出口王仁三郎 文献検索

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物語70-1-21925/08山河草木酉 折衝戦王仁三郎参照文献検索
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第二章 折衝戦〔一七六九〕

 トルマン城の会議室には、王のガーデンを始め、王妃千草、左守司フーラン、右守司スマンヂーの首脳部が首を鳩めてヒソビソ重要会議を開いてゐる。
ガーデン『エー、左守、右守の両人、突然重大問題が勃発したので、汝等両人を急使をもつて引寄せたのだが、その方の知恵を貸してもらひたい。トルマン国にとつては国家興亡の一大事だから……』
 左守右守は一度にハツと頭を下げ、畏まつて、王の第二の発言を待つてゐる。王は目をしばたたきながら、
『外でもないが、昨夜半ごろしきりに門戸を叩く者あり。門番のタマ、タルの両人よりの急使により、寝所を立出で、応接間に至り見れば、大足別将軍の使者と称し、このごろ淫祠邪教を、わが国内に布教宣伝いたしをるスコブツエン宗のキユーバーと申す妖僧、吾が面前をも憚らず威丈高となり、……貴国は従来ウラル教を奉じ、国政の補助となしをらるる由、もはや命脈の絶えたるウラル教をもつて、人心を収めむとするは危険この上なかるべし。このたび大足別将軍、大黒主の大命を奉じ、印度七千余国をスコブツエン宗に改宗せしむとの御上意、天下万民を塗炭の苦より救ひ、安養浄土に蘇生せしめむとの有難き御心なれば、謹んでお受けなされ。万一違背に及ばば、仁義の軍は忽ち虎狼の爪牙を現はし、トルマン城を屠り、王を始め、一般民衆の目をさましくれむ。王の御答弁如何によつて、国家の安危の分るる所、速やかに返答召され……との強談、その暴状は言語に絶し、立腹のあまり卒倒せむばかりに存じたが、いや待て少時何とかかとかこの場の言葉を濁し、汝重臣どもに親しく協議を遂げ、その上諾否を決せむと、キユーバーに向かひ、三日間の猶予を与ふべく申し渡せしところ、かれ妖僧の勢ひ、なかなか猛烈にして、首を左右に振り、……只今返答承らむとの厳談、仮にも一国の主権者が、わづか一人の妖僧に圧迫さるべき理由なし。さりながら、ただ一言の下に叱咤せむか、彼は時を移さず、大足別の軍を率ゐて当城を十重二十重に取囲まんず鼻息、残念ながら千言万語を費やし、一日の猶予を請ひ、返答すべき事にいたしておいた。左守、右守殿、如何いたさばよからうかな』
左守『何事かと存じ、取る物も取り敢ず、登城致し、承れば容易ならざる出来事でござります。仮にも一天万乗の国王殿下に対し、素性も分らぬ怪僧の暴言、聞捨てなり申さぬ。最早この上は折衝も答弁も無用でござります。速やかに国内の兵を集め、大足別の軍勢を殲滅いたし、国家の災を芟除いたしたく存じます』
王『なるほど、汝が言、余の意に叶へたり。サア、一刻も早く募兵の用意をいたせ。城内の兵士にも厳命を下し、防備の用意に取りかからしめよ』
左守『ハイ、殿下の御上意、謹んでお受け致します。右守殿、貴殿は一刻も早く国内に伝令使を派し、国家の危急を救ふべく軍隊をお集めなさい』
右守『これはこれは左守殿のお言葉とも覚えぬ。左様な無謀な戦ひをいたして、天壤無窮のトルマン国を亡ぼす左守殿の拙策。最早かくなる上は、暫時キユーバーの意見に従ひ、王家を始め、国民一般、彼が唱ふる宗旨に帰順せば、天下は無事泰平、国民は塗炭の苦より免れ、仁君と仰がれ給ふでござらう。万々一雲霞のごとき大軍を向方へ廻し、全敗の憂目に会はば、万劫末代取返しのつかざる大失敗でござらう。殿下を始め左守殿、ここをトクとお考へ下され。王家のため、国家のため、右守身命を賭して諫言仕ります』
王『この場に及んで、卑怯未練な右守の言条、国帑を消費して、平素軍隊を養ひおきしは何のためだ。かかる国難に際し、挙国一致的活動をなし、外敵を防ぐべき用意のためではないか。かかる卑怯未練な魂をもつて、優勝劣敗の現代、殊に七千余国の国王は各軍備を整へ、虎視耽々として、国防に余念なきこの際、祖先伝来のウラルの神の教を放擲するごときは、神の威厳を損ひ破り、御無礼この上なく、却て国家の滅亡を早めるであらう。このトルマン国はウラルの神の厚き守護あり、何を苦しんで、かかる妖教に腰を曲げむや。しつかりと性根を据ゑて、所存の臍を固めよ』
