出口王仁三郎 文献検索

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物語69-4-211924/01山河草木申 貴遇王仁三郎参照文献検索
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第二一章 貴遇〔一七六六〕

『桃上彦の昔より  万古不易の国体を
 保ち来たりし珍の国  神の恵みもアルゼンチンの
 高砂城の国司の伜  われは国照別司
 この世の暗を晴らさむと  雲霧分けて天さかる
 市井の巷に身をやつし  下人草の窮状を
 窺ひすまし新しき  五六七の御代の柱をば
 堅磐常磐に立てむとて  生れついたる仁侠の
 引くに退かれぬ男伊達  故郷の空を後にして
 踏みもならはぬ旅の空  心を研き肝をねり
 醜の大蛇も曲神も  地震雷火の雨も
 いつか恐れぬ魂となり  天と地とに蟠まる
 八岐大蛇や醜狐  その外百の曲鬼を
 言霊剣抜きもちて  言向和し天国の
 御園を開く吾が望み  守らせ給へ惟神
 神に仕へし吾が父は  既に年老い給へども
 新進気鋭の魂を  深く秘して忍びます
 その御心を思ひやり  子としていかで悠々と
 遊惰に日をば送らむや  思ひ切つたる今日の旅
 日出神の現はれて  開き給ひしヒルの国
 ヒルの都に身を隠し  南と北と相応じ
 この高砂の天地をば  昔の神代にねぢ直し
 神人和合の楽園に  進ませ給へ惟神
 竜世の姫の御前に  謹み敬ひ願ぎまつる
 旭は照るとも曇るとも  月落ち星は失するとも
 神の守りのある限り  いかで恐れむ敷島の
 大和男子の魂は  金鉄よりも尚堅し
 勇めよ勇め乾児ども  進めや進めヒルの国
 高照山は峻しとも  吹き来る嵐は強くとも
 道の行方は遠くとも  いかで怯まむ男伊達
 男の中の男よと  世に謳はれて世を救ふ
 これぞ吾等の望みなり  これぞ吾等の願ひなり
 ああ惟神々々  御霊幸はへましませよ』

