出口王仁三郎 文献検索

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物語70-2-111925/08山河草木酉 血臭姫王仁三郎参照文献検索
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第一一章 血臭姫〔一七七八〕

 千草姫は満座をキヨロキヨロ見まはしながら、瞋恚にもゆる胸の火をジツと抑へ、わざと笑顔をつくり、特に慇懃に両手をつかへて、首を二つ三つ左右に振りながら、屈んだまま顔を上げ、額と腮とをほとんど平行線にしながら、
『これはこれは吾が夫ガーデン王様をはじめ、智謀絶倫の勇士チウイン太子、野武士の蛮勇ジヤンクの爺さま、三五教の宣伝使雲国別オツと違つたピカ国別、また違つたデルクイ別とかいふ神司、その他のお歴々の方々へ今日の御祝儀、目出たうお祝ひ申しまする。いよいよこれにてトルマン国は天下泰平、万代不易の基礎が定まることと慶賀に堪へませぬ。時にスコブツエン宗の名僧トルマン国の救い主、キユーバー殿は如何いたされたか。チウイン太子に対し、この母が恐れながら一言訊問に及びまする。何といつても親と子の仲、決して遠慮は要りませぬ。サ、早く実状を述べさせられよ』
 この言葉にチウイン太子は言句も出でず、「ハアハア」と言つたきり俯むひてしまつた。
千草『ホホホホホホ、これ伜チウイン殿、最前もいふ通り、親と子の仲、隔てがあつては家内睦まじう治まりませぬ。其方はこの母に対し、必ず必ず不孝の振舞はございますまいな』
 チウイン太子はますます言句に詰り、「ハ、ハ」と言つたきり、俯むひてしまつた。ガーデン王はキリリと目を釣上げ、
『ヤ、千草姫、伜に問ふまでもなく余が逐一説明しやう、トクと聞け。かれキユーバーなる者は不敵の曲者、神聖無比なる大神の祭典に際し、照国別様の大切なお冠に手をかけ、群衆の前にて赤恥をかかさむとしたる乱暴者、余はその場において切つて捨てむかと思ひしかども、何をいつても大神の御前、血をもつて聖場を汚すも恐れ多し、時を待つて誅伐せむと控えをる折りしも、キユーバーが不敵の行動ますます甚だしく、口を極めて宣伝使を罵詈讒謗し、両手を拡げて行列の妨害をなすなど、言語に絶したるその振舞ひ、見るに見かねてチウイン太子はジヤンクに命じ、キユーバーを捕縛し、獄に投じておいたのだ。城内の安寧秩序を保つため、最も時宜に適した処置と余は心得てゐる』
千草『ホホホホホホ、いかにも乱暴者を縛り上げ、獄に投じ玉ふは国法の定むるところ、これについて千草姫一言も異存はございませぬが、かれキユーバーだつて、もとより悪人でもなく、狂乱者でもなからうと存じます。彼としてかかる暴挙に出でしめたるについては、何か深き原因がなければなりませぬ。軽率に外面的行動のみを見て、一応の取り調べもなく、所もあらうに大神の御前において、不遜きはまる罪人を出だし玉ふとは千草姫心得ませぬ。刹帝利様、愚鈍なる妾の得心が行くまで御説明を願ひませう』
王『喧しういふな、汝の知るところでない。余は余としての考へがある。女の出しやばる幕でない。サ、トツトと汝が居間に立ち返れよ』
千草『ホホホホホホ女の出しやばる場合でないとは刹帝利様、ソラ何といふ暴言でございます。王様は国民の父、王妃は国民の母でございますよ。昔の神代においても伊弉諾命伊弉冊命二柱、天の御柱を巡り合ひ、なり余れる所と、なり合はざる所を抱擁帰一遊ばし、天下の神人を生み玉うたではございませぬか。男子は外を守る者、女子は内を守る者、何とおつしやつてもこの城内の出来事、千草姫の権限にございますよ。もし妾を排斥遊ばすならば、トルマンの国家は風前の灯火、なにほど立派な国王様だとて王妃の内助なくして、一日も国が保たれまするか。よくよくお考へなされませ。それにも拘らず、ウラルの神様の御祭典に当り、ウラルの宣伝使を一人も用ひ玉はず、大神の忌みきらひ玉ふ曲神の教を奉ずる三五教の宣伝使を抜擢して斎主となし玉ふは、実に天地の道理を紊したりといふもの。ひそかに承れば彼照国別はウラル教の謀叛人、中途において三五の邪教に沈溺せし者、ますます神のお怒りは甚だしかるべく、何時いかなる災の、神罰によつて突発するかも知れますまい。