出口王仁三郎 文献検索

リンク用URL http://uro.sblog.jp/kensaku/kihshow.php?KAN=70&HEN=2&SYOU=15&T1=&T2=&T3=&T4=&T5=&T6=&T7=&T8=&CD=

原著名出版年月表題作者その他
物語70-2-151925/08山河草木酉 地位転変王仁三郎参照文献検索
キーワード: 物語
詳細情報:
場面:

あらすじ
未入力
名称


 
本文    文字数=11315

第一五章 地位転変〔一七八二〕

 千草姫は王の居間に羽搏きしながら、仕舞でも舞ふやうなスタイルで横柄面をさらして入り来たり、言も荘重に、
『トルマン国の国王、ガーデン王殿、三千世界の救世主、底津岩根の大みろくの太柱、第一霊国の天人日の出神の生宮の託宣を、耳をさらへてお聞下され。肉体は千草姫であつても、霊は日の出神の誠生粋の水晶魂、この世の救主として現はれたのでござるぞや。其方の目から見た時は、この生宮を気違ひと思ふであらう。誠の神に間違ひはござらぬぞや』
 ガーデン王は千草姫のこの態を見て、不審の眉をひそめ、アア困つた事が出来たわい、たうとう王妃は発狂してしまつた。しかしながら気のたつてる時に逆らふは、ますます病気を強める道理、少時かれが言ふ事を黙つて聞いてやらう……と決心し、
『なるほど其方は日の出神の生宮であらう。如何なる用か、聞かしてくれ』
千草『これは怪しからぬ汝が言葉、無礼であらうぞや。日の出神に対して聞かしてくれ……とは何たる暴言、頭が高い、お坐りなされ。三千世界の因縁を説いて聞かしてやらうぞや』
王『ハイ』
と不承不承に椅子を離れて座に着けば、千草姫はニコニコしながら、
『ホホホホホホ、さすがはトルマン国の王ぢや、この日の出神をよく見届けた。褒美にはこれをつかはす。有難ふ頂戴召され』
と言ひながら、刹帝利のピカピカ光つた禿頭の上へ、左の片足をドツカと載せ「ウーン ウーン」と二声唸りながら、左の足を下ろし、また右の足を同じく頭上にのせ「ウーン ウーン」とまたもや二声……「ホホホホホホ」と笑ひ悠々として床の間に直立し、
『いかにガーデン王、よつく承れ。セーロン島の浄飯王が太子悉達は壇特山や霊鷲山に上り、五ケ年の修業の後仏果を得て帰国し、父の浄飯王に仏足を頂礼せしめた例しがある。畏れ多くも底津岩根の大みろくの太柱、第一霊国の天人、日の出神の御神足を、両足とも頂戴いたしたる汝こそは、三千世界の果報者、有難く感謝いたされよ。日の出神に間違ひはござらぬぞや』
 ガーデン王は始めの間は何だか怪しいと思つてゐたが、千草姫の足を頭にのせられてから、ガラリと心機一転し、全くの活神と固く固く信ずるやうになつた。サアかうなつては、もはや城内の整理は中心を失ひ、手のつけやうもなくなつてしまつた。
千草『ガーデン王殿、この千草姫の肉体は、今日までは汝が妃として、神界より許しありしも、いよいよ天の時節到来し、三千世界の救世主と現はれたれば、もはや汝の妃ではないほどに、汝はこれより日の出神の肉宮が弟子となり、絶対服従を誓つて、何事にも違背せず尽すであらうなア』
王『ハイ、仰せまでもなく、どんな御用でも承りませう』
『オホホホホホ、満足々々、上が下になり、下が上になり、天地がかへる神の仕組、今までの夫は妻の弟子となり、今までの妻はその夫を弟子として使ふ神の経綸、かくなる上はガーデン王、その方は日の出神の神勅を奉じ、三千世界の救世主が副柱なる名僧キユーバーを、一時も早く捜し出し、この城内に伴れ帰れよ。違反に及ばば神罰立所に至るであらう』
『ハイ、委細承知いたしましたが、かれキユーバーは如何なりしか、破獄逃走いたしました故、内々人を派し、捜索いたしてをりまするが、未だ何の吉報も得ませぬ。少時の御猶予を願ひ奉りまする』
『汝の言にして間違ひなくば、大方ジヤンクが隠してをるのだらう』
『いやいや決して決して、左様な道理はございませぬ。彼はキユーバーを一時も早く救はむと、私かに相談いたしました。早速ジヤンクの願ひを許し、牢獄に人を派し査べ見れば、彼キユーバーは早くも何者にかさらはれ、行方不明となつてをりました』
『あ、さうであらう さうであらう、ヤ分つた分つた。この張本人は三五教の宣伝使照国別、照公の両人に間違ひはなからう。一時も早く彼をふん縛り、キユーバーを押込めありし牢獄へ、時を移さず打込めよ。これ決して肉体の千草姫が言葉でない。底津岩根の大みろくが神勅でござるぞや』
『御神勅は恐れ入りまするが、何といつても、国家の危急を救ひ下された照国別の宣伝使を、何の科もなく牢屋に押込むなどいふことは情において出来ませぬ。こればかりは御容赦を願ひます』