 国照別の国州はじめ駒治、市、馬、浅の一行五人は捩鉢巻をしながら、真黒の腕をヌツと出し、埃まぶれの毛だらけの脛を引きずりながら、此処までやつて来た。見れば怪しき人の喚き声、唯事ならじと近寄り見れば、孱弱き二人の女を相手に大の男が詰めかけてゐる。国州は男を売るは今この時と、赤裸の褌一つとなり、喧嘩の中に矢にはに飛び込み、大音声にて、
『待つた待つた、この喧嘩、俺が預かつた』
と大の字になつて、立ちはだかれば、この声に何れも二三間ばかり後へ退いて息を休めてゐる。源九郎は冷やかにこれを眺めて、
『オイ、どこの唐変木か知らねいが、俺たちの喧嘩に這入つた以上は、みんごと、埒をあけるだらうのう。なまじひ挨拶なら、やらねえが良いぞ、みんごと、甲斐性があるか』
国『アツハハハハ、耄碌ども、確かり聞け。その方等は旅人を掠むる悪逆無道の泥棒ぢやねえか、俺はかう見えても天下の侠客だ。義のためには命を惜しまねえお兄さまだ。泥棒が旅人を掠めてる所へ入りこんで来たのは、仲裁ではねえぞ、懲らしめのためにやつて来たのだ。どうだ、その方を始め一同の奴、改心をいたして真人間になるか、返答聞かう』
源『ワツハハハハ、蟷螂の空威張奴、そんなおどし文句で驚くやうな源九郎ぢやねえぞ、俺達は人を裸にして、財物を盗ればいいのだ。それを否む奴は、気の毒ながら命を取つても目的を達するのだ。その方もいらざる空威張りを致すより、赤裸のままトツトと帰れ。いらざるチヨツカイを出すと、気の毒ながら命がねえぞ』
『ハツハハハハ、盗人猛々しいとはよく言つたものだ、取れるなら取つて見よ』
 源九郎は髪を逆立てながら、
『オイ乾児ども、何を躊躇してゐる。タカが侠客の四人や五人、ばらしてしまへ』
と下知すれば、またもや十数人の小盗人は四方八方より切つてかかる。清香姫、春子姫はこれに力を得、前後左右に敵を潜つて、切りたて薙ぎたてる。瞬く間に、十数人の奴は鼻を削がれ、腕をかすられ、足を突かれ、ホウボウの体で算を乱して逃げ出だす。源九郎もこの体を見て、大人気なくも、高照山の山頂目がけ刀を打ちふりながら、殿を守り、味方を浚へて逃げて行く。国州は追ひかけるも無用と、谷川の水を手に掬うて喉を潤し、身づくろひをしながら、
『オイ駒、どうだつた、チツと泡吹いただらうな』
駒『侠客の喧嘩なら喧嘩の仕応へもありますが、何を言つても、一方が泥棒だから険呑でなりませぬワ。マアマアお蔭で吾々一同には怪我がなくて結構でした』
国『泥棒だつて、侠客だつて、喧嘩に変りはない。しかしながらお前達も、ここでゆつくり一服するがいい。この姫様はどうしてまたあんな者と喧嘩をなさつただらうかな』
と言ひながら、清香姫の側に寄り、
国『エー姫様、危ねえこつてござえやした。まづお怪我がなくて、お芽出たうございやす。わつちや、国州といつて、珍の国の者、ヒルの国へ行く途中、計らずも泥棒に出会し、一つ目覚しをやつて見ましたが、イヤ早もろい者でござえやした。アツハハハハ』
清香『ハイ有難うございます、危ふい所へお出で下さいまして、こんな嬉しいことはございませぬ。あなたは今、珍の国の国州といふ侠客だとおつしやいましたが、そんなら貴方は妾の尋ぬるお方、国照別さまぢやございませぬか』
 浅公は側より、
『左様左様、今こそ侠客になつてござるけれど、珍の都のお世継国照別様でございますよ。用もないのにヒルの都へ行かうとおつしやるので、乾児の悲しさ已むを得ず従いて来ましたが……ヘヘヘヘこんな別嬪さまがござるので、親分さまもお越しになつたのだな、イヤ分りました、親分さま、一杯買うてもらはにやなりませぬぞ』
国『エ、仕方のない男だなア。これだから口の軽い奴ア、困るといふのだ。チツと控へてをらう』
浅『何とマア、親分の愉快さうな顔、そらさうだらう。乾児の私だつて、愉快でたまらないもの……もし姫さま喜びなさい。あなたが遥ばる慕うて怖い目をして、尋ねて来た三国一の婿さまは、ヘエー、この親方でございますよ。何をグヅグヅしてござる、恥づかしいことも何もない、及ばずながら、この浅公が月下氷人となつて握手をさせませう。何と悪うはございますまいがな』
清香『妾はあまりの驚きで何も申し上げることは出来ませぬ。春子姫、お前代つて、あの国さまにお話をして下さいな』
春子『これはこれは危ふい所、お助け下さいまして、厚くお礼を申し上げまする。あなたが噂に高き珍の国の国照別様でございますか、存ぜぬ事とて御無礼をいたしました。姫様の仰せに従ひ、妾が代つてお話しを申し上げたうございますが、姫様はお兄様としめし合せ、国家の窮状を救はむとして、色々と画策を遊ばされ、今またお兄様の密使によつて……珍の国の国州さまといふ侠客にお前を娶合はしてやらう、さうすればヒルの国を救ふことが出来る……と御通知がございましたので、取る物も取敢ず此処まで参つたのでございます。果して貴方が国照別様ならば、こんな好都合はございませぬ。これからヒルの国へお伴をして帰りたうございます。どうぞこの儀お聞届けを願ひます』
国『ウン、あなたが国愛別様のお妹御でござつたか。かねがね兄上より貴女の思想も御器量も承つてをりました。実のところは、この国照別もヒルの都を指して来たのは、あなたに会ひたくもあり、また一つ珍の国は国愛別様にお願ひ申して改良していただき、その代りとして拙者がヒルの国を根本的に改革せむと、侠客となつて浮世を忍び下層生活をしながら、回天動地の大業をなさむと、ここまでやつて参りました。これは願うてもなき互ひの奇遇、しからばこれより姫様のお伴をいたし、ヒルの城下へ参りませう』
 これより一行男女七人は堂々として、大道の正中を宣伝歌を唄ひながら、ヒルの都を指して進み行く。浅公は先に立つて、道々宣伝歌を唄ふ。