右『君の仰せではございまするが、この際よほど冷静にお考へを願はねばなりませぬ。取返しのつかぬ事でございますから』
王『しからば汝の意見は、どうせうと言ふのだ、腹蔵なく申して見よ』
右『ハイ、恐れながら申し上げます。敵は目に余る大軍、城下近く押寄せ来たるこの際、遅れ走せに軍隊を召集すればとて、何の役に立ちませうぞ。城内の守兵はわづかに五百人、敵の総勢三千騎、国内全部の兵員を集めたところで、やうやく二千五百人ではござらぬか。五百人の兵をもつて三千人の精鋭に当るは、あたかも蟷螂の斧を揮つて竜車に向かふがごときものでござります。国内の総動員を行ひ、いよいよ戦闘準備の整ふまでには、なにほど早くとも三日間の時日を要します。さすれば、既に既に戦争の済んだ後、六菖十菊の無駄な仕業と存じます。かかる見易き道理を無視し戦ふにおいては、国家の滅亡、風前の灯火よりも危うございます。なにとぞこの際右守の進言を御採用下さらば、国家のため、実に幸福と存じます』
千草姫『王様をはじめ左守右守殿の御意見を承れば、何れも御尤も千万、しかしながら妾は右守の説をもつて、最も時宜に適した方法と考へまする。殿下なにとぞ、右守の説を御採用あらむ事をお願ひいたしまする』
王『馬鹿を申せ、其方までが夫の説を抹殺せむと致すか。其方の平素の挙動は腋に落ちぬと思つてゐた。国家滅亡の原因は女性にありといふことだ。殷の紂王が国を失うたのも矢張女性の横暴からだ。女童の知る事でない、下がりをらうツ』
と百雷の一時に落下したるごとき怒声、千草姫は縮み上つて顔色蒼白となり、その場に慄ひつつ倒れてしまつた。王はこの有様を目にもかけず、尚も言葉を続けて、
『ヤ、左守、最早かうなる上は、余と汝と両人力を併せ、外敵を殲滅いたさう。余はこれより陣頭に立ち、三軍を指揮するであらう。サ、左守、その準備に取りかかれよ』
左『年は寄つても、武術をもつて鍛へたこの腕つ節、たとへ大足別の軍勢、百万騎をもつて押し寄せ来たるとも何かあらむ、盤古神王の御神力を頭に頂き、八岐大蛇の悪魔の守る大足別が軍勢を、千変万化の秘術をもつて駆け悩まし、奇兵を放つて殲滅しくれむ。いざ右守殿、用意を召され』
右『これは心得ぬ御両所のお言葉、薪に油を注ぎ、これを抱いて火中に投ずるごとき危険きはまる無謀の抗戦、いかでか功を奏せむ。先づ先づ思ひ止まらせ給へ』
王『左守、右守のごとき逆臣を相手にいたすな。千草姫は平素余が目をぬすみ、右守と……を結んでゐるといふことは、某々等の注進によつて、一年以前より余は承知してゐる。かかる逆賊を城内に放養するは、あたかも虎の子を養ふに等しからむ。一時も早く縛り上げよ』
千草『王様のお情けないお言葉、決して決して妾は左様な疑ひを受けやうとは夢にも存じませぬ。良薬は口に苦く、忠言は耳に逆らふとかや。右守殿は王家のため国家のため、命を捧げてをりまする。時代の推移を明知し、政治の大本を弁へをる者は、右守をおいて外にはございませぬ。今日の世の中は、よほど変つてをりまする。徒に旧套を墨守し国家を立てむとするは愚の骨頂でございます。何者の誣言かは存じませぬが、妾に対して不義の行為あるがごとく内奏いたすとは、言語道断、不忠不義の曲者、かかる乱臣賊子の言にお耳を傾け給はず、妾が進言を冷静にお考へ下さいませ。最早かくなる上は周章狼狽も何の効果もありますまい。落ちついた上にも落ちついて、国家百年の大計をめぐらさねばなりますまい』
王『汝こそ、金毛九尾の霊に魅せられたる亡国の張本人だ。綸言汗の如し、一度出でては再び復らず。汝がごとき亡国の世迷言、聞く耳持たぬ』
と立ち上り、弓矢を執つて、左守と共に立出でむとする。かかる所へ、スコブツエン宗の妖僧キユーバーは数十人の武装せる兵士に守られながら、悠々と現はれ来たり、
『スコブツエン宗の大棟梁キユーバー、大黒主の命により、大足別の軍を率ゐて向かふたり、速やかに返答いたせツ』
と呼ばはつてゐる。千草姫、右守司は矢庭に玄関に走り出で、