またウラル教以外の異教徒をもつて、斎主となすの已むを得ざる場合ありとせば、なぜ国難を救ひたる彼キユーバーを重用し、斎主をお命じなされませぬか。邪臣を賞し、逆臣を戒むるは政治の要訣、霊界さへも天国地獄がございまするぞ。今度の戦ひにおける第一の勲功者を除外し、神の御前において彼に恥を与へしをもつて、かれキユーバーは悲憤のあまり、かかる暴挙に出でたものと考へるよりほか余地はありますまい。いや決して決してキユーバーの意志ではなく、ウラル教の大神、盤古神王の彼の体を藉つてのお戒めに相違ございますまい。かかる忠臣義士を牢獄に投ずるとは以ての外、千草姫一向合点が参り申しませぬ。キユーバーを牢獄に投じ玉ふに先立ち、何ゆゑ照国別一派を投獄なさりませぬか。かかる明白な理由を無視し、一国の王者で依怙の沙汰を遊ばすにおいては、これより賞罰の道乱れ、刑政行はれず、国家は再び混乱の巷となるでございませう。照国別は実に微弱なる教派の一宣伝使、キユーバーは大黒主の御覚目出たしといふスコブツエン宗の大教祖でございませぬか。万々一吾が国運衰へ、再び大黒主、この度の戦争の恥辱を雪がむと、数万の兵を引きつれ押しよせ来たらば何となされます。その時に当つて最も必要なる人物は、キユーバーを措いて外にはございますまい。それゆゑ妾は飽くまでも彼を懐柔し、まさかの時の用意にと、平素より歓心を買ひおき、国難を救ふべく取計らひをるのでございます。かかる妾が深遠なる神謀鬼策も御存じなく、勢ひに任せて、照国別の肩をもち、キユーバーを獄に投ずるとは、何といふ拙いやり方でございませうか。妾はたとへキユーバーに少々の欠点ありとて、邪悪分子ありとて、左様な些細な点まで詮索する必要はありますまい。彼さへ薬籠中の者として優待に優待を重ねて城内に止めおかば、大黒主なりとて、さうムザムザと本城へ攻めても来られますまい。たとへ不幸にして国難勃発するとも、大黒主の御覚めでたきキユーバーを派遣せば、何の苦もなく平和に治まる道理ぢやございませぬか。トルマン国永遠平和のためにはキユーバーを獄より引出し、刹帝利を始めチウイン太子、ジヤンク等、九拝百拝してその罪を謝し、照国別を面前において縛りあげ、キユーバーの遺恨をはらし玉はねば、吾が国家のために由々しき大事でござりまするぞ。またウラル教と三五教の聯合は国策上最も不利益千万でございます。速やかにこの聯合を破壊し、スコブツエン宗と聯合提携するにおいては、ハルナの都の大黒主の怒りも解け、吾が国家は安穏に、国民挙つて平和の夢を貪ることを得るでございませう。千草姫の言葉にこれでも異存がございまするか』
王『だまれ、千草姫、国家の危急を救ひ玉ひし照国別御一行に対し、無礼きはまるその雑言、もはや聞捨てならぬぞ』
千草『ホホホホホホ、青瓢箪や干瓢や西瓜のやうな干からびた青い頭を並べて、お歴々の御相談、よくマア国家を亡ぼすための立派な御行動を、この千草姫はるかに眺めて実にカンチン仕りますワイ。刹帝利様は老齢のこととて聊か精神御悩みあり、一々仰せらるることは正鵠を欠き玉ふは無理なけれども、伜チウインのごときは血気の若者、かやうな道理が分らずして、どうしてこの国家を保つことが出来やうぞ。いざこれよりは王様に退隠を願ひ、憚りながら千草姫女帝となつてトルマン国を治めるでございませう。まだ口のはたに乳の臭ひがしてゐるチウインごときは、到底妾の相談相手にはあきたらない、ホホホホホホ』
チウ『母上に申し上げます。父ガーデン王があつてこそ貴女は王妃の位置について、国の母として政治に干与遊ばし玉ふことを得るのではございませぬか。父王が退隠されるとならば、母君は政治に干与する権利はございませぬぞ。そこをトクとお考へなさいませ』
千草『ホホホホホホ小賢しい、コレ伜、何といふ分らぬことを申すのだ。女が政治の主権者となることが出来ぬとは、ソリヤ誰に教はつたのだい。よく考へて御覧なさい。天照大神様は女神でゐらつしやるぢやないか。英国の皇帝はエリザベスといふ女帝が、太陽の没するを知らぬまでの大版図の主権者となつてゐられたでないか。子の分際として母に口答へするとは不孝この上もなし。其方もこの上一言でも言つてみなさい。母の職権をもつて牢獄に投込みますぞ』