『テルとカルとの国境  高照山の山麓に
 高砂洲で名も高い  大親分の国さまと
 あたりを払ひ堂々と  地踏みならし進み来る
 時しもあれや谷川の  傍辺に怪しき人の声
 何事ならむと近寄れば  豈計らむや雲をつく
 ばかりの大きな泥棒が  長い奴をば引き抜いて
 二人の姫をまん中に  前後左右から切りつける
 こいつア救はにやなるまいと  親分さまが赤裸
 喧嘩の中に跳り入り  待つた待つたと四股踏めば
 さすがの泥棒肝つぶし  二足三足後しざり
 蜥蜴が欠伸をしたやうに  空を仰いで呆れ顔
 親分さまの掛合ひで  木つ端泥棒はことごとく
 大切の大切の仕事をば  あつたら棒に振りながら
 手疵を負うて逃げて行く  後に国照別さまは
 ヒルの国からやつて来た  天女のやうな姫様と
 二世の約束堅めつつ  吾ら乾児を引きつれて
 そんならお前の言ふ通り  これからヒルの都路へ
 行つてやらうと嬉し気に  いはれた時の姫の顔
 側に見てゐる俺さへも  何だか嬉しうなつてきた
 オイオイ駒治市馬よ  お前は元は取締
 現在泥棒を目の前に  眺めながらに何のザマ
 コラツと一声かけもせず  青い面して慄うてゐた
 こんな取締が世の中に  あると思へば衆生も
 枕を高う寝られない  何奴も此奴も腰抜けだ
 親分さまのお光りで  ここまでお伴はしたものの
 もしも一人になつたなら  キツと泥棒にこみわられ
 腕の一本も捩ぎ取られ  ベソをかいたに違ひない
 ああ惟神々々  これを思へば浅公は
 やつぱり肝が太いワイ  サアこれからは浅公が
 親分さまの一の枝  お前は乾児になるがよい
 ウントコドツコイ ドツコイシヨ  天を封じた老木の
 並木の街道を進み行く  吾ら一行は何となく
 勝利の都へ行くやうな  涼しい気分になつて来た
 谷の流れは淙々と  飛沫の玉を飾りつつ
 吾が一行を歓迎し  琴を弾じて待つてゐる
 峰の嵐は松柏の  梢を吹いて吾々を
 謳歌してゐる勇ましさ  ウントコドツコイ ドツコイシヨ
 今は侠客渡世だが  親分さまがたつた今
 ヒルの都に現はれて  清香の姫の婿となり
 国の政治を執られたら  必ず抜擢遊ばして
 使うて下さるだろほどに  駒公市公馬公よ
 それをば先の楽しみと  思つて俺に従いて来い
 前途はいよいよ有望だ  思へば思へば身も魂も
 勇みに勇み跳り出す  何ほど坂はきつくとも
 何ほど日かげは暑くとも  前途に望みを抱へたる
 吾等一行の魂は  火にも焼けないまた水に
 溺るる事なき大丈夫  大和男子の典型と
 末代までも名を揚げて  国の柱となるだらう
 アア勇ましや勇ましや  全隊進めいざ進め
 勝利の都が近づいた  勝利の都はヒルの国
 ああ惟神々々  国魂神の御前に
 吾らが前途の幸福を  守らせ給へと願ぎ奉る』

 かく代る代る行進歌を唄ひながら、十数日を経た黄昏ごろヒルの都の町末の或る茅屋に着いた。

(大正一三・一・二五 旧一二・一二・二〇 伊予 於山口氏邸 松村真澄録)



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