千草『これはこれは、御神徳高き救世主様、よくこそお越し下さいました。仁慈無限の大黒主の思召し、何条もつて反きませう。祖先以来のウラル教を放擲し、貴僧のお言葉に従ひ、スコブツエン宗に国内挙つてなりませう。どうか軍隊をもつて向かはせらるるは穏かならぬお仕打ち、兵を引上げ下さいませ。妾が身命を賭して、お請合ひ申し上げます』
キユ『アハハハハハハ、さすが頑強なガーデン王も往生いたしたか、左守はどうだ。異存は無からうか、両人の確かなる降服状を渡してもらひたい。さもなくば大黒主様、大足別に対しても、愚僧の言訳が立ち申さぬ。サ、早く屈服状をお渡し召され』
 かく話してゐる内に、ガーデン王、左守は兵営に走り行き数多の将士に厳命を伝へ、敵を撃退すべく準備に取りかかつてゐた。キユーバーは王を始め左守は奥殿に戦慄し、蚤のごとく虱のごとく寝所に忍んでゐるものとのみ慢心して気を許し、降服状を受取らむと応接の間にどつかと尻をおろし、椅子にかかり茶を啜りつつ、
『アハハハハ、これこれ千草姫殿、右守殿、大黒主の御威勢は大したものでござらうがな。そなたの計らひ一つによつて、このトルマン城も無事に助かり、耄碌爺のガーデン王も、左守のフーランも先づこれで首がつなげるといふもの、まづまづお目出たう存ずる』
 千草姫は王や左守の主戦論者たることを悟られては一大事、何とかして二人の我が折れるやうと、心中深く祈りつつ、素知らぬ顔にて、
『キユーバー様、あなたはトルマン国に対し、救世の恩人、億万年の後までもこの御恩は決して忘れませぬ。これこれ右守殿、王様はじめ左守その他の重臣に、この由をお伝へ下さい。キユーバー様は妾が御接待申してゐるから……』
 右守は千草姫の心を推知し、この間に王および左守の心を和らげ、後はともかくこの場合キユーバーを欺いて、帰順したごとくに見せかけ、徐に策をめぐらさむと、王の居間に入つて見れば藻脱けの殻、コラ大変と軍務署へかけつけて見れば、既に城内の兵士は武装を整へ、王もまた甲冑をよろひ、槍を杖について、今や、一斉に総攻撃に出でむとする間際であつた。
右『もしもし殿下、話は甘く纒まりました。どうかしばらくお待ち下さいませ』
王『キユーバーが降服いたしたのか、どうまとまつたのだ』
右『ハイ、キユーバーは数十の精兵を引連れ、厳然と控へてをりまする。それにもかかはらず、大足別の大軍は今や返答次第によつて、本城を屠らむとしてをりまする。一時敵を欺いて、油断させ、その間に国内の総動員を行ひ、城の内外より挟み撃ちにするのが、軍術の奥の手と存じ、詐つてスコブツエン宗に降伏いたしておきました。何とぞ何とぞ武装を解き、左守殿と共にキユーバーにお会ひ下さいませ』
 王はクワツと怒り、
『不忠不義の曲者右守奴、吾が許しもなく勝手に左様な国辱的行動をなすとは、鬼畜に等しきその方、もはや勘忍ならぬ、覚悟せよ』
と言ふより早く、槍をしごいて、右守の脇腹に骨も徹れとつつ込めば、何条もつて堪るべき、右守はその場にドツと倒れ伏し、虚空を掴んで息絶えてしまつた。
王『アハハハハハ、首途の血祭りに国賊を誅したのは幸先よし。サ、これより千草姫、キユーバーの両人を血祭りにせむ』
と言ひながら、左守に軍隊を監督させおき、自ら数十名の精兵を従へ、応接間を指して勢ひ猛く出でて行く。
 千草姫は何となく、形勢不穏の気がしたので、キユーバーに対し秋波を送りながら、密室に伴ひ、ドアの錠を中から卸し、声を忍ばせながら、王はじめ左守の強硬なる意思を伝へ、キユーバーの身の危険なる事を告げた。千草姫は決して右守司と醜関係を結んでゐなかつた。ただ国家を思ふ一念より、時代を解する彼を厚く信じてゐたのみである。知恵深き千草姫は、たとへ一時キユーバーを亡ぼすとも、後には大足別控へをれば、最後の勝利は覚束なし。若かず、キユーバーの歓心を買ひおき、国家の安泰を守らむには……と、自分が国内切つての絶世の美人たるを幸ひ、彼を薬籠中の者としてしまつたのである。暴悪無道のキユーバーも千草姫の一瞥に会うて骨まで和らぎ、まんまと姫の術中に陥つたのは幸か不幸か、神の審判をもつて処決さるるであらう。

(大正一四・八・二三 旧七・四 於丹後由良秋田別荘 松村真澄録)



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