出口王仁三郎 文献検索

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物語70-1-51925/08山河草木酉 花鳥山王仁三郎参照文献検索
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第五章 花鳥山〔一七七二〕

 天津御空はいと清く  五色の雲が棚引いて
 鳳凰孔雀百鳥は  低空飛行をやつてゐる
 地は一面の青畳  紫浅黄白黄色
 紅の花咲き匂ひ  胡蝶の姿翩飜と
 天国浄土の光景を  いとも楽しく眺めつつ
 風に吹かるる心地して  地上を距ること三四尺
 空中やすやす進み行く  はるか前方を眺むれば
 黄金の甍キラキラと  天津日影に照り映えて
 荘厳世界を現出し  左手の方を眺むれば
 青海原は波しづか  彼方此方にチラチラと
 胡蝶の空中に舞ふごとく  白く輝く真帆片帆
 五色の鳥は右左  波の上走る面白さ
 涼しき風は永遠に吹き  何とも言へぬ芳香を
 道行く人の身辺に  送り来たるぞ床しけれ
 ここに一人の旅人は  鎗を片手につきながら
 青草しげる丸山の  その中腹に身をおいて
 吾が身の歩み来たりたる  あとを眺めてニコニコと
 煙草をくゆらし憩ひゐる  かかるところへ山下より
 オーイ オーイと声をかけ  登り来たれる婦人あり
 よくよく見ればこはいかに  思ひもよらぬ千草姫
 涼しき清き白妙の  衣を風に飜し
 旅人のそばに近よりて  満面笑をたたへつつ
 『あなたは右守のスマンヂー  コラまあどうしてこのやうな
 平和の山に御到来  訝かしさよ』と尋ぬれば
 一人の旅人はうなづいて  『あなたは尊きお姫様
 どうして此処へお出ましか  私は合点がゆきませぬ
 トルマン城の奥の間で  ガーデン王や左守司
 大足別の攻軍に  抵抗せんといろいろに
 軍議を運らしゐたりしが  協議叶はぬ私は
 尊き主の御ために  お手にかかつて身失せしと
 思ひしことは夢なるか  合点のゆかぬこの体
 ここは何といふ所か  名さへも知らない清浄の
 百花千花咲きほこる  浄土のやうな聖地です
 あなたはどうして吾々の  後を尋ねてお出ましか
 不思議不思議が重なつて  どうしてよいやら分らない』
 語れば千草はうなづいて  『ここは所謂天界の
 第三段の浄土です  私は天寿が尽きまして
 主の神様の命令で  浄土の住居を命ぜられ
 喜び勇んでスタスタと  花咲く野辺を参りました
 貴方もどうやら天界に  お住居遊ばすお身の上
 伊吹戸主の神様に  たしかに聞いておきました
 現界などに心をば  残させ玉はず速やかに
 神のよさしの天界へ  私と共に昇りませう
 ああ惟神々々  尊き神の引合せ
 貴方は永らく独身者  私は夫はおはせども
 現幽所を異にした  今日の吾が身は独身者
 意思想念の相異より  ガーデン王と永久に
 霊界までは添へませぬ  貴方の智性は吾が智性
 私の意思は全然と  あなたの意思に通ひます
 神の開きし天界の  この楽園に二柱
 夫婦となつて永久に  天国浄土の御用をば
 力限りに致しませう  如何でござる右守さま』
 いへば右守は頷いて  『アア有難し有難し
 私は現世にゐる中ゆ  あなたを恋してをりました
 とはいふものの現界の  下らぬ階級が邪魔をして
 心のたけを一言も  申し上げたることはない
 あなたの心もその通り  私を愛してゐらるると
 早くも承知はしてゐたが  現実界の義理人情
 法則などを省みて  こらへ忍んでをりました
 もうこの上は神様の  定め玉ひし縁ぢやもの
 誰に遠慮はいりませぬ  現実界におきまして
 あらむ限りの善行を  尽した二人の報酬は
 今や稔つてこの通り  歓喜の苑に身をおいて
 千代も八千代も万代も  時間空間超越し
 嬉しく楽しく暮しませう  ああ惟神々々
 御霊の恩頼をほぎまつる』  

