出口王仁三郎 文献検索

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物語70-2-121925/08山河草木酉 大魅勒王仁三郎参照文献検索
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第一二章 大魅勒〔一七七九〕

 ハリマの森の木蔭に覆面頭巾の大男が二人、ロハ台に腰をかけ、ヒソビソと何事か諜し合はしてゐる。
レール『オイ、マーク、スコブツエン宗のキユーバーの奴、チウイン太子さまの英断によつて、小気味よくも、アアして牢獄へ投げ込まれよつたが、しかし吾々はこれを聞いて安心するこた出来ぬぢやないか。噂に聞けば、彼奴はラスプーチンのような代物で、千草姫の歓心を買ひ、何でも怪しからぬ事をやつてゐやがるといふ事だ。どうしてもかうしても牡鶏のコケコーを唄ふ時節だから、刹帝利の権威も、賢明なる太子の権威も蹂躙して、きつと千草姫が彼奴を救ひ出すに違ひない。さうなつたが最後、ますます資本主義の制度を布き、われわれ下層階級に対し、圧迫と搾取をもつて臨み、世に立てないやうな悪政を布くに違ひない。さうだから吾々は向上運動の代表者たる立場から、一時も早く彼奴を何とかしなくちや、枕を高くして寝ることが出来ぬぢやないか。かうして覆面頭巾の扮装でお前をすすめて出て来たが、決して強盗をやる考へぢやない。かれラスプーチンを今の内に屠つておかうとの考へから、お前をボロイ銭儲があるといつて、甘くここまでおびき出したのだ』
マーク『なアんだい、俺ヤまた二進も三進も生活難に追はれて立行かないものだから、たうとう汝が生地を現はし、今晩泥棒の初旅に出ようと思ひ、俺に応援を頼みに来よつたのだと早合点してゐたのだ。俺だつて怖い目をして、人家に忍び入り、あるひは行人を掠めて、思つただけの金が取レールか、取れぬか分らないが、生死を共にしようと約した友人の言葉でもあり、断る訳にも行かず、今日からいよいよ太う短うこの世を暮す泥棒様になるのかなア……と因果腰を定めてやつて来たのだ。しかしお前の肚を聞いて俺も安心した。国家の毒虫を駆除するは正に国士たる者の任務だ。ベツトの行はれない世の中は改革も善政もあつたものぢやない。どうか一つラスプーチンを血祭りにしてブル宗教の心胆を寒からしめ、偽宗教家の腸をデングリ返してやらなけりや駄目だよ。俺達や別に乱暴な事をせなくても、ラマ階級の奴等に乱暴者として、怖がられてゐるのだから、何時どんな計画を以てその穴へ陥れられ、宰相ベツト未遂の嫌疑者として○○本山へ拘引されるか知れたものぢやない。同じ事なら今の内に彼奴を屠つておかねば、彼奴が擡頭した時や、俺たちを向上会撲滅令とか、暴力団取締令とか、何とかかとか下らぬ法律を発布して、ますます俺たち仲間を苦しめ殺さうとするに違ひない。本当に彼奴が投獄されてゐるのを幸ひ、今晩は何とかして彼奴を奪ひ取り、暗がりでシヤモを絞める様にやつつけやうぢやないか』
レ『ヤ、面白い面白い、サアもう牢番の寝静まる時分だ。サア、行かう』
と二人は木蔭の暗を伝うて、トルマン城外の牢獄の裏門へと進んだ。
レ『オイ、なかなか此奴ア、ちよつと、壁が高うて飛越えるわけにもゆかず、困つたなア』
マ『どつかの軒下で梯子でも探して来て、入らうでないか。そして中へ入つたら最後、まづ第一に門の閂を外し、何時でも逃出せるようにしとくのだぞ。これから俺がそこらの町家の軒を捜して梯子を盗んで来るから、お前はキユーバーの在所を考へといてくれ。彼奴は魔法使ひだから、何時も青い火を空中に燃やすことを得意としてる奴だ。その魔術をもつて布教の手段としてゐるのだ。また彼奴ア、屹度その魔法を使ひ、牢番どもを驚かし、……此奴ア矢張り生神さまだといふ評判を立てさして、一日も早く出獄の手段を廻らしてゐるのに違ひないからのう』
