出口王仁三郎 文献検索

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物語69-4-201924/01山河草木申 声援王仁三郎参照文献検索
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第二〇章 声援〔一七六五〕

 清香姫、春子姫は夜を日についで、高照山の山麓まで辿りついた。本街道を行くと、追手の虞れがあるので、本街道に添うた山林や野原を忍び忍び進んで行くので、比較的道に暇がとれる。谷川の涼しき木蔭に二人は腰打ちかけて息を休め述懐を歌つてゐる。

清香『久方の天津御空を伝ひ行く  旭も清きヒルの国
 高倉山の下津岩根に宮柱  太しく立てて三五の
 皇大神を斎きつつ  日出神の御教を
 伝へ伝へて世を救ふ  インカの流れ清くして
 四方の民草勇みつつ  恵みの露に霑へる
 その神国もいつしかに  黄泉国より荒び来る
 醜の魔神に犯されて  払ふすべなき暗の世の
 ヒルの御国も夜のごと  暗の帳に包まれて
 黒白も分かぬ人心  あが足乳根の父母は
 赤き心の紅葉彦  楓の別と次つぎに
 赤き心を大前に  捧げまつりて仕へまし
 世人を導き給へども  時世に暗き老臣が
 心の暗は晴れやらず  ヒルの天地は日に月に
 常夜の暗となりはてて  阿鼻叫喚の鬨の声
 春野に咲ける花の香も  梢に囀る鳥の声も
 秋野にすだく虫の音も  皆亡国の気配あり
 この世このまますごしなば  インカの国は忽ちに
 修羅の巷と成果てて  わが衆生は根の国や
 底の国なる苦しみを  うけて亡ぶは目のあたり
 時代に目覚めし兄の君は  われと語らひ逸早く
 神の御ため国のため  世人のために高倉の
 堅磐常磐の堅城を  あとに見捨てて天さかる
 鄙に下りて身と魂を  練り鍛へつつ新しく
 生れ来たらむ世の中の  柱とならむと雄健びし
 神に誓約を奉り  生でさせ給ひし健気さよ
 妾は元よりなよ竹の  力も弱き身なれども
 御国を思ひ道思ふ  雄々しき心に変りなし
 すき間の風も厭ひたる  床に飾りし姫百合の
 たとへ萎るる世なりとも  赤き心の実を結ぶ
 時を待ちつつ霜をふみ  慣れぬ旅路をやうやうに
 進み来たりし嬉しさよ  アア天地の大御神
 妾兄妹両人が  清けき赤き真直ぐなる
 心を諾ひ給ひつつ  今日の首途をどこまでも
 意義あらしめよ幸あらしめよ  ヒルの御国の空打ち仰ぎ
 高倉山に斎きたる  国魂神の御前に
 空行く雲に吾が心  のせて通ひつ願ぎ奉る
 ああ惟神々々  御霊のふゆを願ぎまつる
 ああ惟神々々  御霊の恩頼を願ぎまつる』

 春子姫もまた歌ふ。

『故里の空打ち仰ぎ思ふかな
  吾が大君はいかにますかと

 ヒルの空打ち仰ぎつつ思ふかな
  モリス秋山別の身の上

 あの雲は灰色だ  さうしてヒルの空から
 走つて来る  痛ましや
 秋山別モリスの神柱の  青息吐息の
 余煙だらう  アア痛ましや灰色の
 雲に包まれて  ヒルの国の衆生は
 さぞ苦しき雰囲気の中に  世を喞ちて
 悩んでゐるだらう  春の野の
 百花千花も  牡丹の花の清香姫も
 あの灰色の  雲も否みて
 こき紫の  雲の漂ふ珍の空へ
 逃げて行く気になつたのだもの  アア天津風時津風
 南から北へ吹けよ  さうして
 紫の雲をヒルの空に送れ  あの灰色の雲は
 常世の国に吹き散らせよ  国愛別の世子の君は
 早くも珍に坐しますか  あの珍の空の雲の色のめでたさよ
 高照山の空には  まだ灰色がかつた
 淡い雲が往来してゐる  これを思へば
 われら二人の身の上は  まだハツキリと晴れてゐないだらう
 アア味気なき  浮世の雲よ
 灰色の空よ  天も地も
 山も河も  皆灰色に包まれた
 今日の景色  国魂の神の
 怒りに触れてや  四方に怪しき雲の竜世姫
 恵ませ給へ  科戸の風を
 起させ給へ  清めの風を』