 かく互ひに歌つてゐるところへ、天空を輝かし、ゴウゴウと音を立て、両人の前に火弾となつて落下した。その光明はダイヤモンドのごとく、白金光のごとくであつた。両人はハツと驚き、両手で目を押へその場に蹲踞んでゐる。火光はたちまち麗しき神人と化し、声も静かに、
エンゼル『スマンヂー様、千草姫様、私は第一霊国より貴方をお迎へに来たエンゼルでございます。どうかお目をあけて下さい』
 両人は「ハイ」と言葉を返しながら、しづかに両眼を開けば、白妙の衣を纒ひたる、威厳備はる神人が七八尺前にニコニコしながら立つてゐる。
エンゼル『私は言霊別命であります。スマンヂーさま、千草姫さま、貴方がたは現界において、トルマン国のため、多数民衆のため、現界における最善を尽しておいでになりました。そして貴方がた両人は、意思想念の合致した真正の御夫婦でありながら、あらゆる苦痛を堪へ忍び、恋てふ魔に打ち勝つて、よくも一生の間忍ばれました。神界においては、特に貴女の善行が記されてございますよ。サア、これから第二霊国を御案内申しませう』
スマンヂー『ハイ有難うございます。思はぬ所で神様にお目にかかり、何といふ有難いことでございませうか。お礼は言葉に尽されませぬ』
言霊別『あなたの培かふた畑に稔つた果実でございますよ。決して私にお礼を申されては困ります。今日の喜びは貴方が培かひ養つてゐたところの喜びの実でございます。千草姫様もその通り、必ず必ず礼なんか言つてはなりませぬ。サア私についてお出でなさいませ』
と言霊別命は一足先に立ち、両人は互ひに労りながら、雲のごとき波のごとき青々とした丘陵をふみこえふみこえ、東へ東へと進んで行く。
 何時とはなしに嚠喨たる音楽の響き、四辺より聞こえるとみれば、二人は早くも方形の岩をもつて畳んだやうな丘陵の上に着いてゐた。
言霊別『此処は第二霊国において有名なる花鳥山でございます。御覧なさい、緑の羽を拡げ、紅の冠を頂き、美しい鳥が四方八方に翺翔し、美妙の声を放ち、またこの通り地上の世界にないやうな麗しき花が咲き乱れ香気を放つてをります。ここは貴方がたの千代の住家でございますよ。食べたい物は何でも望み次第、この麗しき樹木の枝に臨時に熟しますから、それを採つておあがりなさい』
スマンヂー『一寸エンゼル様にお尋ねいたします。いま霊国と承りましたが、霊国は宣伝使の集まる楽園ではございませぬか。私はトルマン国の小臣、平素ウラル教を奉じながら、深い信仰も致しませず、また千草姫様だとてその通り、トルマン国の王妃として、国民の母として最善をお尽し遊ばしたもの、宣伝使牧師ならばいざ知らず、吾々ごとき俗界に心をひたしてをりましたものが、どうしてまた霊国へ来られたものでございませうか、どうもこの理由が分りませぬ』
言霊『お尋ねの通り、霊国は凡て宣伝使や、国民指導者の善良なる霊の来たるべき永久の住所でございます。今日の現実界において、宣伝使や僧侶や神官牧師などは一人として霊国へ昇り来る資格を有つてをりませぬ。また天国へは猶さら昇る者なく、何れも地獄に籍をおき、地獄界において昏迷と矛盾と、射利と脱線と暗黒との実を結んで、互ひに肉を削り合ひ、血を啜り合ひ、妄動を続けてをりまする。あなたは生前において宣伝使ではなかつたが、現実界の人間としての最善を尽されました。これは要するに表面的神を信仰せなくても、あなたの正守護神はすでに天界の霊国に相応し、神籍をおいてゐられたのです。凡て宇宙は相応の理によつて成り立つてゐるものです。この第二霊国の花鳥山は貴方の物です。貴方の精霊が現界において、已にこの麗しき霊山を造つておかれたのです。誰に遠慮は要りませぬ。永久に富み栄えて夫婦仲よく神界の御用をお勤めなさい。左様ならば』
と立去らむとするを、千草姫は慌てて白い手を上げながら、
『もしもし、エンゼル様、妾は今フツと考へましたが、スコブツエン宗のキユーバーと申す者と手を握り合ひ、双方ともに一時に気絶したやうに記憶が浮かんで参ります。あのキユーバーはどうなりましたか、一寸お尋ねいたします』
言霊『彼は未だ現界に生命が残つてをりますから、今や八衢に彷徨てをります。しかしながら愛善の徳うすく、智慧証覚の光鈍き彼がごとき人物のことを思い出してはなりませぬよ。あなたの智慧証覚が鈍りますから、今後は決して現界のことを思ひ起してはなりませぬ。最早現界の貴女の用はすんでをります。スマンヂーさまも御同様に、決して決して現界のことを思はないでゐて下さい』
 両人はハツと頭を下げ有難涙にくれてゐる。言霊別命は五色の雲に包まれ、一大火光となつて、東天を指して空中を轟かせながら帰つて行く。後に二人は顔見合せ、
スマンヂー『姫様、不思議なことぢやございませぬか。吾々は夢でもみてゐるやうですなア』
千草『本当に不思議でたまりませぬ。たしかに貴方も私も死んだに間違ひはございませぬ。それにも拘はらず、ますます意識が明瞭になり、かやうな麗しき山の頂に、恋しき貴方と二人許されて夫婦となるといふようなことが、どうして現実と思はれませう。どうも不思議でたまりませぬ』
『私は現界において貴女の臣下でございます。そして貴女はトルマン国における王様に次いでの尊きお方、如何に神様のお許しとはいひながら、あなたを女房と呼ぶことは実に恐れ多くてなりませぬワ』
『スマンヂー様、現幽所を異にした今日、何もかも凡て洗替へぢやございませぬか、かかる尊き霊国に来たりながら、未だ左様な虚礼虚式的な辞令をお使ひ遊ばすのは、自らの想念を詐るようなものでございますよ』
『なるほど左様でございますな。そんなら改めて、あなたを妻と呼びませう。私を夫と呼んで下さい。一人の娘が残してございますけれど、この事も思ひ切りませう』
『どうかさうして下さいませ。サアこれから二人でこの喜びを歌ひませう』
 ここに両人は手をつなぎ、胡蝶のごとく花鳥山の頂にて爽かな声を張り上げ、歌ひつつ舞ひ始めた。

