出口王仁三郎 文献検索

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物語69-4-171924/01山河草木申 琴玉王仁三郎参照文献検索
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第一七章 琴玉〔一七六二〕

 神の恵みに蔭もなき、名さへ目出たきヒルの国の高倉山の本城は、堅磐常磐に都の中央の下津岩根に厳然と立ち並び、三五の貴の教と共に国家はますます隆昌に赴き、日暮河の清流は清く都の中心を流れて、交通運輸の便宜よく、げに地上の天国と称へらるるに至つた。
 楓別命、清子姫の二人の間に国愛別、清香姫の一男一女があつた。祖先の清彦が日出神の神徳を受けて、ここにインカ国(日の神の子孫の意)なるものを樹て、衆生崇敬の的となつてゐた。衆生は楓別命を国司と仰ぎ、大師と崇め、親と親しみ、上下一致あまり煩はしき法規もなく、極めて平穏無事に栄えてゐた。しかるに常世国より交通機関の発達につれて、種々の悪思想往来し、比類なき天国の瑞祥を現はしたるこの神国も、今はやうやく人心動揺し、個人主義の教発達して、遊惰の者多く現はれ、不良老年、不良中年少年は上下に充ち、義を忘れ利に走り、あたかも常世の国の状態となり、国司を軽んじ、役人を卑しめ、民心悪化して不安の空気は国内にみちて来た。楓別命、清子姫は朝夕神に祈り、国家の隆昌と衆生の安寧を朝な夕なに国魂の宮に祈願しつつあつた。何時の間にやら世子たるべき国愛別命は姿を隠し、行方不明となつてしまつた。楓別夫婦を始め、秋山別、モリスの両老は額に青筋をたて、部下の役人を督して国内隈なく捜索すれども、何の手掛りもなかつた。茲においてか止むを得ず、大会議を開いた結果、妹の清香姫をしてヒルの国の世子とする事となつた。
 清香姫も兄の命と同様、時勢の日に日にブル階級に非なるを知り、如何にもして吾が国家を救はむと肝胆を砕きつつあつた。されども昔気質の両親を始め、時勢に眼暗き老臣等は一々清香姫の意見に反対し、いつも用ひられなかつた。清香姫は国家の前途を思ひ泛かべて夜もロクに眼られず、神明に祈つて、国家に蟠まる妖雲を一掃し、新しき天地を開かむと、それのみに心を砕いて、身は日に夜に痩せ衰ふるばかりであつた。
 モリス、秋山別の老臣は城内の評議所に首を鳩めて、心配気に何事か囁き合つてゐる。
秋山『モリス殿、このごろの如き姫様の御様子、御身はどう思はるるかな』
モリス『左様でござる、察するところ、気の病ではあるまいかとお案じ申してゐるのだ。貴殿のお考へもヤハリ気病と思はれるだらうな』
『いーかにも、左様でござらう。今から思ひ出だせば、拙者も貴殿も、紅井姫様、エリナ様について恋におち、終にはシーズン河の難に遭つたといふ歴史もござれば、まして妙齢の美人、恋病を患ひ給ふは当然でござらう。一時も早く適当な御養子を迎へて姫様の御心を慰めねばならうまい。いつも姫様が、吾々に対し、気の利かぬ爺だ、気の利かぬ爺だとおつしやるが、今考へてみれば、早く妾に夫を有たせ、気の利かぬ奴だ……との謎であつたかも知れぬ、恋に苦労した吾々に似ず実に迂闊な事でござつたワイ』
と両人は一も二もなく、そんな妙なところへ気を廻してしまつたのである。
秋山『それにしても、適当な御養子を選まねばなるまいが、露骨に姫様へ伺てみたらどうだらうかな』
モ『マサカ、あなたの夫は誰に致しませうか……などと、あまり失礼で、いふわけにもゆかず、困つたぢやないか』
『しかし、候補者を二三人物色して、写真でも撮り、姫様の居間にソツと散らしておき、姫様がお気に召したら、ソツと机の引出へ収めておかれるだらうし、気のくはぬ写真は、あの御気象だから、きつと引裂くか墨をぬらつしやるに違ひない。そして姫様の心を瀬踏みした上、遠廻しにかけて探つてみやうでないか、これが老臣たる者の肝腎要の御用だらうと思ふ』
『なるほど、それでは拙者が、部下の相当な家庭に育つた清家連の伜の写真を集めることに致さう。てもさても善い所へ気がついたものだ。惟神霊幸倍坐世』
と勇み立ち、両老は日もやうやく下つたので吾が家へ帰りゆく。
 話替つて清香姫は城内の庭園を侍女と共に逍遥しながら、ダリヤの花を二つ三つちぎつて手に持ちながら、吾が居間へと帰つて来た。見れば机の上に、なまめかしいハイカラ男の写真が四五枚ズラリと並んでゐる。清香姫は一目見るより侍女を遠ざけ、襖を密閉してよくよく見れば、頑迷固陋派の清家の伜の小照であつた。清香姫は一々その写真を点検し、写真の上から墨黒々と一首の歌を書添へておいた。

