出口王仁三郎 文献検索

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物語70-1-81925/08山河草木酉 大勝王仁三郎参照文献検索
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第八章 大勝〔一七七五〕

 トルマン国の太子チウインは、王女チンレイおよびハリスの女将軍を別将となし、武勇のほまれ高きジヤンクを第一軍の司令官と仰ぎ、三五教の宣伝使照国別および照公司を殿となし、鉦皷をうちならし、旗差物賑々しく、二千五百騎を従へ、吾が居城を攻め囲む大足別の大軍を殲滅すべく軍歌を唄ひながら、夜を日に次いで帰り来る。山河草木威風になびき、禽獣虫魚に至るまで、その威徳を讃美せざるはなかつた。チウイン太子は馬上ゆたかに進軍歌を唄ふ。

『トルマン国は昔より  尊き神の造らしし
 地上における天国ぞ  吾が王室の祖先等は
 民の心を心とし  神の教を万民に
 伝へ諭して世の中を  いと平らけく安らけく
 治め給ひし尊さよ  中つ御代よりバラモンの
 悪しき教のまじろひて  愛国心は日に月に
 春の氷と消えてゆく  父ガーデンもいつしかに
 時代の風にもまれまし  ウラルの神の御教を
 軽んじ玉ふ世となりて  政治はますます紊れゆき
 民の悲鳴はかまびすく  千鳥のごとく聞こえ来る
 アア吾々は如何にせむ  倦みつかれたる人心を
 雄々しき清き雄心に  復活せしめ吾が国を
 いと平らけく安らけく  昔の神代のそのままに
 ねぢ直さむと真心を  尽して神を祈るをり
 バラモン教の別派なる  スコブツエン宗が渡り来て
 吾が国民の魂を  狂ひ惑はせ邪教をば
 植ゑつけたるぞ忌々しけれ  大黒主の勢力を
 大看板と押し立てて  吾が王室に迫り来る
 心汚きキユーバーを  打ち懲らしつつバラモンの
 大足別が軍勢を  神の威徳に打ち破り
 凱歌を挙げて本城を  安全無事に治むまで
 死すとも動かぬ吾が心  勇めよ勇め振ひ起て
 三千余騎の吾が兵士  われには神の助けあり
 産土山の斎苑館  輝き給ふ素盞嗚の
 神の尊の御使  照国別の宣伝使
 照公司ともろともに  吾等が軍を助けまし
 天下無敵の言霊を  打ち出し給へば敵軍は
 風に木の葉の散るごとく  敗走せむは目のあたり
 進めよ進めいざ進め  大足別の亡ぶまで
 妖僧キユーバーの倒るまで』  

と声も涼しく鉦皷法螺貝の音に和して、鶴翼の陣をはりながら、目も届かぬ大原野をチクリチクリと引網のごとく、トルマン城を中心に押寄せ来たる。
 照国別は殿を勤めながら、数百の兵を引連れ、別に一隊を造り、進軍歌を歌ひつつ進み寄る。

『三五教の宣伝使  吾は照国別司
 人の命を奪ひ合ふ  戦に臨むは本意ならず
 さはさりながら今になり  トルマン国の窮状を
 見すてて通るも大神の  道に仕ふる吾として
 心苦しきこの場合  止むを得ざれば御軍に
 加はりながら後陣を  仕へまつりて進み行く
 ああ惟神々々  神は吾等と共にあり
 吾等は神の子神の宮  素より刃に血汐ぬり
 敵を斃さむ心なし  ただ惟神々々
 神の恵みの露の玉  清き心の大砲に
 つめ込み敵に相向かひ  仁慈の鞭を下すのみ
 進めよ進め吾が兵士  トルマン城は近づきぬ
 ガーデン王や左守司  今や防ぐに全心を
 傾注しつつ吾が軍の  至るを待たせ玉ふらむ
 チウイン太子の前軍は  何れも神命に従ひて
 左右の指のその如く  自由自在に活動し
 容易に敵を国外に  放逐せむは目のあたり
 必ず驚く事なかれ  勇めよ勇め皆勇め
 勝利の都は近づきぬ  進めよ進めいざ進め
 大足別が神軍に  白旗を掲げ真心の
 あらむ限りを現はして  正しき神の御教に
 心の底より服ひて  前非を悔ゆるそれまでは
 汝等一歩も退くな  神国成就の先がけぞ
 七千余国の月の国  奪ひ取らむとバラモンの
 大黒主は企めども  吾が神軍のある限り
 いかで一指をそめ得むや  アア勇ましし勇ましし
 吹き来る風はあらくとも  トルマン川は深くとも
 神の守りのある上は  一騎半騎も過たず
 無事安泰に敵軍の  後ろを首尾よく突くを得む
 進めよ進めいざ進め  敵の姿もみえかけた
 一斉射撃も目のあたり  ああ惟神々々
 三五教を守ります  国治立の大御神
 神素盞嗚の大神の  御前に照国別司
 畏み畏み願まつる』  