 清香姫はまた歌ふ。

『久方の天津御空を打ち仰ぎ
  世の行先を歎くわれかな

 天も地もみな灰色に包まれて
  世は常暗とならむとぞする

 いかにせばこの灰雲の晴れぬらむ
  わが言霊の力なければ

 時津風吹けよ大空に  また地の上に
 われ等が上に  陰鬱な
 この雰囲気の何時までも  かからむ限り人草は
 次第に次第に亡びなむ  頑迷固陋の獅子の声
 新進気鋭の馬の声  北と南に響きつつ
 地震となり雷となり  やがては割るるヒルの国
 これを思へば片時も  身を安んじて高倉の
 山に月をば楽しまむや  花は匂へど
 月は照れど  鳥は唄へど
 わが目には  わが耳には
 みな亡国の色と見え  地獄の声と聞こゆ
 アア痛ましき今の世を  清め澄まして古の
 インカの御代に立直し  四民平等鳥唄ひ
 花咲き匂ふ天国の  ヒルの都を来たせたい
 ああ惟神々々  花のうてなの清香姫
 木の芽もめぐむ春子姫  踏みもならはぬ高砂の
 足を痛むる初旅を  恵ませ給へ天津神
 国魂神の御前に  谷の戸出づる鶯の
 かよわき声を張上げて  ひとへに祈り奉る
 ひとへに祈り奉る』  