『この姿見れば見るほど厭らしき
  根底の国の亡者なるらむ』

 また一枚の写真に、

『さいこ槌目鼻をつけたやうな面
  今打ちたたき破り捨てたし』

 また一枚の写真に向かひ、

『折角の男の子の姿に生れ来て
  女に似たるあさましさかな』

 また一つの写真に、

『どれ見ても誠の魂は一つだに
  なしと思へば悲しくなりぬ』

 最後の写真に、

『チトばかり男らしくは思へども
  わが背の君となる魂でなし』

と楽書をして状袋に入れ、「秋山別、モリス両老殿」と表面に記し、手を拍つて侍女を招んだ。侍女の春子は襖を静かに押し開け、
『姫様、お招きになりましたのは何か御用でござりますか』
清香『春、お前御苦労だが、これを持つて秋山別、モリスの所へ届けて下さい。そして返事を聞くに及ばないから、渡してさへおけばトツとと帰つて来るのだよ』
 春子は「ハイ、畏まりました」と足早に立つて出でてゆく。後に清香姫は一間を密閉し、二絃琴を取出して心静かに述懐を歌つてゐる。

『妾は夜なきヒルの国  高倉城の国司の娘
 清香の姫と生れ来て  兄の命ともろともに
 月よ花よと育くまれ  何の不自由も夏の宵
 涼しき浴衣を身にまとひ  時雨の川に船遊び
 何不自由なき上流の  社会に育ちし身の因果
 世の有様も明らかに  悟り能はぬ目無鳥
 ヒルの御国も末つひに  夜の暗路とならむかと
 思へば悲し足乳根の  父の行末母の身の上
 救はむために兄妹は  たがひに心を照らし合ひ
 世の潮流に従ひて  危ふき国家を救ふべく
 神に祈りて待つ内に  嬉しや時の廻り来て
 兄に命は逸早く  これの館を脱け給ひ
 朝な夕なに霜をふみ  つぶさに世情を甞め給ふ
 吾は孱弱き女子の  兄に代りてただ一人
 この神国を守らむと  心を千々に砕けども
 昔心の取れやらぬ  父と母との心意気
 秋山別の老臣や  頑迷固陋のモリス等が
 清家とかいふ無機物を  此上なき物と珍重し
 国の政治は日に月に  日向に氷と衰へて
 神のよさしのヒルの国  埋もりゆくこそ悲しけれ
 また何者の悪戯にや  吾が心根も白雲の
 霊も暗き仇男  怪しき姿を写し出し
 わが文机に並べおく  醜の企みの恐ろしさ
 察するところ秋山別や  モリスの企みし業ならめ
 かくなる上は片時も  これの館に住むを得じ
 また誘惑の魔神の手に  捉へられては一大事
 兄と誓ひし神業は  いつの世にかは成りとげむ
 今宵の暗を幸ひに  用意万端ととのへて
 侍女をもつれずただ一女  進み行かなむ珍の国
 山は嶮しく川深く  嵐は強く雨しげく
 魔神の輩多くとも  この世を思ふ真心を
 我が三五の大神は  必ず愛でさせ給ひつつ
 吾が兄妹の望みをば  必ず立てさせ給ふべし
 今宵を限りにこの館  出でゆく吾が身の果敢なさよ
 アア足乳根の父上よ  母上御無事にましまして
 吾が兄妹が神業の  完成するのを待たせませ
 吾がゆく後は嘸やさぞ  頑迷固陋の老臣が
 狼狽へ騒ぐ事だらう  その有様が目のあたり
 目にちらついて憐れさも  一入深き秋の空
 常夜の暗に包まれし  悲しき思ひの浮ぶかな
 ああ惟神々々  御霊幸はひましまして
 清香の姫が宣り言を  いと平らけく安らけく
 遂げさせ給へと願ぎ奉る  旭は照るとも曇るとも
 月は盈つとも虧くるとも  動かざらましヒルの国
 地揺り山裂け河溢れ  海嘯は高く襲ふとも
 下つ岩根に永久に  築き上げたるこの城は
 千代に八千代に砕けまじ  アアさりながらさりながら
 この衆生をば如何にせむ  思想の洪水氾濫し
 日暮河の堤防は  将に崩壊せむとする
 この惨状を見ながらも  なほ泰然と控へゐる
 老臣たちの愚かさよ  妾兄妹無かりせば
 ヒルの都も衆生も  忽ち修羅と畜生の
 地獄の淵に陥らむ  守らせ給へ惟神
 神かけ念じ奉る』  