と言ひながら、ツと立上がり、畳ざわりも荒々しく吾が居間さして帰り行く。
 刹帝利は余りの腹立たしさと、照国別に対する義理から、千草姫を手討にせむとまで覚悟をきめてゐたが、また思ひ直してグツと胸を抑へ、歯をくひしばり慄ひつつあつた。チウイン太子も父の様子の常ならぬを見てとり、いよいよとならば、父の両腕に取縋つて千草姫を助けむものと、心中に覚悟をきめてゐた。刹帝利はやうやく口を開き、
『照国別の宣伝使様、かれ千草姫は、先日来の戦争に脳漿を絞つた結果、精神に異状を来たしてをりますれば、なにとぞ神直日大直日に見直し聞直し、寛大に御み宥しのほど願ひ奉りまする。穴でもあらば潜り込みたくなりました』
と気の毒さうにいふ。照国別は平然として、
『刹帝利様、その御心配は御無用でございます。決して千草姫様の御本心から仰せられたのではございませぬ。これには少し理由がございまするが、今日は申し上ぐるわけには行きませぬ。決して私は千草姫様のお言葉に対し、毛頭意に介してをりませぬ。どうか御安心下さいませ』
王『ヤ、それ承つて安心いたしました。何とぞなにとぞ末永く御指導を願ひ奉ります。時に照国別様、如何でございませうか、かれキユーバーを厳罰に処して、禍根を断たむと存じまするが』
照国『私は人を助くる宣伝使、たとへ鬼でも蛇でも悪魔でも赤心をもつて臨み、誠の限りを尽し、誠の道に帰順させるが神の道、刑罰などは不必要かと存じます。人は何れも神の精霊を宿したもの、人間で人間を審くなどとは僣上至極な行方、一刻も早くキユーバーをお助けなさるがよからうかと存じます。さすれば千草姫様の心も和らぎ、家庭円満の曙光を認むるに至るでございませう』
王『なるほど、一応御尤もかと存じます。チウイン、其方はどう考へるか』
太『ハイ、私は天にも地にも替へがたい吾が母の意志に反き、かれキユーバーを国民の面前において捕縛いたしました。これについては非常な決心を持つてをります。彼が再び城内に入り、母と結託して権威を揮ふにおいては、吾が王室は風前の灯火も同様でございませう。宣伝使のお言葉なれど、こればかりは即答するわけには参りませぬ』
ジヤンク『恐れながら、王様を始め太子様に申し上げます。何はともあれ、千草姫様のお心を汲取り、かれキユーバーをお免しなさつたがよからうかと存じます。万々一再び脱線的行動を取るにおいては、容赦なく再び投獄すればよいぢやございませぬか。及ばずながら、このジヤンク、余生を王室に捧げ、一身を賭して国家を守る考へでございますから』
王『イヤ、それを聞いて安心いたした。左守、右守の両柱ともに、このたびの戦ひにおいて他界なし、棟梁の臣なきを心ひそかに歎いてゐた矢先、智勇絶倫なる汝が、一身を賭して都に止まり、吾が国家を守つてくれるとあらば何をか言はむ。キユーバーの処置は汝に一任する。よきに取り計らへよ』
ジヤ『早速の御承知、有難う存じまする。太子様、ジヤンクのこの処置に就いては、チツとばかりお気に入りますまいが、ここは少時この老臣にお任せ下さいませ』
チウ『余はこの問題については何も言はない。余は余としての一つの考へを持つてゐる』
 照国別は立ち上り、音吐朗々として歌ひ出した。

『神が表に現はれて  善悪邪正を立分ける
 この世を造りし神直日  心も広き大直日
 ただ何事も人の世は  直日に見直せ聞直せ
 世の過ちは宣直せ  三千世界の梅の花
 一度に開く神の国  開いて散りて実を結ぶ
 月日と土の恩を知れ  この世を救ふ生神は
 高天原に神集ふ  ああ惟神々々
 御霊幸はへましませよ  旭は照るとも曇るとも
 月は盈つとも虧くるとも  たとへ大地は沈むとも
 誠の力は世を救ふ  誠の力は世を救ふ
 ああ惟神々々  御霊幸はへましませよ』

と謡ひ了り、舞ひをさめた。この言霊に一同は勇み立ち、何事も神のまにまに任すこととなり、この宴席を無事閉づることとなつた。

(大正一四・八・二四 旧七・五 於丹後由良秋田別荘 松村真澄録)



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