 かく歌ひながら、士卒を励まし、前後に心を配り、チクリチクリと前進する。大足別は物見台よりこの体を見て大いに驚き、
『あれは確かに援軍ならむ、最早かくなりし上は、キユーバー一人のために時期をおくらせ、敵の術中に陥らむ事最も心苦し。一時も早く本城を乗り取り、援軍の来たらば城廓を盾に一人も残らず鏖殺しくれむ、攻撃するは今なり』
と俄かに部下に厳令を下し、一斉に筒先揃へて、トルマン城さして潮のごとく押し寄せた。
 にはかに聞こゆる鬨の声、大砲小銃の音、待ち構へたるガーデン王、左守司は五百の城兵を指揮し、力限りに挑み戦ふ。左守は頭に霜を頂きながら、城門をかけ出し、三百の手兵をもつて、敵の陣中に打ち入り、奪戦苦闘の結果武運つきて、馬上より転落し、敵のために七十年を一期として、帰らぬ旅路に就いた。大足別は勝に乗じて表門に押し寄せ、今やほとんど落城せむとする時しも、千草姫、キユーバーの二人は薙刀を引抱へ、表門に躍り出で、大足別を見るよりキユーバーは声を励まし、
『大足別、しばらくまたれよ、キユーバー司ここに在り。千草姫の応援あらば急ぎ玉ふな、本城は已に吾が手に入れり』
と馬上より大声叱咤すれば、大足別は身をかわし城門を背にして、攻め来たる応援軍を相手に防ぎ戦ふ。城内よりはガーデン王の兵数百人、砲を揃へて一斉に射撃を開始し、大足別は前後左右に敵を受け、四方八方に、馬をすて武器をすて、命からがら散乱した。この戦ひによつて、死する者バラモン軍に十八人、城内には二人の死者を出したのみであつた。チウイン太子は敵の脆くも逃げ行く体を見て、この際敵兵を追撃し、一人も残らず屠りくれむと息まくを、照国別の忠告によつてこれを中止し、凱歌を奏して正々堂々、トルマン城に凱旋することとなりぬ。
 ガーデン王は物見櫓に打ち登り、城内の強者を指揮してゐたが、敵の無残な敗走と、チウイン太子の雄々しき活動振りに勇み立ち、軍扇を開いて櫓の上にて自ら歌ひながら、凱旋の祝気分で舞うてゐる。

王『トルマン国を包みたる  醜の黒雲いま晴れて
 天津日嗣は空高く  輝き玉ふ目出たさよ
 地上はるかに見わたせば  都のまはりに敵影の
 一人も無きぞ目出たけれ  これも全く皇神の
 御国を守り玉はむと  助け玉ひしものならむ
 いざこれよりは天地の  神を敬ひ国民の
 模範となりて浦安の  昔の神代を建設し
 大黒主の心胆を  脅かしつつまたしても
 吾が神国に相対し  敵対行為を断念すべく
 守らせ玉へウラル教  開き玉ひし大神の
 御前に祈り奉る』  

