に投げ込まれよ。彼はトルマン国の仇敵でござるぞ。神の言に間違ひはござらぬ』
と呼ばはれども、ガーデン王やチウイン太子の一言の命令もなければ、誰一人として手を下すものもなく、照国別一行はソロリソロリと進み行く。キユーバーは両手を拡げながら後ろ向けに歩かねばならなくなつた。この時チウイン太子は見るに見かね、
『ヤアヤア、ジヤンク殿、狼藉者のキユーバーをフン縛り城外の牢獄に投げ込めよ』
と下知すれば、ジヤンクの部下は寄り集つてキユーバーを高手小手に縛め、牢獄さして引立てて行く。群集の痛快を叫ぶ声、ハリマの森も裂くるばかりに高く聞こえて来た。
 城内の重臣を初めトルマン市の老若男女もこの祭典に参拝してゐたが、妖僧キユーバーが、チウイン太子の命によつて群集の前にて縛めの縄を受けたるを見て大いに喜び、口々に罵り合つてゐる。
甲『オイ、何と痛快ぢやないか、何時やらお前と俺と○○○の話をしてをつた時、あの妖僧奴、どこからともなく現はれ来たり、「いや、その方は今穏かならぬ事を言うてをつたぢやないか。姓名は何といふ、住所を聞かしてもらひたい」といつた糞坊主だよ。ホントに、いいザマぢやのう』
乙『ウン、さうさうあの時、何だつたね、「俺の名は俺だ、友人の名は友人だ、坊主はヤツパリ坊主だ」と吐して一目散に畔道さして逃げたところ、執念深くも何処までも追跡しやがつたぢやないか。大黒主を傘に着て、威張り散らしてをつたが、今日のザマつたら、ないぢやないか。こんな事でも見せてもらはなくちや、俺たちは胸中に鬱積してゐる憤怒の焔が、消える事がないぢやないか、ハツハハハハ』
甲『そいつも痛快だが、あの妖僧奴、ちよつと噂に聞けば○○○に殊のほか寵愛され、刹帝利を眼下に見下し、大変な威勢だといふ事だよ。戦争が治まつてから十日もならないのに、もはや自分の天下のやうに振舞ふんだから、あんな奴を助けておいたらどんな事をさらすか分つたものぢやない。彼奴は屹度○○○の保護によつて日ならず出獄し、再び城内に暴威を振ひ、吾々国民を層一層苦しめ、生血を搾るやうな事をさらすだらう。吾々は主義のため、同胞の生活安定のため、このままに見逃す事は出来ぬぢやないか』
乙『ウン、そらさうぢや。しかしながら慌てるには及ばぬよ。また機会が到来するから。その時はその時の手段を廻らしさへすればいいぢやないか、イツヒヒヒヒ』
 ハリマの森の社は一直線に王城に続いてゐる。その間の距離二十五丁、道の両方には家屋櫛比し、トルマン市中最も繁華の土地と称せられてゐる。
 甲乙二人はいつも、これよりこの市街に出没し、何事か計画しつつあつた。

(大正一四・八・二四 旧七・五 於由良海岸秋田別荘 北村隆光録)



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