と一生懸命に歌つてゐる。そこへ襖の外から秋山別、モリスの両人一度に「姫様姫様」と呼ばはつた。姫はあわてて琴の手をやめ、そ知らぬ顔にて、
『その声は秋山別、モリス殿ではないか、何用か知らないが、襖を開けてお這入りなさい』
 両人は姫の言葉に渡りに舟と打ち喜び、もみ手しながら、襖をあけて入り来たり、丁寧に辞儀しながら、何事か言ひ出さむとしてモヂモヂしてゐる。
清香『最前、春子に持たしてやつた品物は、お前、受取つてくれただらうな』
秋山『ハイ、たしかに拝見いたしました。それについて姫様にお伺ひ致したいのでございますが、あの五枚の写真はヒルの国においては、地位といひ門閥といひ、学問といひ器量といひ、最も選抜された、ヒルの国の五人男といはれてゐる賢明な名を取つた名物男でござります。姫様も良い年頃、あまり露骨に申し上げるも如何と存じ、モリスと相談の上ソツと写真を集めて御意を伺つた次第でございます。しかるに姫様は無造作に、写真の表に墨くろぐろと歌をお書きになりましたが、一向その意を得ませぬので、どうぞ御心の在る所を忌憚なく仰せ聞け下さらば、吾々両人が如何やうとも取計らふでござりませう』
 清香姫は、何といつても今晩は都合よくこの場を逃げ出さねばならぬのだから、あまり怒らして警戒を厳にさせては却つて不利益と早くも合点し、ワザと空呆けて、
『ホツホホホホ、恥づかしいワ、どうかゆつくり考へさして頂戴、ねえ』
秋山『お考へなさるも結構でございませうが、一時も早く結婚問題をきめなくては、吾々老臣の役が済みませぬ。私が裏に一号二号と番号をつけておきましたから、姫様のお口から、一寸何号だといふ事をおつしやつて下さいませぬか』
清香『さうだなア、一号でもよし、二号でもよし、三号でも四号でも五号でもよしだ、どうでもよしだ、ホホホホホ』
モ『モシ姫様、そんなアヤフヤの御返辞をされちや困るぢやありませぬか。何号なら何号とハツキリ言つて下さいませ』
『ホホホ、一生(升)の事を定めるのに、五号(合)では足らぬぢやないか、モウ五合ばかり集めて来て下さい、そしたら返辞をするからねえ』
『姫様、これでまだ足らないとおつしやるのですか、これはモウ第一流ですよ。後はモウ第二流になりますから、とてもお気に入りませぬワ』
と、まるで小間物屋が店出しをしてるやうな事を言つてゐる。
清香『とも角、今日はあまり咄嗟の事で決まらないから、明日中に、これといふのをきめて御返事をする。両人とも、お父さまお母さまの手前、よろしく頼んだぞや』
 秋山別、モリスの両人は、ヤレ嬉しや、これで一安心と笑顔をつくり追従タラタラ機嫌を取りながら、頭を二つ三つ掻いて、
両人『姫様、左様ならば、一時も早く御返事をお待ち申し上げます』
と言葉を残してスタスタとこの場を去つてしまつた。清香姫はニタリと笑ひ、またもや琴を取りよせて思ひのたけを歌ひ始めけり。

(大正一三・一・二四 旧一二・一二・一九 伊予 於山口氏邸 松村真澄録)



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