レ『ウンそらさうだ。よく考へておかう』
 かくしてマークは暗をぬうてしばらく姿を隠した。レールは後に独り言、
『あーあ、本当につまらないワ。俺たちは向上会の代表者となつてラマ階級を打ち亡ぼし、本当に平和な世界を造らうと、今年で十年の間、一日のごとく寝食を忘れ、妻子は寒さと飢ゑとに泣いてるに拘らず、昼夜孜々として活動して来たが、何といつても強い者の強い、弱い者の弱い世の中だ。三人寄つて話をしても直様番僧に取捉まれ、牢獄に打込まれるやうな険難な世の中だから、手も足も出せないワ。それにも拘らず、大黒主の廻し者たるキユーバーの奴、このトルマン国へ出てうしやがつて、トルマン王家も国民も土芥のごとくこき卸し、大黒主の神徳を賞揚し、邪教を開いてますます吾々を苦しめようとしてゐやがつたが、賢明なるチウイン太子の英断によつて、国民環視の前でふん縛られやがつた時の愉快さ、痛快さ。彼奴を縛つた時や、決して彼奴一人ぢやない。彼奴に買収されてる番僧、ラマ僧などは頭上に鉄槌を下されたやうなものだ。それにも拘らず、かれ妖僧を大奥方が寵愛してると聞いちや、吾々は最早黙過するわけには行かぬ。国家のためにこの逆賊を今夜の中に誅伐しなくちや取返しがつかぬ。また国難勃発し、われわれ国民を苦しめるに違ひない。あーあマークの奴、どうしたのだらう。早く来ないかな。何となく、気がせいて仕方ない。ぐづぐづしてると牢番が目を覚まし、あべこべに自分たちが牢獄に打ち込まれるやうな事になつちや大変だがな』
と呟いてゐる。
 チウイン太子はジヤンクの進言によつて、明早朝キユーバーは放免されば再び城内へ帰り来たり、またもや母の心胆をとろかし、城内を攪乱するに相違ない。彼奴を今夜の中に引張り出し、荒井ケ嶽の岩窟に牢番をつけて閉ぢ込め置かむものと微行し来たり、沙羅双樹の木蔭に身を潜めて考へてゐたが、覆面頭巾の曲者が二人をるので、千草姫の廻し者ではないかと耳を欹て、いよいよさうでない事が分つたので、やや安心の胸を撫で木蔭をツと立出で、言葉しづかに、
チウイン『お前は何人ぢや。最前からの話を聞けば実にいい志、余も大賛成だ。お前は向上会員と見えるが、到底一人や二人で彼キユーバーを奪ひ出すわけにはゆくまい。余はチウイン太子だが、これから門番を叩き起し、余の権威をもつて門を開かせ、キユーバーを引きずり出す考へだからお前も手伝つてくれ』
レ『ハイ、私はレールと申しまして、向上運動の代表者でございますが、いま太子様のお言葉を聞いて、実に万民のため欣喜に堪へませぬ。如何なる御用なりとも御申し付け下さいませ』
 かく話すところへ、マークは長い梯子を担げて、ハアハアと息はずませながらやつて来た。
マ『オイ、レール、たうとう梯子一本盗んで来た、サ、早く早く』
レ『ヤ、そりや御苦労だつた。しかしな、ここにチウイン太子様がお見えになつてゐるのだ』
マ『エ、エー』
と言つたきり、吃驚して地上に尻餅をつく。
チウ『ハハハハハ、ヤ、お前も向上会員か、決して心配要らぬ。今この男と相談の上、キユーバーを奪ひ取るべく考へてゐるところだ、安心せ』
マ『ヤ、賢明なる太子様、有難うございます』
レ『もし太子様、かやうに梯子が参りました以上は門番を叩き起すにも及びますまい。左様な事をなさいますと、あなたがキユーバーを取り逃し遊ばしたことが、千草姫様の耳に入るは当然、後の御迷惑が思ひやられますから、どうぞ太子様は此処に待つてゐて下さりませ。われわれ両人、牢番が万一抵抗すれば擲り倒しておいてでも、かれ悪魔を引きずり出して参ります』