『オホホホホホ、何馬鹿な事を申すか、三千世界一度に見えすく生神の目で一目睨んだならば、決して間違ひはござらぬぞ。汝頑強にも吾が神勅を拒むにおいては、立所に汝が生命をとるが、それでもよいか、返答聞かう』
『いや、少時お待ち下さいませ。しからば御神勅の通り、照国別、照公神司を、手段を以てふん縛り、牢獄へ投げ込んでお目にかけませう』
『ウ、よしよし、それで神は満足いたした。トルマン城は万々歳、七千余国の月の国は申すに及ばず、この地の上にありとあらゆる国は、残らず汝の支配にしてやらう。わづか三十万の人民の父として、あたら一生を暮すも惜しいでないか。どうぢや合点がいつたか』
『ハイ、委細承知いたしましてございます』
『ヤ、満足々々。次にその方に申し渡すことがある。太子チウイン、王女チンレイを修行のため、一笠一蓑の旅人として一杖を与へ、一時も早く当城を出立せしめられよ』
『仰せにはございまするが、私も老年、太子がゐなくては、国家の中心人物を失ふ道理、また王女チンレイは少しばかり病身でございますれば、こればかりはモ一度お考への上御猶予を願ひたうございます』
『愚かなり、ガーデン王。日の出神の生宮が底津岩根の大みろくと現はれた以上は、三千世界を一つに丸め、汝が支配の下におかむとす。汝は已に老齢、後継者の太子には広く世間を見聞せしめおく必要あり。諺にも可愛い子には旅をさせと申すでないか。汝は子の愛に溺れて、大切な吾が子の幸福を抹殺せむと致すか、不届き至極の腰抜爺イ奴』
『イヤ分りましてござります。太子は修行のため、神勅に従ひ、旅に出すことといたしませうが、病身なる妹に旅の苦労を致させるのは親として忍びませぬ。どうぞこればかりは御猶予をお願ひ申したうござります』
『ハテさて、分らぬ爺いだな。神に絶対服従を誓つたでないか。王女チンレイはこの門を出づるや否や、病魔はたちまち退散し、金鉄のごとき壮健な肉体となるであらう。神の言葉に間違ひはないぞ。返答はどうだ』
『左様ならば御神勅に従ひ、両人にその由を伝へませう』
『ガーデン王、天晴れ天晴れ、汝の改慎によつて、速やかに神政成就、ミロクの世が出現いたすであらうぞ』
『ハイ有難う存じまする』
『モ一つ其方に申し渡す事がある。これも絶対服従いたすであらうなア』
『ハイ』
『汝はジヤンクをもつて、政治の枢機に任じてゐるが、彼がごとき田舎者、どうして神の創りしトルマン国の政治が出来やうぞ。彼は吾が国家の爆裂弾だ。八岐大蛇の霊だ。一時も早く当城を逐ひ出せ』
『こればかりは必要な人物でございますから、どうぞ御猶予を願ひたうございます』
千草『三日の猶予を致すによつて、それまでに篤と言ひ聞かせ、城内を追つ払ふべし。しかながら彼ジヤンクにおいて、キユーバー上人の在所を尋ね、城内にお迎ひ申し来たるにおいては、国政の一部をその褒美として任しても差支へなからう。イヤ刹帝利殿、御苦労でござつた。居間へ下つて休息召され。最前から神の申し渡した一伍一什、必ず落度のなきやう、明日までに実行せよ』
と言ひながら、またもや両手を一の字に開き、反り返つて床の間を下り、悠々として吾が寝室指して帰り行く。
 ガーデン王は千草姫に足の爪先から悪霊を注入され、にはかに心機一転し、ほとんど邪神の神憑状態となつてしまつた。金毛九尾の悪狐は首尾よくトルマン城を占領したのである。
 太子と王女は父母両親の厳命を拒む術もなく、旅に出かけると称し、数万の金を用意し遍路姿となつて、日の暮るる頃、レール、マークの住家を指して訪ね行き、門口に立つて、チリンチリンと鈴を振つてゐる。レール、マークは昼は互ひに岩窟の番人をやつてゐたが、丁度この時、男女四人食卓を共にしてゐる真最中であつた。太子は門に立つて、鈴を振りながら「頼まう頼まう」とおとなへば、マークは戸の隙間より外面を窺ひて、
マ『ヤ、夫婦の巡礼さま、何用か知らないが、かやうな貧民窟へ来たところで、何一つ上げる物はない、トツトと帰つて下さい。かやうな狭い家へ、今頃に来たところで泊めてやる訳にも行かず、お断り申します』
太『イヤ、愚僧は決して怪しき者でござらぬ。レール、マーク殿の知人でござれば、どうかこの戸を開けてもらひたい』
レ『ヤ、スパイの奴、化けて来やがつたな、コラ大変だ。姫さまを隠さねばなるまい。サア姫さま、済みませぬが、この戸棚の中へちよつと入つてゐて下さいませ』
テイ『ホホホホホホ、さう慌てるには及びませぬよ。何か城内に急変が起つたと見え、太子様が変装してお出でになつたのでございますワ。あのお声は太子様に間違ひございませぬ』
と言ひながら、テイラはガラガラと破戸を開き、
『ヤ、太子様、ようお越し下さいました』
 太子は「ウン」と言つたきり、チンレイと共に内に入る。

(大正一四・八・二四 旧七・五 於丹後由良秋田別荘 松村真澄録)



オニドでるび付原文を読む    オニド霊界物語Web