『天津御空を眺むれば  百のエンゼル星の如
 輝き玉ひ吾が身をば  あるひは遠く或は近く
 守らせ玉ふ有難さ  脚下を伏して眺むれば
 堅磐常磐の巌もて  造り固めし神の山
 見なれぬ鳥は麗しき  翼拡げて天界の
 瑞祥うたひ百花は  艶を競うて咲き匂ひ
 吾等二人の眼をば  心ゆくまで慰むる
 ああ惟神々々  人の命は現世の
 百年ばかりに限らない  幾億年の末までも
 吾が精霊は生通し  生きて栄えて花咲かし
 誠の稔を楽しまむ  誠の稔を楽しまむ
 神は吾等と共にあり  吾等も神と共にあり
 神と神とがむつび合ひ  神の御国をいや広に
 広めてゆかむ夫婦仲  いや永久に春なれや
 いや永久に栄えませ  いや永久に夏来たれ
 いや永久に楽しまむ  天はますます高くして
 空気の色はいや清く  地はますます広くして
 百草千草みな光る  光明世界の真中で
 汝と吾とは世を送る  夢か現か幻か
 いやいや決して夢でない  夢の浮世を立ちいでて
 真の神のあれませる  真の国へまゐ昇り
 真の花を手折りつつ  真の暮しをいとなまむ
 ああ惟神々々  御霊幸はへましませよ』

と歌ひながら、二人は永久の霊国に住民となつた。ああ惟神霊幸倍坐世。

(大正一四・八・二三 旧七・四 於丹後由良秋田別荘 松村真澄録)



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