太『なるほど、それも一策だ、一つ骨を折つて見てくれ。その代りにこの事が成功したら、きつとお前に褒美をやる』
レ『イヤ、めつさうな、万民のために命を捨ててる私、褒美が欲しさにこんな危ない事が出来ませうか。それよりも万民の叫び声を、心をとめてお聞き下さいませ』
太『イヤ、余も平素から民の声を聞かむとし、いろいろと変装して市井の巷に出入し、お前等の活動振りもよく知つてゐるのだ。精々活動してくれ。今は非常に妨害が強うて困るであらうが、やがて勝利の都も近づくだらう』
 二人は梯子を伝うて猿のごとく塀を乗り越え、中より門の戸をソツと開けおき、どの牢獄にキユーバーがゐるかとよくよく伺へば、パツパツと青い火の玉のごときものが窓口から、消えたりとぼつたりしてゐる……ヤ、的切りここ……と近より見れば、二人の牢番が高鼾をかいて椅子にもたれてゐる。二人は牢番の腰に下げてゐる鍵をソツと取り、錠を外し、一人は中に入り、一人は牢番を監視しながら、キユーバーを引出し来たり、ソツと門外に首尾よく伴れ出した。牢番はフツと目を覚せば、牢の戸は開いてゐる。自分の腰の鍵は盗まれて跡かたもない。にはかに「牢破り牢破り」と呶鳴り出した。この声を聞付けて、牢屋の番人は一斉に目を覚まし、提灯や松火をさげて前後左右にかけ廻る。チウイン太子は二人に篤と言ひ聞かせ、荒井ケ嶽の岩窟にキユーバーを放り込み、レール、マークの両人に沢山の金を与へて、ある時機までこれを警護せしむる事とした。二人は太子の旨を奉じ、秘密を守り、わが妻子にもこれを打明けなかつた。
 夜中を過ぐれば翌日である……といふので、ジヤンクは四五の役人に命じキユーバーを放免すべく遣はし見れば、破獄の大騒動、是非とも王および千草姫に報告せねばなるまいと、王の居間を訪れ見れば、既にチウイン太子は王と共に何事か首を鳩めて囁いてゐる。
ジヤ『申し上げます。昨日お許を被りまして、かのキユーバーを放免せむと、小役人を遣はし調べ見れば、何人かに盗み去られ、牢屋の番人どもは周章狼狽いたしてをりまする。万一かれ、ハルナの都へ逃げ帰り、大黒主の前に出で、数万の兵士を拝借し、再び捲土重来いたせば忌々しき大事でございますれば、人を今の中八方に派し、彼の在所を捜索致したく存じます』
 王および太子は平然として別に驚きもせず、
王『ナニ、キユーバーが破獄逃走したと言ふのか。捨てとけ捨てとけ、別に心配するには及ぶまい』
ジヤ『仰せではございまするが、今の中かれの在処を突き止め、ハルナの都へ逃げ帰らないやうの手段を廻らさねばなりますまい。どうかこの儀を老臣にお命じ下さいますやう……』
太『ヤ、ジヤンク殿、必ず御心配なさるな。余に心当りがある。決して決してハルナの都へ逃げ帰るやうな事はさせぬ。ともかく余を信じてくれ』
ジヤ『外ならぬ太子様のお言葉、万々抜目はございますまい。しからば老臣はこれにて下りませう』
 千草姫は気が立つて一目も眠られず、かつまた聴覚が非常に鋭敏となり、蚊の囁きでさへも、耳に入るやうになつてゐた。ドアを排して王の室に入り来たり、
『コレ伜チウイン、いま其方の言葉を聞けば、キユーバーの身の上につき、何か確信あるものの如く言つてをつたぢやないか。サ、母の権威をもつて飽くまでも詮索する。どこへ隠したのだ。有体に白状しなさい』
太『母上様、私がそんな事を知らう道理がございますか。今ジヤンクの注進によつてキユーバーの姿が見えなくなつた事を知り、大変に心配をしてゐたところでございますよ』
千草『いやいやさうは言はせませぬぞや。お前の言葉の端にチヤンと現はれてゐる。キユーバーを隠した張本人はお前だらうがな』