 かくする折りしも、大足別は道々市街に火を放ちたりと見え、夕暮の空、朱を濺ぐまで、炎各所にあがり、遠近より悲惨の声聞こえ来る。この時あたかも照国別は門内にありしが、これを見るよりまつしぐらに物見櫓にかけ上り、照公と共に天の数歌を奏上し、天津祝詞を奏上するや、四方に起りし火災はたちまち水を打ちしごとく治まり、再び聞ゆる歓喜の声に、ガーデン王も太子も王女もハリスも手を打つて感喜した。王は部下に令を下し、左守、右守の遺骸を王室の墓所に特別をもつて葬り、国家の守護神として祠を建て、永遠に祭祀することとした。またチウイン太子の奏上により、照国別、照公司の仁義の応援と、大神の神徳とを聞き、感謝のあまり、三五の大神を鎮祭せむ事を誓ふに至つた。
 王は戦塵治まり、一先づ大神に感謝しながら、後の始末をチウイン太子およびジヤンクその他の重臣に命じおき、休養せむと千草姫の居間に帰り見れば、千草姫はキユーバーと共に、莞爾として相向かひ祝ひの盃をくみかはしてゐる。王は見るよりクワツと怒り、
『不義者見つけた、そこ動くな』
と手槍を以て立ち向かへば、千草姫は王の手に取り付き、
『王様、少時お待ち下さいませ。この神柱は決して国に仇する悪人ではございませぬ。大足別に脅迫され、心にあらぬ詐りを申し立て、この城内に忍び込み、妾に事情を打ち明し、救ひを求めてゐる者でございます。今このキユーバーをして、神主となし大神に国家安泰の祈願をし、凱旋の御礼を申し上げ、直会の神酒を頂かせてをつたところでございます。必ず必ず誤解のなきやうお願ひ申し上げます』
と落涙しながら言葉さかしく弁解する。ガーデン王も忠実なる姫の言葉を疑ふに由なく、そのまま差許すこととなり、己が居間へと帰りゆく。高姫の霊と憑り変つた千草姫はキユーバーに向かひ、
『コレ、キユーバーさま、貴方は本当に危ない事でございましたよ。妾も王様のお出でになつた時はどうなる事やらと、大変に心をもみました』
 キユーバーは慄ひながら、
『全くだ、お前のために大切な命が助かつたのだ。しかしながらどうだらう、大足別将軍は脆くも敗走した様子だし、遠からず私は当城を追出さるるに違ひない。さうなれば恋しいお前と添ふ事が出来ぬ。何とかして夜陰に乗じ、この城内を脱け出す心はないか』
千草『ホホホホホ、キユーバー様の気の弱いこと、そんな御心配がいりませうか。王様は私の美貌にゾツコン惚れこんでゐられますよ。あなたは何処までも救世主と名乗つて、神さまいぢりをしてゐて下さいませ。なにほど王様が御立腹遊ばさうが、重臣が何と申さうが、千草姫この世にあらむ限りは、貴方様に指一本さえさせませぬ。しばらくは両人とも猫をかぶり、時期の至るを待つてこの王城を奪ひ、七千余国の覇者とならうではございませぬか』
キユ『成るほど、そいつア面白からう。そんなら姫の仰せに任せ、この城内に永久に止まる事としやう』
千草『ハ、さうなさいませ』
 かく話す時しもチウイン太子は軍功を誇り顔に、王女チンレイおよび右守の娘ハリスと共にドアを開いて入り来たり、
『母上様、御無事でお目出たうございます。おかげを以て敵軍を撃退いたしました。どうかお喜び下さいませ』
千草『ヤ、そなたは太子、天晴れお手柄お手柄。そなたこそトルマン国の柱石、ガーデン王の嗣子として恥づかしからぬ偉丈夫だ。サア草臥れただらう、ゆつくり休んで下さい。そなたはチンレイ、ハリス、よくマア女の身をもつて凛々しい武者振り、母も感じ入りました』
 太子は妖僧キユーバーを見て目を丸くしながら、
『母上様、ここにゐる坊主はスコブツエン宗の邪教を開き、大足別の軍勢を導いたる悪僧ではございませぬか。かかる魔者を何故お居間に侍らせ、優待遊ばすのですか。チウイン、その意を得ませぬ』
千草『いかにもこの方はキユーバー様に違ひない。しかしながら、大足別が手先となり当城へ談判にお越しになつたのも、やむを得ぬ事情あつてのこと、この母がとつくとキユーバー様の心底を調べ、大足別の秘密を探り、キユーバー様の応援によりて無事に敵を撃退する事を得たのだ。この母が保証するから、必ず必ず疑うてはなりませぬぞ。チンレイもハリスも必ず誤解しちやなりませぬ。母が証拠だから……』
ハリス『ハイ、畏れ入りましてございます。太子様、王女様は申すに及ばず、妾のごとき孱弱き女の身として戦陣に立ち、勝利を得たのも神様のお蔭、キユーバー様の御尽力の致すところでございませう。しかしながら吾が父右守は如何なりましてござりまするか』
千草『右守殿は国家のため犠牲者となつて国替へ遊ばしたよ。キツと神様に導かれ、天国にお出でになつてゐるだらう。必ず必ず心配いたされな。千草姫が其女の身は引きうけて世話を致すから……』
 ハリスは「ハイ」と言つたきり、父の死を聞いて驚愕し、その場に気絶してしまつた。チウイン太子は水よ薬よと種々手を尽し、漸くにして息ふき返さしめ、吾が居間をさしてチンレイと共に伴れ帰り行く。

(大正一四・八・二三 旧七・四 於丹後由良秋田別荘 松村真澄録)



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