 かかる所へ覆面頭巾の山賊の群十数人、バラバラと現はれ来たり、二人の姿を見て泥棒の親分らしき奴、巨眼を開き、二人を包囲しながら、長刀をズラリと引抜き、
『オイ、女つちよ、その方は何処の何者だ。一寸見たところ、その方の容貌といひ、持物といひ、衣服といひ、普通の民家に生れた女ではあるまい。一伍一什、その方の素性を源九郎の前に白状いたせ。違背に及ばば、この方にも覚悟があるぞ』
 清香姫は始めて泥棒に出会つた恐ろしさに、顔の色までかへて慄うてゐる。春子姫は姫の身を庇護ひながら……たとへ泥棒の二十人や三十人押寄せ来たり、兇器を持つて向かふとも、日ごろ鍛へた柔術の奥の手をあらはし、一人も残らず、谷川に投込み、懲らしめてくれむ……と覚悟をきはめながら、そ知らぬ体にて、ワザとおとなしく、両手をつき、
『ハイ、妾は高倉山を守護いたす天人でございます。大変な偉い権幕で、妾に何かお尋ねのやうでございますが、人間は、たとへ泥棒にもせよ、礼儀といふものがございませう。孱弱き女だと思召し、頭から威喝せうとは、チツと男にも似合はぬ、御卑怯ではございませぬか。何の御用か存じませぬが、天地を自由自在にいたす天女でございますれば、誠のことならば何でも聞いて上げませう、その代り道に外れたことならば、少しも許しませぬぞ』
とキツパリ言つてのけた。源九郎は度胸の据つた春子姫の言葉にややド胆を抜かれたが……タカが知れた女の二人、自分は十数人の命知らずの荒武者をつれてゐる。天人か天女か知らぬが、こんな女に尻込みしては、今後乾児を扱ふ上において、信用を失墜する。あくまでも強圧的に出たのだから、無理押しで押さへつけてやらむ……と覚悟をきはめ、ワザと居丈高になり、
『アツハハハハ、吐したりな、すべた女、天人とはまつかな詐り、吾々が恐ろしさのその場遁れのテレ隠し、左様なことに誑かられる源九郎さまぢやないぞ。高照山の山寨に数百人の手下を引きつれ、往来の男女を脅かす悪魔の源九郎たア俺のことだい。四の五の吐さず、衣類万端脱いで渡すか、さもなくば、源九郎の女房になるか、サアどうだ。速やかに返答を承らう』
 春子姫はますます度胸がすわつて来た。清香姫は一生懸命、神の救ひを心中に祈つてゐる。
春子『ホツホホホホホ、悪魔の源九郎とやら、よい所へ現はれて来た。妾は其方の出現を待つてゐたのだ。邪魔くさい、木偶の坊を二十や三十連れて来たところで、歯ごたへがせぬ。乾児を残らず引きつれ、吾が前に並べてみよ。片つぱしから、窘めてくれむ。悪魔退治に出陣の途中、悪魔の張本源九郎に会ふとは、何たる幸先のよい事だらう。一人二人は面倒だ。源九郎、サア一度にかかれ、天人の神力を現はして、汝が肝を冷しくれむ』
といふより早く、襷十字にあやどり、優しい顔に後ろ鉢巻を締め、懐剣の柄に手をかけ身がまへした。この勢ひに清香姫も気を取直し、またもや赤襷に白鉢巻、懐剣の鞘を払つて源九郎目懸けて、ヂリヂリとつめよせた。春子姫は十数人の乾児に目を配り、寄らば斬らむと身構へしてゐる。源九郎が一令の下に、乾児は二人に向かつて、切りつくることとなつてゐた。しかしながら頭梁の源九郎は二人の姿を見て、やや恋慕の念を起し……何ほど強いといつても、女の二人、片腕にも足らないが、しかし斯様な、美人をムザムザ殺すのは惜しいものだ、何とかして助けたい……と早くも恋に捉はれてゐる。
春子『源九郎とやら、その方は大言を吐きながら、なぜ孱弱き二人の女に手出しをせぬのか、吾々の威勢に恐れてゐるのか、返答せい。妾は天下を救ふ宣伝使だ。汝ごときに怖れを抱いて、どうして天人の職が勤まらうぞ、卑怯未練な男だなア』
源『ナアニ、タカが女の一人や二人、片腕にも足らねども、あたら名花を散らすは惜しいものだ。それゆゑ暫時、根株を切つた鉢植の花だと思つて眺めてゐるのだ。やがて果敢ない終りを告げるだらうと思へば、いささか同情の涙にくれぬ事もないわい。テモさても見れば見るほど、美しい……イヤいぢらしいものだワイ』
春子『エエ汚らはしい、泥棒の分際として、天人に向かひ、いぢらしいとか、美しいとか、チツと過言であらうぞ。要らざる繰言申すよりも、旗をまき尾をふつて、この場を早く立去れ、エエ汚らはしい、シーツ シーツ』
と猫でも逐ふやうな大胆不敵の挙動に、源九郎は怒り心頭に達し、
『要らざる殺生はしたくなけれども、モウかうなれば後へは退かれぬ男の意地、コリヤ女、今に吠面かわかしてみせる、覚悟をいたせ……ヤアヤア乾児ども、両人に向かつて斬りつけよ』
と下知すれば、心得たりと、十数人の乾児は二人の女に向かつて、阿修羅王のごとくに迫り来たる。春子姫は一方の手で、清香姫を庇ひながら、力限りに防ぎ戦へども、剛力無双の敵の襲撃、早くも力尽きて、彼が毒牙にかからむとする危機一髪の場合となつて来た。源九郎は岩上に腰打ちかけ、平然として煙草を燻らしながら、この光景を見下ろしてゐる。清香姫は今や捉へられむとする一刹那、あたりの空気を振動させて宣伝歌が聞こえて来た。アアこの結果はどうなるであらうか。

(大正一三・一・二五 旧一二・一二・二〇 伊予 於山口氏邸 松村真澄録)



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