太『これは怪しからぬ。苟くも太子の身をもつて夜夜中、牢獄などへ参れますか』
千草『ホホホホホホ参れないお方がお出で遊ばすのだから妙だよ。そなたは太子の身をもちながら、何時も王様の目を忍び、市井の巷に出没し、下層階級と交際をしたり、賤しい女に戯れてるといふ噂だから、牢獄などへ行くのは朝飯前だよ。そんな事を言つて、この千草姫、大みろくの生宮を胡麻化さうとしても駄目でござんすぞえ』
太『母上様、あなた妙なことを仰せられますな。今まで一度も聞いたことのない、大みろくの生宮とは、誰に左様なことをお聞きなさいました』
千草『ヘン、お前らの青二才が分つてたまりますかい。この母はな、神様から聞いたのだよ。この肉体は今日より改めて、下津岩根の大みろく様、三千世界の救世主、日の出神の生宮でござんすぞや。チツポケなトルマン国の王妃だなんて思つてもらつちや、この神柱もチツとばかり困りますよ。ホホホホホホあのマア、王様といひ、ジヤンクといひ、太子といひ、約らなささうなお面わいの。それほどこの千草姫が、にはかに神柱になつたのが不思議でございますか。三千世界一度に見えすく日の出神の生宮でございますぞや』
太『あ、左様でございますか。ソラ誠に結構、照国別様が当城へお越し下さいましたその神徳によつて、母上様も俄かにお神懸におなり遊ばし、日の出神様といふやうな、立派なエンゼルの肉宮に御出世遊ばしたのでございませう。ついては屹度キユーバーの在処ぐらゐはお分りになるでございませうな』
千草『きまつた事だよ。第一霊国の天人、底津岩根の大みろくの太柱、三千世界の救世主、日の出神の肉宮だもの』
太『成るほど、それは結構な神様でございます。しからばどうかキユーバーの在所をお知らせ下さいませ。それさへお分りになりますれば、母上を日の出神の生宮と奉り、父上様も喜んで、政治万端をお任せになるでございませう』
千草『ホホホホホホ、小賢しい、コレ伜、お前は母をやり込めるつもりだな。未だこの母を疑つてゐらつしやるのか、日の出神に間違ひはござらぬぞや。神は決して嘘は申さぬぞや。底津岩根の大みろく様の太柱に対して、易見か何ぞのやうにキユーバーの在所が分つたら、日の出神の生宮と信じます……などと、ヘン馬鹿にして下さるな。相応の理によつて、この千草姫は第一霊国に感応し、根の国底の国に比すべき牢獄などは決して覗きませぬぞや。左様な所へ天眼通を使はふものなら、折角の智慧証覚は鈍り、悪魔の巣窟とならねばなりませぬ。大それた第一霊国の天人の霊に、牢獄に投じてあつた者の在所を知らせ……などとは、物の道理を知らぬのにもほどがあるぢやないか、ホホホホホホ。何ほど賢いといつても、現界の事はともかく、霊界の消息は到底分りますまいがな。サアこれからこのトルマン国は底津岩根の大みろくの太柱が現はれ、国政を握り、三千世界を五六七の世に致す根源地と定めるから、左様お心得なされ。肉体の上からは、王様は千草姫の夫なれど、神から言へば奴も同然、天地霄壤の差異がございますぞや。これからの政治は神がいたします。善悪邪正はこの生宮が審かねば駄目ですよ。昨日も照国別の宣伝使が謡つてゐたぢやありませぬか。神が表に現はれて善悪邪正を立分ける……と。いよいよ千草姫の肉体を機関とし、第一霊国の天人の霊に大みろく様の精霊を宿し、日の出神となつて現はれ給うた、三千世界の救世主だぞえ。ホツホホホホホあのマア刹帝利殿の六かしい面わいの、チウインの情けなささうな面付、ウツフフフフフフ』
と笑ひこけてしまつた。

(大正一四・八・二四 旧七・五 於丹後由良秋田別荘 松村真澄録)



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